298話 雰囲気を変えるには話題転換が一番
本日も、のんびり展開です。
「真にっ! 申し訳っ、ありません!」
「キャーイ…。」
「…。」
ナーヤ様が土下座で平謝りをしている。
床が魔獣鉄とは言え、土足で歩く所であることに変わりはなく。誠意の見せ方がえげつなかった。
傍らの小竜カミュさんも、落ち着かなさそうに項垂れている。
「別に、あんたが謝ることじゃない。」
「いえ! マヌはこの地の騎士! 短い間ではあれ、共に働いた仲間でした!
そして、此度の事態は、間接的ながら、ローリカーナ様が出した指示によって招かれたことは明白です! 如何様な罰も受け入れる所存でございます…!」
「…。」はぁ…
シリュウさんは溜め息を1つ吐いた。鉄のゆったりチェアに頭を沈めたまま、角兜の位置を確かめる様に体を揺する。
かなり面倒臭そうな雰囲気だ。元々お疲れムードなところに今回の訪問で、より心労が積み重なっている模様。
あんまり良い流れじゃないな。
ややあってから、シリュウさんはおざなりな感じに口を開く。
「なら、『貸し』にしておく。そして、今すぐに立て。」
「し、しかし、それでは──」
「次。謝ったら。そのチビ竜を潰す。」
「キャ!?」
「…、か、かしこまりました…。寛大な御心に感謝を──」
「馬鹿丁寧な態度も止めろ。」
「」ビタッ!
立ちあがったナーヤ様が、冷や汗を垂らしながら硬直した。打つ手が無い様だ。
う~ん、機嫌が悪そうなシリュウさんに有効な方法は何だろうなぁ。
とりあえず、話題を変える為に参戦するとしよう。
「シリュウさん。任務、お疲れ様です。
ちょっとアイデアを──シリュウさんの意見が欲しい事案が有るんですけど。一応、料理関係なんですが、今、良いですか?」
「…。ああ。良いぞ。何が聞きたいんだ…?」
良かった。気を逸らせることに成功したっぽい。
仕事中のナーヤ様には悪いが、このまま私用を済ませよう。
「今、『リュカの実』から、調味料を作れないかと実験中なんですよ。でも、上手くいかなくて。
何か助言が有ると、助かるんですが。」
「…、(何を仰ってるんですか、テイラ殿??)」無言白目…
「キャー?」首傾げ…?
「…。トチ狂ったのか…??」混乱の表情…
「…シリュウさんにだけは、言われたくないですけど?」半目でにらむ…
今、私達が居るのは旧スライム牧場の跡地。
作戦から帰還したシリュウさんが、ここを一時的に拠点としたのだ。
勇者撃退そのものは成功したのだが少々やり過ぎたらしく、その残党共が逆襲に来る可能性を考慮して、この場所に鉄ハウスを設置したそうだ。
ここは今現在、辺りに人が居らず、かつ町に異変が有ったら駆けつけられる距離なので様子見には打ってつけ。
まあ、何とか言う名前の女騎士が他国の勢力を手引きしていたそうで、その間者女は拘束したものの、マボアの町の情報が流出していて色々と判断が難しいみたい。
ウカイさんが秘密裏にその女を司令所に運んでくれているそうで、引き渡しは済んでいた。
ナーヤ様がここに来た理由は、直接の謝罪とお詫びの品たる大量の食べ物とお酒を運び込むことだったりする。私はシリュウさんが一応心配で、無理を言って(何故か快諾されたけど)同行させてもらった形だ。
「こっちは心配しなくて良い。だから、そっちも大人してろ…?」
「ええ。だから大人しく、屋敷に籠って新作料理に挑戦してるんですが?」
「…。リュカの実に、落ちついている要素が、皆無だろうが…。」呆れの表情…
うーむ、シリュウさんが思いのほか乗り気でない様子。
シリュウさん自身が辛味を欲していた訳だし、リュカの味の中に辛味が存在するのも知っているはずなのだが。
「暇潰しに食べてたシリュウさんに言われるのは、心外ですねぇ。」
「俺の耐性は並じゃねぇ。だが、テイラは違うだろう…。」
非難と言うよりは、気遣いの滲む声色でシリュウさんが私を見る。
私の方がちょっとピリピリしてただけかな。そんなストレス溜め込んで無茶やってるつもりは、毛頭無いんだけど。
「心配してくれてるなら、有り難いですけど、大丈夫ですよ? なんとか影響を抑えて味見をする方法は確立しましたから。」
「…。サラッととんでもないこと言ってんな…。」
「いやぁ、色んな物を手配してくれる顧問さん達には感謝ですよ。国内の物流システム、万歳!」
「…。」何言ってんだこいつ顔…
「キャー。」真似っこでばんざーい…
「…、(リュカの間引きと、町中への実の持ち込み報告は聞いてましたが…。実情が想像の遥か上を行きますね…。)」無言の透明笑顔…
2人の視線から心の壁を感じる。
まあ、何と思われようとも突き進むのみだが。
“やらない善より、やる偽善。”ってね。
「それで、シリュウさんの持ってる油──ミーシェル? でしたっけ? 魔法植物の油との反応が見たいので、少量でもいただけると嬉しいです。」
「…。まあ、許可する。」
「ありがとうございます! 丁寧に使わせてもらいますね!」
「しかし、少量じゃ実験にならんだろ。」
「いやぁ、貴重な物らしいですし、良い結果が出るとも限りませんし?」
「それでも小樽一杯くらいは持っていけ。」
「気持ちは嬉しいですけど、そんな量は持てませんよ。」
こちらに魔法袋は無いし、シリュウさんの魔力が染み渡った物品を他人が収納できるとも思えないし。
「あの。もし良ければ、馬車にお積みしますよ…? もちろん、細心の注意を払って慎重に運ぶことを約束いたします。」
「本当ですか。」
「ええもちろんです。」
帰りは積み荷が無い分、積載量には余裕が有るとのことで、ついでに小麦粉や灰、岩塩、水晶塊、予備の魔獣鉄なんかを荷台に運び入れた。魔鉄は私のリュックに持てるだけ詰めて、っと。
いやぁ、護衛代わり兼付き人として魔法サムライが居てくれて助かったよ。御者の人と共にパワフルな働き手になってくれた。
シリュウさんが「なんで、この『双剣使い』が一緒に居る…??」と首を傾げていたので、ざらっと私の近況も報告した。
まあ、解説しても首を傾げたままだったけど。
私にも分からないんですよね…。なんか懐いた、としか…。
「…。まあ、良い。
俺はしばらく町には戻らず牧場跡地に居る。何か用が有れば連絡してくれ。」
「分かりました! 暇潰しの道具もまた追加しますし、調味料なり料理なりが完成したら持ってきますね!」
「…。ほどほどに、頼むな…。」
「ええ! 全力で、頑張ります!」
「…。(不安だ…。)」
次回は12日予定です。




