表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/406

32話 ドライフルーツ

 朝ご飯、むしろ昼前になったからブランチ? みたいになったけど、美味しい蒸し肉を食べてのんびりしていた頃。

 雨が降り始めた。


 草原では雨避けになるところなどなく、仕方ないので鉄を薄く伸ばして小屋を作った。

 シリュウさんも微妙な顔はしてたけど、とりあえず入ってはくれた。まあ靴を脱いで入って欲しいって言ったらだいぶ困惑してたけど。



 私が元日本人って理由もあるが、このあとこの小屋を腕輪に仕舞えるようにする為でもある。


 腕輪には、「私の血で作った鉄」だと私が認識してるものしか入らない。多少の汚れや水分ならギリギリ許容してくれるけど、パンが乗った鉄皿をパンごとは収納できないし、蓋をしたスープ入りの鍋とかも入らない。


 この小屋の場合、あまりに土で汚れてると収納できない訳だ。まあ、床の鉄を薄く剥がして汚れごと捨てることはできるけど、鉄がもったいないからね。



 丸みのある鉄とスプリングで作った、リクライニングシートみたいな椅子に座り、ゆったりする。


 美味しい肉を食べて、動きたくないからねぇ。



「…。随分と…満喫してるな…。」

「ん~…? 美味しいご飯、食べれてとても、満足してますから…。ふわぁ、眠い…。」

「明らかに旅の途中の光景じゃないな。」

「シリュウさんも同型(おなじ)椅子に座ってるのに何を今さら。

 せっかくその革袋に入れた蒸し肉を、また出して食べてるのはどうかと思いますよ?」

「この黒袋の中に入れると障気は消せるが、乾燥劣化はするんだ。旨いものは旨いうちに食う。」

「ふ~ん。まあご自由に…。」




 ──────────




 ギュウウ…



「…。何してんだ?」


「寝ないように、アームで足、つねってるだけですけど。」グィ~…

「別に寝ても良い。俺は残りの肉食べてるから。」

「いや、あんだけ作った、のを、少しは明日に残しておきましょう、よ…。」

「別に良いだろ。」

「まあ、良いですけど…。

 じゃ、少し寝る、か。」


 椅子の周りに、隔壁展開。密閉、完了。


 あ、そうだ…。

 窓、形成。顔を出す。



「小屋の、扉作って、ときます? 寝てる間、外…。」

「いや、良い。…寝ぼけて、小屋を針にしないでくれたら、それで良い。」

「はぁい。ちゃんと針、します…」うつらうつら…

「いや、すんな。」

「スリット窓ある、空気も問題無い、…す。ふわぁ、おやすみなさい…。」


 隔壁閉鎖。酸素供給、開始…。


 ぐぅ…。




 ──────────




「おはようございます!」

「もう夜だ。」


「ですよね…。寝過ぎてごめんなさい…。」

「…あの怪我からの病み上がりに、色々料理(無理)させた。気にするな。雨もまだ弱く降ってるしな。」


 部屋の中には程よい灯りが灯ってた。シリュウさんの魔導具らしい。私の髪留めの緑色とは違う暖色系の光が小屋の中を照らしてる。


 そんな中でシリュウさんは謎食べ物を(かじ)ってる。

 拳より大きい、(しな)びた茶色の…何?


 てか、まだ食べてるの??



「お腹、良く入りますね…。」

「テイラも食べるか? 割りといけるやつだ。」

「そもそも何です? それ。」

「アリガの実。…が乾燥したやつ、だな。」


 アリガはこの大陸東部に良く()ってる木の実だ。

 地球で一番近いのは「リンゴ」かな? 同じく赤い見た目だし。日本のスーパーで売ってる甘いやつではなく、なんかこうニュートンのリンゴみたいな原種の酸っぱさがあるやつ。

 野生種の地球産リンゴの方は口にしたことないけど。



 カットしたリンゴならドライフルーツにするのはまだ理解できる。いや、どう作るかは知らないが。


 今、シリュウさんが持ってるのは、どう見てもヘタ(・・)が付いたままの丸ごとだよね…。どうやったら、あの厚みがそのままカラカラになるんだ…。


 あれか? 死神界の最後のリンゴとかそんな何かか??



「…。食べれるんです??」

「黒袋の中に長いこと入ったやつの中では、なかなか良い部類だな。」


 …。


 ドライフルーツ。ドライ、なフルーツ。乾燥、木の実。


「乾燥劣化」するって言ってたよね。革袋の中。



「そのマジックバッグの中は、砂漠ですか…?」

「さばく…?」

「あー、水分が無くて乾燥した土地くらいの意味です。砂浜とか荒れ地が近い言葉ですかね。」


 この大陸には砂漠はなかったんだったかな。



「…。まあ、遠くはないかもな。」

「なるほど。乾燥で水分無くして腐るのを防ぐ仕組みってことか。水分が無ければ雑菌も繁殖できないし、毒も生成されない。保存能力高くて旅にはもってこいですね。」

「…。」無言無表情…


 んー、これは警戒してる感じだな。食事に情熱注ぐシリュウさんにとっての生命線って訳だ。

 まあ、マジックバッグなんて私が持ってても魔力維持もできないし、中の物を取り出せる訳でもない。

 特に何をする気も無いけど。



「小さいので良いです。アリガの実、くれますか?」

「…。ああ。」


 しっかし、カラッカラだな。プルーンを大きくしてさらに乾燥させたような見た目。とりあえず、噛るか。



 もぐ…、


 口の中の水分、全部、持っていかれた…!

 ちくしょう…!


 あ、でもほんのり甘い。

 唾液が出るけど、まだまだ持っていかれる…。


 私はコップ出してカンカンとアクアの貝殻を叩く。

 声が出せない、アクア、水! プリーズ!

 いや! 水筒の水のが早いか!?



 こくこく、こくこく…

「ふはぁ…。脱水で死ぬところだった…。」

「…。」

「でも良い甘味ですね。酸っぱさ消えてて。」

「…。そうか。」

「私が食べるなら、やっぱり牛乳と一緒にミキサーにかけてスムージーっぽくしますかね~…。色々と出来そうだな。」

「これも料理できるのかっ?」


 食い付きが凄い!

 普段の適当に脱力してる感じのあなたはどこに行ったの?


 半ば抱きついてくる感じの勢いに、ちょっと引いてアームを展開。威嚇しておく。

 いざとなったら小屋の中に針地獄を顕現しよう。



「まあ、多分。やってみたい方法はいくつか思い付きますけど…。」


「テイラ。黒袋の食材を料理してくれ。それで、ポーションや食材の金を帳消しにするのはどうだ?」


 なん… だと…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ