261話 いざ、狭間の世界へ?
「ふぅっ…、ん~~~っ。はぁっ。」伸び~~… 脱力…
ふあぁぁ…。微妙に寝たりないな。眠い…。
翌日、スライムチームが朝早くから手伝いに出掛けた為、私達鈍亀チームも林に向かうことにした。
冬でも動きが変わらない異世界太陽の光を浴びながら、少し溜まった疲れを飛ばす為に体を解す。暖かマントから腕を出すと寒いけれど、それがまた意識覚醒に一役買ってくれる。
戦闘警戒態勢なウルリがこちらに顔を向けて声をかけてきた。
「だるそうだね。」
「まあね。ミールさんっ、のっ。せい、だけど。」ぐ~っと伸び伸び…
あの薄着モンスター、夜中にトニアルさんの部屋に入ろうと、私を起こしに来やがったからね…。
眠らないシリュウさんが部屋の入り口を見張ってたから、正面から行くのは不可能と判断したらしいが…。なんかトラブルかと焦って起きて損したよ。
しかも「夜這いじゃないの。寝顔を一目見るだけで良いのよ。」(真顔でキリッと!)とか、ふざけたことを宣ってたし…。
ウルリが連れ戻してくれなかったら、最悪、鉄針刺してたところだったよ。
「なんかごめんね…。ママが居ないとあそこまで獣みたくなるなんて…。」遠い目…
「いや、むしろ助けてくれてありがと。
そっちは少しは寝れた?」
「私は元々寝るのは少しで済むから。先にたっぷり寝たし。」
魔猫族は動物の猫よろしく、睡眠が浅く短くで済むんだとか。その体質を利用して、夜間に野宿する際の見張り役を自然とこなす生活をしているそう。冒険者の鑑だね。
「まあ、ミール姉を止めるのは疲れたけど…。(結局ずっと起きてたし…。) 動くのには問題は無いよ。」
「僕、普通に寝ててごめんなさい…。」
「なんでトニアルが謝るの。」
「そうですよ。謝ったらダメ──いえ、謝る必要ないですよ。
むしろ、こんな任務になってしまって、こちらこそ申し訳ない…。」
冒険者ではない職員さんだからこそ、色々と気を配る必要が有ったはずだ。
そう思って謝罪するとトニアルさんからも謝罪が返ってきて無限ループが始まった。
「──トニアルさん! 今日こそ鈍亀ちゃんを攻略しましょう! 精神鎮静の魔法、よろしくお願いしますね!」
面倒くさくなった時は、未来に眼を向けよう!
行く先を朝日が眩しく照らしてくれている…!
「…、そ、そうですね?? 頑張ります?」
「(強引に話変えたな…。) まあ、昨日あのまま放置したし、今日どうなってる、か──!?」バッ!?
ウルリが突然、進行方向に顔を向けた。
ん? 普通に林の木々が見えるだけで、別に何もないと思うけど…? 髪留めも反応してないし──
「ギュギュギュギュ!」ドシドシドシ!
「やっぱり!?」
「「!?」」
林から何かが飛び出してきた。
猛烈な勢いで巨大な塊が、こちらに向かってくる。
ゴツゴツした甲羅に、首の見えない穴。間違いなく昨日の暴れ鈍亀ちゃんだ。何やらテンション高めの雰囲気。これはヤバい。
「きょ、距離、取って!」
「了っ解!」
「はいっ!」
ウルリの声に全員が全力で後退する。決して鈍亀ちゃんから目を離さず背中も向けず、斜めにズレる様に素早く動く。
しかし、鈍亀ちゃんは完全に私達を追尾していた。小山が動いて突っ込んでくると錯覚しそうな迫力が有り、かなり恐ろしい。
「惹き付ける!」ダダッ!
「ウルリさん!?」
「任した! トニアルさん、今は移動を!」
追いつかれると判断したのか、ウルリが囮になって前に出てくれた。
こうも開けた場所では隠れてやり過ごすこともできないし、牧場の方に逃げ込んでも他の人に被害が及ぶ。
うまく距離を取って押さえ込むか、林に誘導するか──
「ギュギュ!」ドシドシ!
「あれ!?」急停止!
「なっ!?」
暴れ鈍亀ちゃん、まさかの囮をスルー。全く目もくれず、変わらずこちらに向かってくる。
「ええい!?」反転して、弱小『風弾』連射!
ウルリが風魔法らしき攻撃を撃ち出すが減速せず、反応も皆無。全く意に介していない模様。
私だけなら身体強化全開で振り切れる速さだが、トニアルさんを置いていくことになるから論外。なら──
「トニアルさん!そのまま行って!」
「で、でも──」
鉄槍、展開! ここでどうにかするしかない!
正面からは無理でも、横槍を入れれば、足止めくらいは!
「ギュギュギュ~!」ドシドシ!進路変更!
ん!? 私の方に向き直って加速した!? 狙いは私!?
昨日の恨み(?)を晴らしに来たか!?
とにかく2人とは違う方向に動くと、鈍亀ちゃんも追随してきた。
はいっ確定! 私個人を狙ってる!
まあ、それなら都合が良い! このまま私が惹き付ける!
「テイラ!?」
「私がやる!」
私は槍を構えたまま、亀魔物を林へと誘導するべく身体強化で加速しながら大回りで移動する。
鈍亀ちゃんも私を正面に捉える様に体の向きを変え、突進してくる。その視線は私に向いているのだろう。
熱烈ですね! 私のファンかな!? お触り厳禁でお願いしたい!
いや、あの亀はメスだからまだ良いか──良くないって!潰されるって!
アホなことを考える余裕はあるが、打開策は何も思い浮かばない。このまま林に入って適当にやり過ごすのがベターか?
「テイラー!? その鉄槍、捨ててー! それ目当てだよ多分!?」
え!? 狙ってるのは鉄の槍の方!?
そうか! また噛りたいんすね!
いや、マジか!?? 昨日の鉄はどうした!?
「ならっ、収納!」腕輪起動!
鉄槍を消してみた。これで餌(?)を見失って暴走が止まったり──
「ギュギュギュ?」ドシ… ドシ…
良し。減速した。
それに合わせて私もゆっくり減速しつつ距離を取っていく。
しかし、鈍亀ちゃんも遅い足取りではあるが確実に私を目指して移動を続けている。
このまま移動させるのが正解かな? いや、一旦止まってみるか。
「…。」そろり… そろり…
「ギュギュー。」ドシドシ…
「…。」停止…
「ギュー。」停止…
「…?」じーっと観察…
「ギュギュギュー!」鳴き声…
「だ、大丈夫?」
「うん、多分…。『危機予測』も反応してないし…。」
「ギュギュー!ギュギュー!」
ウルリが距離を取りつつも私をサポートできる位置に来てくれた。
それを気にする様子もなく、暴れ鈍亀ちゃんは私の方に向いてずっと鳴き続けている…。
昨日みたいに魔法を撃ってくることもなさそうだけど…。なんだろ? 威嚇の雄叫び? な訳ないな。自分から突っ込んできてんだし…。
何かを訴えてる様に見えるけど…、もしかして、「催促」されてる?
「…。」そ~っと腕輪起動…
「ちょ!?」なんで鉄出した!?
「ギュギュ~ウ!」ドシドシ!
新しい鉄パイプを取り出してみると、途端に素早い動きで寄ってきた。
「ギュウ~!」パクリ! もぐもぐ…
パイプの先端が頭の穴へ消え、中から凄い音と共に嬉しそう(?)な声も響く。これは、何て言うか…。完全に餌を貰って喜ぶ動物の図だ。
無理に引っ張る様なこともなく、大人しく(?)鉄を噛り舐めている。
「あれだな…、竹輪で餌付けしてる気分だな…。
魚の練り物じゃなくて、呪いの鉄パイプなんすけどね…。」
「ギュ~♪ ギュ~♪」ゴリゴリ… ゴリゴリ…
「き、昨日の鉄棒は全部、舐め溶かしたのかな…??」
「どうだろうね…。単に飽きて放置しただけかもね…。
まあ、元気そうだし、大丈夫、なのかな…??」
「た、多分…? テイラに懐いた風にも見えるし…?」混乱中…
『どんがめ が なかま に なった!』 展開です??
暴れ鈍亀を手懐けて、人力車を牽く馬代わりにする王道ストーリー、始まりました?
ってことは、実はその亀が天馬ならぬ天亀(?)で甲羅から翼が生えて、「狭間の世界」へと馬車ごと誘ってくれる…、的な?
どこのドラゴンでクエストな6だ…。
ん? 羽の生えた亀って、むしろマ○オのパ○パタ? 踏んづけたら、羽が消えてノ○ノコになるのか?
どのみち、空の彼方へ、フライアウェイ?
「私の常識が飛んでいきそうだよ…。」遠い目…
「…、(よく分からないけど。これで依頼的には完了かな…?)」警戒続行中…
合流した半夢魔君
「僕、必要なかった感じかな…。」ははは… 乾いた笑い…
次回は18日予定です。




