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266/406

266話 他人の忠告は素直に聞いておくべき

266。6がダブルで2ばい2ばーい。(意味不明の戯言)



「スライム達が怯えている──牧場の奥地に、中ボス魔物『悪の巨体毒スライム』が潜んでいた…!? 植物が危険なのも冒険者達の体調不良も、そいつの毒が原因っ…!──うん。無いな。」


「私はよーく理解してるわ。トニアルちゃんはね、まだまだ女性に積極的になれないだけなの。私の魅力が溢れ出すぎて引いてるとか、あの子の好みに合わないとかではないの。」


「…、」無言の疲れた顔…



「──林の中に土地神様的な精霊が(まつ)られていて、その(ほこら)をルータ少年が悪戯半分に破壊っ! 精霊は激怒し荒御魂(あらみたま)となり、鈍亀ちゃんに憑依し人間どもに牙を()いたっ!スライム達は嵐が鎮まるのを待つしかないっ!?──これも無いな。」


「はあっ!トニアルちゃんっ! あなたの本性はどっちなのかしら!? 成熟が遅いエルフみたいに純心で穏やかなの!? それともっ!夢魔の成熟した体に相応しく激しいの!?」


「………、」へなりと下がる猫耳…



「──人々の心に潜む闇を食べて強くなる怪物が──」

「──私、どうにかなってしまいそうっ…!!──」


「──林の奥に姿を隠す結界が──!? 人食い魔女が夜な夜な実験──!?」


「──ねぇ。さっきから何をぶつぶつ叫んでるの?」


「…その言葉、そっくりそのままお返ししますけど?」

「輝かしい少年(みらい)の話を、してるだけよ?」

「私も、現状打破(みらい)の話をしてますが?」


「…、」じと目…

「…。」半目…


 ミールさんと軽く睨み合う。これはお互い別次元に生きてるな。それだけは理解した。うん。


 謎の危険反応が出る料理をシリュウさんに見せるついでに、それを食べたミールさんも視てもらおうと付いてきてもらったのだが。

 トニアルさんと同じ空間から強引に引き離したから、軽く(うら)まれてる様だ。


 その心的負荷(ストレス)を緩和する為か先ほどから妄言・妄想が止めどない。対抗して私も適当未来予測を垂れ流したから、お互い様なんだけど。



 よし。とっととシリュウさんの所に行こう。

 もうちょっとしたら日が暮れるし、マント付けてても寒いし、パッパっと確認してもらって今日はもう休もう。

 それが良いな。



「…確認、済まして、今日はそれで終わりです。時間を確保する為にも急ぎましょう。」

「…、そうね。そうしましょう。」


「…、(なんか逆にワクワクしてきたな…、うん。どうなるんだろう、このあと…。)」乾いた笑い&魔力操作で髪と一体化するほど伏せられた猫耳…




 ──────────




 鉄拠点に近づくと、大きな塊の側に赤い人影が見えた。

 大人しくなった暴れ鈍亀ちゃんとシリュウさんだ。


 シリュウさんは、鈍亀ちゃんに餌付けするが如く鉄パイプを手に持って突き出している模様。鈍亀ちゃんはそれをがじがじと噛っていた。

 平和(?)な光景だな。うん。仲良くなれた様で何よりだ。


 私達が側に行くと、鈍亀ちゃんは鉄を噛るのを止めてゆっくりと拠点の方へと歩いていった。

 てっきり新しい鉄を催促しに寄ってくるかと思ったんだが? ミールさんの邪気でも見えたのかな?



「今日は引きあげたん(終わり)じゃないのか?」


「あ、はい。シリュウさんに確認してほしいことが有りまして。」

「確認?」



(解説中…)



「なるほどな…。」じぃーっ…


 3人で持ってきた料理や食材達を見せると、じっくりと凝視してくれるシリュウさん。

 私のあやふやな話をきっちり信じてくれているらしい。有り難い。



「見た目も、魔力も、変な感じはしねぇな…。物も普通に見かけるやつばかりだ。

 そっちの女も──」

「…! (真剣な顔っ!鋭い目つきっ! 悪くないわっ!)」頬を赤らめる…

「…。まあ、普通(?)だな…? (普通、だよな…?)」軽く戸惑い…


「そうですか…。やっぱり髪留めの方がバグってるのかぁ…。」はぁ… 落胆の溜め息…

「ちょっと。そこまで落ち込むことないでしょう。」

「落ち込みますよ…。髪留め(これ)、私の生命線で、大切なものなんですから…。」


 まあ、今日は考えるの止めて不貞寝(ふてね)するかぁ…。一晩経てば直ってる可能性とかも有るかもだし…。



「…。とりあえず、食ってみるぞ。」

「え。いやでも──」

「」ひょい パクッ…

「あ…。」


 シリュウさんまで料理を口にした。試食コーナーに立ち寄ったくらいの気軽さである。



「…。(普通に食える…。冷えてるが、不味くはねぇな。)」もぐ…もぐ…


 ふむ。まあ、大丈夫そうだ。普通に味わってらっしゃる感じである。どうせなら、赤熱魔鉄で温めてから食べてもらった方が良かったかな。



「…。(ちゃんと下処理されてる、って感じだな。食材の組み合わせも良く噛み合って悪くね──!?!?)」もぐもぐも──カッ!!!?


 シリュウさんが突然、目を見開いて硬直した。



「シリュウさん?何か──」


「ぶっ!!」ベッ!!

「「!?」」

「シリュウさん!?」


「──!!」ボグウォオオオ!!



 シリュウさんが料理を地面に吐き捨てた。


 そして、右手を(かざ)すと同時。真っ黒いドロドロした炎が火炎放射機の如く放たれ、地面を黒く照らしあげる。戻した物は原形も残さず焼き尽くされていった。



「があっ!!」ボグウォオオオ!!


 右手の黒い炎を、今度は自分の口に向けて放つシリュウさん。炎を喰らう勢いで、顔までも燃やし尽くさんとしている様に見える。


 これ、闇色の炎──闇・土・火属性3種混合の特殊魔法〈黒炎(こくえん)〉だ…。

 シリュウさんの奥の手を使うほど危険だっ──?



 ぎゅうっ──!!



 いつの間にか、私の背中に重さがかかる。

 首だけで振り返ると、ウルリがぶるぶるとひどく震えながらしがみついていた。本気で(おび)えている模様。

 ミールさんも呆然とシリュウさんを見つめていた。


 やがて黒炎の勢いが収まってきた。と、とにかく、話を聞こう。



「き、危険物、だったんですか…?」


 荒い息を吐いて地面を見つめる、恐ろしい形相のシリュウさんに、そっと、尋ねる。

 私の方を見ることなく、消滅した跡を凝視しながら呟いた。



「──いつ、の──い、だ──。」

「はい…?」


「──『魔王(まおう)』の〈呪怨(のろい)〉だ!!」


「!?」


 魔王!? え!?「夢魔の女王」が関係してんの!?


 こんなに焦っている──錯乱しているシリュウさんは初めてだ。思わずたじろぐ私。


 その視線がギョロっと、私の後ろ、ミールさんの方を向いた。



 ──キン!キン!キン!キン!



「!!」


 髪留めの警報が「早く離れろ!」と言わんばかりにけたたましく鳴り響く。



「──お前か? お前も、『眷属(けんぞく)』だな?」コオォォォ!!

「ひっ!?」


 シリュウさんがミールさんを見つめ、黒炎が(くすぶ)る右手をそちらに向けようとしている。

 ──不味いっ。



「シリュウさん!!ストップ!!」


 直撃コースを塞ぐ様に、鉄の薄い板を盾の如く肩から伸ばす。

 ウルリが居るから体を大きく動かせない。これが精一杯だ。



「邪魔する気、か…?」


 シリュウさんの狂気を帯びた目が私を捉える。その瞳は、絶望を煮詰めた様なドス黒い色を(たた)えていた。とてもヤバい…。


 意識は逸らせたが、標的が私に変わりかけている模様。

 まともに相手したらダメだ。別のインパクトを与えねば。



「──私が! 代わりに成敗(せいばい)しますっ!!」ぐいっ


 鉄盾を分離(パージ)! 右手に鉄ハリセン! 即座の振り上げっ!

 アーンド振り下ろし!



「え!?」


 狙いは、ミールさんの頭っ!!



「ぎゃんっっ!?」頭抱えて…うずくまる…


「…。」軽く驚き…


 直・撃(ジャストミート)!! 良い音鳴ったぁ! 腕しか満足に動かせない現状でよく当てた私!


 様子を(うかが)うと、シリュウさんがぽかんっとした顔で固まっている!


 秘技「混乱した時には、更なる大混乱で塗りつぶせ!」作戦! 成功!!



「シリュウさん。変態薄着女は、ここに倒れました。

 ──まだ。燃やす必要は、ありますか。」


 ゆっくりとシリュウさんに問う。


 私の奇行に思考が停止していた様子だったが、次第に苦々しい顔になっていき、小さな声を発した。



「…。いや。無い、な…。」


「他に、危険なものは、有りますか。」


「…。無い──いや。

 テイラ。俺もぶっ叩け。むしろ、ぶっ叩いてくれ。」


 黒炎を完全に消火し、シリュウさんが懇願する様に提案してきた。


 良く分からん。が、望み通りにしよう!



「了解っ! 即座全力(ト○ンザム)っ!!」ブンッ!バヂィ!!


「──(つぅ)っ…。

 て、手間かけたな。助かった…。」若干涙目…


「…いえ。

 もう1発、いきます?」

「いや…。もう大丈夫だ。必要ない…。」ブンブンと頭を振る…


 どうやらいつものシリュウさんに戻った様だ。

 髪留めの警報音も消えた。

 念のため、このままウルリとミールさんを(かば)える位置はキープしておこう。


 しかし…。〈呪怨(のろい)〉じゃなくて、「魔王の呪い」って言った…、よね?

 何が起きてるの…?


次回は…、4月3日予定です。


忙しい季節ですが、花見なんかで桜を愛でてゆるりといきましょう。

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