304話 灰色夢魔と新たなる接待
灰色夢魔さんの外見について、なんとなくの補足です。
作者的には、F○te/Grand Orderに登場するフォ○リナー、ジャ○ク・ド・モレーの第3臨の姿をベースに考えています。
「『鉄っち』ったら、酷いよね~…。『ウルリん』のぐちゃぐちゃ自己嫌悪、食べる前に晴らしちゃうんだから。」
「流石に、あんな状態のウルリを餌扱いはさせられませんよ、ダブリラさん。」
ふよふよと空中に浮かんで移動しながら、なかなかに非道なことを宣うダブリラさん。その灰色の肌を惜し気もなく日の下にさらけ出し、紫色の髪を弄る姿はまさに夢魔族である。
すれ違う人々からの視線が痛い…。
「あんなピュアピュアで若い感情、他で摂取できないのにさ~…。」
若い時分だからこそ、変に歪むと取り返しがつかないんですが…。
「色々と苦労してる奴なんですから、止めてあげてくださいよ。他にいくらでも食事対象、居るでしょう?」
「ウルリんだから、良いんじゃん~? あの娘、割りと将来有望なんだよ~?♪」
「まあ、魔法も強いですし。見た目も可愛いですしね。」
「そうそう♪ まあ、私が言ってるのは、夢魔として、だけど。肉体と魔力の結びつきが複雑で面白いんだよね~♪
なにせ、あの『黒の姫』ちゃんが、眷属通じて配下にしようとしたぐらいだし~。」
「黒の姫」とか言うのは、亡国ホーンヌーンに居る新参魔王の自称だそう。新参と言っても出現したのは数十年前らしいが。
あの巨大黒ナメクジの親玉で、シリュウさんと何やら因縁が有りそうなヤバい存在。そんな奴に間接的とは言え目を付けられるとか、ウルリも大変な星の下に生まれたものである。
「あ~あ、ウルリんが情緒ぐちゃぐちゃのまま、男と交われば、結構な魔猫族に覚醒できるかもなのになぁ…♪ もったいない~…。」ざんね~ん♪
オーケー、オーケー。
他人を不幸にする愉悦主義者は、ここで滅するのが人間としての責務だな?
「そんなに私に呪われたいんなら。
今、ここで。ヤりましょうか…?」ニッコリスマイル!
「ええ~? 鉄っち、他人のこと、構い過ぎじゃない~?
あ、もしかして、ウルリんのこと好きなの?♪ 同性同士ってのも私は理解するけど、束縛するのは嫌われる元──」
「」ジャキン!と鉄針構え!
「いや、だなぁ…! 冗談…! 全部冗談だって~…!」ススス…と引き下がる…
世の中には、冗談で済まないことが多々有るんですよ…?
「…、その夢魔の相手するだけ、無駄だよ。こっちが疲れるだけさ。」
前を歩く高身長筋肉なエルフのダリアさんが、こちらを流し見しながら面倒そうな顔で呟いた。やんわりと仲裁してくれているみたい。
「だからって放っておくわけにもいかないじゃないですか。」鉄針仕舞い込み…
構うのが無駄なのは、同意しかないけども。
「ううぅ~、『砂塵ちゃん』が優しいよ~。」辛辣感情、ごちそうさま~…
「アタシを、ちゃん付けで呼ぶんじゃないよ…。」嫌悪感…
「え~? なら、『ダーちゃん』って呼べば良い?♪」距離詰めっ!
「止めなっ。馴れ馴れしいんだよっ。」
「仲良くしようよ、ダーちゃん♪」美味しい感情いただき~♪
「ケッ!!」無視だ!無視無視!
うーむ。前途多難だな…。
本日、私達は冒険者ギルドの建物を目指して、町中を進んでいる。目的は灰色夢魔さんへの接待だ。
ウルリのことも一段落したし、その流れでラーシさん達に魔力感知の手伝いを打診できたから、ラー油もどきの廃液処理の研究に戻りたいのだが…。
ダブリラさんの相手も、割りと放置できないミッションなんだよなぁ…。
ギルドの特級ランクの職員で、夢魔の女王の娘。強力な邪眼を持ち、その気になれば町中の人々の精神を一瞬で〈汚染〉できるらしい危険な存在。
現在計画が進められている、大森林魔境領域探索における重要な戦力。
その為に追い出すことも、蔑ろにすることもできない微妙な相手。
そして、他人が抱いた恐怖心・嫌悪感と言った悪感情を食べて、自身の魔力に変換できる超人。
紙芝居の読み聞かせによる悪感情の養殖で色々と相手をしていたが、それにも限度が有る。
と言うか、ダブリラさん本人が趣向の変更を打診してきた。天然物が食べたいそう。つまりは、新鮮な出会いをご所望なのだ。
「まともな人間が居ると良いなぁ~…♪」るんるん♪
蠱惑的…、そう表現するべき危険な表情を見せるダブリラさん。
まあ、一般的冒険者の皆々様にとっても、良い経験にはなる…、と信じたいところだ。
──────────
「おお~♪ 賑わってるねぇ。」
そんな訳で、冒険者ギルド・マボア支部に到着である。
建物からは頻繁に人が出入りしており、活気が窺える。外套を付けた冒険者風の集団だけでなく、商人や町人みたいな服装の人達も居て、なかなかに多種多様な利用がされている模様。
そう言えば、この建物を正面からまともに入るのは初めてかも知れないな。普段は顧問さんの馬車に相乗りさせてもらって裏口から入るもんなぁ。迷子にならない様にダリアさんに引っ付いておこう、と。
「行くよ。」
「りょ~かい♪」
ダリアさんが進むのに合わせて、入り口を通る。
そして、一斉に飛んでくる、強烈な視線。
建物の中に居た全ての人の目が、私達に向いていた。
疑心、不安、好奇、興味。
様々な感情が乗っている。かなり居心地が悪い。
「ふ~ん~…? まあまあ、かなぁ~…?」流し目…
「「「あ゛?!?」」」ザワッ!
ダブリラさんが、不満げと言うか、期待外れ的な感想を漏らす。
それを挑発と捉えたらしい近くに居た脳筋男どもが、すぐさま怒気を放った。
「あんたら、聞きな!
灰色女は、かなり上位の夢魔様だ! 痛い目に会いたくなかったら、余計なことすんじゃないよ!」
「「「…、」」」
仮超級冒険者さんの剣幕に圧されたのか、男達が動きを止める。
流石、この町最強の女だなぁ。貫禄が違うや。
「今から地下訓練場に行く。興味有るなら、覚悟して、付いてきな。」
「お邪魔するね~?♪ 『雑魚モブ君』達♪」
「「「…!!」」」イラッ!
落ち着きかけた場を、早速とばかりに掻き乱すダブリラさん。「一般人」の意味とか通じてなくても、喧嘩を売ってるのは明白だわな…。
波乱の予感しかしないな…。
次回は18日予定です。




