264話 詳細な追加調査と深まる謎
牧場での食事を食べている途中、危機察知のアーティファクトが変な反応をした。
かなり謎だが、食材に「毒物」?か何か、私に有害な物が有るっぽい。
でも、普通の毒ならいつも通りの警告音で反応するはずだし…。
この料理が恐ろしく「不味い」、とか…? いや、そんなはずは無いか。そんな程度の不快感で「危険」って判断する訳ないし、命に関わる味付けの物を出すはずもない。
未来が不確か…、って解釈するなら。
確率で、有害に成り得る…、そんな何かが含まれてる…?
例えば、「発ガン性物質」的な将来悪影響を及ぼす成分…、とか?
そうだ。確か、ほうれん草って食べ過ぎると結石ができやすくなるって聞いたような…?
いや、待て。この「異世界菜っ葉」をほうれん草もどきと呼んでいるが、見た目が多少似てるだけだ。同じ性質である可能性など極僅かだろう。
そもそも原因はほうれん草もどきなのか? ナッツみたいな木の実の方だったりするんじゃないか? もしくは、調味料って可能性も?
「テイラってば?」
ウルリが近寄って私に声をかけてきていた。不思議そうな顔で私を見ている。
「ウルリ…。
ねぇ。これ…、ウルリから視て、何か変なところない?」
「へ? いや、無いけど?」
「そっか…。」
「…? 私、ビガー姉と一緒に作ってたし、テイラも横から見てたでしょ? 何も変なことしてなかったでしょ?」
「だよね…。」
ウルリが訝しみつつも、心配そうに話を聞いてくれる。
これは正直に事実を伝えるのがベターかな。
「あのね、反応してるの。私の髪留め。この料理に。」
「え…。風魔法を放つやつだよね? 確か、命の危機を教えてくれたりも──? え!?何かヤバいの!?」
「うん。ただ危険度がよく分からないんだけど…、ともかくこの料理に何か有りそう…。」
その後、「嫌なら食べなくていいよ?」と言ってくれるビガーさんに大まかな事情を説明し、追加の調査をさせてくれないかと頼み込んだ。
私の髪留めのことを魔導具だと思っている様子だが、私の申し出に怒ることもなく快く応じてくれた。
ウルリが真剣に説得してくれたおかげである。
こんな頓珍漢な話を信じてくれて感謝しかない。
その気持ちに応える為にもこの現象の謎を解明せねば。
まず初めに。ウルリ、トニアルさん、ビガーさんの3人に改めて料理を確認してもらった。まあ、やっぱり皆、何も感じることは無いそう。
今のところ、無駄にヒステリー女が居るだけの状態である。
これが単なる私の妄言で、実害が無いと分かればそれはそれで良いのだけどね…。
それでも、親友の風魔法については全幅の信頼をおいている。とにかく、突き進んでみよう。
風の髪留めがどんな未来を予測しているのかは不明だが、その内容を考えるのは、一旦棚上げして。
「何」に「どんな条件」で反応するか具体的に調べてみるか。
見えてくるものがあるはずだ。
──────────
まず、私の取り分以外の、調理済みの炒め物を確認してみた。そして、どこを食べようとしても危機察知が反応することが分かった。
これで私の食べる分だけを狙って毒を盛られた可能性は無くなったな。無差別テロみたいなことではないなら、食材そのものに最初から問題があったことになるだろう。
次に、調理場に置いてある食材を片っ端から、口に入れる寸前まで運んでみた。
その結果、大まかな共通点が見えた。
謎の危険反応が有るのは「この牧場周辺で採れた野菜・実」そして「水」だ。
料理使った材料と同じ物を、生のまま噛ろうとしてみた場合、炒め物の時と同じ反応が出た。
ほうれん草もどき、ナッツもどきがアウトの模様。むしろ、生の方が反応度合いが幾分か強い。同種の素材漏れなく全てで反応が有ったから、これは育成環境か元から保有してる成分なのか。
塩とか油とかは反応無し。調理器具も調べてみたが、こちらは特段何も無かった。
重要なのが、炒め物に使用していない他の食材にも同じ反応が出ることも判明したことだ。
町から買っている、カブもどき、千豆の粉や塩なんかは反応は無かったのだが。
牧場内の畑に有るキュウリもどきや、林の中で採れる野草達は、食そうとすると「危険かも??」と反応するのだ。
極めつけは、水瓶の中に貯めてあった「飲み水」。これは牧場内にある井戸から汲んだ水らしいのだが、これが一番反応した。「──キィン…。」と普通に「危険」を知らせる音が鳴るレベルだったのだ。
ただ、普段から生水を飲めば大抵お腹を壊す私なので、これが食材達の異常と関係が有るのかどうかは断定できない。
別にゴミとかが浮いてる訳でも虫が湧いてる訳でもない、パッと見、綺麗な水なんだけど。
「これは…、牧場周辺の植物が、毒(?)で汚染されてる…? 公害とか、破壊工作的な…?」
「…、ちょ!? まさか〈汚染〉の〈呪怨〉ってこと!?」
「「え!?」」
ウルリの予測に皆の顔が強張る。
正体不明の殺人鬼が傍に居ると言われた様な、恐慌一歩手前の状態だ。
「待って、待って!? ごめん!言葉を間違った! 単に毒物が撒かれてるとか、そう言うニュアンスのことが言いたいだけ! 多分呪いじゃないよ!」
「ほ、ほんと?」
「うん。呪いに関係してるなら、もっと明確に危険の反応が出たはずだし。」
そもそもこんな場所を狙う意味が不明過ぎるし。
「そ、そっか…。良かった…。」
「植物で呪いって言われたら、紅蕾が関係してるのかと思ったぁ…。」
「や。ママがする訳ないじゃん、そんなこと。」
「もちろん、そうよ。
でもね、ママの立場を悪くしようとする奴は結構居たから。金竹を生み出した後なんて、ひどいやっかみがたくさんで…。」
「ギルマス達がちゃんと伝えてくれて、収まったんでしょ。」
「そうね。でも、最近は回復して動ける様になってきたって言ってたじゃない? 変な奴らも動きだしたってことも──。」
ビガーさんがひどく不安気に昔を語っている。
バカな連中が自らの不幸を「呪いの花美人」のせいに仕立てあげる、酷い話がたくさん有った様だ。
「その話でいくなら。マボアの町中で行動を起こす気がします。ここを狙っても女主人さんの立場を貶めるには微妙じゃありません?」
「テイラさんの言う通りだと思います。ここにはビガーさんって、紅蕾さんと繋がりを持つ人がいらっしゃる、訳ですし。印象を下げる噂も無いですし。」
ずっと聞き役に徹していたトニアルさんが、的確にビガーさんの意見を否定してくれた。
ビガーさんの顔に浮かんでいた険しさが、少し和らぐ。
「…、そうね。ごめん。変なこと言った。」
「や。私こそ、呪いとか口にしてごめん。」
「それを言えば、私が変なことを言いだしたせいですみません──。」
「だから──」
「でも──」
「それで──」
「あ、あの! 闇魔法、撃ちましょうか!? 撃ちますね!」
謝罪合戦の様相になった私達を見かねたのか、トニアルさんが精神を鎮静化させる魔法を発動してくれた。
暖かい(?)闇の霧みたいな紫色の煙が私達を包む。
わあ~…! 頭がスッと冷える様に思考がクリアになった…!
それでいて痛いとか寒いとかって不快感も一切、無い。この魔法、すごい…!
「ありがとうございます、トニアルさん。」
「凄いね、これ。」
「いえ。ちゃんと確認せず発動して、すみません…。」罪悪感…
「そんなそんな。助かりました。」
よし。スッキリした頭で、もう一度考えますか。
悩んでも解決しない問題は、頭数を増やして対処するのが得策だろう。
ミハさん達や牧場の他の人達に話を聞いてみよう。
ビガーさんの子どもは、ふわふわブランケットに包まれて鉄ベビーベッドの中でお眠です。
この子の描写を挟むと話が更に進まないので、カットカットォ!です。
次回は27日予定です。




