289話 やさぐれの愚痴と人魚姫
「──ケッ!」スタスタ歩きながら…
柄、悪っ…。
私の隣を歩いてる、輝く緑色短髪の大女さんからやさぐれた言葉が飛び出した。
ダリアさんは現在、ひどく荒れている。今朝、シリュウさんが1人で町を出発したからだ。
この町に向かってきている勇者達を迎え撃つ為なのだが、ダリアさんは共に付いていくつもり満々で同行を打診した。
しかし「ダリアはこの町に派遣された冒険者だろうが。これ以上勝手するんじゃねぇ。」と一蹴され、それでも食い下がっていたものの、最終的に娘さんにお説教され渋々諦めたのだ。
それ以来、ずっとこんな調子である。
まあ、気持ちが理解できなくはないが…。
「いい加減、機嫌直してくださいよ…。」
「うるさいよ。」
「竜骨棍棒だって強化したんですから──」
「それも気に食わないんだよ! 物で釣れると思われてたことがね!」
「釣るも何も。他に選択肢なかったでしょう?」
「納得いかないもんはいかないんだよ!」
「…そっすか…。」
落ち込むダリアさんを見かねたシリュウさんが、せめてもの詫びにと余った褐色魔鉄をプレゼントした。それを、すぐに錆びる私の鉄の代わりにダリアさんの棍棒の先端へと取り付けたことで、更なる進化を遂げている。単純打撃力が向上しただけだが。
一応喜んでくれはしていたものの、不満の方が多い様だ。
「テイラこそ、置いてけぼりにされて不満はないのかい!? 仲間だなんだって言っておきながら薄情じゃあないか!?」
「まあ、多少寂しい気持ちも有りますけども。
足手まといにしかならないのに、付いていく訳ないじゃないですか。」
「どこが足手まといなんだよ! あんなふざけた装備を創りまくりやがって!」
それ、褒めてます? 貶してます??
魔鉄装備の試運転相手としてシリュウさんにボコボコに凹まされたの、根に持ってるのかな。
「意味不明な能力の呪い持ちだって勇者達に目を付けられたら、撃退作戦が根本から崩れるからですよ。
お互いにそれがベスト──最良、だって納得したから良いんです。」
「…、ケッ!!」悪態をつく!
ん~…、相手するの面倒臭い…。
ミハさんに気分転換に連れ出す様に頼まれたとは言え、荷物持ちとして同行してもらったのは失敗だったかなぁ…。
──────────
「どぉ~したのぉ~?♪ 土風エルフの『砂塵』ちゃん♪ 随分荒れてるねぇ~?」
「…、放っておいておくれ。」
「んん~…♪ 良い拒絶心♪ 朝からありがと~♪」
「…、ケッ!!」
「やっぱりかぁ…。いや、ある意味では正解だけども…。」諦めの境地…
「蜜の竹林」に入るなり奥から飛んで現れたダブリラさんが、ニッコニコでダリアさんをからかっている。
餌の匂いを嗅ぎ付けた犬かな?
全く以て、想定通りの反応だ。ブレないな、本当に。
シリュウさんが居ないからこそ、今この町には性悪夢魔さんを抑えられる使い勝手の良い人材が足りていない。
一冒険者の為にベフタス様やフーガノン様に出張ってもらう訳にはいかないし、完全に対抗できるかも微妙なレベルだそうだし。ギルマスですら、マスター権限を上手く使ってギリギリ命令できるかも、レベルらしいし。
普段は料理くらいしかしない私が、しっかりと睨みを効かせておかないと…。
毒を以て毒を制す、ってね。
「ん~? 本当に何か有った? 昨日、来なかったし、鉄っちが気色悪い〈呪怨〉を発現させてみたいだし。あ、もしかしてその呪いでも受けた~?♪」
気色悪くてすみませんねぇ。
お互い様だと思いますけど。
「…そんなことないよ。」
「えぇ~? 話してよ~♪ 気ぃにぃなぁるぅ~!♪」
イラッとするんで、その変な巻き舌止めてくれません?
「はいはい、ダブリラさん。その話は後にして紙芝居、はじめますから席に着いてください。
私は他の皆さんを呼んできますから。」
──────────
「──こうして、人魚姫の体はいくつもの綺麗な『泡』となって、海の中へと消えていったのでした。
おしまいおしまい…。」
「「「…、」」」悲喜こもごもの沈黙…
「…、(暗い話だねぇ…。)」無表情の傍観…
「ふぅ~ん…。」
今回作成した紙芝居は「人魚姫」。またまたアンデルセンの作った物語だ。まあ、原作とは大分展開を変えたけども。
本編の細かいところ、覚えてないんだよね…。ディ○ニーの「リ○ル・マーメイド」もちゃんと見たことなくて、どのみちオリジナル要素で話を進めるしかなかった。
青髪ショタキャスターに「ヴァカめっ!!」と叱られる気もするが、万が一、会うことがあれば原稿料を払うので許してほしい。
まあ、皆が悲しげな雰囲気をしてるから話自体はちゃんとできたっぽい。
ミールさんは不貞腐れた不満顔だし、男性が居ないからと厨房から出てきたサシュさんはかなり複雑な顔をしている。人魚姫の扱いに思うところが有ったり、命を懸けてまで人を好きになるのが理解できなかったりしたみたい。
ウルリに至ってはものすごい絶望顔だ。よほど人魚姫に感情移入していたらしい…。
足の後遺症はほとんど無いらしいけど、わざわざ部屋から出てまで聞く価値はないと思うと伝えてあったんだが。今日はまだ寝てらっしゃる紅蕾さんと同じ様に、自室でタレウルリになっておくのが正解だったんじゃないかな。
しかし、それ以上に気になるのがダブリラさんだ。
面白くなさそうなツーンとした表情をしていたので、声を掛けておく。
「今回の話、あんまりでしたか?」
「ん~? 皆からの悪感情はそれなりに食べれたねー…。
ただまあ、この『王子様』がいけ好かないかなー、って。」
「個人的に嫌いな性格だった、と?」
「顔も育ちも良くて、甘い性格で煮え切らない男とか質悪いでしょ。結果的に『水妖人』ちゃん、死んでるし。」
魚の要素を持った夢魔族「水妖人」の側に気持ちが入ったってことか。
ダブリラさんの中に善悪の判断・好き嫌いの感情が、ちゃんと有ったんだな。ちょっとだけ意外だ。
「自分の中に生まれた嫌悪感は、美味しくいただけないんです?」
「自分の爪とか髪を噛っても、美味しくないでしょ?」
「他人の爪も美味しくないと思いますけど。」真顔ツッコミ…
「それはそう、かも。
この絵がねー。金髪で碧眼とか…、【勇者】みたいで嫌~。」
「あー…、ちょっとだけモデルと言うかその要素を盛り込みました。最近、色々話を聞いたもので。」
「? 何の話?」
「…実は、【勇者】の一団がこの国に入ったそうなんですよ。」
「へぇ~…!」ずいっ!
私の顔を覗き込んできたダブリラさん。表情は真剣っぽいのに、目に変な迫力が宿っている。
地雷踏んだかな…?? 隠したところで感情や思考を読まれるし、ストレートに話そうと思ったけど失敗だったか…?
「…、【勇者】かぁ。そっかぁ…。」ギラギラお目目…
「…シリュウさん、が。
対処に乗り出してくれたので、特に何もしなくて大丈夫ですよ…?」
むしろ、魔王の娘である夢魔とか一番会わせちゃいけない人だろうし。普通に考えて。
シリュウさんが町から遠く離れたのも、ダブリラさんとの接触を避けさせる目的も有ったっぽいし。
「ふぅん。まあ、シリュウくんなら大丈夫かなぁ~。
あ、それで砂塵ちゃんが荒れてたのか♪ 納得納得♪」
いつもの調子に戻ってカラカラと笑いはじめたダブリラさん。なんだか気色悪い。何を考えてるんだろう?
「そっかぁ! なら、今、彼、居ないんだ~!
──ねぇ、鉄っち。シリュウくんが、なんで【勇者】達と敵対してるか、知りたくない?♪」ニコッ!
それはそれは。とても綺麗な天使の笑顔だった。
次回は18日予定です。




