299話 抽出成功と生け贄
「ふぅーっ! はっはっはっはぁ! ついにっ! 完成したぁっ!!」
私の心の中に居る鳳○院凶真さんな思考が駄々漏れになっている。
熱いパトスが迸って仕方ない。
「我らが技術と叡知の結晶! 人類文化の到達点! もはや、私に敵は居なぁいっ!!」
いや、嘘だ。たくさん居る。
だがこの無敵感は堪らない。単なる徹夜明けテンションと同質だが。
こんなノリになっている原因はただ1つ。
リュカの実から、念願の調味料を作り出すことに成功したのだ。
漠然と思い浮かべていた「赤い粉末」などではなく、「真っ赤な液体」と言う形ではあるが。まあ、目的を達成できる能力が有れば、それで良い。
私は、赤熱魔鉄の炉の横に鎮座している水晶ビーカーを見つめ、高らかに叫ぶ。
いやぁ、苦労したなぁ。
実験の合間に、ゼギンさんにサムライ物語を聞かせたり、ダブリラさんの為に真冬にホラーを朗読する羽目になったり。
ダリアさんが自分の血から魔鉄を創ってくれとせがんできたり、ウルリと所属パーティーとのいざこざを仲裁したり、それを邪魔しようとしたダブリラさんを締めたり…。
まあ、色々と不必要なサブイベントが発生したが。
なんとかここまでたどり着いた。
これも、料理の助言をくれたミハさん・お手伝いさんのおかげだ。2人には「マイ・フェイバリット・ライトアーム」の称号を送りたい。
これで、シリュウさんに少しは報いれると言うものである。
「…はぁ…。『問題』を解消する手立てを考えないとなぁ。」唐突クールダウン…
完成はしたが、解決すべき問題点がいくつか存在する。
まず、1つは名前だ。
これを単に「リュカの実の抽出液」と呼ぶ訳にはいかない。
かなり複雑な過程を経て完成に至るこの液体を、そこらの一般人に粗雑な手段で真似されては危険だからだ。
「まあ、赤くて辛いし、名前は『ラー油もどき』でいいかぁ…。」
原材料さえ不明なら大丈夫だろう。異世界由来の名前なら、混同することも無いだろうし。凝った名前にしても面倒だし。
さて。次は。
2つ目の問題、「安全性」の確認だ。
「よし。『生け贄』の出番だな。」
──────────
固く閉じられた扉の隙間に、私の鉄の楔を練り練りとねじ込んで、と。
身体強化マックス! 振りかぶってぇ!
楔を目掛けて、鉄塊ハンマーシュートッ!!
──ドッガンッッ!!
「なっ!? な、な、な…!?」
粉砕された魔木製の扉の先には、驚愕の表情を浮かべる女が、壁際の寝台の上で身を守る様に座り込んでいた。
芥子色のボサボサ頭が不摂生を物語っていおり、服装もしわくちゃの寝間着姿だ。
まあ、興味無いが。
あ、鉄ハンマーの柄がひしゃげてちょっと曲がってる…。どれだけ土魔法のバリケードで扉を固めてたんだ、手間掛けさせやがって…。
「お仕事の時間ですよぉ? 引きこもり侍女様ぁ。」ハンマー引きずり悪党スマイル…
「!?!」最悪の予感!?
──────────
「てな訳で。
──食え。」
「…、何なんですの…! 本当に…!?」
着替えすらさせずに引きこもり女を連行してきたのは、司令所の一室。
ここには、完成したばかりのラー油もどきを入れた料理を用意している。
まあ、塩だけを添加した麦粥に真っ赤な油を掛けた簡素な物なのだが。
味の感想を聞きたいのではなく、魔法が使える人体への影響を見たいが故の処置だ。
「引きこもって世俗の変化を知らないバンザーネ様に、ご説明差し上げますと。」
「誰のせいで…!!」
「この度、ローリカーナ様が、処罰されることになりました。」
「!?」
私は、勇者撃退作戦について詳細を伝えることなく端的に事実だけを列挙していく。
「いやぁ、マヌとか言う名前の女騎士が、国外の不穏分子をこの町に連れてこようと暗躍しましてねぇ。それ自体は阻止したから良いんですが。
その発端が、ローリカーナ様が出した頭の足りない命令でしたので、責任をとることになったのですよ。」
「…、わ、私には、か、関係、有りませんわ…。」
ローリカーナに自身の裏の顔、主人を馬鹿にする側面を知られて以降、逃避し続けている馬鹿女が拒絶の言葉を紡いだ。
「いえいえ、関係大有りですよ。あなたは当時、ローリカーナ様に意見具申ができる唯一の部下だったのですから。責任は、取りましょうね?」ニッコリ!
「…っ!」
反論できない様子なので、ここで一気に畳み掛けるとしよう。
「なんと今回、その責任をこちらの料理を食べることだけで済ましてもらえるように、ベフタス様達に掛けあってそれが受理されました。
そんな訳で、この料理を口にしてください。」コトリ…
ラー油麦粥の入った木皿を、木のスプーンと共に侍女の目の前に置く。
「きょ、拒否します、わ。そんな得体の知れない物、いただきたくありません…。」
「ほお…、そんなことを──」
──それで良い。バンザーネ。
「! ロ、ローリカーナ様…!?」
私の後方、緑色の魔力光に包まれた子竜さんから、傲岸不遜の体現者みたいな女の声が響く。
最終的に命令してもらおうと、ローリカーナの側に分身カミュさんを待機させていたのだが、向こうから言いたいことが有るみたい。
──その赤い粥は、魔力を阻害する毒が入っている。バンザーネが口にする必要はない。
「あら、ローリカーナ様。それでは、あなたの罪が清算されませんが?」
──私が、食す。それで文句はあるまい?
「!?」驚愕!?
「はあ。こちらとしては、別にあなたでも構いませんが。魔法が使えなくなってもよろしいので?」
──ふん。私の回復力にかかれば問題無い。
「そのご自慢の回復魔法も阻害される可能性が有りますけども?」
──だと、しても。
──バンザーネは、私の優秀な「供」だ。その能力を失わせる訳にはいかん。
「ローリ、カーナ、様…。」驚きの感動…
──キサマの魔法が無くば、誰が私の「魔導兵装」を拵えるのだ? キサマの身体は、キサマだけのものでは無いと知れ。
「…!!」
どうやらローリカーナは、自身に反抗心を抱いていた部下を許すつもりらしい。
お涙頂戴の臭い三文芝居だことで。
「──!! か、辛い!? なんですのこれはっ!」
馬鹿侍女が、突然、赤粥を掻き込む様に食べはじめた。
今までの会話は何だったの…?
──バンザーネ!? 何をしている!?
「う~っ!! うるさいですのよ!」
──!?
「…キャー…。」
ローリカーナから戸惑いの声が漏れた。カミュさんも鳴いている。
侍女からの突然の暴言に、驚いた雰囲気だ。
「貴女様のお身体に『もしも』が有れば、私の出世に響きますの!
軽々しくっ! 毒を口になさろうなどと発言しないでくださいませ!!」ばっく!ばっく!
怒った風を装い悪態をつきながら、自らの口にラー油粥を勢いよく運ぶバンザーネ。
どうやら色々吹っ切って、ローリカーナを守る決意をしたらしい。
面倒くせぇから、最初からそうしてろっての。
「余計なことをごちゃごちゃ言ってないで、とっとと食べてくださいます?
食べ終わったら、味の感想と、魔法の発動。いつも通りに魔法が使えるか、違和感は有るか、詳細に報告してもらいます。」
「~~っ! なんで! あなたのっ、指図を受けないといけませんの!?」辛さで喘ぎながら反抗…
「あなたが役立たずの無能だからでは?」
「ムキ~~~っ!!!」
あら、お猿さんの真似がお上手ですねぇ。顔が真っ赤。
「無能じゃないとおっしゃるなら、ちゃんと罪滅ぼしの仕事はこなしてくださいねぇ?」
「~~~っ!」怒るに怒れない…!!
「あ。その料理、あと数回、明日か明後日まで食べ続けてもらいますから。そのつもりで、よろしくお願いしますね? 有能侍女様?」ニッコリ!
「いっ、いつかっ! その顔を凹ましてやりますわ…!!」
はいはい。そうできると良いですね~。(てきとー)
次回は18日予定です。
ついに、300話到達ですねぇ。
記念に、過去回投稿と洒落込もうかなぁ?




