317話 町からの離脱と会敵
「キャーイ!」滑空飛行…!
『マボア指令部です! 道を譲ってください!』警告声掛け!
「はぁ…! はぁ…!」身体強化全開…
カミュさん・ナーヤ様の先導で、私は町の中を全力疾走している。情報を共有した後、引き止めるミハさんを振り切って屋敷から飛び出した形だ。
赤熱魔鉄を詰め込んだ肩掛け鞄が重く、息が切れる。
もしもの時、この町に被害が及ばない為に離れておくつもりだ。
ぶちギレてる水氏族エルフが、いつ私を狙ってこちらに来るか分からないから。
ウカイさんの説明で、なんとなく分かった。
そのミャーマレースとか言う人は、レイヤ──私の親友にして風氏族のカレイヤルお嬢様──と面識が有り、敵対関係にある、と見ていいだろう。
そして、レイヤの武器を作った私を恨んでいる。
そう考えれば辻褄は合う。
創造した浮遊魔鉄剣はレイヤの魔力の結晶だけど、それを納める鞘は呪怨の鉄で作ってある。
普段は異常物体の気配を隠蔽しておき、緊急時には対魔法防御の浮遊盾として運用できるコンセプト。
その鉄鞘を知ってることからして。
レイヤはその水エルフ相手に、魔鉄剣を抜いたってことだ。
どう考えても、完全にガチ戦闘。単なる喧嘩の範疇ではない。前後の経緯は不明だから、断言はできないけども。
鉄鞘だってとっくに錆びて、別の物に新調したと思ってたし。レイヤのことだからなんか無理やりに維持したのかもな…。
とにかく、その水エルフとシリュウさんが戦っている所から離れるべく、町の北、「魔猪の森」に出る門を目指してひた走る。
ウカイさんに諸々の連絡はお願いしたし、鉄テントとか鉄小屋とか調理器具とか屋敷に置いてあった物は全て回収はした。多分、迷惑は掛からない、はず。
問題なのは、ダリアさんと紅蕾さんの所。
ダリアさんの棍棒には私の鉄を一部取り付けてある。本人の戦闘能力が高いからどうにかやり過ごしてくれるとは思うのだが…。
ママさんの植木鉢車椅子は魔獣鉄製だが、赤熱魔鉄をウルリが持っている。お店の位置も南の草原にかなり近いから、一番発見される危険性が高い。
ちゃんと連絡が届いて放棄するなりしてくれれば、大丈夫なはずなんだけど…。
──────────
「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」
「キャーイ…。」
事前に開放されていた門を抜け、金竹の林をなんとか転ばずに走り抜け、森の手前までやってきた。
流石に息が切れる。一旦、小休止。
このまま森に突っ込んでも良いが、迷う危険も有るし移動は遅くなる。やはりナーヤ様の案内で森沿いに移動するか?
シリュウさんが簡単に負ける訳は無いが、向こうは従者を十数人も連れている団体様だ。しかも、ぶちギレてる本人は「世界樹の欠片」持ち。程度は分からないが、相応に強いはず。追っ手が抜けて来る可能性は有る。
まあ、シリュウさんが全員を鎮圧できたなら、それで良い──
『なっ──!?』
カミュさん越しに、ナーヤ様の鋭い叫びが聞こえた。
同時に町の方から赤い光が現れる。
「どう、しました…!?」
「キャイ!? キャーイ!?」
子竜のカミュさんが何やら慌てた様子で叫んでいる。
ナーヤ様からの音声が返ってこない。
金竹の向こうに見える光の方に目をやると、町を覆う大きさの、ドーム状の赤い膜が明滅しているのが見えた。
あれは、町の結界…?
誰かが、町を攻撃した──?
視力を強化してみれば、赤いドームの上空に青い星の様な何かが見える。
決断。
あれが水エルフと仮定。注意をこちらに向けさせる。
〔世界を 巡る 強き 風よ…!!〕
髪留めを起動。
レイヤと因縁が有るならば、この風魔力は無視できまい。
〔『破邪の清風』…!〕フォォォン!
遠くからでも感じ取れる様に、広範囲に緑色の魔力粒子を撒き散らす魔法を発動させた。
ついでに手首に針を刺して〈鉄血〉を発動。呪いの鉄を追加生成しておく。
魔法能力の高い氏族エルフだからか呪怨鉄の気配を察知できてたみたいだし、こちらにも反応する可能性は有るだろう。
「カミュさん! どこか安全な所に避難を! それかナーヤ様の所に戻って──」
「キャー!」ガシッ!
何を思ったのか、私の肩に子猿の如くしがみつくカミュさん。
「ちょ!? 私の側は危険ですって!?」
「キャー!」ぴっとり!
いや、そもそも召喚竜だから攻撃されても消えるだけかもしれないが、召喚主との繋がりが消えたっぽい現状では何がどう──
──キィーン…! キィーン…!
危機察知が反応した。辺り一帯、全方位に、それなりの危険が発生するみたい。
とりあえず、鉄槍を構える。
数秒後。私の周りを、水の膜が檻の様に囲った。
太陽の光が揺らめき、まるで池の底にでも沈んだ様な光景が広がる。
──コオオォォ… プション…
「──おまえが。呪怨の鉄の武器を。作った鍛冶師か。」ゴゴゴ…
水の膜を抜けて、青い星──青い魔力光に身を包んだ少女、が飛び込んできた。
「…はい。私は、〈呪怨〉で鉄を、生み出せます。」
「キャー…。」恐々…
「…、」沈黙…
槍の切っ先は下に向けたまま、とりあえず返事をする。
言葉を掛けてきたのなら、言葉で返すのが礼儀だ。まだ、何もされていないのだし。
この少女が、件の、水氏族のエルフだろう。
ウェーブのかかった輝く青髪は肩に掛かるくらい。背丈はシリュウさんより少し高い程度か。構造はシンプルなのに高級素材感マシマシの、ワンピースタイプの服を身に付けている。
見た目は10代前半の美少女と言ったところ。
私に狙いを定めている青い短杖といい、この水の膜といい、物理的に突き刺さりそうな鋭い視線といい、敵意は剥き出しだが。
なんとなく、毒々しい触手を垂れ下げた「海月」をイメージしてしまう。
中空に浮いたまま、距離を取っているのも嫌な感じだ。普通に空なんか飛びやがって。
「女…。しかも、青髪。
人間…? 体内魔力が、無い…?」
私を詰る様な視線を向けたまま、ぶつぶつと呟く。
かと思えば、髪や服がはためくほどに強烈な圧力が迸った。
「こんな──こんな、奴が…! 私の──!!!」ゴゴゴ!
次回は3月3日予定です。
ひな祭りか…。
女の子と女の子が仲良く()遊ぶ話になりそうですね。




