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257話 従業員の不調改善策

 色々と揉めかけたが、なんとかスライム牧場の中に入った私達。

 まずは、体調不良を訴えている従業員の健康回復に務めていった。



「」ごくっ!ごくっ!ごくっ! 無言の流し込み…!!

「うめぇ…。」夢見心地…

「あったけぇ…。」ほわほわほわ…


 粗末な寝台の上に居るのは、雇われ従業員をしている冒険者3名。

 今にも昇天しそうな雰囲気で、幸せを噛みしめている様子だ。かなり大げさである。


 単に魔猪骨(まちょこつ)ギョウザスープと、魔鉄ストーブを提供しただけの話なんだが。



「えらく元気になりましたね…。」

「まあ、あんな美味しい物を食べたら仕方ないんじゃない?」

「最初の拒絶感が嘘の様ですね。」

「そうね。」


 ミールさんと2人、観察しながら雑談する。


 ミハさんの診察を受けた時は、綺麗な女性に手を握ってもらえるからとデレデレしてて。

 一般的には毒物である魔物の骨を煮込んだスープ、って解説にはビビり散らしてて。


 そして今、この状況。なんだかなぁ…、である。



 確かに具合は悪そうだったけど、ミハさんの触診でも、体調不良の原因は判然としなかったし…。もしかしたら仮病だったのか…? いや、どうだろ…。


 シリュウさんに料理の提供と魔鉄の一時貸し出しの許可貰ったのは、失策だった(早まった)かなぁ…。



 ガコッ

「お。あんたら元気そうじゃん。」


「姉御! おはようございます!」

「めっちゃ元気になりました!」

「姉御。マジ凄いっすよ!」


 ミハさんの案内をしていたビガーさんが戻ってきた。

 赤ん坊を背負ったままだが、ルータ少年の姿はない。奴にもこのスープをお詫び代わりにやろうかと思ったんだが、ガチ逃げされてるかなこれは。



「へぇ~…、確かに美味しそうじゃん。」

「あ、良ろしければ、ビガーさんも食べます? かなり特殊な素材を使ってるので、お口に合わない可能性もありますが。」

「…、確かに特殊だね。凄い…なんかこう()んだ…魔力だし…。」


 尻込みしているのか、台車の上に乗る寸胴鍋をじっと覗き込むビガーさん。

 私も、授乳期のお母さんが食べて平気かどうか不安だからね。判断は本人にしてもらいたい。



テイラ(この子)はこんなこと言ってるけど、安全は保証するわよ。何せ紅蕾(ママ)を回復させた代物だから、これ。」

「マジか。そんな凄いの貰って大丈夫な訳?」

「いや、そんな大層な物じゃな──」

「特級冒険者、この素材をくれた本人から許可貰ってるから大丈夫よ。」

「とっきゅう…、ってあのヤバい魔力の子(赤い人)?」

「ええ。超級より強いそうでね。魔猪の森(もり)に『風の(ヌシ)』って居たでしょ? アレを()で倒したそうよ。」


「「「「…、」」」」


 料理を食べてた3人もビガーさんも、全員の目が点になった。「嘘でしょ?」って感じの驚愕が顔に出ている。



「ね、ねぇ。なんでそんな凄い人が牧場(うち)に来てる訳…?」

「この子がその人の『連れ(ツレ)』だからよ。」


 ミールさんが私を見る。つられて全員の目が私に向く。



「それで、この子が(うち)の『美人強壮』の上客なの。ママを助けてくれたのも、この牧場を手伝いに来たのもそれが理由。」

「…、マジかー…。美人強壮(あれ)を気に入った人が協力しに来るって聞いてたけど。ママの甘味が、超人を引き寄せたかー…。」


 いや、そんな良いもんじゃないと言うか、単なる偶然の流れと言うか…。でも言ってることは事実だけに否定できない…。



「あははは…。

 ミールさん、私、ミハさんの方、見て来ます。ここお願いします~…。」


 私はそそくさと部屋から退散したのだった。




 ──────────




 えーと、確かここだったはず。



「──巡りが──なので──」


 お、ミハさんの声が中から聞こえる。

 ノックを──



「──試しに、上級ポーション──」

「止めとくれ!?」突然の大声!!


「!? ミハさん!?」ガコッ!


「アッ(つぅ)…!」



 勢い良く扉を押し開けると、寝台の上で横になってるお爺さんが(もだ)えていた。

 (かたわ)らには焦ってるミハさんとエギィさんが居る。



「えーと、大丈夫ですか…? 失礼します…?」

「だ、大丈夫だ…。」うぐぅ…




 ──────────




 このお爺さんはジョージさん。ビガーさんの義理のお父さんだ。

 腰を悪くして寝たきりになりかけており、仕事どころか日常生活も(まま)ならない状態。下級ポーションは何度か服用したが、歳のせいか回復する兆しはまるで無いそう。


 起き上がって食事をするのも億劫(おっくう)な様子だったので、魔猪骨スープは持って来ず魔鉄ストーブだけ置いて私は一時退却していた。


 その後ミハさんがじっくりと魔力を使って触診したところ、お爺さんの体内魔力はかなり(とどこお)っており、結構不味い状況だと感じたらしい。

 そこで腰痛の早期回復の為、回復力の強い上級ポーションを使うことを提案したのだが即座の拒絶をされた…。


 と言う経緯の様だ。



「ジョージさん。下級のポーションで治らない時でも上級ポーションなら治りますよ?」

「そ、そんな高価なもん、たかが(ジジイ)腰痛(こしいた)なんぞ使ってくれるな…。」

「気持ちは分かります。けれど、牧場の運営にも支障が出ますでしょう?」

「若い奴らがしっかりやってくれりゃあ良い…。」

「その若い人達のお尻を蹴り飛ばすのが、あなたの役目ですよ。その為にもちゃんと回復して、睨みをくれてやらないと。」

「あんた、ジジイに容赦(ようしゃ)無いな…。」

「こう見えて私、あなたと歳の差はそう無いんですよ?」うふふ…


 ミハさんが上手く会話するものの、上級ポーションの使用はとことん拒否するジョージさん。


 まあ、気持ちは分かる。今でこそほいほい使う様になっちゃった私だが、「飲んだだけで即座に傷・病気が治る高価な薬」など恐れ多くて触りたくもないのが一般人の感覚だろう。



「あー、ミハさん? 私もちょっと()ても良いですか?」

「あら、どうするの?」

「上級ポーションを飲んでもらう前に、マッサージで回復しないかと思いまして。」


「まっさーじ…とは…?」

「あ、えっと…、按摩(あんま)──指圧(しあつ)──要するに、指で体を()(ほぐ)してみようかと。」


「ああ、ゴウズさんが言ってたやつね? 長年の手首の痛みが消えたって。」

「あれはたまたま上手くいっただけですけどね。やるだけならタダですし、お試しでどうかな、と。」


「まあ、揉むだけなら。お願いすっかな…。」


「分かりました。

 痛いとか不快だったらすぐ言ってください。改善しますんで。」

「お、おう…。(随分、言葉使いがバカ丁寧な娘さんだな…。)」


 なんとか(うつぶ)せになってもらったジョージさんの腰を、指に体重をかけながら慎重に押していく。



 ぐ~…! ぐ~…!



「どうですか?」

「おう。良いぞ。」

「慣れてる感じですね?」

息子の嫁(ビガーさん)にもいくらか揉んでもらってっからな。」


 ん~…、でも、この張り感はなかなか辛いだろうな。



「骨に異常が有るとか、神経にダメージ──傷が入ってるとかだとお手上げ、ですが…。」ぐっ!ぐっ!

「そう言うのは、下級ポーションでも回復効果(こうか)が出るはずだわ?」

「ですよね。」ぐっ!ぐっ!


「いやぁ、いくらか軽くなったわ。ありがとうな、お嬢さん。」


 朗らかな顔でそう言うジョージさん。しかし、明らかに改善の様子はなく動きは緩慢なままだ。



「ん~…、もう少しやっても良いですか? 今度は別のところをやってみたいんですが。」

「あ…? 痛いのは腰だぞ? いったいどこやるってんだ?」


「そうですね…、まずは『お(しり)』かな?」


「「!?」」

「…、(なんかまた凄いこと言いはじめたな…。)」慣れのあきらめ…


次回は6日予定です。

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