251話 これは、未来を取り戻す戦い
「………。」とぼとぼ… ずぅぅぅん…
ぽよぽよ… 頭なでなで…
「ね、ねぇ…、大丈夫…?」
「………。」返事はない。ただの屍の様だ…
「…。気持ちは分かるが、な。落ち込み過ぎだ、テイラ。」
「………。…正当な、反応…です…。」返事はあった。ただの非力な非魔種の様だ……
ぽよなで… ぽよなで…
「…。(重症だな…。水精霊の奴が、頭をずっと撫でて慰めてやがるくらいだしな…。)」
「まあ、美人強壮がもう食べれないかも、って聞いちゃうとねぇ。」
「…この世の、終わり…です…。」絶望顔…
「本当に、ねぇ…。」悲壮感…
「たかが甘味1つで騒ぎ過ぎで──」
「『高が』?」首をぐりん!! 瞳孔きゅぅぅ!!
「ひぃ!? ごめん!?」反射の謝罪!
「………分かれば、良いよ…。怒ってごめんね…。」突然の謝罪…
「…ひぃ…。(情緒不安定にも程が有るんだけどー!?)」無言の叫び…!!
「…。(相当、キてやがるな…。これは。つーか、自分が〈呪怨〉2つ持ちって知った時以上じゃないか…??)」ヤバいものを見て逆に冷静…
話をしよう…。
辛く、悲しく、光の無い、絶望の物語…。
これは、そう。数日先に起こるかもしれない、未来の話──。
端的に言えば、食材の仕入れが止まって、世界から甘味が1つ消える──
──かも、ってだけなんすけどね。
──────────
話は、植木鉢車椅子を女主人さんに届けた時のこと。
そのママさんに、衝撃の事実を伝えられたのだ。
──「スライム粉」の仕入れが滞っていて、美人強壮を作れなくなる可能性がある──。
平謝りされたけれど、正直あんまり覚えていない。
食いしん坊万歳のことを知っているらしく、ママさんが車椅子から下りてシリュウさんに土下座して謝ってたっぽいのは、薄ら覚えてるんだけど…。
お店の皆が凄く騒いでたっぽいからね…。それ以上のことはなかったみたいだけど。
そして、気づけば屋敷に帰る道を歩いていた。
ミハさんは一緒に落ち込んでくれて、シリュウさんとウルリは心配そうに横を歩き、アクアが腰の鉄巻き貝から触腕を伸ばして頭を撫でてくれている。
アクアが気を使ってくれるなんて、明日の天気は「槍の雨」かな…。
いや、至福時間の終わりとしてはまだ生温いか…。
「…むしろ、あれだな…。『呪いの雨』とか、妥当かな…。」最悪の世迷い言…
「止めろ!?!(突然何だ!?)」
「止めて!??(何かする気だ!?)」
「………? 別に私は何もしませんよ…?
…ただ、明日の天気は『それ』だな、ってだけで──。」
「テイラちゃん。美人強壮、明日はまだ食べられるのよ? 完全に材料が無くなるまでは作ってくれるって言ってたわ?」
「…そっか…、まだ食べれるのか…。」少し安堵…
「…。(流石だ、ミハ…。)」
「…、(ミハさん、凄い…。)」
「ふむぅ…。(でも、テイラちゃん優先にしても後何回食べれるかしら…。)」
「んじゃ、無くなった次の日が、『呪いの雨』だな…。」
「そうね、終わりね…。」
「えぇー…? (もしかして、紹介者のせいで、町が終わる…???)」
「…。テイラ。らしくないぞ。」
「………何が、ですか。」
「理不尽に直面して、それを黙って受け入れるのか?」
「だって…、無い物は、どうしようも…──」
「“無いなら作る” それが普段のテイラだろ。」
「!!」天啓を受けた顔!
「消えるのは、あの甘味の材料の1つだけだ。何かで代用しようとか、残りのやつを組み合わせて新しい物を作るとか。テイラならそう考えるだろう?」
「た、確かに…。でも、あんな完成度高いデザートじゃあ、手の加え様が…──」
「なら、原因を取り除く、だ。」
「原因…?」
「『金竹』はこう言った。
──スライム粉の『仕入れ』が滞っている──と。
なら、分かるな?」
「──!! 仕入れを邪魔してる『要因』を取り除けば…!?」
「そうだ。これからもあの甘味が食える。」
「で、でも、要因って…。私達にどうこうできるんですか…?」
「それは知らん。スライム粉を作ってる施設で何かあった口振りだったが…。
内容を訊く前にテイラが店を出たからな。」
「ガッデム!! 何やってんだ、私!!
ごめんなさい、今から聞いてきます!!」Uターンダッシュ!
「ちょ!? 戻るの!?」
「魔猫族女! テイラに付いてろ!」
「へ!? りょ、了解!」
「テイラ! こっちはイーサン達に話を通す! きっちり訊いてこい!」
「分かりましたぁー!!」脚力全力強化ッ!!
「ちょお!? (町中でそれはやり過ぎー!?)」猫耳モードで身体強化っ!
ぽよぽよ~ ひらひら~…
「テイラぁ!? 精霊さんの腕が漏れてるぅー!? 仕舞ったげてぇ!?」ダダダダダダッ!!
──────────
「…。(水精霊の奴…。何が『良くやった。誉めてつかわしてやろう。』だ。お前は、俺の姉じゃねぇよ。)」
上から目線で念を飛ばしてきた水精霊に対して、げんなりした気分になるシリュウ。
気持ちを切り替え、ミハと共に歩きはじめる。彼女は屋敷に戻って晩飯の調理を手伝わねばならない。これ以上付き合わせるのは互いに損だ。
「シリュウも随分甘くなったわね~。」優しく笑う…
「…。俺も、あの甘味を無くすのは惜しいと思ってるだけだ。」
「昔のシリュウなら、帰るテイラちゃんを無視してお店に残って、そのまま訊いてたでしょ?」
「…。そうか…?」
「多分ね。
ふふっ、テイラちゃん、愛されてるわねぇ?」
「恋愛んじゃねぇよ。」
「そうね。きっと違うわね。
でも傍から見たら、そう思っちゃうのよ。」
「テイラが危なっかしいだけだ。」
「そうかもね~。
ダリアがテイラちゃんに、妬みじゃなく、気遣いの気持ちを向けてるくらいだもんね~。凄いわ~、本当…。」くすくすくす…
「…。移動手段の欠如…、なら、代わりに俺が運べばいい。魔物か何かが交通を妨げてる…、なら、駆除できる。」
話題に興味ないと言わんばかりに、シリュウはこの後の動きを口に出してシミュレートしはじめた。
「そうね~。後は、スライム達に何かあった──病気、とかかしら?」
「それだと俺にはどうしようもないな…。
そもそも、本当にスライムを素材にしてるのか? 何かの比喩じゃなく?」
「ええ。特別な粘体生物を専用の方法で処理して粉にしてる、って聞いたわね。」
「そうか…。」
「少なくともその辺に居るスライムとは別物らしいわ。(…まあ、「口にはできるけど、お腹壊すよ。」って冗談か分からない言葉も一緒に貰ったけど。)」
「そうか…。(テイラが最終手段で、スライムを捕獲して加工しない様に見張っておかないと、な…。)」
「テイラちゃんが自分で作ったりしない様に見てあげないといけないわね。」くすくす…
「…。」
シリュウとミハでは魔力の差が大きい為、思考を伝える念話はできない。
にもかかわらず、己の心を読んだ様な発言をするミハに呆れの感情を向けるシリュウ。いや、この場合はテイラに対して、だろうか。
「ふぅ…。(場所や内容に依ったら、長いこと町を離れることもあるな。ベフタスにも一言、伝えておくべきか…。)」
次回は15日予定です。




