280話 暇潰しの娯楽と今後の悩み
「ダブリラを口先だけで追い払った、か…。すげぇな…。」感心…
「いや、そんな褒められたものじゃ…。」
「実際、凄かったよ…。あ、『です』よ…。」
紙芝居の後、屋敷に戻ってきた私達は早速シリュウさんに報告をした。
あの夢魔さんのことはおざなりにするのは不味いだろうからね。まあ、特に問題にしてない反応だったが。
「ダブリラの、念──他人の感情やら精神、を読み取る能力は相当に強い。だから、嘘が通じない。口先だけの言葉じゃ無意味だ。
俺も、関心を持たないことでしか対処できんからな…。」
「ダブリラ、様は、本気で嫌がっていたから、本物の真心だったってことだね。」
「そうなる。」
シリュウさんは、生肉生噛り大会の手を止めて、話を聞いてくれている。「美人強壮」をお土産に持って帰ってくるか悩んだが、今のシリュウさんには酷かもしれないと思って断ったのは正解だったかな。
まあ、私の分も含めてダブリラさんに回してもらったから、少しでもお詫びになれば良いんだが。
…「スライム粉」の次期納入が、絶望的この状況で、諦めるのは、正しく“断腸の思い”だった、けど…。
「しかし…。アレに本気の善意なんざ、よく向けられたもんだ…。」
「いや、まあ、ははは。」乾いた笑い…
まあ、漫画好きの妄想が役に立ったよね。
嫌なゲスいキャラクターの背景に、悲劇や困難が有るってのは王道設定だからなあ。
読者の手の平がくるくる返させれるやーつ。
あの夢魔にそんな過去が有ったかどうかは、欠片も興味が湧かないが。今のところ。
「結局敵対した様なものだから、本末転倒と言うか…。目的と真反対の結果になっちゃったと言うか…。」
「そんなことはない。あのダブリラに恐れられているって事実だけで、手出ししてくる奴は相当に減る。そのまま突き進め。」
「ですかね…?」
「…、(シリュウおじさんと仲良くしてる見れば、ちょっかいをかけてくる人、居ないと思うけど…。)」無言の疑問…
「まあ、また物語は作って持っていこうかな…。一応、お店の皆にも一定の評価は貰えたし…。
顧問さん達が帰ってらっしゃったら、お礼と追加の注文をしないとなあ。」
顧問さん達に、紙芝居に使う紙と色インクを用意してもらった。
お芝居に使う量となると、庶民にはちょっと手が出ない代物だからねぇ。道楽目的の創作ではないとは言え、感謝しかない。
「イーサンはまだだが、あの堅物野郎なら戻ってるぞ?」
「あれ? 今日も1日お仕事って言ってたような…。」
ダブリラさんの相手役をトニアルさんに任せて、ゴウズさんは本業の方をしてるって…。
「フーガノンの奴が来てるんだよ、今。」
──────────
「」カチッ…
「」スッ…
「ふむ…。」悩みつつ次の手…
「」すかさず駒を移動…
「」迅速果断に打つ…!
「」静かに淡々と打つ…!
「…、(これは困りました。攻め手が完全に防がれてますね。)」楽しげニコニコ…
「…、(初めて触れる遊びなのにご理解が深いわ~…。流石竜騎士様…。『本気で相手をしてください。』って言われたけど、手加減なんてできそうにないわね。)」無表情の没入思考…
「…、(なんと高度な…。私では相手にならない訳です。顧問の娘さんに代わっていただいて、助かりました…。)」静かにお茶の用意をしながら…
コンコン コンコン…
「はい。」
「テイラです。先ほど戻りました。入ってもよろしいでしょうか。」
「…、構いません。」了承…
「今開けます。」カコッ… キィ…
「フーガノン様が、こちらにいらっしゃると──」
「はい。いらっしゃいます。今は『ショーギ』をされているので、暫しお待ちを。」
「こんにちは、テイラ殿。お邪魔しています。
どうぞ中へ。」
「…はい。失礼します。」
「失礼します。」
応接部屋の中では、フーガノン様が優雅な雰囲気で将棋をしていた。対戦相手はまさかのミハさんだ。真剣に盤面を見つめている。
ゴウズさんは付き人然としていて、私をミハさんの隣に案内した後は、てきぱきと追加のお茶の準備をしていた。トニアルさんもそこに加わっていく。
「突然の来訪、すみませんね。」
「あ、いえ。今日は、シリュウさんの様子を見に来ていただいたと、窺いました。」
「それは建前です。休暇を与えられて、他にやることも思いつかなったもので。」
「なるほど…。」
「今日は、個人としての訪ねただけですので。そう固くならずとも良いですよ。」
フーガノン様も、スライム牧場の呪い騒動の疲れを解消する為に臨時のお休みを貰ったそうだが、全く疲れていなかったらしい。体力・魔力が有り余って仕方なかったから、様子を直接確認するついでにシリュウさんと模擬戦交えるつもりで来訪したそうな。
まあ、シリュウさんにそんなつもりは毛頭なく、断る代わりに将棋盤を貸して暇潰しさせた、とかなんとか言っていた。
「このショーギは、なかなか戦略性が高いですね。テイラ殿がお作りになられたとか。」
「いえ、以前、異世界で耳にしたゲーム──遊びを再現しただけでして…。それも所々、規則や造りが欠落している気がして…、人様にお見せできる代物でもなく…。」
「そうでしたか。十分に楽しめていますよ。
特に撃破した駒を利用できる点は斬新です。これがまた面白い。」
「喜んでいただけたのでしたら、この遊びを考案した人も、幸いでしょう。」
「自分にとって取るに足りない『歩兵』が、ここ一番と言う時に、相手の駒として立ち塞がる様は軍属の人間として感慨深いものが有りますよ。」貴族スマイル…
あれ? これって、気分を害したとかで、嫌味を言われてる…?
「ミハ殿の使い方がまた上手い。竜喰い殿以外と、こんなにも楽しい時間を過ごせるとは望外でした。」良い笑顔…
「そ、それは良かったです。」安心…
「…、お褒めいただき、有り難く存じますわ…。」
「おっと。次手が止まっていました。申し訳ない。」カチッ…
「」スッ…
「ふむ。ここは1度、攻め上げていきますか。」カチッ…
その後、2人は無言で没入モードに入った。よく分からんハイレベルな読み合いが為されいる模様。
なんで元日本人の私より理解してらっしゃるのやら…。
まあ、楽しんでいるなら、良いんだけど。
とりあえず相手しなくても良さそうなので、今のうちにゴウズさんにお礼を言っておこう。
「ゴウズさん、色インクをたくさん、ありがとうございました。」
「いえ。
上手くいきましたか?」
「えっと…、成功はしたのですが、ちょっと色々有りました…。」
「色々有ったのですか…。」少しげんなり…
「…、(色々有ったんです…。)」無言の同意…
「シリュウさんは『問題ない。』って言ってたので、まあ、大丈夫かなとは思うのですが。
ただ。追加で紙と色インクの注文をお願いしたいと思いまして。また紙芝居を作って持っていこうと考えてます。」
「かしこまりました。今度は2組分ほど用意いたしましょう。」
「ありがとうございます。」
「礼を言うのはこちらです。
本来我々がやるべき、特級職員の夢魔の相手をしてもらっているのです。このくらいは造作も有りません。」
「」ふぅー…
「」ほふぅ…
話の段取りが付いた辺りで、将棋の2人が揃って顔を上げ息を吐いた。どうやら一時中断する模様。相当な接戦の様だ。
「すみませんね、テイラ殿。司令所側も、助かっています。高位夢魔の相手は、相当に難儀していたでしょうから。」すぅー…
フーガノン様が、気持ちを落ち着ける様にお茶を口に運ぶ。とても気品の有る仕草だ。
「隣のテッソカソ領は、『水の氏族』の方と協力し領内の浄化を終えました。春になれば植物の楽園に対して大攻勢に出るつもりの様です。」
隣の領地で活動していたダブリラさんや水エルフさんの調査に依ると、大陸東部中央の大森林の中に「亡国の魔王」の「眷属」が潜んでいる可能性が有るそう。
それを叩く為に準備を整えている段階らしい。
あの「黒デカナメクジ」の更に親玉かぁ…。凄い化け物なんだろうな…。
「この町は『魔猪の森』に対する備えは万全ですが、真逆の方向から攻められることは想定されていませんでした。元々は領都軍──この町が属するルフィス領の私設軍が対応すべき事案ですが、相手が未知の『魔王の呪い』とあってはなかなかに難しい。
そこに、あの高位夢魔殿ならば強力な対抗策に足り得ます。あの方は『水氏族の方から離れたいだけだ』と仰っていましたが、こちらとしては大変に有り難い。
『金竹』殿にも、無理をさせずに済みますし。」
うわぁ…。改めて聞くと、ダブリラさん、超重要人物じゃん…。
そんな夢魔と交流しなきゃいけない私…、責任感が満載…、野○萬斎(さん)…。
駄洒落言ってる場合じゃないな…。真面目に活動しないと…。
なかなかに大事な話なのに、その中心には居ない主人公…。
本当に主人公なんだろうか…?
次回は24日予定です。




