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310話 羞恥に対する報酬と秘密の対価

皆さま、メリークリスマス(遅い


いやぁ、寒いですね。師走、真っ盛り。忙しさにも拍車がかかると言うもの。



クリスマスの雰囲気とはびた一文関係無い、チラシ裏の駄文を、今日も今日とて更新していきます。



「──『ローリー』よ! 今じゃ!

 おじいちゃんドラゴンが風魔法で、魔王の体をその場に留めます。そこにローリーちゃんが突っ込みました。

 ──分かったわ! これが私の全力! 『マジック・ファイアー・ソード』!! (ザン)っ!!

 魔王『コシギンチャーク』の体が左右に分かれました。勇者『ローリー』の魔法剣で焼き潰され、切断されたのです。しかし、そこは腐っても魔王。口も喉も消失したと言うのに言葉を発します。

 ──ぬがアああ!? 小娘ぇ!! クソトカゲぇ!」渾身の演劇!


「…っ!!」奥歯噛みしめっ…!

「──、」無の表情…

「…、」沈黙するのみ…


「くふっ、ふふっ! ぶふぅ!」空中笑い転げ…



「──キサマらァ!許さぬ!許さぬぞォ! 我が『石化の呪い』でモロともにシねェ!!

 ──ピシピシ!パキッ!

 ──ぬお…!?

 ──そんな…!?」


 紙芝居のページを(めく)る。


 おじいちゃんドラゴンとそれに騎乗する勇者ちゃんの体が、灰色の石へと変じていくシーンだ。

 女魔王は右側頭部と右腕のみの姿になりつつも、圧倒的な怨念を放っている。


 なかなかの大ピンチだ。これが現実の物語ならば、さぞ手に汗を握ったことだろう。


 だがしかし。臭い演技をするしかない私の脳内は、ただただ冷えきって、台本(すじがき)通りに口を動かす指令を送っていた。



 私が読みあげているのは、オリジナルストーリーの紙芝居「ローリーちゃんと老ドラゴン」である。内容は、炎の女勇者がおじいちゃんドラゴンと心を交わし共に力を合わせて、人々を苦しめる岩の女魔王を討伐する話だ。


 ローリカーナの目の前で、彼女をモデルにした物語を読み聞かせることで羞恥心を高め、その感情をダブリラさんに食べさせる作戦と言う訳。


 別にギャグストーリーでもないのにずっと笑い浮いて(転げて)いることから、それなりに満足はしている模様。

 対するローリカーナは、茹でダコレベルに全身を真っ赤にさせているが。


 異世界味噌を心待ちにしている、このもどかしい期間に、何故にこんな面倒なことをしなければならないのか。


 ずっと放置されてたローリカーナの奴が突撃して来なければ、穏やかに料理研究ができたのになぁ。

 (ドラゴン)と契約できない理由を知りたくて仕方ないって気持ちは、まあ理解できなくもないんだけど。もうちょっと、人にものを頼む態度ってのを学んでほしいものだ。


 羞恥で顔を赤らめつつも、私やダブリラさんを親の(かたき)でも見る様に睨み付けてきてるし。


 その傍らに控えるバカ侍女バンザーネも、何故か(・・・)怒りを(あらわ)にして暴れかけていたし。

 まあ、服従の誓約を使って黙らしてからは無の表情で私をじぃーっと見つめているが。


 なんででしょうね? 私のファンなのかな?(すっとぼけ)


 そして、もう1人、侍女的立場のナーヤ様は曖昧な表情で沈黙していた。

 いやぁ、こんなクソつまらない話に付き合わせて本当にすみません。このバカ2人に対する監視役としての付き添いなので、私にはどうすることもできないのだが。


 魔鉄湯たんぽを抱きしめて私の膝の上で丸まっているカミュさんも居るけど、ほぼ寝てるからこっちはノーカウントだな。

 無駄にうるさいだろうにスヤスヤ寝てる姿は大物の貫禄(かんろく)である。




 ──────────




「──おしまいおしまい…。」

「これで悪感情を食らうとやらは達成できただろう!! 早く私の秘密を話せっ!」


 私の朗読が終わるや否や、ダブリラさんに食ってかかるローリカーナ。必死な様子である。



「無~♪理~♪」拒否♪

「なんだと!?」

「これっぽっちで足りる訳ないじゃ~ん♪ 君の不幸は、たった数分辱しめられた程度で報われるくらいに、軽いのぉ~?♪」

「ムギギギギッ!!」


 完全に(もてあそ)ばれてるな。

 ローリカーナの奴も自身のプライドが邪魔して反論できないみたいだ。



「ダブリラさん。」

「ん~? なぁに~?♪」


「色々面倒臭いんで、そいつの秘密ってやつをとっとと話してくれません?」

「え~? 嫌ぁだ~──」

「対価。

 そいつへの対価が足りないって言うなら、私が、代わりに払いますんで。」

「ん…?」

「キサマっ! 何を企んでいる!」


 赤髪ちゃんが何やら叫んでいるが、まるっと無視だ。

 面倒事は放置せずにとっとと潰すに限る。



「まあ、もちろん私ができる範囲内で、ですけど。

 鬱々紙芝居を数回分作る予約とか、料理のレシピを寄越せとか。

 シリュウさんへの頼み事を一緒にお願いする、なんてのもアリですよ。」

「ふぅ~~~ん?」


 まあ、シリュウさんが実際に頼みを聞きいれてくれるかは保証しないが。



「…、なら、『秘密』の対価は『秘密』。ってことで。

 鉄っちの秘密、教えてよ♪」

「私の秘密?」

「そーそー。鉄っちの、〈呪怨(のろい)〉が、どういうものなのか。とかさ♪」


 ニヤァ~と笑う灰色夢魔さん。

 しかし、何の意図があるんだ…?



「私は別にそれでも構いませんけど。特段、秘密ってほどでもないですし。でも、あなたなら大体のところは既に把握してるんじゃないですか?」


「まあ、大まか分かってるけどね~。重要な部分はまるで掴めないからさ~♪

 なにせ、直接邪視できない(みれない)し?」


 呪怨(のろい)が繋がっちゃうと、「眼球から鉄針こんにちは」になっちゃいますもんね。



「それじゃ場所移しますか。ここで話すのもなんですし。」


 キャンキャンとうるさい赤髪と、ひたすらに怨嗟(えんさ)の視線を送ってきてるバカ侍女には聞かれたくはないし。

 あと、ナーヤ様みたいな真っ当な人に聞かせる話でもないし。



「いやいや、それなら大丈夫~♪」手を軽く()ぐ…

「「「」」」ピシッ!


「え。」何事?

「彼女達の感覚を遮断して、肉体の操作権も止めたよ~♪ これで聞かれることは無~し♪」

「「「」」」し~ん………


「ちょ、大丈夫なんですか…?」

「平気平気~♪ 目を開けたまま寝てる様なものだよ~。」


 ん~…。まあ、信用するしかないか。



「随分グイグイ来ますね? そんなに知りたいんです?」

当たり(あったり)前じゃ~ん! 鉄っち、自分の異常性自覚してる~?」

「ダブリラさんと同じくらい、してるんじゃないですかね。」

「辛辣ぅ~♪」ケラケラ~♪


 まあ、いいや。

 シリュウさんにはあまり喋るなとは言われてるけど、この夢魔さん相手なら今さらだろう。



「私の〈呪怨(のろい)〉は〈鉄血(てっけつ)〉。()──自らの血液を、鉄──変な性質の金属塊、に変化させる能力で──」

「…、ん…??──」頭がハテナでいっぱい…


 それから、私の〈呪怨(のろい)〉の基本的な仕組みや、それを抑え込む為の誓約魔法、結果的に生成できる謎金属の話なんかを淡々と解説した。


 分かりやすく順を追って話したのに、ダブリラさんは終始「きょとん顔」だった。

 この夢魔(ひと)にとって意味不明な内容のオンパレードだったらしい。


 特に、呪怨(のろい)を誓約魔法で制限していることについては普通に引かれた。実行方法もだけど、動機が理解できないらしい。「抑制しないと人に迷惑が掛かるじゃないですか?」って反論したら、「〈呪怨(のろい)〉として当然なんだけど? 逆になんだと思ってるの??」と、真顔で正気を疑われました。


 なんなんだろうね、この頭がバグりそうな会話(やりとり)は。

 面倒だしサクッと残りの情報を言って、終わりにしよう。



「あと、私の〈呪怨(のろい)〉は、呪具の〈激情(げきじょう)〉だけじゃなくて、〈自滅(じめつ)〉とか言うのが混ざって変なことになってるみたいですよ。」

「は…!?!?」驚愕!?


 ダブリラさんが今日一番の強烈な反応を示した。目を大きく見開き、顎も外れそうなほどに開いている。


 自分で自分を呪う〈呪怨(のろい)〉なだけだからそんな驚くことじゃなくない…?

 まあ、死んでるはずの赤ん坊が生存してるって意味では、珍しいとは思うけども。



「私自身はよく分かってませんけどね。シリュウさんが、恐らくそうだろうと言ってました。」

「ふぅ~~ん? そっかぁ…。

 〈自滅〉かぁ。へぇ~~……?」


 意味深な表情で私を凝視する灰色夢魔さん。

 なんかイラつく顔だな…。あんまり変な態度取らないでくれます? 思わず呪っちゃいそうなんですが。


 軽く敵意を向け返したら、ダブリラさんはニマァと笑って口を開いた。



「ねぇねぇ、鉄っち。

 ──私の『眷属(けんぞく)』になる気は、無い?」


次回は30日予定です。


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