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248話 魔猪焼きとたこ焼き

 シャカシャカシャカ!



 ボウルの中で小麦粉を乾燥肉の出汁(だし)で溶き、らっきょうもどきの甘酢漬けやネギもどきを(きざ)んで入れ、撹拌器を使って()き混ぜる。


 出来た生地をジョウロの形をした道具に入れ、油を引いた特製鉄板の(くぼ)みへと順々に流し込む。



 ジュウジュウ! ジュウジュウ!



 鉄板の下には棒状の「深紅の魔鉄」が並んでいて、鉄板へと熱を供給している。半球形の窪みに沿って生地に()が通っていく。

 実にお腹が空く匂いだ。


 そして、生地が固まりきる前に。(あらかじ)め下味を付け焼いておいた、一口大の火魔猪肉(ひまちょにく)を各窪みに1つずつ投入(ダーイブ)!!


 良い感じになったら鉄千枚通し(ピック)で生地を切り離しながらクルリと回し、焼けていない上半分を下にして球体に成る様に焼いていく。


 (まある)くできたらお皿に並べて、と。



「完成。球体(きゅうたい)魔猪焼き!」


「…。」じーっ…

「本当に丸いわね~。」



 これぞ、「たこ焼き」もどき改め「魔猪焼き」!

 青海苔もソースもないから、お出汁に浸けていただくスタイル! 森の木の実をたっぷり食べた猪の肉は旨味たっぷり! 良い味が染み出てますよ!


 贅沢を言えば魚介系統の出汁が望ましいが、中心に有るのも魔猪肉な訳だし動物由来で統一するのも悪くないまとまり具合だろう。塩が抜群に美味いから、これだけでも十分ではあるしね。



 今日は、新作料理の試食会を開いている。


 まあ、新作と言っても形が変わっているだけの代物だが。肉と小麦粉を合わせた「お好み焼き」に近い食べ物は既に存在してたからねぇ…。



 朝から炬燵部屋で鉄球(ベアリング)の増産をしていたのだが、並べた鉄球達を見て、ふと「たこ焼き」を思い出してしまい無性に食べたくなった私。


 しかし、この地はタコはおろか海産物がまるで無い内陸である。望むべくもない。だが、食べたい。

 なんで、魔猪の森の向こう側は海なのに、年中寒くて荒れてるんだよ!しかも呪具もどきまみれだし!クソ魔王め!

 と、届きもしない呪怨(うらみ)魔王(呪いの元凶)に向けると言う、非生産的な妄想を経て気づいたのだ。


 無い物を嘆いても始まらない。できないことを悔やんでも仕方ない。

 できることとできることを組み合わせて、望む結果を導きだす…!


 そして、ついでに最近色々と付き合わせたシリュウさんに、お礼代わりの新作レシピを送るのだ…!


 そうして完成したのが、このたこ焼きもどきである。



 竹串で刺して… 口に運んで… もぐもぐ…


「美味しいわぁ~…!」ほふほふ!

「…。」じーっ…


 ミハさんが花咲く様な笑みで褒めてくれる。

 それを鋭い目つきで探る様に見つめるシリュウさん。



「まあ、ベースはこの国の料理ですから、美味しいのは当然かと。」

「ううん。これは別物じゃないかしら? 小さくて丸くて、食感も違うし食べやすいし。」

「そうですか? シリュウさん達冒険者が手に入れた食材が凄いだけだと思いますけど。」

「ロームイの甘浸けを刻んでコムギ粉と混ぜるのは良い考えよ?」

「ですかね?」

「リーヒャに教えたら町全体に広まるかもしれないわね~。でも丸く凹んだ鉄板が難しいかしら──?」


 私としては紅ショウガの代用品って感じだから、前世のものを丸パクってるだけだと思っている。

 ショウガもどきも有るには有るのだが、紅ショウガ的な漬け物状態じゃないし、加工の仕方も知らないから断念しただけだしね。変に近い物を作るよりは、肉と合う食材を共にするのが手軽にマッチするし。



「ねぇ、テイラちゃん。私も焼くの、やってみたいのだけど良いかしら。」

「お、やってみます? どうぞどうぞ。生地はまだまだ有りますし。」

「シリュウ。火魔猪肉、お願いして良い?」

「…。…ああ。」楕円魔鉄を再起動…


 シリュウさんが仏頂面のまま、中心に入れるお肉の準備をしてくれる。火属性の魔猪の肉は、柔らかくとてもジューシーであるが故に火加減がとてもシビアだ。ここは専門家(プロ)に任せるのが吉である。


 それにしても…。



「ねぇ、ミハさん。シリュウさん、大丈夫ですかね…?」

「大丈夫よ。単に遠巻きに見てるだけだから。」いそいそと準備…

「海の物が嫌いなのは知ってましたけど、これには欠片も入ってないんですけどね…。余計なこと、しちゃったなぁ。」


 たこ焼きを作る前に、異世界食材で再現する為の相談を2人にしたのだが。「たこ焼き」と聞いたら、タコの姿焼きを想像したらしくドン引きされたのだ。

「いや、タコの足をぶつ切りにした物が、小麦生地に入ってるだけです。」と正しく説明もしたのだが、やはり引かれた。タコ食べることそのものが、おぞましい行動認定されたのだ。


 …そう言えば、前世の海外でも、魚は食べてもタコやイカは食べない文化が多数派だったよね…。異世界(こっち)でもタコ・イカは奇っ怪な食材の筆頭株ですか。むしろ巨大で危険な海魔物の仲間扱いですか。そうですか。


 もちろん、手に入らないものを入れるつもりはなく魔猪肉をメインに据えて色々な物を試す予定だとは伝えたのだが、ミハさんは早々に納得してもシリュウさんの警戒心を下げることはできなかった。

 そのまま全工程を恐々見られる状態が今も続いている。



「安心してテイラちゃん。シリュウも本心では凄く興味持ってるから。」

「そんな風には見えませんが?」

「シリュウが本当に嫌悪してるなら、火を出して燃やすか部屋から出てくかするから。どっちもしてないでしょ?」

「そこまでしますか…。」

「うん、するわ。テイラちゃんの料理を心待ちにしてるのよ。ここまで態度が柔らかいのは凄いのよ?」


 海の食材を燃やしにかかるとか過激を通り越して犯罪では? どんだけ嫌いなんだ。



「まあ、しばらく放っておきましょう? それよりもこのピック?なんだけど──」

「ああ、それはですね──」




 ──────────




 ミハさんと一緒にたこ焼きもどきを作りながら意見を出し合い、より美味しくなる様に色々試しながらパクパクと食べていく。


 タコの旨味とは別物とは言え、これはこれで箸が進むやつ。まあ、箸じゃなくて竹串で食べてんだけども。やはり魔猪肉の美味さがヤバい。(語彙力)



 外側を油でカリッカリに揚げた関東のたこ焼きとか、チョコレートソースを掛けた甘い変わり種とかの話をのんびりしながらどんどん摘まんでいく。


 いつか海の食材で、まともな異世界たこ焼きを作りたいものだ。

 この世界でも、巨大な海の軟体動物をクラーケンと呼ぶし、「クラーケン焼き」とかも有りかもなぁ。シリュウさんの前では口にはできないし、私個人じゃ打倒は不可能だろうけど。



 そうこうしてるうちにシリュウさんが自分で作ると言いだした。

 ミハさんと共に生地の作り方からレクチャーしていくと、次第にいつもの態度に戻っていき、最終的には口いっぱいに魔猪焼きを頬張(ほおば)っていた。

 普通にお気に召したらしい。


 体育の授業が有った日の小学生かな?

 好き嫌いせずに、たくさん食べて大きくなれよ。的な? まあ、無事にレシピを受け取ってくれて良かった良かった。

 

次回は6日予定です。


やはり3日ごとの更新だと、3の倍数の日に合わせるとキリが良い。と言うことで。


登場人物も3人だと進めやすいなぁ。

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