284話 カロリー補給とジャンクフード
──そうだ、ジャンクフード食べよう。
「思いたったが吉日、それ以外は全て凶日。」と、青い髪の美食屋も言っていた。
それに倣って、ナーヤ様が戻られた直後から手早く動きはじめる。兎にも角にもカロリー摂取だ。
しかし、食べたい物と今用意できる食材から折衷案は考えねばなるまい。
良し。これに決めた。さくさくいこう。
そのままでも十二分に美味しい砂糖、細かく砕いてもらった岩塩、そして旨味成分の塊こと蒸留酒の残液を同じ比率で混ぜ煮詰めて「照り焼きソース」を作る。
「…!?」想像以上の異常!?
続いて、森で獲れたらしい鳥魔物の新鮮な卵に、麦から作ったらしいお酢を投入し塩を加えて撹拌・乳化。これだけで野菜がモリモリいけちゃう「マヨネーズ」を用意する。
「…。」問題ないかじっとり観察…
いつでもジューシー魔猪肉(火と土の合挽き)に独特の歯応えな草原トカゲ肉を2対8の割合で、そこに細かく刻んだらっきょうもどきの甘酢漬けを混ぜ合わせたら、丸く成形。
赤熱魔鉄のホットプレートで焼いたら「異世界ハンバーグもどき」が出来上がる。
「…、ふむふむ…。」手順を記憶…
町で評判のふわふわパンを上下にカットしバンズに。レタス代わりのシャキシャキ葉もの、ハンバーグを乗せ、2種類のソースをこれでもかと掛けまくったら──
「照り焼きハンバーガー…!! 完成、です…!!」
「…っ!」わなわな震える…
「…。」しげしげと眺める…
「おぉ~!」パチパチ拍手…
私が辿り着いた結論。今最高に食べたい物、手軽なカロリー補給ことジャンクフードの王様「ハンバーガー」。
その中でも日本生まれの異端児「てりやきバーガー」…!
なかなか良い感じに出来たんじゃなかろうか…!
異世界に「マ○ド」が無ければ、作れば良いじゃない理論。ここに極まれり…!!(謎テンション)
ジャンクなのに手間暇掛け過ぎじゃないかな!(自己否定) まあ、いいか!(自己完結)
「すみませんが、早速──いただきます!」
水でしっかり手を洗い、清潔な布巾で乾かしたらバンズを直接手で掴む。
パンがふわふわ過ぎる懸念はあるが…。
少なくとも不味くはないはず。要所要所で味見もしたし。
「あんっむ…!!」がぶり…!
もきゅもきゅもきゅ…
「美味い…!!」
淡白なトカゲ肉に、魔猪肉の脂と照り焼きタレが最高にマッチしている…!!
シャリアピンステーキもどきを作った時と同じ要領で、異世界らっきょうの旨味が全体に不思議な調和を奏でていて、実に良い感じだ…!
日本で食べた物とはほぼほぼ別物だが、全然気にならない。照り焼き感は十分だ。2個目もいけそうな気さえする。
もきゅもきゅもきゅ♪ もきゅもきゅもきゅ♪
なんか怯えてるウカイさん、警戒してる感じのシリュウさん、にこにこと観察してるミハさんを尻目に存分に堪能したのだった。
しかし、あれだな。耐油紙が欲しかったな。手がベタベタになるや…。
──────────
「──はい。砂糖が焦げない様に弱火で沸々と煮詰めて──」
「──魔猪肉が少ないのは何故──?」
「──タレ──砂糖のソースの、旨味を感じるには淡白な肉が──」
「──なるほど──」
お腹が膨れて満足した後は、簡単に解説をしながらミハさんと2個目を作っていく。
流石ミハさん、手際が良い。私と違ってきちんと設計された調理の魔導具を使えるから動きに澱みがない。
程なく完成した。
「言ってくれたら大抵の物は作ったけど…。これは無理だったわね…。」
「いえいえ、お気遣いありがとうございます。
作る工程も楽しみの一環なんで大丈夫ですよ~。」
作る気持ちになったのも、体温上昇で消費した熱量を補うってこと以上に作業に没頭するのが目的だった。
ローリカーナやバカ侍女のことを気にする自分と、もっと苦しめばいいじゃんと放置する自分とが頭の中でごちゃごちゃしてたからね。
こう言う時は全く関係ないこと、前世食べた懐かしい物でも楽しんで思考をリセットしたかった。
我ながら、面倒臭いことである。
「シリュウさんも。助かりました。
マヨネーズの卵、ずっと掻き混ぜてくれたりしてくれて。あと、突然『食材出せ』なんて言ってごめんなさい。」
「…。別に構わん。鉄の混ぜ器具も有ったしな。」
「それだって、シリュウさんのおかげで使える様なものですし。」
「…。ただ革袋に入れただけだろ。」
「それでまるで錆びなくなるんですから、使い勝手が段違いですよ?」
「…。」
シリュウさんが何やら不服そうな顔で押し黙った。
はて? 不味い返答でもしただろうか?
「シリュウ。もしかして食べたいの?」
「え…? 今のシリュウさん、スーパー『砂糖と生肉』タイムなのでは…?」
「(何だ、その変な名前の『タイム』は…。) …。少し、興味、有る…。」おずおず…
不服なんじゃなくて、葛藤してたってことか。
よく見たらシリュウさんの目線が出来立てのハンバーガーに向いている。
「ア、アニキ…、無理は為さらない方が…。
今は『料理』を見るのもお辛いんでしょう…?」
会話に参加せずに1歩引いていたウカイさんが、やんわりと声を掛けてきた。
今にも自らの首が斬られるのではないかと怯えてるかの様だ。何をそんなにビビっているのか。相変わらず変な夢魔だ。
「…。手順は確認した…。食材も、俺かイーサンが用意した物だけ…。『海の物』も、入ってないしな…。」
「そ、そうすか…。 (本当に良いんすか…? 高級な砂糖と岩塩と酒由来の何かが…! 生の卵と、低級なトカゲ肉に使われてるんすよ…!?)」内心恐れおののく…
「それに。『テイラ』が作った物だしな。」
「…、(その言い方は──)」ちらり…
「ふむ…。(シリュウさん、『異世界料理』に興味津々だなぁ。良いことだ。)」ぽけ~…
「(──大丈夫そう、かしら…。) なら、先に食べる…?」
「………。貰おう。」
「ごめんね、テイラちゃん。テイラちゃんの2個目なのに。」
「いえいえ、シリュウさんの方が重要度高いですし。本人が食べる気なったのなら、良いことですよ。」
シリュウさんがゆっくりと危険物に触れるかの如く、ハンバーガーを掴む。
うむ。黒髪の小学生な見た目にマッチしてるな。
がぶっ… もぐ… もぐ…
目を閉じ、些細な違和感すらも感知し損ねない覚悟を決めた感じで真剣に咀嚼している。
ミハさんもウカイさんも固唾を飲んで見守っていた。え、何この緊張感? これ、そんな大事??
もぐ、もぐ、もぐ…
もぐもぐ! もぐもぐもぐ!
お、シリュウさんが「幸せもぐもぐモード」に入った。
気に入った様だ。照り焼きは美味しいですよね~!
ごくんっ!!
「美味い!!」
「お気に召した様で良かったです。」
「ああっ!」2口目っ!3口目っ! もぐもぐもぐ!
「「…、(ほっ…。)」」安堵…
ご馳走にありついた子どもの様に夢中で頬張るシリュウさん。さっきまでの様子が嘘みたいだ。
「それじゃ、今度こそテイラちゃんの為に作るわね。すぐ作るから待っててね。」
「あ~…、お腹、落ち着いてきましたし、晩ごはんの為にも止めておこうかな、と…。シリュウさんにあげてください。」
「遠慮しちゃ駄目よ? 若いんだし全然食べれるんじゃない?」
「いやぁ、そんなに若くないって言うか──」謎謙遜…
「年寄りは食うなって意味か──?」
「元気な子が優先って話でしょう──」
「…、(『魔王』から受けたアニキの精神的苦痛を、和らげる、とは…。
テイラ嬢やその周りの皆さんが、居場所になってるんすね…。)」離れつつ考察…
次回は18日予定です。




