28話 〈呪怨〉の質
草原のただ中で椅子に座って、おかしな会話は続いてく。
とりあえず落ち着こうと、水筒をアームで開けて水を飲む。
ふう…、思ったよりはシリュウさんと普通めに喋れてるな。
スティちゃんには感謝だな。内容はちょっとありがたくないけど…。
「…。しっかし、奇妙な形だな、その腕。良く器用に動かせるな?」
イメージしたのはアメコミの悪役ドクターだ。金属でありながらタコの腕みたいに動かせる形がこれだった。
普通のロボットアームだと、関節とか指の動きが難しかったんだよね。
「そうですか? 風魔法で物を掴んだり運んだりするのに比べたら、パワーも距離も全然ですよ。」
「並みの魔法使いはそこまででも無いだろう。その不思議な外見の腕を想像通りに動かしている方が、大したものだと思うが。」
「まあ、魔法じゃなくて呪いの鉄ですし、元々は自分の血ですから動かし易いんじゃないですかね?」
「…。そうだよな。〈呪怨〉の産物なんだよな…。」げんなり…
シリュウさんは、自分が座ってる椅子やコップをマジマジと見る。
「気味悪いでしょう? こんな奴と一緒に行動する必要無いですって! 解散しましょう解散!」
「…。まだ話はする。座ってろ。」
「分かりましたよ…。」
「俺はこれからどこかのギルドに寄って、あの〈呪怨〉女の報告をする。冒険者どもに先に内容は報告させてるが、直接上に話をしておく必要がある。」
村の北の町での疫病騒ぎ。その原因はあのムカデ女だったらしい。疫病じゃなくて、精神汚染攻撃をばら蒔きまくってたってことだね。その異常性からギルドが協力を申請したのが、シリュウさんだったらしい。呪われた人達をどうにかすることはできたけど、ムカデ女は町から離れた。
その後にあの作業村にやってきた訳だ。
「あの〈呪怨〉女は討伐できた。あの山で、テイラが弱らしてくれたおかげでな。」
「いや、私は…。こう、毒を以て毒を制す、と言うか。私のせいで化け物呼び寄せちゃって贖罪のつもり、と言うか…。」
「…。他の〈呪怨〉を引き寄せる力がある、ってことか?」
「いや、まあ、それは多分…。だって人に迷惑かける力だし…。」
「あれがあの村に行ったのは、俺が取り逃がしたからだろ。」
「でも、それも私のせい──」
「──止めろ。」
思わずビクッと体が震える。シリュウさんが怒気を出しながら、私を睨んでる。
魔力なんか見えない私でも、空気が物理的に震えてると感じる圧力を出していた。
髪留めの警報すら弱く鳴っている。
私は目を逸らして俯くしかできなかった。
「──悪い。」
変な重圧が消えた。恐る恐るシリュウさんを見る。
頭の横をギュッと握るように押さえていた。
苦虫を噛み潰したような顔で言葉を続ける。
「悪かった。やり過ぎた。」
「いえ…。〈呪怨〉持ちは本来、忌避されて然るべきことですし…。」
「あのなぁ…! ──っ。」
シリュウさんは目をきつく閉じて、頭をガシガシ掻いてる。角兜ごと掻くから、黒い角がユラユラ揺れていた。
「俺は町であの呪い女を捕まえられる立場に居た。だができなかった。
…テイラのせいじゃない。
呪い持ちだからって、全ての因果を操れる訳じゃない。」
「いや、…シリュウさん、特別な力がある方だろうし、色々やることとか任務、有ったんでしょう…?」
「…。それはそうだが、あんな…──」
「それにあのムカデ女が南下したのだって、やっぱり私を目指したんだと思うし…。」
「…。なんでそんな卑屈な考えに固執するんだよ…。」
「いや、だって、〈呪怨〉同士って集まる習性、あるでしょう…?」
「?? そんな話は聞いたことないが…?」
あれ? そうなの?
「私の…えっと…知り合い、は…、〈呪怨〉は千年前の『大魔王』から生まれた力だから、元の1つに戻ろうとする。って話をしてました、けど…。」
「大魔王…。そう言う呼び方もするか…? だが1つになろうするくだり件は初耳だ。嘘の話、吹き込まれてないか?」
マジで…? いや、でも、『大長老』様が言ってた話だよね…?
生き証人であるあの方の、話が間違ってる?
「その方、は…嘘をつくような方でも無いんですが…?」
「それは知らんが。〈呪怨〉ってのは、その持ち主の負の感情と深く結び付いた力だ。持ち主の感情に関係しない動作はしないはすだ。」
「それはまあ何となく、分かりますけど。」
「仮に1つになろうとする習性がある〈呪怨〉が有ったとして、テイラの〈呪怨〉とは質が違う。引き寄せる力は無いだろう。」
「ん~…、そうなんですかね…?」
「…。強力な〈呪怨〉を宿した魔王が何体か確認されてるが、1つに集まる動きはしていない。むしろ互いを妨害し合ったり、避け合ってる。その知り合いの話は的外れだと思うが。」
「」う~ん…?
大長老様の話、私が翻訳を間違って聞いてたってことかなぁ。
有り得るか。なにせエルフの言葉だもんね。でも、あのムカデ女は私を食べようとしてきた気がしたけど…。
あ、スティちゃんと二人で出会った時、そのまま離れて行ったっけ? あの時は私に興味なかったって事で、〈呪怨〉を感知して来た訳じゃないのか。
「納得したか?」
「はい。そうですね。私に引き寄せる力は無いっぽいですね。」
「ああ。
…。何の話をしていたんだったか…。」
「何でしたっけね? このまま解散してお互い元気に生きようって話だったような!?」
「…。
おい、水精霊…。とりあえず、水くれ…。」頭が痛い…
あら。アクアが私と親友以外のお願いに応えてる。シリュウさんのこと、気に入ったのかな。
シリュウさんはそのままごくごくと水を何回もお代わりして飲んでる。
自棄酒かな?いや、自棄水か。健康的だね。
にしても。〈呪怨〉の被害に自責を感じて声を荒げたり、妙に詳しい話を知ってたり。もしかして、シリュウさんって対〈呪怨〉の専門家だったりするのかなぁ…。
〈呪怨〉持ちの私を、色眼鏡で見ないでちゃんと接してくれるなんて、凄い人だな。
ん~…。私の身柄を預かって貰う先としてはアリなのかなぁ…。
普通に会話してくれるのは、凄く有り難いけどなぁ…。
「スゲェ、Dr.オ○トパスだ!!」




