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303話 話し合いと女子会 後編

「ちょお!? 待って待って!? 本当に何も無いって!?」

「何も無い、って反応じゃあ、ないでしょうがぁ…!!」般若顔…!

「ひぅっ!?」縮こまる…

「どーしたもんかな…。」


 気炎を上げるラーシさんの圧力に、あっさり負けるウルリ。フミさんは、そんな2人を眺めながら悩んでらっしゃる。


 ラーシさんは不埒男を(ちゅう)しようというのだから、ウルリのしどろもどろな弱腰スタイルでは“火に油を注ぐ”だけだ。

 かと言って、軽薄リーダーさんが不貞行為をしていないと信じるには、不利な状況証拠ばかり揃っている。



「待ってください、ラーシさん。」

「邪魔、しないでくれる?」ゴゴゴ…!!


 こんな時に必要なのは、冷静で的確な助言(アドバイス)だな。

 半ば焚き付けた形の部外者(わたし)が軌道修正をせねば。



「まずは、あの軽薄リーダーさんをどう処分するか決めないと。

 鉄針、(ノコギリ)金槌(カナヅチ)万力(まんりき)に、ペンチに、ニッパー、色々有りますよ? シンプルに剣や槍でも良いですし。後は、釜茹で用の鉄鍋とか、(はりつけ)用に十字架だって作れます。

 どれから使います(いきます)?」ジャキキキン!


「「「………、」」」


 大量の拷問器具もどきを出した私。

 それを見た3人が、漏れなく全身を硬直させた。


 やがて、互いに顔を見合せ、ゆっくりと頷く。



「少し、落ち着きましょうか…。」気炎消失…

「それが良いと思うよー…。」やんわり肯定…

「ん…。

 テイラ。だから、それ、仕舞ってくれる…?」びくびく提案…


 おや? 勢いまかせではまともな刑罰執行にならないからと、一呼吸入れる間を作ったが。出陣そのものを取り止める雰囲気なのは、何故だろう?


 まあ、当事者達がそう決めたなら従うのみだけども。




 ──────────




「──なら。無理矢理口づけされたり、抱きしめられたり、胸を触られたり。そんなことは無かったのね?」

「ん、そんなのは、無いよ…。」

「…、(嘘じゃあなさそうかなー?)」


 刑罰執行(天誅)を一時取り止めた後、ゆっくりと喋りはじめたウルリに色々と質問をする場となった。


 具体的には、ウルリが怪我をするよりも前、軽薄リーダーさんとデート──と言うか、2人でパーティーの備品の買い物をしていた──時のことを尋ねている。



「本当に、卑猥(ひわい)なことも、嫌なこともされてないのね…?」

「ん…、」物憂げな表情でうなずく…


「…、(その顔が微妙なのよ…。)」疑心…

「んー…? (どっち付かずの反応だよねー。)」


 やっぱり何も無かったなんてこと、無いと思うんだが…。



 男が二股、と言うか複数人と関係を持つことは、貴族的価値観(ラーシさん)にとっては悪ではない。


 一族を繁栄させる為により良い血統を、より強い子孫を残そうとするのは貴族の責務だ。そんな理由から、一般人から見れば眉をひそめる様な関係性ではあるが、一妻一夫に(こだわ)らない価値観を持つ人々は存在する。

 ラーシさんも、軽薄リーダーさんとウルリが男女の仲になっていいと伝えていた。


 しかし、それは当人達それぞれで話し合いの上で関係を持つべきものであるし、相手が嫌がることを無理矢理しても許される訳ではない。


 ウルリがきちんと覚悟を決める前に、男の側から手を出すことは絶対的に罪なのだ。


 まあ、どうにもそう言う話ではないようだが。



「ねぇ、ウルリ。もしかして、紅蕾(ママ)さんのこととか、お店のことで、リーダーさんに何か言われたの?」

「へ…?? なんでそこでママが出てくるの…?」


 んー、この反応は全くの見当違いか。



「いやぁ、ウルリが人間関係を断ち切るほど重大なことって、他に無さそうだから。

 リーダーさんがママさんのことを悪く言ったら、パーティーから抜けたくなるだろうな、って。」

「…、リグは、そんなことは、言わない、よ…。」


 そんなこと『()』…? これは当たらずとも遠からず?



「じゃあ、何か、他のことを言われて、嫌いになった?」

「…、別に………。」


 お、図星(クリティカルヒット)の予感。



「ふむ。なら、自分の──ウルリ自身の、外見とか能力とかで、気に入らないことを言われた?」

「」じろり…!


 結構キツめに睨まれた。それなりの敵意を感じる。

 原因(ねっこ)に到達したっぽいな。



「待ちなさいよ。リグの奴、ウルリのことずっと褒めてたじゃない? 魔法も身体能力も。」

「そうだねー。性格だって『気難しい黒猫に見えて、怖がりな女の子ってところが良い。』とか言ってたねー。」

「ヤァ!? そう言うのはヤメテ!?」


 仲間からの暴露で、あっという間に「弱々黒猫(くろにゃんこ)」になるウルリちゃん。



「自分の本気と同じ速さで走れるってだけで、まあ、ベタ褒めしてたわよねぇ。」

「会った頃の刺々(とげとげ)しい感じも良いけど、(なつ)いてからの素直な感情表現が魅力的、とかねー。」


「も、言う…。言うから、それ以上、喋るの、止めてぇ…。」赤面&白煙ぷしゅー…


 頭を抱えて机に突っ伏した。羞恥心が限界突破したらしい。




 ──────────




「はあ…!?? 『父親』に似てるって気づいたから──」意味分かんない!?

「──(そば)に居たくなくなった、かー…。」難しいなー…?


「そだよ…。」つかれた…

「なるほど、なぁ…。」


 ウルリが白状した事実。

 それは、好きになった軽薄リーダーさんに、大嫌いな自身の「父親」と近しい部分が有ると気づいたこと、だった。


 ウルリの父は「魔猫族(まびょうぞく)」。猫の因子を持った夢魔族の男だ。

 ウルリの母親は、辺鄙な村に住むちょっとだけ水魔法が使える人間の女性で、ある時その魔猫の男に出会い、やがて夫婦になった。


 父親は、妻が子どもを宿したことでそれはそれは舞い上がったらしく、自身の風属性ではなく母親の水属性を持つ子になるはずだと、名前に「(あめ)」・「瑠璃(青い宝石)」の文字を付けることを一方的に決めたんだとか。


 つーか、ウルリって骨文字(漢字)の名前、有ったんだ…。字画は多いけど、綺麗な字だなぁ…。


 しかし、生まれてきたウルリは、自身と同じ風属性だった。

 それを知った後、父親は2人の前から姿を消した。気ままな猫の様に。


 事実だけを見れば、クソだな。


 ウルリは、そんな最低な父親を待ち続ける母親に嫌気がさして、村を出て、1人でがむしゃらに生きて冒険者になり、最終的にこの町にたどり着いたそう。そして、ママさんに拾われて、仲間が出来た、と…。



「勝手にやってきて、自分の意見を押し付けて…、勝手にどっかいく最低な奴…。

 リグは、そんなの違う、って…、感じてたのに…。」


 デートの時の、些細な言動が。自分の父親と重なって。

 自分の中の「好き」って感情が分からなくなった、ってことか。これは重症だ(根深い)な。



「そう言うことね…。」悩ましげ…

「ん…。だから、リグは、悪くない。

 悪いのは、私、だから…。だから、パーティー、抜けようって…。」罪悪感…

「」なでなで…


 (うつむ)くウルリの背中を、フミさんが優しく撫でている。

 ラーシさんはその様子を見つめながら、腕を組んで考え込んでいた。



「分かった。あんたの気持ちの問題、ってことは理解したわ。」

「ラーちゃん…。」

「ウルリ。副リーダー権限で、パーティーの一時離脱を認めてあげる。フミは証人ね。」

「や…? 一時、離脱って…。」

「別に、正式に抜けようが変わらないでしょ。最近はずっと別行動だったんだし。」

「そ、そうだけど──」

「なら、取れる選択肢が多い方にしておきなさい。で、その間に、気持ちの整理をつけること。リグには、私から話してあげるから。」

「…、わ、分か、った…。」


 どうやら、妥当な落とし所を見つけられた様だ。

 まあ、時間が経てば、変わることも有るし。今は怪我のせいでネガティブになっているだけかもだし。



「ふむ。一応、一件落着?」

「どこが…?」じろり!


 再びウルリから鋭い視線をいただいてしまった。



「まあ、ごめん、ウルリ。心の(やわ)い部分を土足で踏み入る様な真似して。」頭下げ…

「…、分かってるなら、もうしないでよ…。」


 前にこのメンバーで集まった時も、色々と突っ込んだことを言ったっけなぁ。



「こうでもしないと、なんか取り返しのつかないことになりかねなかったからさ。自分の内に、暗い感情を溜め込み過ぎると、変に爆発しちゃうでしょ?」


「ま、結果は良かったんじゃない? 責めるほどじゃないわよ。」

「そうかもねー…。」

「………、」むぅ…


 納得できなさそうに顔をしかめるウルリが、ツンツンモードで私に口を開く。



「そもそも…。なんで、分かった訳? (じぶん)でも、どうやって言葉にしていいか、分かんなかったのに…。」

「んー? いや、単なる当てずっぽうでしょ? ウルリの反応見ながら確認してただけだったし?」

「なんでそんな真似ができたのか、ってこと…。」

「まあ、そこは…、経験数?」


「その…、家族とか仲間に、色々言われた、ってこと…?」

「そんな感じかな~。」

「…、」疑わしげ…


「気になるなら、喋ろうか? お詫び代わりに、こっちも色々(さら)すけど?」

「聞いて、みたい…。」

「…、(何か嫌な予感が…。)」止めないけど…

「…、(大丈夫かなー?)」でも興味有るなー…


 私の体験談は参考にはならないだろうけど。まあ、さらっと言っていこうか。



「なら、そうだなー…。

 まず、父親様に、私が魔法を使えない非魔種(そんざい)だと分かってから、家族扱いされなくなったことかな。」

「え。」


「姉の1人が、まあ、魔法を使って(いじ)めてきたんだけど、ほら、ちょうどバカ侍女(バンザーネ)みたいな奴でさー。父親様は、それを止めるどころか練習台として推奨してたりとか──」

「ちょ…!?」


「んで、12歳で(じゅうにの時に)、他の家に嫁入りすることが決まって。せめて婚姻関係で家の役に立て、って言われて努力したんだけど──」

「「「え!?」」」


「その旦那様がクズでさー(笑) 女を傷つけて(えつ)(ひた)る変態でー(笑) しかも、父親様はそれを知ってて、(むすめ)を嫁に出す契約を──」

「わあああ!? もう止めてぇ!?!」しゅばっ!


 炬燵から勢いよく出たウルリが飛びついてきた。超絶に必死な様子。



「あ、やっぱり重かった? ごめんね~(笑)」

「うぅ…。」ぎゅー…

「もう、単なる過去のことだって~(笑)」ケラケラ!

「や…。つらいよ…。」

「ほら、気にしない気にしない。」背中ぽんぽん…


「…、(やっぱり何処ぞの貴族出身だったわね…。)」げんなり…

「…、(誇張表現とかじゃなく、実体験の話だよねー…。闇が深いなー…。)」引き…


次回は12日予定です。


今度は明るい話にしたいなぁ。

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