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265話 試食と疑念と確認と

「悩むことないじゃない。

 ビガー姉、それ(もら)うわ。」ひょい パクっ…

「ちょ!?」


 飼育施設から戻ったミハさん、ミールさんと合流した後。

 2人の意見を聞きたくて私達は現状を伝えたのだが。


 聞き終わるや否や、ミールさんが制止も無視して、冷えた炒め物を()まんで食べてしまった。


 話を聞いてくれねぇ…。



 もぐもぐ こくん…

「…、うん。ビガー姉の味。」ちょっと満足気…

「食べてくれるのは良いけど。大丈夫?」

「だと思うけど?」

「む、無茶しすぎですよ…。」

「あらぁ! 心配してくれるのぉ?トニアルちゃんっ!」

「それは当然──」

「嬉しいわぁっ!!」花咲く笑顔!


「そ、それはどうも…?」引き…

「うわぁ。」相変わらずだなぁ…


「トニアルぅ~? ちょっと手伝ってくれる~?」ゴゴゴ…


 ミハさん は プレッシャー を 放っている !



「うん、今行く…。」

「ああん、お母様に頭が上がらないトニアルちゃんも可愛い…。」

「今は、あの子にお熱(・・)なんだ。」

「そうよぉ。良い子でしょ?」

「そだね。」生返事…


 話が通じねぇ…。



「ダメだこいつ、なんとかしないと…。」

「こいつとは何よ?」真顔に戻る…


「いきなりまともにならないでください…。」

「いつだって真剣(まとも)だけど?」

「危険かも知れないと伝えた料理を、スルッと食べた人が何を言ってるんですか。」


「ビガー姉の魔力眼は確かだし、ウルリの感覚の鋭さは町一番相当。この2人が見逃すものなんて無いでしょ。」突然の正論…

「いや、まあ、そうなんですけど…。」

「人間、間違えるときは間違えるよ?」あっけらかん…

「私もそう思うよ、ミール姉…。」冷静な判断…


「でも、何ともないじゃない?」


 両腕を上げ、その場で腰を(ねじ)って、全身を見せつけるミールさん。

 顔色が悪くなるとか、力が抜けてへたり込むとか、肉体が膨張するとか、頭に角が生えるとか、そんな異常は見当たらない。



「…、まあ、確かに。」

「普通ね。」

「ん~…。私の体にとってだけ何か変に有害なだけで…。危険は無い、のか??」

「そうなんじゃない? あなたが食べないのは好きにしたらいいと思うわよ。」


 別に、好き嫌いで虚言を吐いてる訳じゃないけど…。

 むしろ鉄分を補給できるほうれん草は割かし好きな部類の野菜だったし…。多分、こっちのほうれん草もどきにもミネラル系統がたっぷり含まれてるはずだし。



「まあ、しばらく経過観察して様子見ましょうかねぇ…?」

「細かいわねぇ。好きすれば?

 そうだ。スライム達の変な行動を改善する案、何か出してくれない? ビガー姉達の依頼はそっちが主なんだし。」


 そう言えば。「スライム粉」の再生産を助ける為に来たんだった。

 今この時も、謎行動をするスライム達のお世話をする為に、エギィさんやジョージさん、ルータ少年達が施設の中でお仕事中なんだよね。余計な調査ばかりしてる訳にもいかないか。



「…そうですね。じゃあ、建物の中の様子を詳しく教えてください──」

「溶かされない金属で壁も床も覆われてて──」




 ──────────




 ミールさんと話すことしばらく。

 スライム達の行動の解明はできなかった。部屋の隅で団子状態でぴったり静止してるとか不思議過ぎるんだけどね。寒くて暖をとるなら日向に移動するそうだが、その移動すらしないとか…。新手の病気か?

 でも、牧場から離れて町に出荷した後は普段の動きに戻るって話から考えると、ウィルス・菌の感染による病気ではない気がする…。



 そして、ミールさんの様子に変化はない。普通に受け答えできている。


 まあ、体調急変とかがないってだけで、「赤ん坊の面倒を必死に()てるトニアルちゃん、──()いっ!」なんて、趣味(?)全開ではあったが…。

 なんか本当に日本の限界オタク感が有るよね。「プライスレスッ!」とか「尊い(てぇてぇ)…。」とか教えたら、使いこなしそう…。



「何よ?」

「いえ。変化もなく、いつも通りだなぁと思いまして。」半目…

「まだ料理のこと気にしてるの?」

「ええ、まあ一応。」

「暇ねぇ…。それよりスライムの対処は?」

「そっちも何とも。」


 スライムが集まってすることなんて、合体してキ○グスライムになるとか、ナメクジ・ミミズみたく遺伝子交換(交尾)しているとかくらいしか思いつかないし。

 前者は単なるゲーム脳の妄想、後者だったら牧場の人達が区別ができない訳がない。



「あなたも建物の中に入って直接見たら良いんじゃない?」

「そうしたいのは山々なんですが…。髪留めと腕輪を外してまでは、遠慮したいんです。」

「ふ~ん。そんなに大事なの?」

「これが無いと生きていけないレベルですね。」

「そこまでなの…。」

「ええ。だからこそ、この髪留めが反応したって事実は私にとって重いんですよ。」

「でも、現に何ともなってないわよ?」

「…そうなんですよね…。」


 風氏族エルフの魔力をそのまま圧縮してある塊だから、髪留めの方は腕輪と違って整備とかが必要ない。


 表面に彫ってある「紋様」も、別に欠けとか歪みとか異常はなかったことを一応確認してあるが。内部の魔力の流れとかがバグってるとかなのかなぁ…? システム異常で、変な結果が出力されてるだけ?

 だとしたらかなりショックなんですけど…。



「んぐぐぐ…。」必死に考える…

「(すごく悩んでるわね…。) ねぇ、テイラちゃん。1度、シリュウに見せてみたらどうかしら?」


 ミハさんが優しく近付いて、そう提案してくれた。



「ん~…、シリュウさんにアーティ──魔導具。風属性の魔導具を、見せても仕方ない気がしますが…。」

「ううん。そうじゃなくて。不思議な危険反応が出てる食材とか料理を、シリュウに見せるの。」


「…ああ! その手段()がありましたね。確かに、食べ物に関しての情熱は凄いですし。でも、魔力感知はあまり得意じゃない印象ですけど大丈夫ですかね?」

「そうね。感知の細かさに関してなら、トニアルの方が上かも。でも色んな国を旅してて食べ物の知識も多いでしょう? 何か気づくことも有るんじゃないかな、って。」


 なるほど。確かに。現状手詰まりと言うか謎ばっかりが増えてるし、目上の人の意見を仰ぐのは良いかもしれない。(物理的な目線は上じゃなくて下だけど。)


 シリュウさんに確認してもらいますか。

 何か分かると良いなぁ。


次回は30日予定です。

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