29話 焼き肉
「障気」と言う単語が本文中に存在しています。
元々は「瘴気」、病をもたらす空気、って単語の誤字でした。
まあ、障りの有る空気、って意味合いは通じるので、この世界での固有名詞として定着させてます。
現代日本的には「雑菌」とか「腐敗臭」とかって言葉に置き換えられる何かです。
自棄水を飲みまくったシリュウさんは、このままここで食事にすると言い出した。
「まだお昼前ですけど、良いんですか? お昼食べたらその分移動できなくなりますけど。」
「…。散々話を伸ばした奴が何言ってんだか…。話も何もまとまってないし、急いでどこかに行く必要も無いだろ?」
「いや、呪いのことをギルドに伝えに行くんじゃ?」
「討伐は済んだ。報告も届いてるはずだ。後は俺の裁量でどうとでもなる。」
んー、特級冒険者は強気ですね~。
私もついでにギルドマスターに突き出されるのかなぁ…。
「何か食べれないものあるか? ある程度は合わせても良い。」
「苦過ぎる草とか、炭になった焦げ肉とかは、できることなら遠慮したいですかね~…。」
「んなもん、食い物とは呼ばん。真面目に答えろ。」
「いや、最近は昼ご飯食べる習慣なかったから、別に無くても…。」
「その腕を早く治す為にも、しっかり食えよ…。」
あ~…。確かにそうかも。
「でも、特級ポーションの費用も払ってないのに、これ以上お世話になるのは、居たたまれないと言うか…。」
「そう思うなら、元気になってから働いて返せ。」
「え゛? それって旅の間の夜の相手を──」
ゴン!!!
無言の手刀がおでこに突き刺さる! 今回はかなり痛い!
「~~ったぁ…! 何するんですかぁ…!」
今、急には反応できないのに…。
「馬鹿なこと言ったからだろ…。」
「ほとんど無一文で旅してる女に、何をどう払えって言うんですかぁ…。どんだけ嫌でもできることなんてそれくらいしか…。」
「嫌なら尚更するなよ…。」
動かない腕を動かそうとじたばた悶えてる私を放置して、シリュウさんはごそごそと動き出した。
上着の内側に手を入れる。夏も近いのにその上着は暑くないのかな?
ようやくアームを動かすことを思い出して、アームの先でおでこを擦りながら観察する。
そのまま大きな黒い革袋を出してきた。随分と年季が入った感じである。そして革袋の中に手を入れて何かを探し始めた。大きいとは言えその袋、中身入ってなさそうなんだけど、何してんだろ…。
そのまま手を引き抜くと──、一抱えはある、骨付き肉が出てきた。
デカッ!?
「体積を完全にゼロに…。亜空間に繋がるマジックバッグ…? その大きさを、とか凄まじい効力ですね…。」
「まあな。とりあえずこれを食うぞ。」
そう言うとそのまま肉にかぶり付く。
って、ちょっと!?
「そのままですか!?」
「…。」もぐもぐ…
え~…。私をスルーして無言で咀嚼してる…。自分の顔よりも遥かに大きな肉の塊を片手で持ったまま…。美味しそうに…。
これ、実はハムなのかなぁ…。ワンチャン、ハムの可能性あるかなぁ…?
割りとてらてらと肉汁が溢れてるように見えるのは気のせいかなぁ…?
生のマンガ肉を噛りつくとか、野生味を通り越して非現実的過ぎません?
菌とか寄生虫とか恐過ぎるんですけど…。
私が唖然としている間にも、半生マンガ肉はみるみる減っていった。
なかなか美味しそうな顔のまま…、じっくり噛んで味わっているみたい。
「悪くない。…待たせたな。テイラも食べろ。」
「えー…。」
「今さら遠慮するなって言っただろ。」
「いや、カルチャーショックと言うか、生肉なんか非魔種が食べたら病気で死んじゃうから、食べれないと言うか…。」
「…。ああ、そう言うことか。俺のマジックバッグは病気とか障気とか分解するんだ。毒が無いから腹が弱くても死なん。」
「ええぇ…。」
おい、剣と魔法のファンタジー世界、まだ私をおちょくる気か?
いやいや何言ってんだ、落ち着け私。
自分で捨てたとは言え私も現代日本人。
ファンタジーなんざ知るか。こちとらサイエンスだ。
「すみません。せめて調理させてください!」
「…まあ、好きにしろ。でも、道具も何も持ってないぞ。」
「いえそこは自分でなんとかできます!」
唸れ! 私の鉄!
腕輪の中から適当な鉄塊を取り出して、足付きの大きな横長鉄板と大きな曲面鏡を作る。
と、その前にこのマンガ肉をぶら下げる台も作るか。
シリュウさんに肉を持ってもらったままじゃ悪いからね。
私だと持ち上げれないので、台に吊るして貰う。
では、調理開始!
日差し確認! 日光十分!
パラボラアンテナみたいな形の鏡で日光を反射収束させて、鉄板を熱する。火の魔法もライターみたいな魔導具も使えない私が普段火を付ける方法がこれだ。まあ、草原の真ん中じゃ、薪も確保できないからね。直接熱するしかない。
鉄板の一端側に熱を集中させれば、左右の温度差で火力調整になる。
あ、腕動かせないから温度の目安が分からないな…。
肉汁垂らして熱の具合は見れるか。…ちょっと日光強すぎ? 曲面を操作…、少し拡散気味に…。まあこれでやってみよう。
ぶら下がった肉から包丁で肉を薄く切り出して皿に受け止める。
「」じーーっ!
…シリュウさんが肉の横ですっごい見てくる…。
失敗したら爆散されるやつかな、これ。
とりあえず、まずは強火ゾーンで肉の表面を焼こう。
ジュウウ!
おっと!まだ火力強いか。もうひっくり返そう!
アームの先にフライ返しを付けて、肉の両面を焼いていく。
うわぁ…この肉の匂い、すっごい美味しそう…。
肉の値段もヤバいか? もしかして。
肉を中火ゾーン的な場所に移動させて、中に火が通るようにする。薄く切り出したからそんなに時間かけなくて良いか…。
何枚かにカットしつつ、火の通りを確認…。いけるかな。
食べる用の皿に乗せて、程よく冷めるの待ちつつ…。
流石にこれは、秘蔵の塩を使う場面だな。
ポーチの中から缶を取り出…せない。アームの先じゃ滑る…。
あ、そうか鉄同士融合させて直接操作すれば蓋も開くな。
お皿の上に、パラパラと…。
「それは?」
シリュウさんが声をかけてきた。
「え? 塩ですけど。」
「変わった色だな?」
「ええ。昔自分達で作ったもので。」
「塩を、作った…?」
「まあ、海岸で晴れた日にこっそり、と…。ま、まあ、家庭で楽しむ量なので、問題無いやつですよ!」
塩は勝手に作るの禁じてる国もあるからね。
まあ気にしない気にしない!
「さ! 出来た出来た! いただきます!!」
アームに鉄のお箸をセット! は無理そうなので! 先っぽをお箸みたく細くする! 表面を加工して滑りにくくもした!
いざ、実食!
もぐ、もぐ…。
──うまぁ…。何これ、うまぁ…。
ヤバい。こっちの故郷の魚料理がこの人生でトップの美味しさだったけど、これ、軽く超えてきた。
ちょっと筋が強くてしっかり噛まないとだけど、肉の脂がうまぁ…。これは幸せになれるやつ。
シリュウさんも生で噛る訳だ。いや、生は無いが。
「美味しいぃ…。」
ちなみに作者は料理をしない人間なので、調理描写は架空のものであり、矛盾が多々あるかと思います。
真似しないでください。
29話で肉ですよ!(偶然)




