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301話 自作香辛料もどきと問題点

「と言う訳でお待たせです! 自作香辛料、完成しました!!」

「………。」


 シリュウさんが食事の手を止めてまで、わざわざ私を凝視する。食べながらで良いですよと伝えたはずなのだが、余程気になるらしい。それにしてはしかめっ面な感じではあるけども。


 今日は、完成した「ラー油もどき」を携えてシリュウさんの(もと)へとやってきている。


 シリュウさんはお詫びに貰った食料の一部を食べているところだった。

 食べていたのは、トーケーと言う名前の「栗」に似た木の実で、剥き身を赤熱魔鉄で焼き栗にして熱々のまま延々と口に運んでいたらしい。


 食事中に別の食事の話をするのもどうかとは思うが、ことシリュウさんに関しては問題ないだろう。



「安心してください。この『ラー油もどき』──出来た辛い油の名前ですけど──の安全性は確認済みです。

 おバカなローリカーナとその侍女を毒味役にして連日食べさせましたが、魔力操作を阻害する効果は一切、表れませんでした。問題無く食べられます!」

「………。」げんなり…


 おかしい。安全性を保証したのに、さっきより疑念の感情が強くなった表情をしてらっしゃる。

 奴らでは信憑性が足りなかっただろうか?



「なんで、女騎士(ども)にわざわざ食わせたんだ…? 俺が直接食えば良かっただろうに。」


抽出(ちゅうしゅつ)の過程で、魔力阻害効果が強まったり別の危険な毒性が発現してる可能性が有りましたから。いくら耐性が高いからって、そんな物をシリュウさんへ直接渡す訳にはいきませんよ。」


「それをテイラは、馬鹿みたいに食ってたって言ってなかったか…?」

「私は風の髪留め(危機察知)で毒は判別できますし。非魔種で魔力阻害も無意味オブザ無意味ですし?

 でも、非魔種だからこそ、阻害効果が有るかどうかを判定できません。ローリカーナ達の生け贄は必要な過程だったんです。」

「…。生け贄…。」

「あ、違った。毒味役、です。毒味役。」

「…。同じだろうが…。」


 うーん、他人を犠牲にしたのがよろしくなかったかな。でも、あいつらごときをシリュウさんが気遣うとも思えないのだが。



「気分じゃないとかで食べないのも構いませんよ? シリュウさんを(ねぎら)ってやったことですから、ご自由にどうぞ。

 あ、もしそうだったらこっち食べます? ミハさんからシリュウさんに差し入れを貰ってるんですよ。」


 持ってきたのは、ミハさんがリーヒャさんと共に作った「(あん)まん」である。

 まあ、「餡」とは言っても、日本人が想像する小豆(あずき)と砂糖の物ではなく、黄色く甘い豆である「千豆」のペーストが基になっており、風味はかなり違う。

 普通に美味しいから問題は何も無いが。


 今回は顧問さんの山羊魔法馬車を借りてここまで来ているから、追加分も有るし、他にも色々な物をたくさん持ってきている。

 何も私の謎実験物を押しつける必要はない。



「それも貰う。

 それに、テイラが作った『ラーユ?』ってのも食ってみたい。色々言ったが文句を付けたい訳じゃねぇよ。」


「そうですか? 了解です。

 ちなみに、ラー油単体も持ってきてますけど、それを使った料理の下準備もしてあるんですよ。辛い味付けの肉を焼くだけですが。焼きます?」


「…。頼もう。」


 シリュウさんは、期待半分・不安半分って顔で真面目に(うなず)くのだった。




 ──────────




 塩とラー油もどきにしっかり浸けて下味を付けた火魔猪肉を赤熱魔鉄プレートでじっくり焼いていく。

 肉が焼ける良い匂いに、鼻を刺激する独特の香ばしさがプラスされ、何とも言えない期待感が湧き上がり食欲をそそる。


 お好みで辛さを調整できる様に、追いラー油用の小鉢を置く。付け合わせに、千豆(ちとう)のマッシュ、焼きロームイ(らっきょうもどき)も添えて、味の変化を楽しめるようにした。


 そして、恐らく必要ないはずだが、耐えられない辛さ対策に豆乳をコップに(そそ)いでセットアップは完了だ。



「どうぞ、召し上がれ。」


「…。(かなり強い赤色だな…。危険な(悪い)感じはしねぇが…。)」じーっ… もぐ…もぐ…


 恐る恐ると言った感じで、肉の切り身にフォークを突きたて、口に入れたシリュウさん。

 ゆっくりゆっくり噛んでいく。



「」カッ!! はぐ!もぐ!ぱく!ばくっ!


 突然、目を見開いて、残りの肉に勢い良くかぶりつく。

 あっと言う間に全てを口腔内に収めきり、ひたすらに咀嚼を繰り返した。


 この反応は、多分大丈夫なやつだな。



 ごくんっ!

美味い(うめぇ)っっ!!」

「しゃあっ!!」


 渾身の「美味い!」、いただきました!

 ようやくまともに報いることができたね! やっふぅー!




──────────




「しかし、本当に良く作ったな…。本場の香辛料と遜色(そんしょく)無いぞ。」


 肉を全て平らげた後、ラー油もどき単体を直接スプーンで舐めて楽しむシリュウさんが、感慨深そうな雰囲気で褒めてくれる。

 しかし、何かが間違ってる気がするな…。それ、油の旨味もたっぷり有るとは言え、結構普通に辛いんですが…。



「まあ、でも、解決できてない問題が残ってて、もう少し試行錯誤しないとなんですけどね~…。」

「? 普通に美味いが?」

「それとは別のところなんですよね。」


 リュカの実の抽出液、問題点3つ目。それは「廃液」だ。


 この「ラー油もどき」を作る工程は大雑把に、「(きざ)み」、「(ひた)し」、「乾燥」、「()け込み」の4段階から成る。


 密閉空間内でリュカの実を刻み、それを水に長時間(さら)すことで、成分を分離。

 皮と果肉部分を取り出し水気を切って、天日干しか火で(あぶ)って乾燥させた後、一晩ほど油に漬け込み辛味成分を染み出させることで「赤い油」が出来上がる。



 この、「浸す」過程で発生した、酸味・渋味満載の「水」の処理方法が大問題なのである。


 諸々の観察の結果、魔法阻害効果は大部分がこの廃液に残っているらしいことが判明している。


 優秀(笑)な土魔法使いバンザーネ様が、この廃液をスプーン1杯分ほど口にしただけで盛大に悶絶し、数時間近くまともに魔法発動を行えなかったレベルであることからなかなかに凶悪な毒液であると言える。まあ、永続的なものでなく、一時的ものだからまだ何とかできる代物だが。

 そして、普通に不味い。辛味は認識できないほど薄まったが、むしろ酸味達が際立って余計に摂取しづらくなった。


 スライム達にも分解できそうにない為、その辺りに捨てようものなら環境汚染となること請け合いである。



「ってな訳で、廃液の処分方法が問題でしてね~…。せめて無毒化と言うか、安全な処理をしないと追加生産はできないんですよ。」

「燃やせば良いじゃねぇか。」

「いやいや、相手液体ですし。魔法を阻害するから火炎魔法で蒸発もまともにできませんよ。」


「俺ならできるが。」

「…あ~…、超大火力(シリュウさん)なら、いけるのか…?」


 阻害効果を無視できるほどの熱量で燃やし尽くせば…。いや…? 有害物質が撒き散らされる可能性が有るんじゃない…?



「ん~、検証する価値は有るかもですけど、そこそこ危険そうな気もしますね。」

「気にするものでも無いだろう。どんどん作って溜め込みたい。」ぐいぐい!

「周囲の環境を破壊する行為は止めましょうよ。」

「誰も居ない所でやれば問題無いだろ。」


 う~ん、待望の香辛料もどきを大量供給したいのは山々だが…。



「いやぁ、まあ、一旦保留でお願いします。

 次に来る時は魔力感知が高い人達でも連れてくるんで。ちゃんと燃やせるか、有害物質が発生してないかとかをきっちり検証しましょう?」

「…。」面倒そうな顔…


「ラー油もどきの各種利用方法も確立しておきますし、新作メニューもガンガン作りますから。ね?」

「…。仕方ない、な。任せる。」

「ありがとうございます。」


 もうちょっと、廃液の無毒化方法も探るべきだな…。

 どんな方向性で攻めてみるか…。


次回は30日予定です。


・追記

次回投稿が遅れます。

31日か11月1日になるはずです。

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