31話 蒸し肉
翌朝。
準備を整えてテントから顔を出すと、シリュウさんは椅子に座って起きていた。
挨拶しても反応が薄く、大丈夫かと眺めてたら「海藻…。」ってぶつくさ言ってた。
…何をそんなに引きずってるんだろうね?
嫌なら普通に自分が持ってる岩塩使えば良いだけだろうに。
体勢が昨日とほぼ同じだけど、まさか徹夜して悩んでた、とか──
無い無い! 流石にそれは無い(笑)
朝ご飯どうしますか?って言ったら、昨日の岩塩と新しい骨付き肉が出てきて「焼いてくれ。」って言われた。
…岩塩を出したのは分かる。軽く持ち上げて横に置いたのは気にしないことにするとして。
なんで似た大きさの肉の塊がまた出てくるの? 実は、保存じゃなくて生産してる??
魔力を流したら無限に肉を作り出す装置なんですか??
つーか、朝からその量を全部食べる気か? こいつ。
まあ、今日は結構雲が多くて鉄板温めるのが無理そうだと伝えると、空を睨み始めた。
睨んでも雲は消えませんよ…。
「吹き飛ばすか…。」ぐぐっ…!
何を!? 雲を!? できるの!?
待て待て待て! たかが肉焼く為に天候を変えるな!?
「普通に焼くのはできます!? 何か薪の代わりとか探しましょう!?」
私がそう言うと、渋々と言った感じで黒い革袋にごそごそと手を入れた。
え? 何? 薪も入ってんの? ド○えもんか??
しばらくごそごそしてけど、結局薪の代わりはなかった。
毛皮を出してきてこれなら燃やせるとか言い出したけど、「変な匂いが付きますよ。」って言って仕舞って貰った。
…見間違いだよね。毛皮の形が魔獣の猪丸々の姿っぽかったけど、嘘だよね。きっとそうだよね。
魔力の籠った高級毛皮を薪代わりにしようとするとか…。
嘘だと言ってよ、バ○ニィ…。
「仕方ない。俺が熱する。」
今度は何ですか?
「シリュウさん、私に非常識とかバカとか言ってましたけど、ご自分の言動もなかなかじゃありません?」
「…。俺は食事に妥協はしない。」
つまり、バカでは?
「お忘れかも知れないですけど私の鉄は魔法を散らすので、火魔法じゃ温めるのかなり大変ですよ。」
「…。呪いの鉄だったな…。まあ、やるだけやる。」
「マジか…。」
何この執念?
とりあえず、昨日の鉄板の前に立つ。
綺麗に洗ってからじゃないと腕輪の中に仕舞えないので、放置したのだ。シリュウさんは朝から肉焼かせるつもりだったんだろうな…。
仕方ないので軽く表面を水洗いする。
その鉄板の上にシリュウさんが手を置いた。
ん? 火魔法撃つんじゃなくて直接魔力を流すの? 効率もっと悪くなりそう──
手から湯気出てる…?
シリュウさんが置いた右の手から、湯気と陽炎が立ち登る。
私にも見えてるってことは、手そのものを発熱させてる…!?
大丈夫か!? それ。
「やっぱ魔法効果だからか、なかなか熱くならんな。鉄板。」
ええぇ…。涼しげな顔で言うことがそれなの…?
実際に肉を置いてみたけど、あんまり熱は入らなかった。
生焼け肉は食いしん坊が美味しくいただいてました…。
「なんか方法は無いか?」
「どんだけ肉焼きたいんですか…。私は大丈夫なんで、もう生で噛ってくださいよ。」
「あんな旨い調理方法を知って、今さら生食えるか。」
初めて火を手に入れた原始人ですか…?
「…考えたら、シリュウさん、ご自身の手を熱せれるならそのまま焼けば良いんじゃ?」
「…。調整できなくて焼け焦げるんだよ…。」
「実践済みか…。」
随分とアグレッシブでした。
「なら、普通の鉄の板を出して熱するのは?」
「どこに普通の鉄板があるんだよ?」
「いやフライパン…口の広い片手鍋とかで良いでしょう?」
「…。持ってない。」
「あんな、でかい肉の塊はあるのに…?」
「俺のマジックバックには…、入らないんだよ…。」
「どんな制約がかかってんですか…。」
「…。」
あ、拗ねた。いや、普通に袋の性能を教えたくなくて黙ったのか? まあ、別に聞きたい訳じゃない。
「なら…死んだ動物の、血液とか持ってたり、します?」
「なかったと思うが、何するんだ? それ飲んで朝食終わりにするのか? 冗談じゃないぞ。」
「こっちのセリフだ、バカ野郎。
…いえ、その血を鉄にしようかなって。」
「何言ってんだ同じことだろ?」
「…。私の〈呪怨〉は血を鉄にするだけです。私自身の血を、鉄にしたものしか魔法霧散効果は出ないんですよ。動物の血を鉄にすれば、質の悪い本当に普通の鉄になります…。」
「………。…は?」
「いや、私にもよく分からないけど、そうなるんですって。多分私が非魔種だからとかそこら辺りが関係してるのかもですけど。…だから血抜きした動物の血なんかがあれば、すぐ錆びるけど魔法が効果発揮するフライパンが作れる、と…。」
「いや、もういい…。俺が悪かった。朝食は諦める…。」
あら、なんか諦めた。
ん~…。食べさせてあげたい気はするけど…。
整理してみよう。
食材の半生肉、塩はある。
シリュウさんは魔法で手を熱くできる。ただし大火力オンリー。
私は鉄が出せる。ただし魔法を弾く。
天気は曇り。薪は無い。足元の草は…燃料にはならん。
ん~…他、他に何か…。
髪留め、腕輪、アーム、ポーチに藻塩もどきと液状石鹸もどき、あとアクア…、
「あ!! これだ!!」
──────────
これぞ、曇天決行蒸し器システム!!
シリュウさんが火の拳…
この表現アウトか? 海○王のお兄さんの二つ名的な著作権──いや問題無い問題無い事実事実! とりあえず魔法の手で熱を生む!
それで熱するはアクアの水!
高温の水蒸気を私の鉄のパイプで、鉄蒸し器に誘導!
蒸し器の中でお肉を水蒸気加熱!
オペレーション・アクアヒート、完・遂!
フゥーハッハッハッハァ!!
…。
…朝ご飯作るのに、何おかしなことをしているんだろうな…。(唐突冷静)
水蒸気を良い具合の温度にする為にパイプの長さとかとか、苦労したけど、その分美味しい蒸し肉が完成した。
まあ、シリュウさんも子どもみたいに喜んで食べてるからいいか…。
「」ゴゴゴゴゴゴ!!
ってちょっと!? 上がったテンションのまま魔法の手を使わないで!? 装置が破裂する!!
スティちゃん(幻)「お姉ちゃん達、仲良くバカしてる…。」
アクア ラテン語で『水』
ヒート 英語で『熱さ』『熱する』




