256話 私への判決と牧場のお手伝い
「…、何が有った訳…?」
ミール先輩とウルリ先輩が、人を連れて牧場から戻ってきた。
2人とも、この場の惨状を見て引いている。
まあ、血塗れのボロ服を着た子ども(とそれを介抱しているミハさん親子)と、地面に正座してる私の図だもんね。当然である。
「か゛あ゛ぢゃ ん゛っ!!」ダダダっ!!
「ルータ、なんで外出てるの。」
ガシィッ!!
「」ひっぐ!えっぐっ!! ボロ泣き…!!
先輩達と一緒にやってきた女性が見えるや否や、クソガキ君は脱兎の如く駆け出しその足元にしがみつく。
どうやらこの子の母親らしい。背中に赤ん坊を背負っていて、30代くらいの作業着の女性だ。スリムに見えるが、現役の冒険者の様な筋肉を感じる。
これは。ガチビンタも相当な威力になるだろう…。自業自得で受け入れる他に無いな…。
「…、(ちょ、ボロボロ過ぎない…?)」
「…、(さてはこの子、竜喰いさんにでもちょっかいかけたわね…。)」
先輩2人がクソガキと私を交互に見る。大体の状況は察していることだろう。
地面に両膝を突いた状態で手を挙げて、声を出す。
「ごめん、なさい。私が、その子を、やりました。
半殺しにして、回復薬かけて、また半殺しにしました。」
「ふーん。」
「」えぐっ!えぐっ!ボロ泣き涙…!
「さっそく、やらかしてくれた訳ね…。」
「えー…。どうしてそうなった…?」
「ご説明、いたします…──」
──────────
ミハさんやトニアルさんが私を庇う様な話を混ぜてくれたものの、私は、私の身勝手な意思の下で子どもに過剰な暴力を振るったことを説明した。
ミールさんもウルリもやり過ぎだと引いていたのだが。
ルータ少年のお母様、ビガーさんは特に表情を変えず、普通に話を聞いてくれた。
怒りが強過ぎて真顔になっている、って感じでもなく。日常会話の如き普通の声色での、受け答えであった。
「うちのルータが迷惑かけたね。」
「いえ…! どんな理由が有ろうと子どもに過度な暴行を──」
「──まあ、いいや。それで手伝いの話だけど。」
「…え゛っ?」
ビガーさんが、私の所業を丸ッとスルーする様な態度を取った。ボロ泣きの息子を足にくっつけたまま、何でもない様に次に移ろうとしている。
「? 手伝いに来てくれた人じゃないの?」
「いえ、あの、手伝いたい気持ちはバリバリ有りましたけど──」
「そ。なら、お願いするわ。」
え? お咎め無し??
「いや、私、お宅のお子様を暴行した、最低暴力女なんですが…??」
「はっは! この子、面白いね。」普通に笑う…
「あの! 冗談の類いではなく、マジでやっちまったんですが!?」
「いいって、いいって。このバカがやらかしたんだし。外から来た人にはちゃんと挨拶しろって言ってんのに、聞きやしない。」
「」えぐ… えぐ… すすり泣く…
「今日は町から冒険者とか色んな人が来るから牧場に居ろ、って注意したのに。無視したからこうなったんだ。むしろ、上級ポーションまで使わせて悪かったね。」
「いえ!?!? 謝るのはこっちでごめんなさい!?」
「あゃー…。」
背中の赤ちゃんがちょっとグズりはじめた。後ろを見ずにあやすビガーさんが、少し考えてから口を開く。
「(この青髪の子が)面倒くさそうだから、ウルリ。あと任せた。」
「えー…。」
「返事は?」
「はいはい。分かったよ、ビガー姉。」
「いや、その──」
「あー、良いから良いから。気にしないで良いよ。」
「で、でも…。」
赤ちゃんを刺激する様な大きな声を掛ける訳にもいかず、ビガーさんは息子を足に侍らせたまま牧場に戻ろうとする。
と、1度立ち止まってこちらを──いや、シリュウさんの方を見て声を出した。
「あ、そっちの赤い人。」
「…。なんだ。」
「うちの子どもが迷惑かけてごめんなさい。」
「…。気にするな。」
「謝りついでに。悪いんだけどあなたは牧場には入らないでくれると助かるわ。」
「そのつもりだ。
この辺りに寝泊まりの拠点を置くが、構わないか?」
「できるなら、もう少しだけ離れてくれると──南の方とかに──ありがたい、かな。」
「分かった。」
「ミール。凄い魔力の人以外は入っても問題ないから、適当に上手いことしておいて。」
「りょーかい。」
──────────
「それじゃ、まとめるわよ。
ミール、エギィ、ミハさん、テイラの4人は、牧場の中に入って活動。怪我人と病人を看たり、ビガー姉──ビガーさんと、牧場主の手伝いを行う。」
「がんばるよ…。」若干怯えつつもなんとか合流…
「よろしくね~。」柔らかく奮起…
「誠心誠意、努めます…!」贖罪の機会…!!
全然納得がいかないものの、何故か不起訴処分にしてもらえた訳だ。
せめて依頼は完璧にこなさねば…!!
ここでやらねば女が廃る…!!
とっくの昔に廃れきって消滅してるけれども。
それでもやらねばならぬ!!
「テイラ。これ以上やらかさない様に、大人しくしてて。」
「はい…! もうスライム粉の入手を云々かんぬんなんか言わずに、全力で事に当たります…!!」気合い充分…!!
「…、ハァ~…。」クソデカ溜め息…
「私が見ておくから…。」
「よろしくお願いします、ミハさん…。」
暗い顔のミールさんが、次の組に話をはじめる。
「それで。スライムの施設に近づけない2人──ウルリと──トニアルちゃんッは! 牧場の側の林で亀の魔物の!調査! です…!
なんか気性の荒いのが居るらしいので、2人でっ! 気をつけて調査!してねっ!」
「どんだけ悔しがってるの…。」呆れの眼差し…
「ははは…。(雨瑠璃姉と一緒で助かった…。)」
「トニアルちゃんに変なことしたら承知しないからね!」嫉妬全開…!
「する訳ないでしょ!? ミール姉と一緒にしないで!?」
「トニアル。問題児もなんとかしておくわ。」ゴゴゴ…
「が、頑張ってね、母さん…。(無理だと思うけど…。)」
「えー、最後に。竜喰いちゃんは拠点設営後、そのまま待機。で、お願いします。」
「…。ああ。」
「全員、寝泊まりをする場合はそこを使わせてもらう形で。(夜はトニアルちゃんと同じ屋根の下♪ 竜喰いちゃんもオマケに付いてくる♪)」
「…。(なんだこいつ…。)」
邪念を感知。シリュウさんが無意識に体を逸らしている…。
ここは流石に私がちゃんと真面目な指導をするか。
「…ミールさん。シリュウさんが出すのは『鉄の家』です。壁も床もしっかりしてますし、今回のクエストに合わせて完全男女別の間取りにしてあります。あなたが望む展開には欠片もなりませんよ。」
むしろ、全員個別の部屋を利用できる、「コテージ」と呼べる規模の巨大一軒家だ。1つの部屋に雑魚寝など有り得ない。
「そう…、残念…。(壁のすぐ向こうにトニアルちゃんを感じれるなんて、それはそれで素敵…。)」内心わくわく…
「…ちなみに、ですが。
家を構成してる鉄に、私、干渉できるんで。おかしなことをしたら全方位から鉄針を出現させますからね?」
魔獣鉄製だから、実際の起動速度はちと遅いけれども。まあ、言う必要は無いな。
「!? それなら貴女はトニアルちゃんの部屋に潜り込めるじゃない!?」驚愕!
「誰がするかぁ!ゴラァ! 寝言ぬかしてると永眠させるぞ!? オオン!?」ブチ切れ!!
ギャース! ギャース!!
ゴゴゴ…! あわわわわ…!!
「…。お前ら、とっとと行けよ…。早く終われば寝泊まり無しで帰れるだろうが…。」やれやれ…
はて…? 単なるモブの予定だったのに、なんでこんなに業の深い生き物が誕生してるんだ…?
次回は3月3日とさせてください。




