263話 睡眠環境と食事環境
誤字報告をいただきました。
間違いの指摘、とても助かります。深く感謝を。
それに付随して、作者が多用している「ら抜き言葉」について、方針を明示しておきます。
ら抜き言葉とは、例えば「食べる」「寝る」と言った言葉を使って「可能」の意味に変化させる場合、「食べられる/食べれる」「寝られる/寝れる」どちらを正しいとするかと言う問題のことです。
話し言葉で使う分には「ら抜き」も認める雰囲気なのですが、文章等の書き言葉においては明確に間違いであるそうです。
しかし、この作品は主人公の頭の中に展開される「独白」が主なので、「話し言葉」を適用するのが自然だと解釈しました。
なので、基本的に「ら抜き」表記のまま、これからも突き進みたいと考えています。
人によっては違和感の有る文章かも知れません。ご容赦のほどを。
寝台は硬い木製。その上の敷物は多少ガサついた肌触り。ちくちくはするがお日様の匂いもするくらいきっちり干されているし、寝れなくはないか。
しかし何より。最大の問題は。
掛け布団代わりの毛皮が、男臭い。
結論。
「汚物は消毒だぁー!!」ガバッ!!
「なんだ…?」
「うるせぇな…?」
「突然、男のベッドに寝たと思ったら。今度は奇声をあげて飛び起きた…。」慣れつつも引き…
──────────
謎の体調不良に見舞われる冒険者達の改善計画、その1。睡眠環境の調査。
と言う訳で、彼らを介助するついでに寝泊まり部屋にやってきた私は、まずは実体験をと空いてる寝台に寝てみたのだ。
まあ、結果はこの通り。ぐっすり眠るには少々苦しい環境だろう。
生活水準とか文化とかが日本とは大きく異なるとは言え、休むに休めない状態と言わざるを得ない。
つーか、この毛皮! 掛け布団じゃなくて普段使いの外套でしょ!?
自分の体臭に包まれるのは安心感に繋がってる可能性が有るっちゃ有るし、捨てろとは言わないけども! 寝具に使うのは流石に止めよう!?
「眠れなくなる要素は減らすべきです! ぐっすり眠ることこそっ! 健康の!第1歩っ!!」力説…!!
「そ、それがねぇと寒くて寝れねぇよ…。」
「代わりの物をあげますから! そっちを試してください!」
「なんか、くれるのか…?」
「ちょ。まさか鉄のベッド、あげる気?」
「ううん。掛け布団は鉄じゃ無理。だから──」
困った時のシリュウさんの下へ! ヘルプミー!
具体的には余ってる毛皮をくださいなー!
え?もっと良いのが有るだろ? ああ。それが有りましたね!
んじゃ背負子を作って大量輸送だー!
──────────
「──てな訳で! 使い心地はどうですか。」
「おお…、暖かいなぁ…。」
「すげぇ…。触った感じが、なんかすげぇ…。」
彼らに渡したるは、魔法の毛糸で編んだ「ブランケット」!
保温性抜群! そこそこの吸湿性を兼ね備えながら、さらりと乾く速乾性! 冬の寝具はこれで決まり!な1品だ。
それを敷物用に1枚・掛け布団用に2枚で、3人分の計9枚!
糸だけは大量に有ったし、完成品もシリュウさんの黒袋に入れれば場所も取らないし。夜の寝る前とかに暇潰しを兼ねて、ちまちま作りまくってた甲斐があったね!
まあ持ってきたのは、ミハさんが作った綺麗なやつじゃなく、ちょっと歪な私の習作だけど。
「差し上げますので、とりあえず使ってみてください。」
「あとで返せとか、言わねぇか?」
「言いませんよ。
あ、でも肌に合わないとかで寝れないってなったら、別の物と交換もできますよ?」
「肌には合いまくってる。これが良い…。」
「…、別の物って、何だ?」
「魔物の毛皮です。大きさは十分ですし、臭いも全然無いんですが…、加工してないからゴワゴワしますんで使い心地が微妙なんですよ。」
「魔物ねぇ…。俺らマントよりは良さそうだな。」
「だな。こっちは、動物の毛皮だけど…、そっちのは何の魔物の皮なんだ?」
「魔猪ですよ?」
「「…、あ…??」」理解を拒んで思考停止…
ぽかんと口を開けて固まった、寝転がってる男性2人。
ウルリが思わずと言った感じで口を開く。
「テイラ…。魔猪の毛皮は結構な高級品だよ…。」
「いや、そうは言っても火魔猪とか風魔猪のじゃなくて、土魔猪のだよ? 硬化してゴワゴワのガチガチになってんだよ? 寝具には使わないでしょ?」
「…、あのね。毛皮なのに硬くて頑丈だから、普通は鎧代わりの防具にするの。大人気なんだよ? 冒険者には。
そんな余った布切れみたいに扱わないで?」
「いや、だって…。実際にシリュウさんの持ち物の中では余りまくってるし…。
シリュウさん、肉以外の部分に興味ないし、一気に全部売ったら値崩れが酷いからって売却できないのが溜まってるんだよ。だから、需要が有って真っ当な相手ならあげようかな、って話してたんだよね。」
「…、竜喰い、さんって…。本当に…、」言葉が続かない…
「おじさんは、規格外の塊だから。」苦笑い…
「(え? この布を返したら土魔猪の毛皮くれんの? いくか? いくべき、か…!?)」絶賛悩み中…!
「…、(俺はこれが良いな…。肌触りが堪らん…。これが、『癒し』か。)」ブランケットすりすり…
──────────
「あいつらに食べさせてるのは、大体こんな感じ。」
「ほうほう、なるほど…。」
睡眠環境の次は食事環境を見ようと言う訳で、ビガーさんの手作り料理を拝見させてもらった。
流石はこの牧場内の料理を取り仕切るベテラン主婦。手際が凄い。手伝いのウルリとの連携も完璧だ。
やっぱり風魔法で食材刻んだり、水魔法で食材をサッと洗ったり、手を触れず浮かべて移動させたりするの便利だわぁ…。
って違う違う。
栄養とか有害物の調査をせねば。
主食になるのは、甘くて黄色い豆「千豆」を蒸して潰した物。マッシュポテトみたいなものである。
おかずは、菜っ葉と木の実を炒めた主菜に、赤い何かの漬け物な副菜、になる予定だそう。漬け物はらっきょうもどきじゃなく、小さな赤カブを塩漬けにした物っぽい。
肉は無いけどバランスは良さそうだ。
「ところでさ。この魔力が凄いスープ、本当に貰って良いの?」
「はい。料理の時間とかを変えてもらってますから、このくらいは。」
「だからって、魔猪スープをそんなデカ鍋ごと渡すのは、どうかと思うよ…。」
施設での作業を急遽中断させて、料理作りをしてほしいなんて頼みこんだ訳だからね。お返しはしないと。ギブアンドテイクってやつだ。
ウルリは何か不服そうだが。
「これは魔猪骨のスープじゃないよ。澄んだ色してるでしょ? ワンタン──ギョーザ──練った小麦粉生地、の中に魔猪肉がちょっと入ってるだけで、スープ自体は板肉からとった出汁だよ。」
「あ、そう…。(水精霊さんの魔力が凄くて、大差ないんだよなぁ…。)」生返事&目逸らし…
「魔猪骨? え?骨? 骨のスープが有るの?」
「うん。テイラってば変わっててね──」
「いや、それ──」
「──竜喰いさん、あの魔力の凄い赤い人が──」
雑談しながらも調理を続ける2人。息合ってるなぁ。
まあ、スープの受け取りが拒否されても、ヘヤヘアのブランケット(ミハさんが作った綺麗な方)をビガーさんの家族分も渡してるし、手間を掛けた分は相殺できてると思う。
ちなみにビガーさんの赤ん坊はそのブランケットに包まれて大人しくしている。側でトニアルさんが見ていてくれているので安全は確保できているはずだ。
──────────
居間らしき食事スペースに移動し、トニアルさんと合流。皆に見守られながら私1人、調査の為の間食をいただく。
目の前には、ビガーさんが作った料理から半人前分くらいを取り分けて物が並んでいる。
「いただきます。」手を合わせ…
うむ。このもったり甘い豆が美味い。顧問さんの屋敷で食べてるのと遜色はないな。栄養もばっちりな気がする。
さてさて、このお漬け物は──うん。良い感じ。
酸味が強く鋭いけど、シャクッとした歯ごたえと共に良い刺激だ。蕪の漬け物で相違無いな。塩味とのバランスもなかなか。マッシュ豆が進むね。
ビガーさんから、漬け物は人に依って好き嫌いが激しいから無理するな、とも言われたけど普通に食える。労働の後の体に良く効く感じだ。
お次は野菜炒め。パッと見はホウレン草とナッツの炒め物で美味しそ──
──ピーーー?
「え。」硬直…
「どした?」
小皿に移した菜っ葉を箸で口に運ぼうとしたら、頭の中に変な音が響いた。え?耳鳴り?
一旦、箸を戻す。謎音は消えた。
…。
もう1度、箸で摘まんで──
──ピーーー??
「んー…。」目を瞑って考え込む…
「さっきから何やってんの?」
確定。菜っ葉炒めを食べようとすると反応する。
ウルリが心配そうに見てくるが、正直それどころではないので一旦放置。
この髪留めの警告音は──いや、これは警告なのか??
危機感知の風のアーティファクトが反応してるのは間違いない。しかし、聞いた覚えのはない種類の音だ。
感じからすると、何か予測つかない未来が生じる可能性が…有るのかな…?
──ピンピーーン??
正解を意味する「ピンポーン!」風の音に、疑問符を付けるの止めてくれない? 判断に困るんですが。
これは、どうしたものか…?
次回は24日予定です。




