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309話 ドレミファ・ミソラ~・サッシッスッセッソ~♪

「おい、大丈夫かい…??」

「………。ああ…。」ぼんやり肯定…

「重症じゃな…。」


 特級冒険者であるシリュウを(ねぎら)う為、マボアの町から山羊(やぎ)馬車が鉄の家までやって来ていた。

 ひどくぼんやりとした様子のシリュウと心配そうに会話するのは、(仮)超級冒険者ダリアと外部顧問のイーサンである。



「この程度で疲れる様な性格(タマ)してねぇだろ。」

「不味いことでも有ったのかの…?」

「………。まあ、な…。」


 本人の意思ではある様だが、体内魔力の流れを異常化させて意識を薄弱にしている姿はなかなかに不気味だと不安がる2人。

 一応の受け答えはしているので、危険な状態ではなさそうだが…。



「………。単に。ダブリラの奴が、来ただけだ。要らんことを、言いに、な…。」

「な、なるほどのぉ…。」


 その名前を聞いただけで大体のことは察せられた。

 強い信頼の証である。(マイナス)の、だが。



「まあ、飯でも食べて元気出しな。たっぷり持ってきたからよ。」振り返り…

「………。」ちらり…


 3人が揃って同じ方向に顔を向ける。

 そこには、皿に盛られた調理済みの料理や相当量の食材が並べられていた。


 そして、その傍らには。

 この場で調理をしながらも、ずっと上機嫌に謎の歌を歌う青髪の女が居た。



「~♪ ド・ミ・ソ~♪ ド・ミ・ソ~♪ ドレミファ・味噌(ミソ)・ソ~!♪ ミ・ファ・ソ・ラ・味噌(ミソ)・ラ~!♪」適当メロディ~♪


「──テイラ(あっち)はあっちで、様子がおかしいんだけどね…。」

「ほっほっほっ…。」誤魔化し笑い…

「………。」げんなり…




 ──────────




「~♪」


 味噌~♪ 味噌が手に入る~♪ こんなに嬉しいことはない~♪


 シリュウさんへの辛味料理を作りながら、異世界豆味噌に対する即興音楽を口ずさむ。



 いやぁ、持つべきものは、顔の広い権力者と札束だよね。

 冒険者ギルドと言う、国を跨ぐ巨大組織の情報網と言うのはやはり強い。


 顧問さんに事情を説明し協力してもらい、シリュウさんから預かったお金をフル活用すれば、大概の物は手に入る算段がつくと言う寸法だ。

 まあ、現物が届くのは少し時間がかかりそうだけども。


 何せ、どマイナーな謎発酵食品だからねぇ。村の外への流通・販売ルートが存在していない様なのである。普通の人達からすればそんな物をわざわざ求める意味が分からんと言うやつだろう。


 今回見つかった協力者にもヒステリックな悲鳴をあげられたからなぁ。


 ウルリの同期で、ママさんの土を運んでた下級冒険者のエギィさん。

 彼女が味噌村(私命名)出身であることが判明して、入手の手助けをしてくれる様に頼みに行ったのだが。「あんなの見た目最悪だし、人に食べさせるもんじゃないし!? 下○便(げり『ピー!』)と大差ないじゃん!?」「おバカ!?」「何言ってんの!?」と、ミールさん達が慌てて止めるくらいに大混乱させてしまった。


 ウルリなんか、ママさんの助命を願い出た時と同じくらい必死に「許してあげて!? 何でもするから!?」って言ってきたからなぁ。

 気にしてないから協力してくれるだけで良いよ~♪って笑ったら、なんかむしろ泣きそうな顔で(おび)えられたけど。


 私としては、異世界味噌が、私が求める「味噌」とは別物であることは織り込み済みだ。

 素材、菌種、製造方法。どれ1つとして地球と同じものではないのだから当然だろう。


 そもそも。前世を自ら捨てた(なげうった)(やつ)が未練たらしく何言ってんだと言われたらそれまでだし。


 だが、欲しいものは、欲しいのである。


 地球(日本)に帰れるとも帰りたいとも思っていない訳だが、だからこそなおのこと、そこで食べた美味しいものの記憶は鮮明に、そして強烈に(たましい)に残っている。


 美味しく食べられる味噌状の物なら、大概満足できるはずだ。

 実際に、村の人達はそれを食べてる訳だから食べ物の範疇(はんちゅう)ではあるはずだし。


 はてさて、どんなお味かな~。無事に届くといいな~。




 ──────────




「…。お、お…!?」


 テンション低くぐったりしていたシリュウさんが、(おもむろ)に体を起こした。


 ラー油もどきの香りに食欲が湧き上がってきた様子。その目が期待でキラキラと輝いている。



「美味そうだな…!」

「遠慮なくどうぞ~!」


 私が作ったのは鍋だ。


 薄切りにした魔猪肉と白菜っぽい葉物を層状に重ねて煮込んだ、所謂(いわゆる)「ミルフィーユ鍋」と言うやつ。

 スープは魔猪骨(まちょこつ)をベースにした濃厚タイプで、そこに今回はラー油もどきをたっぷり混ぜてある。


 ガツンと美味い魔猪の旨味に、野菜の甘味と油の辛味が合わさり最強に見える。実際に相当に美味い。

 このだだ寒い草原、しかも保温性が弱く冷える鉄の家の中で食べるにはもってこいだろう。


 椅子に座って入る形式の炬燵を作りあげて、その上に鍋を設置すれば防寒対策もばっちりである。

 炬燵ユニットに調理用のホットプレートもどきにと、赤熱魔鉄が大活躍だ。


 幽鬼の様なふらふらとした足取りでこちらへと移動したシリュウさんが、座るや否やフォークを手に取り、鍋の中へと突き入れる。


 そして、濃厚なスープが絡んだ肉と野菜の塊を口に頬張(ほおば)り入れた。



「」もぐ…!もぐ…!


 う~ん、気持ちの良い食べっぷりだ。実に幸せそう。


 しかし、いつ見てもこんな熱々料理をまるっと食べる姿にはびっくりするな…。


 まあ、いいや。私もご相伴(しょうばん)(あずか)ろう。

 ん~! 熱くて辛くて温まる~!




 ──────────




 その後はシリュウさんに、リュカの実から辛味成分を抽出する手順や廃液の処理方法、ラー油もどきの活用法なんかを書いた鉄板メモを渡した。


 これで一区切りである。

 個人で実行するには色々と手間や必要な物が多くて、今すぐ量産体制に移行するのは難しいとは思うが、物さえ揃えば作ることは可能だ。

 何かしらの(なぐさ)めになると良いけど。


 元気になったシリュウさんから質問が飛んできたので、さらっと近況を解説した。



「ほぉう。カビた豆から作る調味料、『ミソ』ねぇ…。まあ、テイラの望む様な食い物だといいな。」

「そこは期待半分、不安半分ですねぇ。」


 まあ、調味料として使えば活用法はいくらでも思いつくし早々ひどいことにはならんだろう。



「出汁で溶いて『味噌汁』、付けて焼いて『焼き味噌』。これだけでも食材との組み合わせで、レパートリーは無限大…!

『味噌田楽』や『辛味噌』なんかも──そうか!『味噌ラーメン』もいけるかな!?」

「ほう、魔猪骨麺(ラーメン)にも応用できるのか。」

「ええ! かなり風味は変わりますし、個人的には豚骨(魔猪骨)スープの方が好きですけどあれもなかなか美味いんですよ!」


 通常、味噌ラーメンには唐辛子なんかの辛味成分を合わせるはずだが、今ここにはラー油もどきが有る。

 相応の工夫は必要だろうけど、割りと可能性は──



「はぁっ!?『醤油ラーメン』もできるか!?!?」盲点…!!

「『しょうゆ』? テイラがたまに言ってたやつだな?」記憶喚起…


 醤油(しょうゆ)の起源は味噌! どろどろの味噌を(しぼ)って出てくる、旨味たっぷりの液体が「正油(せいゆ)=醤油」だったはずだ!


 異世界味噌からも同じ様に抽出可能なんじゃなかろうか!恐らく!

 これで料理の「さ・し・す・せ・そ」が揃うよー!! いやっふぅー↑!!



「楽しみだな!」わくわく!

「はい!」うきうき!




「食い物ごときでここまで元気になりやがって…。」嘆息…

「シリュウらしくて良いじゃないか。」ほっほっ…

「塞ぎ込むよりは良いけどよ…。」なんだかねぇ…




次回は24日予定です。


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