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315話 状況説明と泉の氏族

(ギリギリ日曜日投稿。よろしくです。)



 突然部屋の中に現れたウカイさん。激しくむせ込みながら、私に逃げろと言う。


 うん。状況が分からん。

 未だに危機察知(風のアーティファクト)は働いてないから、危険が迫ってはないっぽいのだが。



「お、お水! 取ってくるわ──」

「大丈夫です。こちらどうぞ。」


 ミハさんを呼び止めて、水筒に入れてあるアクアのお水をウカイさんに差し出す。まずは話を聞ける状態にしよう。



「そ、んなっ場合っ…!」

「まずは状況説明をしてください。」

「でっ、すがっ!」

「どうするかはそれからです。」

「っ!」


 ウカイさんが引ったくる様に鉄蓋コップを掴んで、一気に水を(あお)った。



 ごくっ!ごくっ!ごく…

「はあっ…。」

「落ち着きました?」

「ええ…。」ほふぅ…


 一転して穏やかな表情になったウカイさん。

 その様子を見てミハさんも胸を撫で下ろしている。



「まるで、泉から湧き出たばかりの新鮮さと()んだ魔力──じゃなくてっ!!」ダンッ!


 勢いよくコップを机に置いて、私に顔を寄せる。近いんすけど。



「今すぐ逃げてください! テイラ嬢!」

「いや、だから状況を説明してくださいってば。」

「貴女の命が危険なんですよ!!」

「え…!?」


 ミハさんが顔を青ざめさせる。不安が的中したとでも感じているみたい。

 しかし、いきなり命の危機って言われてもねぇ。



「それは何故です?」

「ミャーマレース様が! 大暴れしてるんですっ! 貴女を殺そうとっ!!」

「はいい…?」


 その名前って確か、水の氏族の偉いエルフ(ひと)じゃなかったっけ??



「え? なんでそんなことに??」

「分かりません! でも確実に本気で──!」


「キャーーイ!!」ヒューン!


 会話に割り込む様に、開いていた木の窓から召喚竜のカミュさんが飛び込んできた。



『南東方向に膨大な魔力放出を確認しました!

 竜喰い(ドラゴンイーター)殿が強大な水魔法使いと激突している模様!』

「え!? シリュウさんが!?」


 切迫した雰囲気のナーヤ様の声が、緑に輝く子竜から発せられる。

 あのシリュウさんが戦闘するとか、ただ事ではない。



「ミャーマレース様です! 彼女がアニキの鉄拠点(いえ)を突然攻撃してっ! 極大魔法を連発しだして! そのままアニキと戦闘になってるんですっ!」

「はああ!?」

『詳しくお願いします!』


 ウカイさんが時間が惜しいと悩みつつも、見聞きした状況を説明しだす。


 いったい何が起こってるの…!?




 ──────────




 時は少し前に(さかのぼ)る。



 マボアの町から遠く離れた場所。


 焼け焦げた跡や剥き出しになった地面が見える、スライム牧場の跡地のすぐ側。


 だだっ広い草原を(のぞ)む形で、ウカイとシリュウが並んで立っていた。



「では、やりますね、アニキ…。」

「…。ああ…。」


 気怠(けだる)い返事を気にしつつも、懐から大きな曲棒を取り出しはじめる、サングラスの夢魔。今から行うことに一抹(いちまつ)の不安を感じているが、「上」から命じられたお仕事なのでやるしかない。


 四○元ポケットの様な魔法の上着から出てきたのは、空間魔法の魔導具「導きの闇門(あんもん)」である。


 6つに分割された巨大な紫色の輪っかで、闇属性魔力を流し込めば、空間をねじ曲げ離れた場所に(ゲート)を開き物体移動を可能とする強力な装置だ。


 空中に浮かび上がった曲棒同士を繋ぐ様に闇色の魔力が伸びていき、やがて円から(あふ)れ、空間に黒い穴が開く。


 接続先はこの国の北端。大陸中央の冒険ギルドより派遣された対呪怨(たいのろい)専門部隊が駐留している町である。



 フォン… コポポポ…



 開いた(ゲート)の向こうから、透明な「魚」が数匹、飛び出してきた。


 その白魚の様な美しい「魚」は澄んだ液体(みず)で構成されており、命が宿っているかの如く空中を泳ぎ回り、飛び跳ね、周囲の状況を確認していく。

 水魔力で形作られた使い魔であり、斥候代わりに使用されていた。


 やがて異常は無いと判断したのか、揃って元来た穴の方を向く。



 フォンフォンフォン…! ゴポポポポポポ…!



 続けて、穴から「水の魚」の大群が現れた。

 まるで川の中を泳ぐかの様な優雅さで空中を突き進む。


 その魚達の背には、複数のエルフが腰掛けていた。

 皆、輝く青い髪を持つ者達、水のエルフである。

 彼ら彼女らは、「(あるじ)」の護衛と身の回りの世話をする従者達。


 その一団の中で一際大きな魚に乗り、その手に握る蒼い短杖でこの水魚の群れ全てを操っている「主」が、シリュウを一瞥(いちべつ)した。


 成人前の少女の様な見た目の「主」は、ウェーブがかった輝く青髪を振り払いながら、抑えてなお不機嫌さが(にじ)む声色で口を開く。



「相も変わらず、ふてぶてしい顔をしていますね。ドラゴンイーター。」


 現れたのは、水の氏族エルフの一派「泉の氏族」の1人、ミャーマレース。

 世界樹に認められその欠片を有する「管理者」であった。


次回は11日予定です。

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