27話 今後の話
「──では、角兜さん! お世話になりました! お達者で!」
私は元気良く別れの挨拶を──
「」ビシッ!!
無言の手刀!? 痛い! 止めろ、ミ○エル!
「ちょっ!? 肩叩かないでください。コケるじゃないですか!」
「この程度でふらつく奴が、何馬鹿なこと言ってるんだ。」
「いや、村からはだいぶ離れましたし、もう誰も文句は言いませんって。ここらで別れても問題は──」
「」バシィッ!!
無言の手刀! 止めてって!
「身長が足りないからって、肩叩くの止めて!」
「…。その余計な口を先ずは閉じろよ…。」
「…。」お口チャック…
私みたいな卑屈呪い女、放っておいてくれたら助かるんだけどな。
それがお互いの為になると思うし…。
「とりあえず、打ち合わせをする。どう行動するにしても先ずは話し合いだ。」
「…。」無言の不満顔…
「…。冒険者やったことあるなら、知ってるだろ? あんた…、テイラ、で良かったよな? ちゃんと意見は聞くから、喋ってくれるか?」
「…。」
「…。不満か?」
不満って言うか…。
「なんで、付いてこようとするんですか…?」
「…。それは、付いてきて欲しくないってことか?」
「はい。そうですね。割りとそう思ってます…。」
「…。分かった。話をして納得したら、別れることも選択する。そこは約束する。だからとりあえず、休憩がてらで良い。会話してくれ。」
「…分かりました。」
なんかなぁ、やりづらい人だなぁ…。
特級冒険者のはずだけど、想像よりも我が弱いと言うか、無関心で無気力そうなのに真面目と言うか。
呪い持ちは見逃さない、とか言ってたから何が何でも付いて来ると思ったんだけど。
つーか、私も自分のキャラが定まらん。
素の卑屈モードだと基本敬語だから、嫌がられるはずだし。
ハイテンション無計画モードだと、また攻撃しちゃいそうだし…。
腕がこんなだから誰かに助けて欲しくもあるけど、
呪い持ちだから側に居られると、絶対、迷惑かける、し…。
同じ思考がぐるぐるしてて、辛い…。
とりあえず、休憩ってことで鉄の椅子を出して座る。
街道から外れた草原っぽいところで椅子に座るとかシュールだなぁ。
角兜さんにも尋ねたら要るって返答があったので、適度な椅子を作って渡す。
休憩ならば飲み物である。アクアを呼んでお水を貰う。
角兜さんも多少警戒しながら受け取って、アクアの水をまじまじと見つめてたけど、やがて口を付けた。
「…美味いな、これ。」
「ですよね~。」
うん。水が美味しいことは至高の幸せである。
アクア様、万歳。
「…にしてもこんな所で、精霊が作った水を飲めるなんて、な。」
「あ~…。もしかして魔力的に何か不味いです…?」
「…。そうか、あんたは感じれないのか。問題ないから安心していい。むしろ魔力的にもとても美味いな。」
「そうですか。…なら、良かったです。」
魔力を感じるのは皮膚感覚に近いらしいけど、目で見れる人も居るように、聴覚や味覚ででも感じ取れることがあるらしい。
この人は魔力の味まで分かるようだ。好みに合ったのなら良かった。
少しは落ち着けたかな。どうも良く知らない男がそばに居るのはやっぱりストレスなんだろうなぁ、私。
「さて、とりあえず俺の名前言ってなかったな。シリュウ、で良い。後は適当に呼んでくれ。」
「…はい。分かりました。シリュウさん。」
「…。『さん』付けは要らねぇ。まあ、強制まではしないが。」
さんを付けるな、か。どこぞのブ○ンドとは逆だなぁ。
敬語嫌いとも言ってたし、何か昔あったのかな。
「呼び捨てで接すると…、前みたいに呪いの鉄を軽く発動しようとする、面倒くさいモードの私になるんで。敬語にさん付けで会話させて貰えると、お互い助かるかな、って。」
「…。今さら過ぎないか…?
まあ、いいが。」
「すみません…。」
「さて。俺の意見を先言うか? あんた…テイラが言いたいこと言うか?」
「えっと…。私のことは『あんた』で良いですよ? 無理にテイラで呼ばなくても。…自分で付けた適当な名前で、本名じゃないですし…。」
「…。」ジトリ…
軽く睨んでくる角兜さん。
あ、本名言ってなかったら騙したことになる、か。
「あの、本名を言えない事情と言うか、名乗る資格が──」
「別に良い。俺の方も同じだ。」
「あ~…。特級の方ですもんね。色々ありますよね。」
「…。俺が、テイラ、って呼ぼうとするのは、あの村のガキに言われたからだ。無理はしてない。」
「スティちゃんが?」
「『凄く偉い冒険者なら、礼儀とか、ちゃんとして。相手と話すなら、きちんと名前を呼ぶのが基本でしょう。』って、な。」
「ぶふぅっ!!?」噴き出す!
おいいい!? 特級のヤバい奴相手に何言ってんの、スティちゃん!?
そういうの怒らせたら指先1つで爆散させられる、って教えたよね!?
「いや、あれは良い啖呵だった。俺の魔力を近くで感じとった上で震えながらも、真っ直ぐに。本当に、あんたは好かれてるんだと、驚いた。」
見た目通りの少年みたいな顔で笑っているシリュウさん。
「いや、ちょっとバカなお父さんにあんな場所に連れて来られて溜まったものがあると言いますか、ちょっと世間知らずで思ったことをそのまま出しちゃう、と言うか…!」
「…。あんたよりは、余程マシ…だろう。」
「…そう、かも…?」
死にかけで暴れたり、回復してくれた相手に呪いで攻撃仕掛けたり。
そこそこダメかもですね~。はっはっはっ…。
「『お姉ちゃんは他人を遠ざけるバカ面倒くさい人だから、ちゃんと面倒見てあげて。』とも言ってたが。」
「スティちゃんの優しさが、胸に刺さるなぁ…。鉄の針レベルの鋭さ…。」
スティちゃんからの辛辣な評価が、心に沁みる…。
とってもダメダメだな、私…。




