296話 二刀使いと風の補助魔法
──ザアアアァァァ!
ゼギンさんが右手で握る直剣を中心に、緑色の魔力が渦を巻く。
回転が相当に速いにも関わらず、周りに居る私達の所にはそよ風ほども流れて来ない。
まるで、極小の竜巻を手中に収めた様な光景だ。
──コオオォォォ!
左手に握られた少し小さい直剣には、赤い魔力が纏わりつく。
炎が燃える様に色は揺らめくのだが、その輪郭が一切ブレずに固定されている。
最初から、幅広の赤い剣であったと主張しているかの様だ。
やがて呼吸を整えたらしく、二刀流の剣士は閉じていた目を開く。
その背中に魔法の風が噴出し、踏み込みと相まって一気に急加速。
──ファンッ!!
──フュンッ!!
澄んだ音と共に、金属の堅さを備える竹が2本、パックリ斬られ、地面に落ちる。
「──と、まあ。この通りでござる。」
「お見事です…!」パチパチ拍手!
ここは、金竹の林の外縁部。
リュカの採取の後、私の舌の回復を待ってもらう間に、ゼギンさん達に「金竹斬り」を披露してもらっていた。
繁殖抑制と素材回収の為に許可されている伐採ではあるが、硬くしなやかな金竹を切断するには相当な力が必要で、誰にでもできることではない。
ちなみに、同行している紅蕾さん的には我が子を傷つける行為になったりしないのかと不安が過ったが、「髪や爪をお手入れするのと一緒ですよぉ~…? 大丈夫ですぅ~…。」と肯定の意を得て行っている。
「振り抜く速度を風で押し上げて切る…。火炎を圧縮して高熱で焼き切る…。うーん、理想的…!」
魔法剣で侍を表現するとは、どんな風になるのかいまいち想像できなかったけど、なかなかどうして格好いい。
非魔種目線だが、相当な魔力制御なのではないだろうか。
しかも、両手それぞれで別属性の魔力を同時操作とは。
驚嘆すべき技である。流石は上級の戦闘職。
「トリュンの補助魔法が有ったればこそにござる。」
「至近距離じゃあ、ほぼ無意味だろ。」
ゼギンさんのパーティーメンバーであるトリュンさんは、他者に身体強化の魔法を掛けられる。
人間相手だけではなく、相棒の小鳥魔物のリーンさんを強化することもできるらしい。
自身とは魔力の質・流れが異なる他者に、動きを補助する身体強化魔法とは…。
相当に繊細な技量だろう。「2人合わせて力も2倍!」と言っても、二人三脚や二人羽織りの状態で戦うことが、どれだけ困難かは想像に難くない。
私も親友からの補助を受けて動くのに、かなり苦労──
「それで、テイラ殿。お加減の方は如何かな…?」そわそわ…
「…んー…、そうですね。とりあえずやってみましょうか。」
「お願いするでござる!」
「ゼギンさんの劣化版しかなならないと思うんですがねぇ…?」まあ、やりますが…
悶絶する強烈な不快感は薄まったものの、味覚がまだおかしいままだが、まあなんとかなるだろう。
別のお休みにまたご足労願うのも問題だし、報酬の「侍披露」と洒落こもう。
──────────
〔──世界 を 巡る 強き 風 よ。〕
髪留めから、緑色の魔力粒子を伴った激烈な風が噴出する。
歌う様に続きを詠唱しながら、精神を集中させつつ、鉄の大太刀を体の前で構えた。
そして、魔法詠唱には全く必要の無い結びの言葉を叫ぶ。
「──卍・○っ!!」
大太刀を形態変化させて圧縮。黒い日本刀へと進化させる。
今回は屋外なので思いっきりやろうと、服の上に鉄を出して極薄く纏っていく。動きを阻害しない様に軽装の黒い鎧みたいな感じだ。デザインは「完○術の死神衣装」チックにしてある。
黒刀、黒鎧、そして、黒い鉄仮面を装着したところでアクション開始。
私の動きに合わせて、全身が力強い風に押し出される。
──ザンッッッ!!
親友の風魔法で超加速した体は、一瞬の内に目標の金竹を一刀両断にし、その向こうへと着地。
ドスンッ!!
切断された竹が倒れるのを確認しながら、装備を収納、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
ふぅ~…。上手くできたっぽい…。
刀が弾かれるかもと思っていたが、何とか切断はできたな。
まあ、普通にバリバリに歯こぼれしてたし、強化した状態ですら、手がちょっと痺れてるけど…。
さてはて、ゼギンさんの反応はどうだろな、と──?
「──。」はらはら…
はい!? 泣いてる!?
振り返えると、ゼギンさんが目を開いたまま、さめざめと涙を流してらっしゃった。
「大丈夫ですか!? 目に破片でも入っちゃいました!??」
「──。」うぐぅ…!
慌てて駆け寄るが、変なうめき声が漏れただけで反応がない。
これは重症!?
「いやぁ。ゼギン、感動してるだけだから。放っておいていい、ですよ。」
「か、感動…?」
「俺から見ても凄かったです。ビビりました。」
「そ、それはどうも…?」
「サムライの似姿とか以上に、魔法技量が純粋に凄まじかったです。」
「チ…。」
「相棒もそう思うか。」
「チチッ。」肯定の鳴き声…
「…、ええ~…、ほんとぉ~…、目が覚める様な一撃でしたぁ~…!」眠たげぽやぽや声色…
「…、ん、ほんと…。(前と姿がなんか変わってたけど…。威力ももっと高くなってるし…。)」内心恐ろしげ…
皆がベタ褒めしてくる。いや、ウルリは1度見てるだろうに…。
「いやぁ、俺も結構やれてると思ってたけどよ。上には上が居るもんだな…。」
「テイラだから、ね…。」
「い、いやぁ、私の場合、ズルしてると言うか…。親友の力を借りてようやく動ける半人前と言うか…。
そんな大層なものでは──」
「」ガバッ!
泣いていたゼギンさんが突然、地面に突っ伏した。
いわゆる土下座ポーズだ。
下、地面ですけど!?
「何やって──」
「弟子に、してくだされっっ……!!」
「「「はいぃぃぃ!?」」」
「某をっ! テイラ殿の弟子にしてくだせれぇっ!」
「おい! 確かにすげえ魔法だったけどよ!? 体術はお前の方が上だったろうが!?」
「そうですよ! 私なんかよりもずっと──!?」
「関係ござらん! 感服いたした! 弟子にしてくだせれぇ! してくだせれぇ!!」
地面に伏せたまま、上目遣いで強烈な熱意を向けてくる…!? どう言う状況!?
「馬鹿やってんじゃねぇ!」止まらねぇー!?
「止めてくださいぃ!?」どうすりゃいいのー!?
「…、テイラって、ほんと、『嵐』だなぁ…。 (やることが全部大騒ぎ…。)」
「ほんとねぇ~…。雨瑠璃のお株が取られちゃったわねぇ~…?」
「へ…?」わたし…??
「町に来たばかりの時ぃ~、『闇夜の嵐』って名前で──」
「やああぁぁ!? その名前は忘れてってばぁ!?」フシャー!?!?
「あらあらぁ~…♪」うふふスマイル…
その後、上級冒険者を土下座させた謎の女剣士が現れたと、噂になったとかならなかったとか。
次回は30日予定です。




