300話 エピソード・ゼロ どこかの「私(だれか)」の一生
今回は、過去も過去。主人公の前世に関わるお話です。
彼女の根底に在る、暗く淀んだ「核」の部分。
ゴーストアップルの如くスカスカな拙作の、中身に相当する「空洞」。
「芯」が無く、虚ろで、無価値な、何か。
時系列的には一番初めの内容を、今さらながらに公開します。
もちろん単なるフィクションなので、現実との混同は避けていただければ。
まあ、それなりに鬱々の塊なので、一応、閲覧注意、かな…?
──こことは違う星、異なる世界のお話、です。
──そこは、この世界と似ている様で、どこか違う、不思議な場所でした。
──青い空に白い雲が浮かび、蒼い海は広く大きく。
──石と岩と砂で出来た大地には、山が有り、谷が有り、川が流れ、生き物がたくさん、暮らしていました。
──植物も、動物も、そして、「人間」も居ました。
──けれども、その世界には「魔法」が存在しませんでした。
──「エルフ」も「夢魔」も居らず、「刻印」を並べても「火」は生まれず、「詠唱」を発しても「水」が生じることもありません。
──そんな世界で「人間」は、何年も何十年も何百年も何千年も、自然を観察し続け、その「理」を紐解き、「魔法」に代わる文化を手に入れました。
──「コンクリート」と「鉄鉱石」と「電気」を利用して、「人間」は、武器を作り、森を切り開き、町を築きあげました。
──そんな、「魔法」が使えないことが当たり前の、世界の片隅に。
──1人の「女の子」が居ました。
──彼女の名前は「ヒトミ」ちゃん。
──「日本」と言う国で生まれた、黒髪・黒目の、普通の子でした。
──ヒトミちゃんは、お母さんと2人で暮らしていました。
──ヒトミちゃんのお父さんは、働きもせず、遊んでばかりで、浮気までして、挙げ句に暴力まで振るう最低な人でした。
──そんな父親から娘を守る為に、ヒトミちゃんのお母さんは、1人で子どもを育てました。
──2人で生活する為にお母さんは、毎日毎日、働きました。
──ヒトミちゃんは、お母さんが居ない間、ずっと1人、家で留守番をしていました。
──本当は寂しくて、お母さんとお話がしたかったけれど、我慢して、絵本やお人形で遊びました。
──ヒトミちゃんは、それでも少しずつ成長し、やがて、お母さんがヒトミちゃんを産んだ歳よりも大きくなりました。
──成長したヒトミは、お母さんから離れて、別の所で暮らしはじめました。
──お母さんのことは好きだったけれど、一緒に居ることに耐えられなくなったのです。
──一緒に居て欲しい時に、放置されて。放っておいて欲しい時に、お小言を言う。そんなお母さんに、疲れたのです。
──漫画を描く仕事をしながら、飲食店のバイトをして、懸命にお金を稼いでいました。
──しかし、人間は1人では生きていけません。自分を支えてくれる「誰か」が欲しくて、話を聞いてくれる「相手」を探していました。
──ヒトミに、彼氏ができました。説明が下手でくだらない彼女の話を、ずっと聞いてくれる人でした。
──けれど、その人にとって、ヒトミはあまり価値の有る存在ではなかった様です。ヒトミの住む部屋に、別の女を連れてきて、遊んでいました。
──どこかの父親。それと同じ様に。
──ヒトミは、悲しかったけれど、ほんの少し、安心もしたのです。
──「ああ…。私も、お母さんと同じなんだな…。」
──辛い気持ちを、お母さんと共有したくて、電話をしました。
──プルルルルッ プルル──
──「お母さん、ヒトミだけど──」
──「久しぶりねぇ、どうしたの?」
──「…、ちょっと、話を聞いて欲しくて──」
──「あんた、まだ漫画書いてるの? 早く諦めて結婚しなさいよ? 女は家のことやってれば良いんだから。」
──なんで、今、そんなことを言うの──?
──ヒトミの心が、激しく、軋みました。
──「いや、お母さん、話──」
──「訳分かんない変な絵なんか書いてないで、ちゃんと現実見なさいよ? あんたもう、20代も半分過ぎたんだし。」
──「そんなの──」
──「ほら、ずっと同棲してる彼──何とか君。とっととくっついたら? 『子ども』が女の一番の幸せよ?」
──クズな父親を持つ方が地獄だよ…!
──そんな言葉を、ヒトミは必死に飲み込みました。
──「話、聞いて──」
──「そんなことより! この前の──!テレビのニュースで──アイドルの○○が△△と✕✕して──!」
──「──。」
──「──子どもだから──@%d¥──頭悪!&~f\─不倫─!?─$k$j¥c%─、─バカ=/ph;@─気持ち悪─aho─!」
──「──もう、いい。」
──ピッ!
──電話を、切った。
──宇宙人の喚く声は、聞こなくなった。
──けれど、頭の中に、
──過去の怒声が、
──誰かのヒソヒソ声が、
──バイクの騒音が、
──テレビの非難する声が、
──私を、拒絶する声が、
──ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる──
──「もういい!!もういい!!もういい!!」
──ぐるぐるぐるぐるぐるぐる──
──「うるさい!!うるさい!! うるさい!!!!」
──何もかもが、自分を取り巻く全部が。何よりも、自分自身が。
──うるさくて、鬱陶しくて、気持ち悪くて──
──「もうっ!!嫌っ!! もうっ!!!!要らないっっ!!!」
──うるさい轟音を消そうとして、
──ザグッ!
──気付けば、左の手首に包丁を突き刺していた。
──痛い!死にたくない!苦しいのは嫌!!
──「うるさいっ…。うるさいっ………!!」
──体が発する悲鳴が、頭の中の雑音を消した。
──代わりに、その悲鳴そのものが、もっと鬱陶しい。
──静かにしろ! 止まれ! 消えろ!!!
──グサッ! グサッ! グチュ…
──そうだ…、水、流、して、血が、固まり、ら、ない、様に、する、ん、っけ…。
──いた、い…! い、たい…! い、た、い…!
──ジャアアアア…
──あかい…。いたい…。さむい…。いたい…。
──体が、鉄の様に重く、氷の様に冷たくなっていく。
──うるさい水音も、喚く痛みも、少しずつ溶ける様に、自分ではないどこかへと遠ざかっていった。
──溶けていく記憶の中から、
──何故か、お母さんが唯一来てくれた、運動会の光景が浮かびあがって。
──その時食べた、手作りのお弁当の、「玉子焼き」の、味が、蘇って──
──…、も…、…、食……べ…、……たぃ───────
──それが、ヒトミの最期の思考でした。
──お終い、お終い…。
「…うー………、ん~………。
我ながら、酷いと言うか、滅茶苦茶と言うか…。」
1人きりの炬燵部屋に、澱んだ声が漏れる。
足はぬくぬくだが、頭と心が冷えきっている。温度差で風邪を引きそうだ。気分が悪い。
リセットする為にも、下半身を炬燵から離脱させて身体を動かしつつ、鉄板に刻んだばかりの物語の下書きを見やる。
「最高に負の感情を煮詰めた塊だから、悪感情を与えるって目的には沿ってるんだけど…。これを他人に聞かせるのは、やっぱり無いなぁ。ガチで呪っちゃいそうだし。現実的な意味でも比喩的な意味でも。
──よし! 没、没! 捨てちゃえ捨てちゃえ~。」唐突思考変更…
文字がきっちり消える去るように、板を形態変化させて、ムニムニと粘土みたいに圧し潰す。これで、この世界から記録は抹消された。
テイラは、もう、一実ちゃんじゃないんだ。魂的な何かが同じでも、不必要な記憶を喚起することはない。
「やっぱり紙芝居にするには、アニメとかを参考にするかな。定番の鬱アニメ・バッドエンド作品と言えば…、
…ま○マギ、F○te/ZERO、エ○ァンゲリオン。…は、どれも長過ぎる…。
…『本○にあった怖い話』、『世○も奇妙な物語』はいくつか印象的なの覚えてるけど、原作者様とか脚本様の名前を知らんから、無断盗作になるし…。いや、今さらかぁ…?
ん~…、『リ○グ』とか『着○アリ』とかを基にホラー物でも作るかなぁ? いや、どっちも映像機器と携帯電話って文化の説明が面倒過ぎる…。
深く記憶してるのは『仄○い水の底から』…。うん。あれは最上級に怖かった…。でも、立派な母親だけど、悲し過ぎて救われ無さ過ぎなんだよなぁ…。作るのに心がガリガリ削れそう…。はあぁぁ…。」陰鬱どよどよ…
なんでわざわざ落ち込む話を考えねばならないのか…。
まあ、自業自得っちゃあ、自業自得なんだけども…。
「…やるだけやるかぁ…。なんとなるっしょ…。」ごろんと寝転がり…
そして、後に、有害植物から調味料を作り出したことで、周りから恐怖される主人公。
異世界の方がよほどホラーですね。
まあ、“命有っての、物種。”
第2の人生とは言え、生きてるからこそ、悲哀が生まれる余地が有ると言うもの。そんな何か。
次回は24日予定です。




