表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

305/406

305話 魔王の娘の戦い方

「来たか…。」


 ギルド支部の地下訓練場にやってきたところ、そこにはツルピカ──じゃなかった。確か、ナッサン? みたいな名前だったか? まあ、いいや。


 ともかく、スキンヘッドの魔法剣士なギルドマスターが私達を待ち構えていた。

 直前まで他の冒険者達と戦闘訓練をしていたらしく、木の剣を握りしめている。


 事前に話は通しているので、多分現場監督と言うか審判的なことをしてくれるのだろう。知らんけど。



「テイラ殿ー! 今日もよろしくでござるー!」


 ギルマスの側に居た冒険者の1人が大きな声を上げた。(サムライ)に憧れる二刀流剣士、ゼギンさんである。


 木剣を両手に2本持ち、実ににこやかな笑顔だ。その側には「剣剣剣(スリーソード)」のメンバーさんも呆れ顔で立ってるっぽい。


 今日の私は単なる付き添いだから、よろしくすることは何も無いのだが。

 とりあえず無言で手を振って挨拶を返しておこう。



「おお~? ちょっとむさ苦しいけど、強い男が揃ってるねぇ~?」期待感ア~ップ!


 本日の主役ダブリラさんが、訓練場を見渡して呟く。

 どうやら多少はお眼鏡に敵う冒険者(食事提供者)が居る模様。


 ツルピカが人を集めてたはずだし、そりゃ入り口に居た人達よりは強い戦士が集まってるか。

 しかし、ダブリラさんの言う通り、男臭いと言うかガタイが良い筋肉男ばっかりと言うか…。「パワー is 攻撃力」って思考が透けて見える野郎どもが多すぎないかな…。


 日々、魔猪と戦うマボアの町らしいっちゃ、らしいのだけども。



「おいおい、ギルマスさんよぉ。凄い奴ってのは、そこの変な色の女かよ?」

「そうだ。」

「単なる娼婦(夢魔)じゃねぇか。あれなら、エルフのババアの方がよっぽど強いだろ。」


 何やら偉そうな男がしゃしゃり出てきた。身長が2メートルくらい有りそうな大男で、巨大な木の塊を持っている。あれは、斧みたいな形になってるのかな?


 すると、ダリアさんが棍棒を壁に立て掛けて、ずんずんと前に出ていった。



「『ひよっこ』が(いき)がるじゃないかい。」

「あ? 誰がひよってるって!?」

「巣立ちもできてねぇ(ガキ)だ、って言ってんだよ。」

「うるせぇババア!」

「そう言うのは、アタシに名前を覚えられてから言うこったね。」ハン!


 何故か斧男と舌戦を始めた。

 まあ、余裕で見下している辺り、ダリアさんが完全に上手の様子だが。


 ギルマスが(いさ)めるものの効果は今一つで、男はぶつくさと文句を言い続けている。

 どうやら、強い冒険者と模擬戦闘をしてその結果次第で報酬が上乗せされる話だったらしく、肝心の相手がヒョロい女で見せ場が無いとゴネているっぽい。



「ん~、見てる分には愉快だけど。()められてるのは納得いかないかなぁ~。」


 放置されていたダブリラさんが、不服そうな声で呟く。

 何か仕出かしそうな雰囲気である。



「な~ら~、これで、どうかなぁ~?」ズズ…!


 両腕を大きく広げると同時、彼女の影が地面から伸びてその身体にまとわりついていく。


 ゼギンさんやダリアさんが警戒体勢を取る中、空中に黒い人形(ひとがた)が出来あがった。


 そして、決めポーズの如く黒い腕が体の脇へ下ろされると、洗い流した様に影が地面へと戻り──



「「うお!!」」

「「「…!」」」


「♪」ふふ~ん♪


 男どもが一斉に色めきだった。

 妖艶な美女が、扇情的な姿でそこに立っていたからだ。


 人間モード? になったダブリラさんであった。


 灰色だった皮膚が全て、みずみずしささえ感じる色白の肌へと変化し、胸元や太股が大きく露出している。服の形は同じなまま肌の色が変わるだけで、見た目から受ける印象が直接的にヤバくなっている。ほぼ下着だな。日本だったら普通に補導されるレベルだ。

 蝙蝠羽は出ていない為、輝く紫色の頭髪のみが、彼女が並の存在ではないことを主張していた。


 そのままニッコリと微笑み、良く通る綺麗な声で語りかける。



「今からやる訓練で、私に『触れられた(攻撃を当てられた)(ひと)には──この身体(すがた)で、一晩、相手してあげる♪」

「マジだろうな!?」やる気マックス!

本気(マジ)だよぉ~♪ もちろん、当てられた(ひと)が何人居ても、全員と、だよ♪」

「「「しゃあッッ!!」」」歓声!!

「「「…っ!!!」」」無言の興奮!!


「おいっ、てめぇら!少し落ち着け!」

「「…、」」無言の警戒…


 男どもの目が血走っていく。まあ、効果は抜群だわなぁ。

 ギルマスがなんとか(なだ)めようとするが、効果はまるで無い。


 その雰囲気を凄絶な笑みで見つめるダブリラさん。実に楽しそう。



「人間みたいになれるんですね。もしかして、そっちが本来の姿だったり?」

「違うよ~。これは、単なるサービス♪ やっぱり同族(どうぞく)の女を相手にする方がやる気出るでしょ?」

「そんな気軽にできるなら、町中を移動する時にもその姿になっててくださいよ…。」

「えぇ~? それじゃ怖がってくれないじゃ~ん?」

「どのみち迷惑を振り撒くんすね…。」

「もっちろ~ん♪」


 まあ、何言っても無駄か。雑談はこの辺りにして、私はとっとと離脱するとしよう。


 全身で日光浴をするかの様に、卑猥な視線を受け止めながら訓練場の中央へと向かう恥女(ちじょ)


 それを尻目に私が壁際へと退避する間にも、訓練場内の熱気は際限無く高まっていた。



「てめぇら!!舐めてると死ぬぞ!気合い入れろよ!?」

「もう無駄さね。」徒手空拳の構え…

「で、ござるなぁ。」木剣2本構え…

「おらあ!!」気合いの叫び!!


 抜け駆けした斧男が武器を振りかぶりながら突っ込んだ。戦闘訓練、開始である。


 いくら木で出来ているとは言え、あんな塊が直撃すれば大怪我をするだろう。

 しかし、こいつが勝つビジョンがまるで浮かばないな。



「」ピタッ!!

「~♪」ニマァ~~ッ!!


 案の定、と言うべきか。

 横なぎにされた木斧が、ダブリラさんの腕に当たる直前で止まる。男自体も微動だにせず不気味に沈黙したままだ。


 これは死んだか。(適当)



「………、アー…、」くるり…

「「「!?」」」


 ゆっくりと振り返った斧男は、異様な雰囲気であった。

 目は虚ろで、口が半開き。先ほどまでの情熱が完全に霧散している。

 端的に言って、ゾンビ化して操られてる感じだ。



「〈洗脳汚染〉・〈隷属化(れいぞくか)〉♪

 この雑魚モブ君は、私の下僕になっちゃったよ~♪」

「…、ウェー…、」げぼく~…


「分かっただろう! この女は強力な夢魔だ! 分かったなら下手に近づくんじゃねぇぞ!!」

「「「…、」」」

「いや、これは──」拳を握る…!


 冒険者達が硬直している。ダブリラさんの恐ろしさを理解したらしい。

 しかし、ダリアさんが何やら周囲を警戒している様な…? 棍棒無しの素手だから不安なのかな…。



「「「…、アー…、」」」くるり!

「なっ!?」

「なんと!?」

「やっぱりね!」舌打ち!


 冒険者達の半数──いや、大半の人間が虚ろな目になり、ギルマス達に向き直って木剣を構えた。

 わぁーい…、パニック映画で見る光景(やつ)…。



「私の姿を()て、性的興奮(こうふん)した存在(やつ)は、み~んな私の下僕になっちゃったって訳~♪」

「規格外過ぎだろっ!」木剣防御!

「頑張れ、責任者(ギルマス)く~ん♪」ケラケラ応援!


「これは、不味いで、ござる。」弾き、弾き、受け流し!

「うらぁ!」腕掴んで投げ飛ばし!


 大混乱の大乱闘状態になった、地下訓練場内。

 味方が敵で、敵が敵だ。もうどうしようもないだろう。

 なんか1人、生き生きしてるダリア(アマゾネス)さんが居る気もするけど…。



「あ♪ 下僕になった君達は、もちろん私に触れることはできなくなるから~♪ 妄想の私を抱く夢でも見ながら、(むせ)び泣いて仲間と戦ってね~♪」

「「「…、アー…(泣)」」」悲痛な呻き声…


 うわぁ、地味にエグい…。あれ、操られた本人に意識残してるのか…?

 正しく、魔王の娘の所業だ…。


美女夢魔を見た男は漏れなく興奮はしていますが、何人かは洗脳を免れています。体内の魔力操作能力が強いと抵抗は可能なので。

まあ、ダブリラがかなり手加減してもいます。


ゼギンはサムライスピリット(偽)で、ダリアは単純な精神力。(女性でもエルフでも本来はあまり関係無い威力。)

ギルマスの場合は、洗脳主が「正気のまま戦わした方が楽しそう♪」と見逃されています。一応、マスターに支給されている対精神魔法の魔導具を所持もしていますが。



しかし、全然明るい話じゃないなぁ。

まあ、いいか。


次回は24日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ