254話 スライム牧場への移動と到着
ダダダダダダッ!!
マボアの町から南に広がる草原を、5人乗りの人力車が全力疾走していた。
昇ったばかりの太陽を左手に見ながら、南東に向けて突き進む。
「褐色の魔鉄」を組み込んだ金属製の人力車は、もはやワゴン車と呼べる程の姿になっていた。
疾走中のシリュウさんと繋がる形で前輪2つが追随し、その上に乗っかる様に箱型の部屋と後輪が接続されている。
内部は2人掛けの座席が3列、合計6人乗り込める構造で、鉄バネと羽毛や毛皮を組み合わせたシートは悪くない座り心地だ。
シートベルト代わりの固定具も有るし、車体のフレーム部分は極硬魔鉄なので安全性もばっちり。
全面を鉄板が覆っているから風が入ることもなく、魔鉄湯たんぽも数を配っているので寒さもへっちゃら。
視界は正面にも側面にもガラスもどきが有る為、ある程度は確保されているけどちょっと不十分な感じは否めないが。
シリュウさんが所有してたデカい透明な水晶柱をいくつか叩き割ってもらい、鉄の枠を組み合わせステンドグラスの如く嵌め込んでるだけだからね…。
視野はちょっと狭いし、像が屈折して見づらいし…。無いよりは絶対マシなのだが。
ダダダダダダダダダッ!!!
「…!!(泣)」無言の恐怖…!
「本当に速いわねぇ…。」若干引いてる…
「そりゃ、一大事、ですから…!」怖がりつつも気合い十分…!!
手に力を入れて取っ手を掴みつつ、後ろから聞こえた呟きに答える。
座っているのは、最前列に私、真ん中に「蜜の竹林」所属の冒険者である下級のエギィさんと中級のミールさん、そして最後尾に一般人なお2人だ。
薄着の変た──(謎の悪寒!?)──綺麗な!お姉さんのミールさんは、驚いたことに中級冒険者だった。単なるお店のベテランさんではなく、戦闘もこなせる実力者だったのだ。
今回の依頼は形式上ではミールさんが受けた物であり、私達はその補助と言うことになっている。
まあ、依頼とは言っても個人的なヘルプ要請程度の内容なのだが。
生きたスライムを出荷する事業そのものは持続できてるらしいので、スライム粉の生産を阻害してるものを何とかしよう! ってことで結成された風変わりなメンバーだし。
「『スライム粉』の生産現場は、私が守る…!!」
「言っておくけど、解決可能かどうかも分からないわよ?」
「ありとあらゆる手を使って、解決してみせますとも…! その為に私が居ます…!!」
「あなたの実力は雨瑠璃から聞いてるけど。現場では私の指示に従ってもらうから。」
「もちろんです! ミール先輩!!」やる気メラメラ…!
「…、(絶対この子、やらかすやつよね。不安だわ…。)」
「~っ!!(なんでミール姉は、普通に喋ってんじゃん…!?)」座席の取っ手にしがみつく…!
「せめて、トニアルちゃんの横に座りたかったわ…。」ほふぅ…
「ごめんなさいね? ミールちゃん。」後ろの席から牽制の一言…
「いえいえ、こちらこそお手を煩わせて申し訳ないですわ~。今日はよろしくお願いしますね?」
「こちらこそ。よろしくねぇ~?」
「ふふふふ。(トニアルちゃんと任務♪)」ズズズ…
「うふふふ。(私の任務はミールちゃんとの対決かしら。)」ゴゴゴ…
「母さん、ミール姉、さん…。(ほどほどにしてね…。)」悲哀のにじむ雰囲気…
なんか後ろから邪念を感じるが、まあ、気にせずゴーゴー…!!
甘味救出スペシャルチームが、草原を行く…!!
──────────
「…。(ミハもテイラも大丈夫そうだから、この速度を維持だな。移動時間は短縮するに限る。)」本人的にはそこそこの疾走!
5人乗りの鉄塊を牽引してるとは思えない速度で走るシリュウは、余裕の表情で爆走していた。
日本で言えば、時速60キロメートル程で移動している。魔法の力は偉大である。
「…、(エギィ、大丈夫かな…。竜喰いさんの引く荷車(??)とか、色んな意味で乗らなくて正解だったけど…。今は任務に集中するか。)」身体強化全開で先行中!
不穏かつ不安な車内から飛び出して草原をひた走る猫耳少女は、心のモヤモヤを抱えながらも、真っ直ぐに前を見つめ先導していた。
──────────
「じゃあ、私達は一旦ここで待機してます。ミール先輩、ウルリ先輩、よろしくお願いします!」
「はいはい。」
「…、(テイラの態度がいつも通り変だな。)」スルーしつつ無言移動…
スライム牧場の入り口脇で降車した私達は、一時待機である。
牧場の人を呼んでもらい、施設内部に入場可能かどうか確認してもらう必要があるからだ。
この施設は弱い魔物であるスライムを飼育している為、魔力の影響を抑えることを目的に厳格な基準が有る。そう簡単には手助けできない。
非魔種だけどアーティファクト持ちの私、直感で物事を見抜ける土と風のクォーターエルフのミハさん、精神干渉の闇魔法が使える半夢魔半エルフのトニアルさん。助けになれるだろうけど、かなり異質なメンバーなので入場できるか五分五分だ。
シリュウさんはまず間違いなく論外なので、ここで荷物番プラス鉄小屋設置係である。
シリュウさん単独で移動すれば数分で着くらしいし、町で万が一騒動が有っても戻れるし、追加の人員が必要なら連れてきてももらえる。とても有り難い存在だ。
本来なら上級冒険者で魔猫族のウルリもあまり近づかない方が良いらしいが、直接こちらに足を運んで様子を見に来た際に、居住区画までなら入っていい許可が出てるそうだ。
あと、腰を抜かしているエギィさんは、一休みしているだけである。とっても普通に一般人な彼女なら即戦力のはずなので、回復したら大いに働いてほしいところ。
「結構広い施設なのね~。」見渡し…
「こんなところがあったんだね。大きいなぁ。」
「…。(スライムを育ててる、か。)」思案中…
「さて。牧場の方が来られるまでは準備運動でもしてるかな。」いちにーさんし…
「テイラさん、何してるんです?」
「すぐに動ける様に、体の筋をっ、伸ばしてます。」にーにーさんし…
町への出荷が遅れてる原因は、従業員さんの不調や怪我なんかの人手不足が主だってるっぽいし、何かしら体は動かすだろう。
牧場って言うくらいだし、割かし重労働が待ってる気がするんだよね。ずっと人力車の中でぬくぬくゆったりモードだったから気合い入れないと。あと、立ってるだけとか寒いし。
「入れるか分からないんだろう? 意味ないかもだぞ。」
「まあ、その時はっ、その時です。施設の周りの見回りとかでも、します、っよ。移動手段で、あるらしい、鈍亀ちゃんの様子を見に行くとか──」いちにー──
「何だお前ら!! さては悪者だな!」
突然、入り口の方から子どもの大声が響いた。
次回は24日予定です。




