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313話 真冬と言えばそう! 涼やかなゼリー!(狂人発言)

 鉄箱の中から、薄い鉄の容器を取り出す。


 その中を満たしている乳白色の液体が固まっていることを確認し、鉄皿の上で容器を逆さまにする。


 そして鉄操作を微小に発動。容器の底に針先程度の穴を開け、空気を通す。

 ちょうど、有名なプリンを皿に出す(プッチンする)要領だ。



 ──ぷ… よんっ…



 よしっ。上手く出てきた…!


 ちょっとばかり(ゆる)かったのか自重で形が崩れてはいるが、完全には潰れずになんとか保ってくれている。



「これが、新しい『スライム粉』を使った食べ物、『ゼリー』になります!」じゃーん!


「…。珍妙な見た目だな…。」


 シリュウさんが微妙そうな声色で呟き、その目には若干の険しさが宿っていた。


 この食べ物の安全性を疑っているのか、はたまた私への呆れの感情がまだ残っているのかは判断できない。



 今居るのはお屋敷の庭、ラー油もどきの研究用鉄小屋の脇。

 屋敷に戻ってミハさんにシリュウさんの来訪を伝えてすぐ、この場所まで案内したところだ。ダリアさんは途中まで一緒だったのだが、食べ物の話には興味がないと、冒険者ギルドの辺りで別れている。



 昨日の夕方に作ったスライムゼリーは、一番冷えるだろう小屋の北側の影に設置してあった。


 本来なら「冷蔵庫」で冷やして固める訳だが、そんな便利な物は無い。


 いや、魔導具として近い機能を持った道具は存在しているが、お金持ちやお貴族様くらいしか持っていないのだ。ベフタス様辺りが所有してらっしゃるはずだが、こんなことの為に借りるのものどうかと思うし、運用できる属性持ちが身近に居ないし。


 ってな訳で、真冬の外気に(さら)して自然冷却を選択したのである。

 町を覆う結界が在る為、町中は多少は暖かいけど、流石に夜中までその機能が全開になってはいない。

 屋外で一晩放置すればかなり冷やせるって寸法だ。


 周りを囲った鉄箱と、その壁面内部の隙間に入れた冷水も功を奏したってところかな。



「では、とりあえず確認の為に味見しますね。」

「大丈夫なのか…? スライムの弱酸(どく)とか…。」

「大丈夫ですよ~、粉の状態や、水に溶かした段階での味見は既にしてありますから。」スプーンで一口すくう…


 何か不味い要素があれば、髪留めの危機察知が反応するはずだし問題ない。


 見た目、異常無し。警告音、無し。

 では、いざ実食っ!



 もむもむもむ…



 うむ。特段味のしない、不思議物体だ。

 元より不味くはないが、美味くもない。ゼリー状態になってもそこは変わらないらしい。


 今回のは性質を確認する観点から、砂糖も蜂蜜も入れてないし当然だが。


 まあ、この食感自体は、悪くはないかな。

 (じか)にスライム粉を食べるよりは格段にマシ。うん。



 こくん…

「…ふむ。のど越しは良い感じ。

 お腹に溜まる感じも有る…。ダイエット食品としては、うってつけかもな~?」どうかな~?

「…。(また訳の分からんことを考えてやがるな…。)」やれやれ放任…


 まあ、この異世界の地では、いざと言う時に動ける体力が無いと酷い目に会うから、ダイエットなんて欠片も必要ないだろうけど。



「シリュウさんも食べます?」

「…。まずは材料を見せろ。それから作る過程も、な。食うのはそれからだ。」

「了解です。素材の残りと調理器具はそのままなので、その鉄小屋の中にどうぞ。」


 私1人用の空間だが、シリュウさん1人なら、まあ、入るだろう。




 ──────────




「これが『スライム粉』です。サシュさん(いわ)く、以前の物と大差ないそうです。」

「…。」無言の観察…


 シリュウさんが粉を摘み、じっくりと眺めている。


 この新作スライム粉は、スライムを絶命させてその亡骸を活用、していない(・・・・・)


 スライムと言う魔物は、文字通りスライム状の肉体を有する訳だが、その身体を構成する成分を新陳代謝的に排出するらしい。

 具体的にはこう、「脱皮」する要領で、体の表面を層状に脱ぎ捨てるのだとか。


 その体組織にも、消化酵素的な酸毒が弱く残っているそうで、自然界では他の生物が食べることはなく、そのまま土に混ざったり同種のスライムが食べたりしているそうな。


 今回頂いたスライム粉は、そんな捨て去られた体組織を分解される前に回収し、独自加工を(ほどこ)したものとなる。

 つまりは、この粉の為に殺された(シめられた)スライムは居ないと言うこと。


 これが割りと重要。無駄な殺生を伴わない、無血(クリーン)倫理遵守(エコ)な素晴らしい食材、と言う訳である。


 是非とも大量生産に()ぎ着けてほしいものだ。



「サシュさんはこの粉を、異世界モンブラン──『美人強壮』に入れて、舌触りの食感を良くし、食べた人の肌艶が良くなる様に栄養の添加目的で使ってました。」


 摘まんだ粉を口に含み、確認する様にゆっくり咀嚼するシリュウさんの様子を窺いながら、解説を続ける。



「私はこれ単体でお菓子の材料になるのではないかと考えて、今回、チャレンジした形になります。

 材料はスライム粉、水だけです。

 調理器具は、容器各種と、電子レンジ──代わりの赤熱魔鉄、あとは(ふるい)と、混ぜる為の棒ぐらいですかね。」

「…。(随分と簡単だな。)」咀嚼しつつ軽く頷く…


前世(ニホン)で作ってた『ゼリー』は、『寒天(かんてん)』か『ゼラチン』って材料で作るのが一般的だったはずでして──」


 これらの素材は、現状では手に入らない。


 ゼラチンは確か、動物の骨を煮込んで抽出することにより作られたはずだ。

 この異世界では、動物の骨や内臓を食べることは相当に忌避されている為、ゼラチンの生産・利用がそもそも無さそうなのだ。


 私が魔猪骨スープなんかで利用してはいるものの、あれはシリュウさんの魔法袋マジックバッグに入れることで魔力浸透・完全乾燥させた物。結構変質している。

 スープ自体に「とろみ」は有るから、上手くやればゼラチン的なコラーゲンを抽出できるかもだが…。ちょっと方法が分からないから断念した。


 そして、寒天。

 こっちは海藻(かいそう)の煮汁を加工したものだったはず。確か、名前は「天草(てんぐさ)」だったか?


 こっちのどの海藻をどう加工したら良いか全く見当がつかないし、海産物が大嫌いなシリュウさんにはよろしくないので、現状利用不可だ。



 てな訳で、プルプルボディの魔物、スライムを活用するのが“唯一正しき道”なのである。…多分。



「篩にかけたスライム粉に水を少しずつ足しながら、加熱して滑らかなとろみが出るまで混ぜます。で、均一になったらあとは冷やして固めるだけです。」

「それだけか。」

「はい。これでさっき見た様な、水気たっぷりの見た目が涼やかな、夏定番のスイーツが完成します。」


 こっちではむしろ、寒い環境だからこそ作れる「冬」スイーツ扱いでも良いかもしれないな。



「固める実験は上手くいきましたし。あとは、味付けをするだけですね。

 スライム粉を練る時点で砂糖を加えておくのも良いですし、出来た後で蜂蜜なんかをたっぷり掛けるのもアリですね~。」

「蜂蜜か…。ベフタスが送ってきた中に有ったが、もう固まって飴玉になったな…。」


 マジックバッグの中で乾燥しきってしまったらしい。固形になっては使えないと、残念そうだ。



「あ、それなら、アクアの水に(ひた)して加熱してみても良いですか? 多分、良い感じに(とろ)けると思いますよ?」

「…。やってみるか…!」


 その後、出来たトロトロ蜜飴(みつあめ)を掛けて食べたスライムゼリーは、かなり美味しかった。シリュウさんと2人、笑顔で食べきる。


 …まあ、「冬に食べる物じゃねぇな…」感は、若干、(ぬぐ)えなかったが…。ははは…。



更新頻度の変更をいたします。


これからは、週に1回、日曜日に投稿する様にします。


もう平日に執筆時間を確保するのが難しくなってきましてね…。

もしかしたら、週1ではなく隔週になることも有るかもしれません。


続きが気になると言う激レア読者様方におきましては、ブックマーク設定の「更新通知」をオンにして、時々確認していただければ、幸いです。



まあ、趣味で書いてるだけの駄文章なので、おおめに見てください…m(_ _;)m




と言う訳で、次回は21日の日曜日、14時を予定しています。

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