247話 回復魔法による新戦法の模索
おバカ貴族の自尊心を高める為に、奴の戦い方を良い方向に矯正しようの会、急遽発足。
司会進行は、似非従者モードの私が務めている。
ローリカーナ様に誠心誠意、お仕えします。(大嘘)
ローリカーナは、バンザーネが生成した岩の椅子にどかりと座り、ふんぞり返っている。
その目には珍しく真剣な光が宿っていて、私の話を聞く姿勢になっていた。
本人が気分良く喋れる様に適当なおべっかを使いながら、ナーヤ様から正確な情報を基にして(バンザーネは誇張表現ばかりなので全スルー)、新戦法について思考していく。
まとめると。ローリカーナの能力は次の要素で構成されている。
1。火の魔法が使える。
しかし、戦闘はおろか日常生活ですら活用場面がないほどに魔法の才能に乏しい。
ただし、火属性の自己回復にだけ限り、貴族の水準を大きく上回る能力が有る。
2。火の竜騎士の大家の生まれ。
しかし、実家からは愛想を尽かされており(本人は自覚無し)、ほぼほぼ恩恵は無い。
3。基礎的な身体能力が割りと高い。
生身の女としてはきっちり筋肉が付いていて、体術もそこそこ。
剣術はダメダメ。私の方がまだマシなレベル。
拳で戦う軽戦士的な動きをメインにするべきか。
4。根性が凄い。
肉体の回復力と、執念じみたしつこさが合わさることで、現在唯一の戦い方であるゾンビ戦法(私命名)を成立させている。
やはり本人の性格と能力から鑑みて、火属性魔法を強化するのがベターか。
まあ、火魔法とは言うものの、数十秒詠唱して下級の炎弾程度の火炎を出すのが精一杯。火種すら咄嗟に出せないレベルでは、活用法は無いに等しい。
シリュウさん曰く、減った魔力を元に戻す自然回復力は並み外れているそうだが、そもそもの器が小さ過ぎる為に弱い魔法を連発するに留まる様だ。魔導具にちまちま魔力を注ぐってことには使えるらしいが、そんな役回りでは本人が納得しやがらない…。
しかし、自身に対する回復魔法。この、異常な適性が有している能力こそ、ローリカーナの根幹を支える重要点だ。
弱い回復魔法ではあるが、無詠唱・無装備かつ半無意識で超連発できるのは絶対的な強みだ。
伸ばす、または応用するとしたら、ここだろう。
「やはり、この超常の回復力を活用して、戦いを有利にしたいと存じます。」
「ふんっ。それならとっくにしている。言われるまでもない。」
しかし、ゾンビ戦法ではダメだ。新しい、きちんとした武器にしてやりたい。
「いくつか思いついたことがあります。既に試されたものでしたら恐縮ですが、聞いていただけますか。」
「良いだろう。」
「ありがとうございます。」腰を折って頭を下げる…
ローリカーナ以外の人達がずっと奇異な目で私を見ているが、奴自身が騒いでないのでスルーして話を続ける。
「まず、回復力の方向性を少し変えまして──例えば、爪。
御身の指先の爪を、回復魔法で伸ばすことはできますか?」
「…、なに…?」
「回復魔法とは、傷を癒す術です。その原理は、新陳代謝──日々生まれ変わる肉体の力に由来するはず。その延長として爪を急速に伸ばすことが可能なのではないかと。」
「おかしなことを吹き込ないでちょうだいな。あなたはとっとと──」
「やってみたことがない。故に、知らん。
そんな下らぬことが何になる?」
「…、(くっ! ローリカーナ様が拒絶なさらない…!)」無言の引き下がり…!
ふむ。会話はしてくれてるだけマシだが、食いつきは良くない。しかし、この手の輩は先に結論を言っても頭ごなしに否定するだけ。興味を引かせる例えが必要だな。
「…ローリカーナ様はドラゴンを敬愛されておられますよね?」
「何の話だ?」
「私との模擬戦で出した『ドラゴンクロー』と言う炎の手。あれは竜の爪を再現した技でございますよね?」
「そうだ。」
「例えば、それをさらに昇華させまして。御身の爪を伸ばし、その爪そのものを魔法の火炎で燃やせば──」
「何だそれは!!格好良いではないか!?」食いつく!!
「ローリカーナ様!?!?」裏切られた顔!
「無限に生え変わり、勇壮な竜の如く相手を切り裂く、『炎の爪』!! 竜騎士に相応しい技になるのではないかと!」朗々と語る!
「採用だ! すぐにとりかかるぞ!」超ノリノリ!
ローリカーナ、一本釣り成功! チョロいぜ!
やっぱり最初は、実現可能かつ見栄えのするもので気を引くのが安定するね。
「ローリカーナ様っ、爪を無闇に伸ばすなどっ!? 令嬢としての美しさを失う行為です! お止めください!」
「…!!」爪に魔力をガン注ぎ!
「ローリカーナ様!?」無視された!?
結果として、爪を伸ばすことはできたものの、火炎を灯すことはできそうになかった。
魔法能力が低いからね、仕方ない。“爪に火を灯す”って日本の諺の様に、勤勉になってもらう事は難しい様だ。
うるさい侍女の言う通り、騎士としての戦い方ではないが、実戦に役立つ戦法は有ると無いでは大違い。
獣っぽいけど、伸ばした爪で切り裂く攻撃はバカにできない威力が有るし。消耗してもすぐに再延長可能な小型ナイフもどきと考えれば、有効な場面はいくらでもあるだろう。
炎の練習はまた今度やってもらうとして、ナーヤ様に爪を切ってもらい、発想の転換に話を戻す。
「次の案としまして。
ローリカーナ様。御身の体であればどんな部位でも回復なさることは可能ですよね?」
「当然だ。」
「でしたら、腕を。その両腕とは異なる第3の腕を、新たに生やすことは可能ですか?」
「…、」
「何言ってんだこいつ?」みたいな視線が、ローリカーナだけでなくシリュウさん達からも向けられる。
あら…? そこまで奇異なこと言ったかな?
「いえ、単純な発想としまして…。腕を物理的に増やして操作すれば、武器を持たせたり魔法を放出させたり、手数を増やせるのではないかと考えたのです。その、魔法手に骨と肉を付ける要領で、行えそうではありませんか…?」
「…、テイラ殿、ローリカーナ様は…魔法腕もお使いになれませんので…。」近くで小声…
「あー、それだと難しいですかね…。」
「…、」チッ… やさぐれ不満顔…
「それでは…、そう。肉を、筋肉を増やしてみるのはどうでしょう?
回復魔法で例えば腕の筋肉を増加させて、太く超パワーを持つ腕に変化させたり…。」
「無理だ。」
どうやら、「自分の形」を逸脱して回復することはどうあっても無理らしい。
まあ回復魔法、だものな。そこまでできちゃったら別の魔法──変化魔法とかになるか。
無限に腕を増やして、ハ○ハナの実の能力者みたいに活用できたら夢が広がったんだけどなぁ。
もしくは、背骨をズルリと引き抜いて鞭の剣にできる、骨限定の異常再生持ちの忍者さんの戦い方も提案しようかと思ってたが…、止めとくか。
「それでは、少々現実的な話に戻しまして。」
「ずっと突飛であろう。」
「ローリカーナ様。御身の髪の毛は、回復魔法の対象でしょうか?」とりまスルー…
「髪だと?」
「はい。直接的に髪を伸ばして、魔力操作できれば1番ですね。拳の形にして殴ったり、剣の様に鋭く固くして攻撃したりできたら、と。」
イメージしたのは、これまたジャ○プの王道ラブコメに登場する、金色で闇色の名を冠するヒロインだ。新しい腕を生やすよりは難易度低めだと思うのだが。
「…、」不愉快な表情…!
「ローリカーナ様の美しい赤色髪を! 戦いで傷付けるなど!以ての外です!」
これもやはり色々と難しい案だった様だ。
とは言え、女の美しさガーとか外見ガーとか、そんな甘ったれた考えで強くなれる訳がない。
「お言葉ですが、バンザーネ様? あなたの主は強く戦えることをご所望されておいでです。威厳を損ねるならともかく、女性としての美しさ云々に拘るのはローリカーナ様の不利益にしかなりませんよ?」
「なっ!?減らず口をっ!」
「…、だが。髪ではそもそも戦えまい?」
「直接的に相手を害するのではありません。例えば、伸ばした髪を鞭あるいは蛇の様に操作すれば、相手の足に絡めて動きを止めたり、武器に巻きつけて奪い取ったりすることが可能です。」
「…、むぅ…。」考え込む…
「本来であれば魔力を蓄えたり魔力路にしたりする髪は、貴重であり維持するべき大切な物でしょう。
しかし貴女様の力で再生できる対象であるなら、爪と同じく強力な『武器』になるはずです。」
「…、なるほど…。」
「ローリ、カーナ様っ。この女は貴女様の美貌を損なおうと画策してるに違いありません!! 耳を貸してはっ!」
「…、」ふむぅ…
バンザーネの言葉は主に届いていないらしい。良い気味である。
まあ、私も焚き付けているものの、物理的に操作ができない髪の活用法はちょっと難しい。間接的に、であれば…。
「少々ご意志にそぐわない使い方かもしれませんが、提案させていただいてもよろしいでしょうか。」
「言ってみよ。」
「はい。戦闘中ではなく、その前準備でなら、御身の髪を活用できるかもしれません。」
「如何にする?」
「切って再生し切って再生しを繰り返せるのでしたら、相当量の、魔力が込められた『素材』が生成できるはずです。それを使って簡易的な魔導具ないし、アイテムを大量に作れないかと。」
「…、何だと…??」
「それは…、ローリカーナ様の髪を、道具に使うと言うことですか。」
ナーヤ様が恐る恐ると言った雰囲気で尋ねてきた。
「はい。思いつく限りだと、髪を着火材代わりにした火矢。燃えながら飛ぶ弓矢、です。
大量に切って増やした髪と、それを結びつけた矢を何本も事前に用意しておけば、射る直前に魔法で燃やして放つことができる武器になるのではと…。」
「そんなものっ! 火炎矢で十分ではないですかっ!」
「ローリカーナ様は。そのファイアー・アローですら、放つのに苦労なさるのでしょう?」
「なっ!?あなた──(侮辱を)──!」
「事前に!武器を用意しておけば! 不可能なことに頭を悩ませることなく。結果として魔法を放つことと大差ない戦果を、あげれるのではないですか?
魔法が使えぬと嘆くよりも! “女の命”を削ってでも、戦う力を手に入れる方が。億倍マシ。では、ありませんか?」
「っ!?」気圧される…
黙り込んだバンザーネ。やんわりとナーヤ様が後ろに下がらせてくれた。
一方でローリカーナは、変な顔をしている。呆れてる様な、苦々しそうな、それでいて諦めた様な…。
「端女。キサマの話、一考に値する。褒めてやろう。」
「……有り難う、存じます…。」
ローリカーナがナーヤ様に帰還準備の指示を出た。話は煮詰まったってことで、どうやら退散する気になったらしい。てっきりダリアさんに新戦法を試すつもりなのかと思っていたが。
「話の礼に。これからは、私に対する普段の不遜な物言いを許してやる。光栄に思え。」
ん?認めてやるからタメ口にしろ、ってこと?
──お断りだね。
私は、私の気分で、態度を選ぶ。
「ローリカーナ様におかれましては、その傲岸不遜の態度を、貫かれますよう…。」恭しい態度継続…!
「…、どこまでも癇に障る奴だ…。」
新戦法を携えて必ず再戦しにきてやる、と私達に吐き捨ててローリカーナはお供と共に帰っていったのだった。
次回は、2月の2日とします。




