262話 新たな仲間(?)と環境調査
「と言う訳で…。
鈍亀ちゃんが、仲間になりました…。」
「」鉄パイプがじがじ♪
「…。」真顔…
私の鉄を噛ることに余念のない亀魔物、暴れ鈍亀ちゃん。
とにかく更なる助けが欲しくて移動しようとしたら、鉄パイプを咥えたままドシドシと歩いてくれた。鉄を引っ張っても抵抗する様子はなく、そのまま誘導に成功。暴れる兆候も欠片もなく、完全に「鼻先に人参をぶら下げられた馬」状態であった。
本当に大人しいので、道中トニアルさんが甲羅に触れることができ、精神に干渉する闇魔法を発動できたくらいだ。
まあ、分かったことは、精神鎮静化をするまでもなく落ち着いた精神状態であるってだけだったが。
少し興奮している心理的要素も有るには有ったそうだが、それは「美味しい食べ物を食べている幸せ」に近い非攻撃的なものらしい。
…その美味しい物って、もしかしなくても私の鉄ですよね?? いったいどういうこと?? 〈呪怨〉で創造した、元血液の謎金属なんですけども…。
そんな訳で。困った時の救世主、シリュウさんの下へ帰還した私達。
助けてください、頼りにしてます。
「…。まあ、良かったな…?」謎肯定…
「…、(竜喰いさん…、投げたな…。)」遠い目…
「…、(おじさんには些事だったか…。)」諦め…
「…良くなくないです…?」泣きそう…
「ギュギュ。」がじがじ…
──────────
「別に深刻になる必要もないだろう。単にテイラが亀に好かれたってだけだ。」
「それはまあ、そうなんですけど…。」
過程に目を瞑れば、厄介な魔物を手懐けて周辺の安全に貢献したと言えなくもないが。
「ただ…。最悪の場合、この亀が一生、私の鉄を食べる必要が。私が、ずっと側に居ないといけない可能性が、あるかも知れません。」
「…。否定はできん、な…。」
この懐き方からして、私の鉄が供給されなくなったら再び暴れる可能性も考えられる。なかなか不便な場所とは言え人が一切来ない訳ではないし、ここに放置していくと安全確保の名目で駆除される危険性がある。
暴れてた原因が不明である以上、どうにか対策を考えねばなるまい。
「そうなると。この鈍亀ちゃんを貰い受けて、代わりに新しい鈍亀ちゃんを牧場の方に提供する必要が出てくるかな、と…。
シリュウさん。その時はお力添えをお願いしても良いですか…?」
「…。まあ、その可能性は有る、か…。
力添えは俺じゃなくてイーサンだな。馬車馬代わりの亀魔物1匹、なんとかなるだろう。」
分解スライム達の出荷輸送は、専門の荷馬車が町からやってくる為、恐らく問題は出ない。
それでもこの鈍亀ちゃんは、スライム粉や嗜好品なんかの牧場運営外の物資を運搬する要員なので、居なくなったら困ることは困るはずだ。
「どのみち何かとご迷惑をかけますが、よろしくお願いします。」
「気にするな。テイラの判断は妥当だ。まあ、牧場の奴らと上手く話し合え。」
──────────
とりあえず鈍亀ちゃんを、餌(?)の鉄と一緒にシリュウさんに預けた私達。
あの鈍亀ちゃん、「魔獣鉄」の方には全く反応せず、私の鉄だけ噛るんだよね。魔法を弾く謎鉄の方が体に悪そうなんだけど…。
謎は深まるが今は放置することにして。亀魔物が居なくなった林を、もう1度きっちり探索してみた。
まあ、成果としては、放置してた鉄を幾分か回収できたり、鈍亀ちゃんが居た辺りに特段の異常が無いことが分かったりした程度だ。
鈍亀ちゃんの糞とか周辺の葉の食べ方から、ここしばらく体調も精神も荒れていたことが推察できたぐらいか。原因についてはやはり不明のままだった。
私の鉄で改善したんなら、貧血とか鉄分不足だったのかねぇ…? メスだし、更年期とか…。亀に更年期って有るのか…?? ましてや魔力たっぷりの魔物ちゃんなんだけど…。普通に魔法バンバン撃ってたから、枯渇してた訳でもないし…。
原因が分からないと対策ができず、対策が決まらないと鉄がどれくらい必要かが判断できない。
まあ、現状を素直にビガーさんや旦那さんに話すしかないな。これは。
牧場に向かうとするか。誰かと会えると良いが。
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「ねぇ、マジでポーション要らないの?」
「か、勘弁してくれ…っす…。」
「単にふらつくだけっすから…。」
建物の壁に凭れて座り込む男2人に、ウルリが確認の言葉をかけるがやんわり断られる。
ここはスライム施設の入り口。
誰か居ないかと探していたら、お調子者冒険者トリオ(の内の2人だけ)が座り込んでいたのを発見したのだ。最初はサボりかと思ったんだが、仕事中に軽く体調を崩したらしく休憩を取っていたそうだ。
まあ、上級ポーションを使うのは、下級冒険者にしてみれば勿体なさ過ぎて使う気にはならない様子。
代わりに、冷えるかも知れないが地べたよりはマシだろうと、鉄の椅子を作って座らせ、話を聞いた。
元気になったからと朝から張り切ったからバテただけだと、彼らは主張している。
トリオのもう1人はまだ仕事を続行しているそうだが、微妙に気分が悪そうに見えたとも言っている。
「情けねぇ限りっすわ…。」意気消沈…
「そんな無茶に体動かしてねぇんだけどな…。」疑問疲れ顔…
んー…、ガチの体調不良な気がするなぁ。
彼らから出てる雰囲気が、本物の疲労感と遜色ない重苦しいものだと私の直感が囁いている。演技の類ではなかろう。
とりあえず、また魔鉄ストーブで暖めてやるべきか…?
「僕、闇魔法が使えて、気持ちを落ち着けたりすることができますけど…、しますか…?」
「そんなん、有るのか。」
「要らねぇ…。」
「だなぁ…。体が怠いだけだし…。」
トニアルさんの申し出も断られた。効果が有りそうには見えないし、無理強いはできないか。
どうしたものかと悩んでいると、施設の入り口が開いてジョージさんが中から出てきた。普通に立って歩けている様だ。
「お、あんたらか。」よっこらせ…
「どうも、お邪魔してます。」
「おう。
お前ら、マシになったか?──無さそうだな…。」
「大丈夫っすよ。」
「もう戻るっす。」
「要らん、要らん。俺も復帰したしあの娘らも居る。お前らはまた休んでろ。」
「いや、マジで──」
「やれるっす──」
ジョージさんは休む様に指示を出すが、彼らは青い顔のままそれを拒む。働く意志は有るみたいだが、体が言うことを聞かない状態なんだろう。
これは慢性的な病症、って感じだなぁ。となると「環境」が原因か…?
寝具が体に合わないとか、壁紙から有害物質が出てるとか、床が傾いてるとか…。もしくは栄養失調…?
いや、栄養失調は無いな。昨日、完全栄養食たるギョウザスープを結構な量、食べた訳だし。そんな一気にプラスのパワーが排出・消失するはずが──待てよ? 有り得るとしたら、「魔法」で何かされてる??
いや、こんな町から離れた場所の日雇い労働者達にそんな面倒なことする奴が居るのか??
「ジョージさん、今お時間よろしいですか? 鈍亀ちゃんのことでお話が有るんですが。」
「お、おう? (鈍亀『ちゃん』…?)」
──────────
「なるほどなぁ…。」
「本当に、すみません…。」
「謝ることは無いだろう。まあ、鈍亀とは長い付き合いだから寂しくはあるが、仕方ないことだ。」
鉄を食べるのに満足したら、以前の様に元通りって可能性もある。楽観視は難しいから、それ前提で話を進めることはできないが。
「鈍亀ちゃんの処遇は一旦棚上げするとして。
私は、この人達の体調不良が、鈍亀ちゃんの暴走に何か関連が有るのかなと思ったんですよ。」
「原因が同じだって言いてぇのか?」
「可能性の問題ですが。何か、彼らと鈍亀ちゃんに共通点は無いですかね?」
「共通、って言ってもなぁ。」悩まし気…
「例えば、同じ物を食べてるとか同じ場所で活動してるとか。」
「そりゃ同じ物は食ってるだろ。林の中にも行かせてるから場所も同じだ。」
「まあ、そうですよねぇ。」
それでも、生活環境の調査は1度してみるべきか…? 何か見えてくることもあるかも知れない…。
次回は21日予定です。




