295話 リュカの実の採取と味見
今、目の前に有るのは、鋭角な棘がいくつか突き出ている真っ赤な果実。
サイズは握り拳よりも大きいだろう。フォルムそのものはとても「ナマコ」っぽい。
実にファンタジックな見た目だ。「剣と魔法の世界」に登場する不思議植物感が有る。
「本当に、リュカ、採集するの…?」
「うん。一番可能性を感じるからね。」
「…、かのうせい…??」
ウルリが、呆れ果てたって表情で私を見てくる。
まあ、無理もないのかもしれない。
この植物は、毒を持つ訳ではないが「危険」とされている。
なんでも、周囲の魔力を乱す効果が有るんだとか。
魔法使いにとっては割りと致命的な能力だし一般人にも影響が出るらしく、取り扱いが色々と厳しいそう。
そんな植物が何故この場所に植わっているのかと言うと、「金竹」の繁殖を抑制する為だ。
魔猪達ですら突破できない硬さの魔法植物が無秩序に増えまくったら、人間側の活動すらも阻害してしまう。そうならない様に、金竹の領域をコントロールする形でリュカの茂みが配置されているらしい。
「テイラさぁ~ん? 私も、少し心配だわぁ。
採集するのはともかくぅ~…、これを『料理』に使うだなんて~…。」
「なんと!?」驚嘆!?
「料理!?」ふざけてんの!?
「…、チ…??」疑問の鳴き声…
「え、皆さん揃って全否定するほどですか…?」
「するに決まってるじゃん…。」
私の想定だと、ギリギリ「香辛料」の代わりになると踏んでるんだけどなぁ…?
シリュウさんが食べたいと言っていた、香辛料たっぷりの料理。
それを実現する為の方法はいくつか考えたのだが、どれも満足のいく結果には繋がらないと判断した。
具体的には。
1、今有るコショウを大量投入。
シリュウさんが持つコショウをひたすらに料理にぶち込む作戦。
しかし、これは普段からできることだし、コショウオンリーでは単なるトッピングであり料理とは呼べない。
2、香辛料を買う。
これが現実的かつ真っ当な方法なのだが。
単純に高い&流通量が少ないので、断念せざるを得なかった。
主だった生産地は大山脈向こうのイラド地方。船での輸送が主流だから、大きな港が有る海洋国家に近くないとちょっと実現しそうにない。
顧問さんにかなり無理を言えばどうにかなるんだが、それならお酒とかを買い込む方がシリュウさんも喜ぶはずだし。
3、他の辛い物で代用する。
ショウガ・ダイコン・タマネギもどき達の様なピリッとした辛味を持つ食材を使い、新作することも考えたのだが。
香辛料の利いた料理とは別物になるだけなので諦めた。似た様なものはもう既に有る訳だし。
そんな行き詰まった思考の沼の中で、ふと思い出したのだ。
シリュウさんが、暇潰しの刺激代わりに噛ったことが有ると言っていた木の実のことを。
それが、「リュカの実」。
竜でさえ火を噴く不味さの実、と言う話から「竜火」と名付けられたとの伝承が有る植物。
こいつなら、新作料理を切り開けるのではないだろうか。
「気は確かでござるか…?」本気の心配…
「食う食わないの話じゃないぜ…?」疑いの眼差し…
「ほんと。正気じゃないよ…。」困り顔…
うーん、言われ放題だなぁ。
「いやぁ、皆さんは魔法が使える人種だから、この植物は危険で悪なんでしょうけど。非魔種には問題ないし…。」
「や。違う。魔力とか別の話で、危ないんだって…。」
「そうねぇ~…。とても食べられる物ではないと思いますよぉ~…?」
確かに、辛さとか苦さとかがぐちゃぐちゃに混ざった酷い味らしい、とは聞いた。
しかし、この場合、成分が混ざっているから不味いんだと考えている。
ファミレスとかのドリンクバーで美味しいソフトドリンクをいくつも混ぜたら激不味汁が完成するのと、理屈は同じなのではないか。
つまり、辛味成分だけを分離できれば、新たな食材として活用できるはず。
何より誰も使わない、只で手に入る素材とか、研究しがいが有ると言うもの。
「ま、何はともあれ採集しますね。」鉄形成…
──────────
高枝切りバサミの要領で、少し離れた位置から実を切り取る。先端に鉄箱がぶら下がっている為、その中にスポッと収納。これで、がっちり採取完了だ。
実だけでなく、葉や根からも魔力の動きを阻害する成分が出ているらしく、直接触れてはいけないと言うことで、こんな形式にしてみた。
するすると柄を引き戻し、手元に引き寄せる。
ウルリが、後退る様に私から数歩離れた。そんなに匂いがキツいのだろうか? 開口部に手を翳してうちわで扇ぐ様に手前に風を送ってみるが、特に何も感じない。
中をそっと覗いてみるが、派手めのプラスチックのおもちゃみたいな赤い塊が鎮座しているだけである。
一応、大丈夫だと思うのだが。
鉄アームを肩から形成して実を掴み、棘の先端を薄くスライスして切り離す。
ふーむ…、赤いピーマンの切れ端っぽいなぁ。
「!? まさか、食べるの…!?」
「うん。まずはどれだけ酷い味なのか確認しないとね。」
「止めといたら!?」
他の皆さんも口々に「危険なのでは?」とやんわり諭してくる。
しかし、味を確認しないことには利用も何も無い。
「いざ、実食──」あ~ん…
キン… キン…
「──マジか…。」口閉じ…
「どした…?」
「髪留めが反応した…。
軽く危険みたい…。」
「ん…。当たり前…。」
「でしょうねぇ~。」
「うむ。」
「当然だな。」
「…、」無言で周囲を観察中…
ええい! 「それでも行くさ!!」の精神!!
「いただきます!」ぱくっ!
「!?」なんでいった!?
「あらぁ~…。」
「…、」大丈夫か…?
「…、」天晴れ、でござるか…?
「…。」もぐ… もぐ…
「ちょ…? 平気…?」
あ、なんか、ちょっと辛いかも…。
中辛くらいは普通に超え──
「──ッッ!!?」
不味ッッッ!?
何これ急にまっずい!?
辛いとか痛いとかじゃなく! 不味過ぎる!?!? 想定以上!?
これは無理! 水っ!!
「!!」水筒即座の一気飲み!
「あ!? ダメ!?」
ウルリが何か言ってる。
辛味の後から湧き上がってきた謎の苦味(?)は、流石に素で耐えら──
「~~~~ッッ!?!?!?」ビクビクビク!?
酸ッッっぱ!?!? 渋っッッ!?
意味不明に、舌の上に激烈な酸味と渋味が踊り狂ってきた。
いや、どちらに居らっしゃいましたぁ!?!?
何これぇ!? 何コレェ!?!?
「うわ…。ヤバそう…。」ただ引き…
「水を飲むと悪化するって噂は、本当なんだな…。」初めて目撃…
「テイラさぁん~…、それはもうどうにもならないはずなのでぇ、薄まるまで耐えてくださぁい~。」応援の声かけ…
「傾いておられるなぁ…。某にも真似できぬ胆力でござる…。」謎の感心…
ぐわぁぁぁああ!? 口の拷問だあ!?!?
シリュウさんの味覚は信用ならないい~~っ!!
その後、丸1日近く味覚がバグったままの私だった…。
森の手前で上級冒険者達に見守られながら、悶絶立ちする主人公。これが彼女の戦う姿です(適当)
未知の物を食べる時は、事前にしっかりと調べてから挑みましょう。
次回は24日予定です。




