268話 呪いに対する特効薬(呪い入り)
すみません。更新頻度を下げます。
3日ごとにしていたものを6日おきに投稿していきたいと考えています。つまり6の倍数の日に更新する予定です。
リアルが落ち着けば、頻度が元に戻る可能性も有りますが、しばらくはこのままかと。
「──さて。
詳しい説明をお願いします。」
「…。」
現在、鉄拠点の中。
日が落ちて暗くなった部屋を、魔導具の灯りが照らしている。
中に居るのは、しかめっ面のシリュウさん、相対する形で貴族スマイルのフーガノン様、そして傍観者兼ストッパーな私の3人。
それに加えて、フーガノン様の肩から透明化を解いて私の肩に移動してきた召喚竜も居る。町に残っているナーヤ様を通じて、ここでの会話が最高責任者に届く様になっているそうだ。
「この場所には、『魔王の呪怨』が、かけられている。相当薄いが、放置はできん。
──俺が、一切合切焼き払う。」
「…、あなたがそう言うのであれば、確実なのでしょう。牧場を焼き払うことにも正当な事由が認められれば、許可も出ます。
しかし、竜喰い殿があまりにも性急、いえ、空回っている様子。何が起こっているのか詳しく解説していただきたい。判断を下すのはそれからです。」
「…。」悩ましく腹立たし気…
「…、」優男然しつつも内心冷や汗…
必要もないのに強引な手段に出ようとするシリュウさんを、真っ向からは否定せずにやんわりと諌める竜騎士様。
私達3人だけの話し合いになった理由が、これだ。
シリュウさんの態度がどうにも危なっかしく、不安定だったからだ。
巨大ロザリーさんの背中から長い首をスロープ代わりに、魔法騎士達と彼らに支えられた文官数人が降りてきた後。
牧場の方々と衝突と言うか、説明を求める声があがったのだが。
シリュウさんが「こいつらも何人か、『眷属』だな…。」とか呟いて再び凶行に出ようとしたのだ。
とにかくシリュウさんの頭を鉄ハリセンでひっぱいて、正気に戻させはしたのだが。
どうにも彼らと目線が合うと、心の中の「焼却処分スイッチ」がONになるらしく何度ハリセンインパクトを行ってもダメだった。
そこで牧場の方々に「ここに!!呪いの化け物が潜んでいる可能性が有るんです!! 皆さんの身の安全の為にも、ご協力くださいっ!!」と大声で脅して牽制し、ウルリやトニアルさんに後のことを任せて、鉄拠点の中で話し合いになったと言う訳。
フーガノン様の指示の下、騎士達が真っ当な対応をしてくれて助かったね、本当。
事の経緯を書いた鉄メモを渡しておいたし、現状把握しながら待機してくれることだろう。
「…。ベフタス。そっちに居る余計な奴らを下げろ。
それまで話はしない。」
シリュウさんが私の肩のカミュさんを見やると、その体が緑色の光を帯びた。
すると、部屋の中に声が響く。
『ドラゴンイーター殿。ナーヤです。ベフタス様は既に人払いされておられます。こちらで話を聞いているのは、ベフタス様の他は私だけです。』
「キャイ!」元気に肯定!
「…。そうか。分かった。」
町からここまでリアルタイム通信?
防犯カメラの様な遠見の魔法だけでなく、遠距離通信までできるとは…。カミュさん、多彩である。
しばらく私の方をチラチラと確認して、落ち着かない様子のシリュウさんだったが、やがて意を決した様に口を開く。
「ここに蔓延しているのは──
『〈羨望〉の魔王』。ホーンヌーンに、封印された最低女、の〈呪怨〉だっ。」
「!?」
ホーンヌーン!? シリュウさんの地雷ワードその2な、南部の亡国!? しかも「魔王」居るの!?
それに「せんぼう」ってなんだ!?
憧れの「羨望」? 先?防? いや、千の棒か!?
「お待ちを…! ホーンヌーンは、植物の魔境を挟んだ向こう側です。
そこを越えてこの国が侵略されていると言うのですか…!?」
「そうだ。その可能性もある。詳しい現状は不明だ、が。
少なくともここで食べた物に、あの最低女の〈呪怨〉がっ、染み着いているのは、間違いないっ…。」
「っ!!」
フーガノン様の貴族スマイルが崩れ、真剣な雰囲気で黙り込む。
ホーンヌーンに女の魔王が居て、大陸を縦断してまで侵略中?? 超絶に大事なのでは…?
でも相当薄い…? 黄砂が飛んでくるみたいな話かな?
しかもシリュウさん、その魔王と面識アリ──?
そんな感じに悩んでいると。苦みばしった顔をしていたシリュウさんが、私に指示を出す。
「テイラ、俺の頭をハリセンしろっ!」
「いっ!? またですか!? りょ、了解っ。」
ホーンヌーンの話を出すと相当気持ちが不安になるらしく、私の鉄の痛みで中和したいようだ。
半ば自傷行為じみている為に忌避感が強いが、本気で懇願しているのでとりあえず頭をひっぱたく。
もう今日だけで何回叩いただろう…。いつもとは立場が完全に逆である。
「痛い…。た、助かる…。」頭を振りつつ…
「い、いえ…。こんな形でしかお役に立てず…。」
「いや、本気で有り難い。ハリセンで叩かれると、吐き気が不思議と治まるんだ…。」
「いや、それ、ショック療法って言うより、物理的な痛みで心の痛みを麻痺させてるだけなんじゃ…?」
「…。(麻痺…?)そうか…、鈍亀も──?
すまん。鉄の塊をくれ。パイプとか言うやつだ。」
「はい?? えっと、どうぞ?」
よく分からんが指示に従い、短めの鉄パイプを手渡す。
「いただく。」ガギッ!
「シリュウさん!?」
「」ガギガギ!
「…、」ぽかん…
シリュウさんが鉄パイプを、噛った。
笹竹を食べるパンダの如く。
横目に見ると、フーガノン様が呆気にとられた顔をしていた。
うん。そら、驚くよね。私もびっくりだ。
「これ良いな。口の中だけじゃなく、喉の気持ち悪さも消える…。」がじがじなめなめ…
カルビの骨をしゃぶる様に、鉄を舐め食べはじめたシリュウさん。
いったい何が良いんすか…?
「こ、私達にとっては、不気味過ぎるんですけど…。」
「…、(激しく同意見です…。)」無言の肯定…
「あの鈍亀も、同じだったんだ。
…。あれも恐らく呪いを含んだ葉を食べて影響が出てたところに、
…。クソ不味さを打ち消すテイラの鉄に気づいて、噛ってたんだろう。」がじなめ… がじなめ…
ちょっと言葉が頭に入ってこないが…。
「つまり。私の鉄が、鈍亀ちゃんを、救っていたと。」
「そうだ。」がじがじ…
「私の鉄は。何かしら、魔王の呪いとやらを打ち消せる、と。」
「ああ。」なめなめ…
うん。なんかやべぇ話に壮大だな(混乱中)
まあ、なんか良いことがあるって理解しとけばいっか。
「シリュウさん。でしたら、こっちをどうぞ。」
私は鉄コップに水筒の中からアクアの水を注ぎ、鉄塊を取り出す。その鉄塊の表面を形態操作させ微細な「鉄粉」を生成、水の中に散らし入れ鉄短棒で混ぜる。
「これは…、」
「これなら飲みやすいでしょう? 絵面も相当マシになります。」
「貰おう。」ごくっ!ごくっ!
「…、(絵面など気にしてる場合ではありませんが…。ここは黙っておくのが花ですかね…。)」
「ふぅ…。これは良いな…。かなりマシになった。」
「呪いの謎鉄ですけど…。まあ良かったです。」
「…。」
飲み終わったコップをマジマジと見つめていたシリュウさんが私の方を向いた。
「水精霊。起きろ。
テイラ、この『鉄の水』を大量に作って、牧場の奴ら全員に飲ませろ。」
「え!? い、嫌ですよ!?」ぽよ~?ふりふり~?
「何か用事~?」とでも言いたげに、腰の貝殻からアクアの触腕が伸びてくるが、私はそんなことはしたくないっ!
「あ? なんで拒否する?」
「シリュウさんは私が呪い持ちだって知った上で受け入れてくれてますけど!
この牧場に居る人達は何も知らない一般人でしょう!? そんな危険で意味不明な行為はしたくありません!」
「…。なら、俺の〈黒炎〉で焼くしかないぞ。」
「な!?」
「上級ポーション程度じゃ回復できん怪我を負わせることになる。そうなれば〈呪怨〉は消せても絶命するだけだ。」
「いや!?自然回復を待つとか!?」
「あの女の〈呪怨〉が、時間経過ごときで消えるかよ…。」苦々しげ…
いや、知らんがな!? その説明を途中で止めたの、シリュウさんでしょう!?
「現状、テイラの鉄が一番安全かつ確実な対抗策だ。
──とにかく、やれ。」真剣な顔…
「テイラ殿、こちらからもお願いします。民の命を散らさぬ為にも。」真剣な顔…
「う、うぅ…!」ぽよふり~?
な、なんでこうなった…!?
指令所の2人
「(割りと危機的状況のはずだが…。) すげぇ話になってんな…。」乾いた笑い…
「…、(テイラ殿…、どうかお気を確かに、持ちこたえくださいませ…。)」静かに魔力操作中…
次回は12日予定です。




