249話 魔鉄湯たんぽとベアリング
ちまちま… ちまちま…
鉄を丸めて… くーるくる…
ちねり… ねりねり… くーるくる…
ちねり… ちねり…
「はっ…!? 『ち○り米』…!?」
小麦粉の生地を数時間かけて手で練って粒状にし、「お米」の代用品を作り出すと言う伝説(的な番組)の食べ物…!!
あれを作れば米が食べれ──
「いや、落ち着け。
私が食べたいのは、白米そのものではなく丼もの系。ち○り米では小麦生地へと輪廻転生されてしまう…。やるだけ究極的に時間の無駄だわ…。」悟りの溜め息…
「──ねぇ。なんか有った??」
「ん?」
斜めの位置に座ってるウルリが、心配そうな微妙な顔で声をかけてきた。
「何が? 別に何も無いけど…?」
「や、なんか急に1人で喋ってたから…。」
「…。テイラにはよくあることだ。」
「テイラちゃんが頭の中を整理してる時にするみたいね~。」
私の独り言に慣れた2人からフォロー(?)が入る。
ウルリは納得できないと言った顔だが、引き下がって机に突っ伏した。
私は今日も今日とて、鉄球の増産中。
発熱魔鉄の炬燵に入りぬくぬくしながら、鉄の操作をしている。
庭に作った回転遊具だが、回転軸のベアリングがあっという間に割れちゃうから次々に交換してる。
シリュウさんの力が強いとか回し過ぎって面も有るけれど、単純に鉄の強度と成形不足でも有ると思っている。凹みとか出っ張りが有ると圧力が分散できずに、簡単に亀裂入っちゃうからね。シリュウさんの魔力を染み込ませたら強度も上がるけれど、歪み部分で割れやすくもなってるみたいで如何ともしがたい。
なのでより密度を高くしつつ真球になる様に、じっくりと鉄をちねっていた。
「それよりもウルリ、そっちこそ何か有った?」
「へ? なんで…?」
「う~ん、いつもと違う感じがするから?」
「や、数日会ってなかったからじゃない?」
「元気ない気はするし…。炬燵に入ってるのに、タレウルリになってないし…。」
「待って。たれうるり、って何?」
「タレウルリ。炬燵に出現する、猫型のポ○モン。」
「「「(ぽ○もん…?)」」」
「つまりは──」
鉄板、出しーの。
溝、刻みーの。
凹凸、入れーの。
ほい、完成。
「──こんなの!」鉄板イラストを公開!
「!?!?!?」晴天の霹靂!?
鉄板に描き出したのは、目を閉じ猫耳を垂れてうっとりと炬燵に入るデフォルメウルリちゃん。
天板の上に乗る「ゆっ○りしていってね!」風味のイラストだ。同じ黒色同士、凹凸だけで楽に表現できた。
「…。(凄い速さで描いたな…。)」
「あら、可愛い。とても似てるわね~。」
「え!?!? (私ってこんな感じなの!?)」何気にショック!?
ウルリが衝撃を受けた様に固まった。
「そもそもモンブ──異世界甘味。を持って来てなくて、店に案内するでもなく屋敷にずっと居るのがおかしいし。
いや、別に責めてる訳じゃないけどね?」
「や。まぁ…。…ぅぅ…。」目が泳ぐ…
何か言いづらいことが有るのか、言葉に詰まっているウルリ。そこまで深刻ではない感じかな?
なんかシリュウさんの方を気にしてるから、ちょっと無茶なお願いでもしたいのかな。外で遊べない現状、ミハさんと将棋してるだけだから機嫌は普通だと思うけど。
私は、隣で伏せてる召喚竜の背を撫でつつ、ウルリが話をするのを待つことにした。
カミュさんは1度べったりしたことで満足したのか、今ではナーヤ様のところから屋敷に遊びに来てしばらくしたら帰る様になっている。
町中を1匹で飛んでやってくるのだが、透明化(?)みたいな方法で人目につかずに移動ができる為、騒ぎは起こっていない。4属性魔法を複雑に使うことで、気配を薄めたり視界に入っても認識されづらくしたりすることが可能なんだとか。便利な能力をお持ちだね…、本当。
そんな子どもドラゴンさんはとても眠たげ。抱きかかえているクッションが気持ち良いのだろう。
何を隠そう、このクッション、ちょっとしたアーティファクトなのだ。
中心に深紅の魔鉄、アクアの水を閉じ込める様に鉄で覆って、魔法の毛糸のぶ厚いカバーを被せてある。魔鉄を起動すれば水が緩衝材になり、程よくじんわり温かい「湯たんぽ」になる様に開発した。
まあ、「深紅の魔鉄」は私とシリュウさんしか起動・操作ができないから貸し出したりはできないのだが。
「や、いいや、別に。大したこと、じゃないし。」
「ふぅん…。」
「…、(好きな男性と何か有った…、そんな気がするわね~。)」直感…
「…。(角道が塞がって──この歩を動かす訳には──。ミハの奴、こんな戦略はダリアに似てるな…。)」悩み悩み…
「もしかして、女主人さんに何か有った?」
「や…、まあ、有るには有った…、けど、元気だよ。大丈夫。」
「とりあえず、話してみるだけ話したら? 口に出すだけでも気持ちは変わるよ? 今居るのは知り合いばっかりだし。」
「…、ま、本当、大丈夫なんだけど──」
──────────
「十分。大事でしょう…。」
「や、ベッドから起き上がって動けてるだけ、凄いことだから、本当…。」
室内に日光を誘導する集光装置の力で、草花人間のママさんは歩き回れる程に回復したそうだ。
だが、ここで問題が発生。
ママさんは、土のベッドから離れ自室を出てしばらくすると、倒れるらしい。
いや、倒れるってのは正確じゃない。恐らく眠くなっている、のが正解だろう。眠気を我慢できず、ゆっくりと意識を失い寝てしまう様だ。
「ちゃんと日の光を浴びて、土に触れさせれば直ぐに起きてくれるし、昔より全然良いよ。」
「いや、それはそうだけどさぁ。」
「生活するのは凄く大変ね…。」話しつつ駒を進める…
「…。(ここで桂馬か…。)」悩み悩み…
「だから店の中に、植木鉢をいくつか置いて、ママがどこでも休憩できる様に皆で準備したんだ。窓開けて光も取り込んでるし。」
「中継点の設置かぁ…。」
「この季節だと、寒くないかしら? そっちは大丈夫?」
「…、うん、ま、なんとか。ちょっと多めに暖房魔導具使って、色々と。」
「花美人族って、植物の特性を持ってる訳だけどさ。寒さには弱そうだけど、ママさんは?」
「…、ん、と…。ママは寒いの超苦手…。」
「ダメじゃん…。」
「寝ちゃうよりはマシだから…。」
んー、あちらを立てるとこちらが立たず。
木の板を外す窓じゃなく、ガラス窓だったら光は入って熱は多少逃げにくいけど…。
え? ガラス工芸は大陸中央が主流? この国じゃ全然使われない?
なら、土魔法で二酸化ケイ素を作れるらしい土エルフ…、──あ、顧問さんもダリアさんも窓サイズは絶対無理、ですか…。
ん? シリュウさん? 水晶の塊なら、いくつか魔法の革袋に入ってる? ただ──え? 人間大のデカさ…??
「や、本当に良いって。ママともちゃんと話できてるから、色々皆でできるし。本当に、テイラと竜喰いさんとミハさんのおかげ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど…。」
流石に日常生活が成り立たない現状では、治療したとは言えないだろう。自身の呪いによるものとは言え、そんな質の生活では生きてるのが辛くなってしまう。
何か、何か無いか…?
「植木鉢…、生体エネルギーの枯渇…、移動…、熱…、光…、」
「や、本当、良いって。ごめん、こんな話して──」
「まあ、考えるだけなら只だし。どうせベアリングを作ってるだけの暇人だし──。」
「…。(重要なことだろうが。)」無言の駒移動…
「美味しい料理を食べて、元気になれば良いんだけどね~…。」即座の駒動かし…
「…。(そう来るか…。)」長考姿勢…
──待てよ?ベアリング?
球体、回転、圧力分散…、回転遊具や、人力車の部品──
「はっ!? そうか、その手なら!?」
「ちょ。何。」
「ちょっと思いついた!
──植木鉢と車椅子を合体させよう!!」
「へ??」意味不明???
「…、(車椅子、って魔力で走る椅子型の魔導具よね…? 凄く高度な技術が必要な…。でもテイラちゃんなら、作れちゃうかしら…。)」
「植木鉢が一緒に移動すれば良いってこと! これなら全然作れるよ! サクッとプロトタイプを作るから待ってて!!」
「ちょ!? 本当、いいって!」
「遠慮しない遠慮しない。私はやれることをやれる範囲でやるだけだから。」
「…。(これは、回転遊具はしばらくお預けだな。仕方ない。あの甘味の方が優先か。)」
おーしっ! ノウハウはすでに有るし、具体的な設計から考えてみるか。椅子の座面に土を入れる窪みを作るだけだし全然オッケー! なはず!
次回は9日予定です。




