258話 マッサージと真の原因
「どうですか。」ぐぅ~っ! ぐぅ~っ!
「お、思ったより、効きやがるっ、な…。」軽く痛みに耐える…
寝台の上で俯せのお爺さんと、その臀部を触っている(肉体は)若い女。
よくよく考えると危険な絵面だな。
ミハさんとエギィさんの不安そうな表情も頷けると言うもの。まあ、疚しいことは一切無い真面目な治療行為なので、続行するが。
「結構、張り感ありますからねぇ。」ぐぅ~ ぐぅ~
「どう、言う意味、だ…?」
「酷使──えーと、普段から良く使っていて、疲れが溜まってる感じ、ですね。」
「ま、まあ、な。足の踏ん張りが、肝心、だからな、っ。」
ん~…。腰の痛がり方からして真の原因箇所は激痛クラスのはず。私の経験則通りならば、だが。
この反応からすると、臀部の筋肉はそこまで関係ないかな?
「すみません、次は足の方も触っていきますね。痛みがあったら教えてください。」
「…、まあ、頼むわ。(最近は痩せてきやがったからなぁ。)」
ぐ~! 少しズレて ぐ~!
お爺さんの太ももの裏を、付け根側から足先に向かって位置を変えながら順に押していく。
腰と繋がる足や膝の筋肉が固いと、連動して影響が出ることもある。日頃から良く歩く仕事をしてる人な──
ぐ──
「痛!?!!?!」突然の叫び!
「お、ここか。」箇所特定!
「テイラちゃん!?」
「どうやら膝の裏の上部に、凄まじい筋肉の『張り』が有るみたいですね。」軽く押さえる…
「~~~っ!!」それどころではない痛み…
「や、やり過ぎよ…?」
「いえ、本当に軽くしか触ってませんよ。ミハさんも代わってみます?」手を離す…
「えっと、失礼しますね…?」恐る恐る…
「お、おう…。軽くで、頼むわ…。」ゼェ…ハァ…!
ぐ…
「痛!?!?!」
「ごめんなさい!?」手を離す!?
「完全にここが真の病巣ですね~。
この激痛箇所を解せば、腰の動きもマシになるはずです。多分。」
「ま、待ってくれ…!?」
「ちゃんと観察しつつ、ギリギリの力で触りますから。
では。やっていきます。」
「ちょ、まっ──~~~~っ!!」痛みで硬直…!!
「だ、大丈夫かしら…。」心配がいっぱい…
「…、(これ、おとぎ話で、貴族とかが奴隷にする『拷問』ってやつじゃん??)」無言の混乱中…
──────────
「嘘だろ…!?」驚愕…!!
「まあ…!」感動…!
「…、現実じゃん??」大混乱…
ジョージさんが上半身を起こしている。
マッサージ後、試してみたらゆっくりとだが、自らの力だけで腰を動かせたのだ。
本人含めて皆が驚愕している。いやぁ、上手くいって良かった。
「固まってた筋肉に引っ張っられて骨とか関節とかが歪んでる可能性も有ります。そっちは安静にしつつ、下級の回復ポーションを飲んでおけば自然と治ると思います。」
「本気で腰が軽い…。凄いな、あんた!!」
話、聞いてます?
「いや、そんな褒められる様なことじゃ──」
「俺に恨みでもあんのかと思ったが、凄い魔法だったんだな!」
「いえ。魔法じゃないです。ついでに恨みも無いです。
これは、人間の体に元から宿ってる不思議な回復力ですよ。」
「…、魔法じゃねぇのか…?」
「はい。誰がやってもこうなります。」
「腰周りの体内魔力がきちんと流れはじめてるわ~。膝の裏を揉んだら、こうなるなんて…。凄いわ、テイラちゃん。」
「こんな按摩は初めてだ…。助かった。」ぺこり頭下げ…
「いえいえ、お役に立てて良かったです。」
「良くこんな方法知ってるわね。感心しちゃうわ~。」
「ははは…、まあ、魔法が使えない身なんで、色々と…。」
前世で、漫画家(の卵)時代に整骨院に良くお世話になってた名残です。とは言えんしなぁ。
ペンタブ使いまくって腱鞘炎とか、長時間のデスクワークでの腰痛とか、実体験してるだけなんだよな…。普段の姿勢悪過ぎるんだよね、私…。
「こりゃ、すぐにでも仕事に復帰できそうだ。謝礼はビガーさんに貰ってくれるか? 彼女が家の金をやり取りしてる──」
「いえいえ!? 単なるマッサージですから! お礼なんて貰えません!?」
「そうはいかん。上級ポーション並みの治療をしてくれんだ。対価は払わねぇと。」
「いや!? 単にマイナーな知識を知ってただけですんで!?」
「それでも──」
「ですから──」
──────────
「──ってことで。テイラちゃんのおかげでジョージさんは完全回復したわ~。」
「そうか。」もぐもぐ!
「テイラちゃんたら、『お孫さんを半殺しにしたんでお礼は結構です!?』って報酬を突っぱねてきちゃってね~…。」
「…。まあ、テイラらしい、な…。」
「そっちはギルドを通じて成功報酬がシリュウに回ってくると思うから、上手くしてあげて。」
「イーサンに任せる。」
所変わって牧場外に設置された鉄の家。お昼ご飯休憩の最中だ。
ミハさんが牧場内の出来事をシリュウさんに報告している。
私は今、たこ焼きを焼き回すので忙しい為、話が聞こえてもツッコミを入れられない…!
「住込み冒険者の皆さんは、シリュウのご飯を食べて元気になったし。明るい兆しが見えたわね。」
「あれを作ったのはミハだろう。」もぐもぐ…
「調理方法はテイラちゃん。魔猪の骨の無毒化と輸送はシリュウでしょう? 2人のおかげよ。」
「…。まあ、いいが。」もぐもぐ…!
この牧場の微妙に遠いって悪条件を踏破してくれたシリュウさんこそ、最大の立役者である。感謝の料理に手を抜けないのだ…!!
「…。(テイラの奴、調理に没頭してるのは現実逃避か何かか…? まあ、たくさん食えるから良いか。)」もぐもぐ!
「美味しいわねぇ、これ。」出汁に浸けてもぐもぐ…!
「私らまで、こんなん食べて良いの…!?」
「まあ、良いんじゃない? 仕事はしたんだし。」
「物、運んだだけだよ…。」
「ビガー姉の話を伝えたりもしたじゃない。」
「そんだけじゃん…。」
「食べれる時に食べときなさい。それも仕事よ。」
「う、うん…。」
なんか遠慮してるエギィさんだが、こちらはミールさんに任して大丈夫だろう。流石は頼れる中級冒険者。貫禄が違うね。薄着だけど。
私は彼女らの分まで含めて量産する…!!
たこ焼きは、生産数こそ命…!! 焼いて焼いて焼きまくるぜ~!
「お。良い匂い。」玄関ドアを開けつつ…
「ただいま戻りまし──」
「お帰りぃ!トニアルちゃん!! 料理できてるわよ、こちらにいらっしゃいな!」ギラギラ笑顔!
「あ、うん…。」
年下豹変が無ければ、良い人なんだけどなぁ…。
トニアルさんだけでも、先に帰還してもらうべきだろうか…?
──────────
「いや、もうあれはヤバいって。」
「うん…。凄い亀魔物だった…。」
「鈍亀とは別の魔物、ってくらい凶暴だよ。」
「先行してた雨瑠璃さんが、亀の魔法に当たりそうになったもんね…。」
「鈍亀が攻撃魔法、撃ったの!?」
「しかもウルリに当たりかけた…!?」
「出会い頭に『岩弾』…、いや『岩撃』かな? まあ、速い速い。ちょっとだけ危なかった。」へらっと笑う…
「盾の魔法、覚えてて本当に良かった…。」しみじみ…
たこ焼きパーティーをしながら、ウルリとトニアルさんの報告を聞いていく。
こちらのコンビは、かなり大変だった様だ。温厚の代名詞たる鈍亀ちゃんと戦闘になるなど、日常では有り得ないことである。任務クリアは難しそう。
「亀の機嫌が悪いのは感じとれたから、多分何かしら怒る要因が有ったんだと思うだけど…。」
「林の中とか、牧場の周りとか、一通り見て回ったけど他におかしな物もなかったし…。こっちは原因不明。」
「産卵期、とかだったりするのかしら…?」
「ん~、番の亀魔物は見当たらなかったけど…?」
「病気とか?」
「それかも。」
「亀魔物が魔法を撃つ時は、身の危険を感じる相手のはずだが。」
「夢魔族の気配のせいかな──?」
「牧場の人達の言うこと聞かないくらい暴れてるんでしょ? 違うんじゃない?」
「トニアルちゃんの精神鎮静魔法は重要よ。ウルリの身軽さも攻略には必要だと思うわ。」
「人選は妥当だろうな。」
ルータ少年か住込み冒険者の誰かが、酷い悪戯でもしたのかなぁ…? でも大事な労働力たるパワフル魔物に仕掛けるほど、愚かかなぁ?
まあともかく、この後は全員で鈍亀ちゃん対策に挑むべきだな。
あ、でもスライム牧場の方の手伝いも残ってるし、直接戦闘ってなるとまともに戦える気もしないしな…。
どうするかな…?
次回は9日予定です。




