308話 真夜中の来訪と狂気の女
1回お休みしました。
申し訳ない。リアルが色々忙しく。
これも師走ってやつのせいなんだ。
まあ、主な原因は、新撰組の服部さんが美味しいレイド過ぎたのが悪──(八咫烏!
あと、マッドサイエンティストうさぎお姉さんとパワードスーツを殴るお仕事が大変で──(レーヴァテイン!
そんなこんなで今日もゆるゆる更新していきます。
日が完全に落ちて、暗闇が支配する夜の平原。
闇に溶け込む様に、同じ色合いの鉄の家が鎮座していた。
そのおかしな建物からは、仄かな明かりが漏れ出している。
ゴーリ… ゴーリ… ゴーリ… ゴーリ…
中には、厳つい音を響かせながら茶色い道具を操作する、黒い角兜の少年が居た。
途方も無い量がストックされている乾燥小麦の粒を、強靭魔鉄製の臼で延々と挽いているシリュウである。
マボアの町まで勇者どもがお礼参りにやって来るかどうか警戒する中、ありとあらゆる暇潰しを実践した結果、他にやることが無くなったのだ。
貰った大量の食料は食べ尽くすか保存するかしたし、鉄将棋は自分対自分で数十戦も行ったし、磨耗しないベアリング付き回転椅子の上で「加速操作」するのも、数時間もやれば流石に目が回った。
鉄リクライニングチェアで横になるのも悪くないが、それならば、キメの細かい小麦粉を量産しておく方が幾分有益である。
ついでに筋肉に負荷をかけられるし。
(まあ、この肉体ではこれ以上の筋肉を付けらないんだが。)ゴーリ… ゴーリ…
シリュウが自身の体の異常性をぼんやり嘆いていると、部屋の隅の陰が突如、ユラユラと形を変える。
灯りの魔導具が不調を起こしてもいないし、風の影響を受ける様な内部機構でもない。
にもかかわらず、黒い粘土を捏ね繰りまわす様に、夜の闇がグニグニと凝り集まっていく。
やがて輪郭を持ち、黒い人形が生まれ出でた。
(角兎の「カラアゲ」がまた食いたいな…。都合良くその辺りで増えて突っ込んで来ないものか…。)ゴーリ… ゴーリ…
黒い人形から、煤が払われる様に黒い粒子が放たれ、その中から灰色の肌の女が姿を現す。
その口元はニンマリと笑みの形になっており、その目は、背を向けているシリュウを捉えていた。
「こんばんは~! シリュウく~ん♪」蝙蝠羽をバッサァ!!
(いっそ、その辺りを偵察するか? 超加速で動けば、遠巻きに居るかもしれん魔物を捕まえられるかもな…。)ゴリゴリゴリ…
「…、あれ…? ちょっとシリュウくん?」おーい?
(最悪でも、草原トカゲくらいは…。あれの挽き肉炒め、俺も上手く作れる様に工夫してみるのもアリだな。)ゴリゴリゴーリ…!
「ねぇ? 無視はひどくない…?」
(わざわざ俺が「挽き肉」を使って料理を作ろうと考えるとはな。世の中分からんもんだ。)ゴリ!ゴリ!ゴリ!
「…、ちょっと。本気で〈汚染〉放ってもいい…?」じと目…
「…。何の用だ、ダブリラ。」やれやれジト目…
「ええ~? 最初に掛ける言葉がそれぇ~?」
穏やかな真夜中の一時をぶち壊しに来た迷惑夢魔を、嫌悪感丸出しで対応するシリュウ。仕方なく魔鉄臼を脇に置いた。
対するダブリラも、一般人相手なら飛び上がって恐怖するであろう登場の仕方をスルーされ、不服そうな声を出す。
「つれないなぁ~? 寂しい寂しいシリュウくんを暖めてあげようと、こ~んな美女が『夜這い』しにきたって言うのにさぁ──」
「」魔鉄トンファー、棒叩きの構え…!
「え…? 何それ…。シリュウくんの骨か、何か…?
──!? もしかして『鉄っち』の危険金属!?」
「さあな。
だが、お前の頭蓋を砕ける何かだ。」ヒュンッッ…
鋭い風切り音が出る程に、打撃部位を素早く振り下ろすシリュウ。
その物騒な素振りだけで威力が察せられると言うものである。
「分かった。降参。余計なこと言ってごめん。」真面目モードで両手万歳…
「…。最初からそうしてろ…。」トンファー仕舞い込み…
「ふぃ~…。」汗をぬぐう仕草…
ふざけた言動ばかりの夢魔に一応の釘を刺したところで、シリュウは真面目な質問に移った。
「それで? 何しに来たんだ? テイラの新作料理でも持って来たのか?」
「そんなの持ってくる訳ないじゃん…。」何言ってんの…
「なら帰れ。」
「ひどくない!?」
「こんな夜中に手土産の1つも無しで訪ねて来た奴が、何を言ってるんだ?」
「どうせ起きてるんだし別に良いでしょ~? 私とシリュウくんの仲だし♪」
「何の関係性も無いな。」
「え~?♪ 義理の親子になってたかもなんだし、何も無いことないでしょ、お義父さん♪」
「」トンファー取り出し…!!
「ああー!? そう言えば、鉄っちが料理で凄いことしたみたいだよー!?」全力話題転換!!
「凄いこと…?」攻撃停止…
人を煽る癖を止められないダブリラは、寸でのところで命拾いに成功する。
「う、うん。『ウルリん』がね? 土エルフ君の屋敷に行ったら、鉄っちが何か狂喜乱舞してるのが聞こえたらしくてね? あまりの勢いに、会わずに逃げ帰ってきたんだよ~。」
「…。何だそれは…? (適当なこと言ってやがるか?)」
「さあ?
でも、それなりの付き合いのウルリんが全力で引くぐらい、鉄っちの感情が迸ってたのは確かっぽいよ~?」嘘じゃないって~…
流石のシリュウも、一調味料の存在だけでテイラが超ハイテンションになっているなど、予想できる事柄では無かった様だ。
ダブリラはこれ幸いと、話の流れを変える。
「にしても、鉄っちって、『可笑しい』よね~。」
「…。今度は急に何だ?」
「いやぁ~、私を害せるほど深い〈呪怨〉を持ちながら、あんなに『一般人』みたいに振る舞えるのは、恐怖を通り越して笑えるな~、って♪」
「…。心根が普通だから、な。」
「ね~♪ 私のことを『他人にちょっかい掛ける露出狂』ぐらいに考えてるんだもんね~。頭おかしいよね~。
ほんっと、『異常』だよね~♪」
「…。」
突然の皮肉に対して、返答がとっさに出ないシリュウ。この流れでは分が悪いと、話を変える。
「それで?
わざわざ来たのは、それを言いたかったのか?」
「ん~? まあ、半分はそうかな?」
「半分?」
「そう。重要なのは、鉄っちの『存在』と『目的』だからね~。あの〈呪怨〉を直視できないから、間接的に観察していくしかなかったけど。まあ、シロってことで良いかなって。」
「…。どう言う意味だ…?」
「だから、テイラは、『黒の姫ちゃん』と関係ないよ♪ ってこと~。」
「………。は………??」
「だから、あの『新参魔王ちゃん』の眷属じゃないって認定したよ、って言ってるの~。」
空中で身を捩りながら「『鉄っち』は、てっきり『黒姫ちゃん』が結界の外に作り出した分身体か何かだと思ったんだけどなぁ~?♪」とケラケラ笑うダブリラ。
その言葉の意味を理解し、シリュウはその体を震わせる。
「………。おぞましい、ことを、言うんじゃねぇ…。」ぶるり…!
「ええ~? だって、一番有り得そうな話でしょ~? あんな強力な〈呪怨〉を使いこなせる人間が早々現れる訳ないし~?
シリュウくんにベッタリ張り付いてたし~?♪」ケラケラ~♪
「燃やすぞ…!」黒炎放出…!!
「ちょおい!? それは出さないでってばー!?」シュバッ!?
自身を消滅させ得る〈黒炎〉を眼にし、全力で距離を取ったダブリラ。
その顔は本気の恐怖にまみれていた。
そして、シリュウはそれ以上の恐怖を感じ、それを振り払うかの様に、黒く粘つく炎を撒き散らす。
(あの黒女と、テイラは、どう考えても対極の位置に居る存在だ…!
花美人や海の魔物を取り込み、おぞましい姿になった化生の類い。「魔物」の「王」たらんと自らの肉体を〈変貌〉させていく狂気の女。
そんな化け物とテイラが似ているはずが──)
そこでふと、シリュウは2人が出会った場面を幻視する。
──────────
──私の愛しいシリュウ様に、すり寄るなんて…。女は駆除しなくてはなりませんわね…? ズルンッ!ベチョベチャア!ブルンッ!
──女の子から、黒いタコ足がいっぱい生えてる…。太くて肉質凄そう…、はい? 切り刻んでもすぐ再生…? つまりは…、『タコ焼き』作り放題…??!? え? さらには、他の魚介類も身体に再現可能? 野菜果物の特性まで…!? 期待の眼差し…!
──何、ですか…? その、目…? 思考フリーズ…
──…ちょっと、切り刻んでもいいかな…? 先っちょだけでいいんで…? じゅるり…!!
──!?!? 気圧され…!?
──良いともぉー!! 他問自答で即撃巨大ハサミィ!
──い、いやああぁぁ!? 女児の様な悲鳴…!!
──────────
「……………。」スーパーげんなり…
頭を過った、とんでもない妄想…。
自身最大の精神的外傷たる女を、食材と認識して襲いかかる女…。
実際に行動にも移すだろうと半ば確信めいた納得も有り、その言動の奇天烈さに数年老いた気分にすらなったシリュウ。
黒姫の姿を思い出すなど普段ならそのまま錯乱してもおかしくない事態だったが、あまりのやられっぷりに、その気力もまるで湧いてこなかった。
ぽしゅー、と空気が抜けた風船の様に周囲の黒い炎が消滅していく。
(狂い具合では、良い勝負…、いや、むしろテイラの圧勝──?
…。もう、考えるのを止めよう…。)ごろん…
「ん…? シリュウく~ん? 急にどうした~…? あれ? お~い?
君、ほとんど精霊だから睡眠の意味、あんまり無いでしょ。それに、寝ちゃったら魔力大放出で周りが灼熱空間になっちゃうじゃ~ん?
正しく『溶岩湖』みたいにさ♪」余計な煽り文句…
「………。」しーん…
シリュウは、思考を放棄した。ついでに灰色夢魔も完全に放置した。しばらく何も考えたくなかった。
自身の頭蓋に闇魔力を循環させ、「減衰」の特性で脳機能を無理矢理に低下させる。
「…、え? これも無視? 本当に?
魔力回復して私も暇なんだって~! 何か相手してってば~! お~い!?」
「………。」しーーん…
そしてそのまま、鉄リクライニングチェアに横たわり、目を瞑って全身の力を抜き、擬似的な睡眠状態に入るのだった。
どこぞの青髪さん「化け物魔王なんか、見た瞬間逃げだすわ! 食欲よりも安全!! タコ足の筋肉量、舐めんな!?」断固抗議!
次回は18日予定です。
まだちょっと不確実ですが。




