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311話 勧誘と拒否と真実

「──私の『眷属(けんぞく)』になる気は無い?」

「無いですね。結構です。」


 私の呪怨(のろい)に〈自滅(じめつ)〉なる力が混ざっていると聞いた途端、「夢魔族(なかま)」にならないかと誘ってきたダブリラさん。


 そんなものは即行拒否である。



「ええ~? 即答~? もうちょっと悩んでも良くない?」

「いえ、結構です。お疲れ様です。」


 何を()(この)んで淫魔(いんま)になどならねばならないのか。

 夢魔の中にも、紅蕾(ママ)さんとか雨瑠璃(ウルリ)とかまともな人がいると分かったから、付き合う上での嫌悪感は昔みたいには無いけども。


 ダブリラさんの同胞(どうほう)とか、灰色肌にコウモリ羽が確定的に明らかではないか。



「容姿のこと、気にしてるんだ? 大丈夫大丈夫、ちゃんと元の姿に変化できるから♪」

「大丈夫じゃないやつですね。」


 それ、()は灰色肌ってことでしょうが。


 膝の上で寝てるぽかぽか子どもドラゴンさんを優しく撫でつつ、精神をフラットに保つ。



「利点も多いよ~?

 若くて綺麗な姿のまま生きられるよ~? 鉄っちの顔の『スナムギ』も消せるし、肌艶(はだつや)だってツルツルスベスベ、胸とかお尻も大きくできるよ~?」

「必要無いですね。」


 顔のスナムギ(ソバカス)は数少ない前世の姿との共通点だ。綺麗だとは思ってはいないが、愛着は多少有る。

 肌艶は気にはなるけど、それは服と(こす)れるストレスを軽減したいとか言う類いだし、現状で満足してる。


 胸とか大きくしても男の目を()けるだけで、最大級のマイナス要素だ。

 可変になる訳だから小さくすることもできる様になるみたいだが、その為だけに種族変更とか馬鹿げている。



「あと、寿命が伸びるよ~? 長生きしたくない?」

「したくないですね。」

「え~? シリュウくんと長~く一緒にいたいとは思わないの~?」


 彼、長生きするよ~?とニヤニヤ笑う灰色夢魔。

 まあ、気にならないと言えば嘘になるが。



「多分ですけど、私が夢魔になったらシリュウさんは離れていきますよ。」

「…、

 そんなこと無いって~。鉄っちに『ぞっこん』だって~…。」目そらし…


 おう、目を見て話せこら。



「もういいですから。

 満足したなら、早くナーヤ様達を解放してください。」

「ええ~? 生き急ぎ過ぎじゃない~? 勧誘の理由も()かないの?」

「どうでもいいですってば。」

「〈自滅(じめつ)〉って、ただ希少な呪怨って訳じゃないんだよ? 他の〈呪怨(のろい)〉に──」

「そうですか。

 早くローリーカーナの秘密を話してください。それで終わりです。」

「淡白過ぎ~♪」けらけら~♪


 何が面白いのか、またまた笑い転げている浮遊夢魔。

 そのまま、私の顔を覗き込む様に近づいくる。



「そうだ! 鉄っちが眷属になってくれるって約束してくれたら──」

「」腕輪起動!


 鉄塊を取り出し、即伸長。

 灰色夢魔さんの顔や腕の横を通して、簡易な鉄檻を作る。

 逃げられない様に足下の影に、(すね)半輪(アーティファクト)から鉄槍を伸ばしてぶっ刺しておくのも忘れない。これで影を使った転移魔法も妨害できるはずだ。多分。



「そんなの──あ、あれ!? 転移できない!?」あわてる!?

「とっとと。話し、ます、か?」ニコリ!


「…、」ビビり思案顔…

「…。」真顔…


「拒否したら──?」提案──?

「刺します。」即回答…

「…、(うわぁ、本気(マジ)だ…。)」うげぇ…


 一瞬、ダブリラさんの視線が私の(ひざ)のカミュさんに向かうが、その眼球を目掛けて鉄針を伸ばしたら(もと)に戻してくれた。


 余計な気は起こさないでくださいねー?


 そのまましばし、無言で見つめ合う。



「分かったよ…。

 本当に遊びが無いよね、鉄っち。()けるよ?」あきらめ…

「このまま。鉄の檻を『(にぎ)り閉めて』もいいですか?」グググッ!

「よし! 話そう! ローリちゃんの秘密を、とっても話したいなー!」




 ──────────




「ぬがああ!?」顔を()きむしる!

「ひぃ!ひぃぃぃ!?」足を叩きまくる!

「ローリカーナ様!? バンザーネ!?」何事です!?

「あっはっはっは!」笑い転げる!


 ダブリラさんの呪怨(のろい)(魔法か?)から解放された2人が、突然奇行に走った。

 同じく解放されたナーヤ様はなんともない様子で、困惑と混乱の声を上げてらっしゃる。


 話を聞かれてない様に聴覚や視覚は停止させていたそうだが、2人の触覚にだけ、要らん悪戯(いたずら)を仕掛けていたらしい。


 ローリカーナには「蚊魔物(モスキート)が集団で顔に(たか)る」、バンザーネには「無数のセンチピード(確か百足(むかで)魔物の名前?)が足の上を()う」。

 そんな感覚の疑似信号を送っていたんだとか。


 体の自由が利かない相手に、エグくないです…?

 流石に同情するわ…。



他人(鉄っち)が対価払って自分だけが得をするとか、不平等でしょ~?♪ この苦痛(かんじょう)が代金になるって訳~♪」


「このっ…! このっ、下劣っ…! …、夢魔めがっ!!」殺意マシマシにらみつけ!

「敵意、美味しいよ(ありがとう)~♪ (可哀想(かわいい)な~♪)」ごち~♪




 ──────────




「まあ、端的に言っちゃえば。

 ローリちゃんは『精霊憑(せいれいつ)き』なんだよ。だから、(ドラゴン)に嫌がられてるんだね~。」

「なんだと!?」

「『精霊憑き』ですか!?」


 落ち着いたところでダブリラさんから真実が述べられる。その内容に驚きの声が上がった。


 え? こんなバカみたいな残念貴族を、気に入った物好きな精霊が居るの??



「大嘘ですわっ! ローリカーナ様は由緒有るお家柄です! 得体の知れない存在が居ればとっくに判明してますっ!!」

「端的、って言ったでしょ~?

 ローリカーナ(この子)の状態はかなり特殊だよ~。精霊がその体に憑依(ひょうい)してるとかじゃなくて、精神の根幹、『(たましい)』って分かるかな~? そこに精霊が混ざり込んでるんだよね~。」

「意味が分かりませんわっ!!」

「だよね~♪ 本当、意味不明~♪」けらけら~♪


 どうやらローリカーナと精霊の関係は普通ではないらしい。


 ダブリラさん曰く、憑いているのは「不死鳥(ふしちょう)」、鳥の姿をした火属性の精霊の類いだそう。

 通常、人に憑いた精霊はその周囲を飛び回ったりして存在するのだが、ローリカーナの場合は完全に融合してる状態なのだとか。こいつの魂にくっつく様に、火の精霊が超初期の幼体「灰鳥」の状態でこびりついて視えるらしい。


 ローリカーナの異常な魔力回復の源も、肉体再生魔法の連続使用が可能なのも、この精霊の性質が原因だそう。「炎の精霊としては最下位とは言え、自然の意思(せいれい)だからねぇ♪」とのこと。


 形はどうあれ、ハ○ポタとかでも有名な不死鳥なんて凄い精霊が、何故にこんなバカ貴族に宿っているのやら…。



「何故そんな訳の分からぬことになっている!」

「そんなの知る訳ないじゃ~ん?

 君の母親が身籠(みごも)っている時に、精霊が宿っている物でも食べたりしたんじゃない? 悪食(あくじき)だね~♪」

「母上を愚弄(ぐろう)するか!?」

「まあ、そうだとしたら愚かだよね~♪ 竜騎士の家に、精霊を宿した子どもを作ろうしたんだから~♪」


「もういい!

 ならばその精霊とやらを除去しろ!!」

「除去~? もちろん無理♪

 君の根幹に完全に結びついてるから、引き()がせば多分、死ぬよ~?」

「なんだと!?」

「大嘘をつくんじゃありませんわ!」


「嘘じゃないよ~。君の場合、その精霊と混ざってる状態が『普通』なんだよ。

 仮に取り除けたとして~。君は何の魔法も使えない身体になるだけだよ~?♪」

「…、何を、言っている…?」

「ぶふっ…!

 だ~か~ら~、君が今使える魔法は、ぜ~んぶ、その精霊由来のものなの♪

 君の運命は、竜騎士に成れない回復異常女でいるかっ、

 何の魔法も使えない身でドラゴンを追い求めて無駄なっ、努力するかっ…、ってだけなんだよぉっ…。」笑いこらえ…

「──」


 ローリカーナが絶望顔になり、ダブリラさんが(こら)えきれずに笑い出す。

 侍女2人が声を掛けるが、奥歯を噛みしめ俯いたまま反応が無い。相当に精神にキているみたい。


 全くもって面倒な奴である。



「ローリカーナ。」

「…、キサマも、私を笑うか。」

「勝手に決めないでくれる?

 この灰色夢魔に言われた程度で何をへこんでるの?」

「…、」

「え~? 鉄っち、(はげ)ますつもりなの? 狂ってるね~♪」不気味~♪


 ダブリラさんが何か言ってるが、とりあえずスルー。



「良いじゃない、精霊と融合してても。他の人とは違う、特別な魔法が使えるってことでしょう。」

「何が分かる、キサマに…。」横目に(にら)む…

「知らないけど。

 私は魔法が使えないからね。どんな形であれ魔法が使える奴の気持ちなんて。」


 何を言ってるんだ?って顔で私を見るローリカーナ。だけど、事実なんだよね。



「私は、〈呪怨(のろい)〉の力で他人の魔法を借り受けたりできるってだけ。私自身は他人に害を及ぼすしかできない陰気女なの。でも、あなたは違うでしょ?

 何度も何度も再生して、立ち上がって突っ掛かってくる、(イノシシ)みたいな奴。それがあなた。

 細かいことなんて考える頭、最初から持ち合わせてないんだから、ひたすらに突き進めばいいじゃない?」

「私を馬鹿にしないと気が済まないのか、端女(はしため)。」


 その瞳に幾分か光を取り戻したローリカーナから、呆れとも困惑ともつかない声が聞こえる。

 思慮(あたま)が足りないんすよ、自分、端女なもんで。



「それに。精霊の力を使いこなした上で、ドラゴンとすら心を通わせれば良いだけのこと。

 やるかやらないかで言ったら、あなたはやるでしょ?」

「…、ハッ! (ドラゴン)と精霊の相性すら知らぬ下民(げみん)が、ほざきよるわっ!」


 罵倒する言葉を吐きながらも、その声に力強さが戻っている。

 ま、これで多少はまともな方向に進めるだろう。興味無いが(知らんけど)



「…、あれだけ絶望してたのに、持ち直させるとか…。

 鉄っち、気持ち悪っ…!」ドン引き…

「お褒めに(あずか)りっ! 恐悦(きょうえつ)至極(しごく)っ!」胸を張る!




ふむ、今年最後の投稿なので、希望が持てるストーリーにしてみましたが無理矢理でしたかね。予定日時も遅れましたし。

まあ、いいか。



次回は来年1月6日予定です。


今年1年、お付き合いくださりありがとうございます。

皆さま、どうか、良いお年を~。


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