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290話 パーフェクトコミュニケーションとやってみたいこと

 ニマア~と、この上無く楽しそうな笑顔で迫るダブリラさん。最高のご馳走を見つけたって顔に書いてある。

 何やら私で遊ぶ気らしい。


 しかし、「シリュウさんが【勇者】と敵対してる理由を知ってるか?」って言われてもな。もう知ってるんだが。



「一応、聞きましたけど。」

「ほうほう。なんて言われたの?」

「『夢魔の女王』と引き分けたから、とか。精霊クラスの力を持ってるから、とか。」

「うんうん、そうだねぇ。なら、その『精霊(・・)』の話、説明してくれた?♪」

「ええ、まあ──」


 前に、シリュウさんが言ってた「溶岩」の──



 ──待て。


 これって、逆に私からシリュウさんの情報を探ろうとしてる?


 念のために、鉄の塊を取り出し形態変化。鉄ヘルメットを作って頭に被る。多分これで思考読む能力をシャットアウトできるはず。



「以前、個人的に説明を受けましたよ。」ガポッ…


「…、なんで(かぶと)なんか急に着けたの…??」

「お気になさらず。」

「気にするって…。」


 良し。なんか勢いが弱まった。結果オーライ。



「まあ、いいや。どのみちその反応だと、詳しくは教えてもらってないんでしょう~? 知りたいよね~?♪ めっちゃ気になるよね~?♪ 教えてあげよっか~♪♪」

「待ちな。他人(ひと)様の事情をぺらぺら喋るんじゃないよ。」

「そんなこと言って~♪ 砂塵ちゃんも気になるでしょう~?♪ シリュウくんの、ひ・み・つ♪」


「そん──なことねぇよ。」言葉に詰まりかける…

「またまたぁ~♪」獲物が釣れたぁ~♪


 いかん、割り込んできたダリアさんがむしろペースに乗せられている。



「いえ。興味ないんで。大丈夫です。

 お疲れ様でした。」立って片付けて退出…


「「え。」」




 ──────────




「おい、本当に良いのかよ…。」

「? 何がですか?」

「シリュウの奴の、秘密とやらを聞かなくて。」

「別に大丈夫ですよ。」


 店を出てからしばらくして追いついてきたダリアさんは、ずっと不満そうと言うか渋い顔をしていた。

 どうやら私が居なくなったことでダブリラさんは話す気力を無くしたらしく、聞けずじまいだったそう。


 ダリアさんとかウルリ達にそのまま話すかも、と思ったが。標的は私だけだったんだろうか。



「ダリアさんは聞きたかったんです?」

「…、アタシは別に…。

 あの夢魔女が何を話すのか把握しておこうと思っただけさ…。」目逸(めそ)らし…


 興味津々なの、隠せてませんよ。



「まあ、シリュウさんもそれなりには教えてくれてますし。

 本人が大変な任務で居ない間に他人が秘密を暴露するのも、不義理って言うか、良くないな、って思うんで。」


 あの灰色夢魔さんのことだから、私の知らない情報を持っている可能性は有ったけど、それは人間関係に亀裂を入れるかもしれない不都合なものだろうからなぁ~…。


 私の反応で自分が楽しむだけの為に、今頑張ってるシリュウさんを出汁(ダシ)にするのは間違っていると思う。



「ケッ…。お利口(りこう)な奴だね…。」

「お褒めに(あず)り、恐悦至極(きょうえつしごく)~。」てきとー…


 別に利口でもないんだよなぁ…。


 勢いで出て来ちゃったから、異世界モンブラン(美人強壮)にありつけなかったし…。


 灰色夢魔め…。この(うら)み、()らさでおくべきか…。



 沸々(ふつふつ)と煮えたぎる怒りを、溜め息を吐くことで抑えながら、ゆるゆると帰路につくのだった。




 ──────────




「ウルリー! 最高ー!! 愛してるー!! いただきまーすっ!!」

「あ。うん…。」


 お店から戻って昼食を済ませた後、屋敷に極美味甘味(ごくうまかんみ)「美人強壮」が届けられた。

 機能回復(リハビリ)の為に歩く必要が有ったからとか言っているが、足の怪我を押してウルリがわざわざ運んでくれたことには感謝しかない。



「私を無視するとは良い度胸ね?」

「いやぁ、ミールさんにも感謝はしてますよ?」


 ウルリや作ってくれたサシュさんには遠く及ばないけどね。

 この人の場合どうせ、お気に入りの子(トニアルさん)に会えるかもって付いてきただけだろうし。



「ねぇ。本当に竜喰いさん、居ないの?」

「ん? うん。居ないよ。勇者撃退──じゃなかった。『勇者様、お帰りください』作戦に従事中だよ。」


「…、(絶対なんかヤバいやつだ…。)」顔が引きつる…

「大丈夫なのそれ?」

撃退(げきた)──何処かに移動してもらうこと、自体はまあ何とか。

 ただ、シリュウさんが、この町にいつ帰ってこれるか不明なんですよね~…。」


「え。テイラ、置いてけぼり…?」

「難しい作戦だから、戦略的待機、だよ。

 シリュウさんの足を引っ張るよりは、この町に留まって代わりに色々やっておく方が好都合だし。」


「…、(そうでしょうね。)」無言の納得…

「や。でも、それってなんか…。」少し暗い顔…


 ウルリが何やら私のことを心配してくれている様子。

 とは言え、それは杞憂(きゆう)だ。


 自分の無力感(役立たず感)は今さらだし、それでもやるべきことが多くてそれなりに充実してるし。

 ダブリラさんの接待の為に物語を創作したり、新作料理のアイデアをまとめたり。



「あ、そうだ。話は変わるんだけど。

 私、『魔猪の森』に入りたいと思ってて。どう思う?」


「…、どした急に?」

「勝手に行けば良いじゃない。入るだけならあなたなら許可出るでしょ。」

「いやぁ、それがそうもいかないみたいで。

 私、正式な冒険者じゃないから色々制限が厳しくて。」


 経験豊富な冒険者とかに付き添ってもらう必要が有るとか、色々と対策を講じないといけないみたいなんだよね。シリュウさんとセットなら色々無理を押し通せたんだが。


 ダリアさんはああ見えて冒険者稼業的には忙しい人だし、この町に来て日は浅い方だし。

 やろうと思っていることを考えると、戦闘力よりは知識とかがしっかり有る人だと助かるはずだ。



「森に詳しくて頼りになる同行者を探そうかな、って思ってまして。」

「ん…、誰かしらは紹介できるかもだけど。」

「今さら何をする気な訳…?」


「ちょっと採集してみたい物が有って。」


 まあ、結果に繋がるか分からんお試し実験だけど。

 やれることをやってみよう。


次回は24日予定です。

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