246話 翌日の愚行と人格矯正のすすめ
ドゴォ!!
「げっハっ!?」吐血…!!
ダリアさんの殺人パンチがローリカーナの腹部に突き刺さる。固めた砂をグローブの様に纏った拳の固さは、恐らく、岩と大差無いだろう。
あれは、下手すると内臓が破裂してるやつ…! 想像しただけでお腹が痛くなる…!!
模擬戦闘の翌日、愚かしくもローリカーナは、再びやってきた。
そう。やってきちゃったのだ。
ダリアさんにあれほどボコボコにされておきながら、まさかの再度の試合申し込みである。
これには流石のダリアさんも目が点になっていた。
1日で動ける様になる回復力も凄いけど、対策もできてない内に突撃するとかただの被虐趣味なのかな?
まあ、本気で拒否すれば追い返すことはできたのだが、「年老いた、エルフっなど! 回復に時間がかかるであろう! 昨日の疲労が溜まっている今が好機なのだ!」とか、激しくアホなことを宣ったが故にダリアさんが試合を了承。
結果として昨日と変わり映えのしない光景が繰り返されている。
「がぁっ…、まだっ…まだぁっ!」
「声を出すっ、前にっ!」ターンッ!
「グブッ!?」
「先ずは体を動かしなぁ!」蹴り抜いたまま残心!
今度は殺人キックが同じ場所を直撃。
虚空に生成させた石の塊を、回転したダリアさんの足が蹴り抜いて、丸ごとぶち当てていた。物理と魔法の複合攻撃である。あれも絶対、痛いやつ…。今日のダリアさんは燃えていらっしゃる。
シリュウさんによると、ギリギリ手加減はしてるらしい。昨日が全力の1割程度だとすると、今日は2割くらいで抑えているそう。まあ、確かに棍棒を使ってはいない。
でも、それってつまり、昨日の2倍の強さってことだよね…。ローリカーナに勝ち目無いじゃん。ほんと、バカな奴…。
本日の戦闘現場は、顧問さんの屋敷の庭。その一画の、何も無い広場の様な場所を借りて行っている。
昨日の今日で、司令所の訓練場が取れなかったのだ。本来なら、真っ当な騎士様達の軍事訓練に使う場所だからね。おバカ貴族が優占していい物ではなかったのである。
シリュウさんの土魔力で地面をガチガチに固めて、四方をダリアさんと顧問さんの土壁魔法で囲ってもらって、なんとか形を成している。小さな闘技場と言ったところ。
全く…。亜人発言しない様にしたおかげで、多少は土エルフとのやり取りもマシになったから良いものを…。いや、まだまだ良くないな。
町の貴族と冒険者との仲立ちをする外部顧問とは言え、これは完全に業務外に違いない…。
バンザーネも、主の愚行を止めろや…。役立たずの悪役侍女が…。澄まし顔で黙ってんじゃねぇよ…。
あ、ナーヤ様は大丈夫です。ベフタス様のサポート業務との兼任、マジお疲れ様です!
お詫びに持ってきてくださった品々は、顧問さんと分けて有効活用させていただきます!
「らァ!!」ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!!
「がっ!?ごっ!?げぇ!?」
「…、(これ、本当に大丈夫なんじゃろうか…?)」
「…。(ベフタスが居る限りなんとかなるはず、だ…。多分…。)」
──────────
「あんた、つくづくしつこいね…。その根性だけは本物もんだよ。」
「なんの…!これ!きしぃ…!!」
「魔猪じゃねぇんだから、1度止まりな。このままやったって意味ないことは分かるだろ。」
「どうやら、体力の限界が来た、様だな…!!」
「そりゃあんただよ。」
「はっ! 節穴めっ…、私はっまだまだ、戦え──」
「ふん。」風で加速接近&顔面に膝蹴り!
「げ…、ぼっ!?」
膝を相手の顔面にシュゥゥゥト!! 超!エキサイティング!!
ローリカーナ選手、後ろにぶっ倒れたまま起き上がれないー!! カンカンカンカン!(脳内ゴング音)
ナーヤ様が勝利宣言をし、ダリアさんが下がってきた。
顧問さんがナーヤ様に近づき、状況確認の相談をしている。
「お勤め、ご苦労様です。」頭下げ…
「…、あんたまでふざけんじゃないよ。」
「いやぁ、労いの気持ちは本物ですよ? 元はと言えば私の責任ですし…。」
「アタシに売られた喧嘩をアタシが買っただけさ。気にすんじゃないよ、面倒くせぇ。」
ダリアさんは疲れた様子もなく、何故かシリュウさんから乾燥肉を受けとり、ガリガリボリボリと咀嚼しだした。
休憩の栄養補給が固い肉ですか?? アグレッシブ(?)…、いや、ワイルドっすね…。
そうこうしてるうちにローリカーナが復活して、こちらにやってきた。
「やはり体力が尽きているようだな! 再戦だ!」
尽きてるのは、お前の理性だよ。
「先ずは戦い方を変えろって言ったろう。」
「はっ! そんな手には乗らん! キサマが嫌がると言うことは、これが有効なのだ!」
「天邪鬼過ぎる…。バカかな?」
「私を愚弄するか!」
「やべっ、口に出してた?」
「出てたな。(アマノジャク、が何かは知らんが。)」
「なあ、テイラ。こいつに助言するにはどうしたら良いんだい? 馬鹿の相手を延々するのは勘弁だよ。」
──馬鹿とは何だ!!
「えー…? ダリアさんはこいつをどうにかしようと思ってんです??」
──コイツ、だと──!?
──ローリカーナ様!? 試合外ではいけません!?
──放せっ!!
「まともに戦える奴と戦りてぇんだよ。工夫の無い奴と戦っても詰まんねぇだろ?」
「でも、強くなったら後々面倒な事になりません?」
「誓約で縛ってんだろ? なら大丈夫だよ。
むしろ、他人をどうこうできるまで強くなれるなら良いことじゃないか?」
「ですかねぇ?」
やんややんや叫んでるローリカーナを無視して、ダリアさんと相談する。
侍女にすら普通に力負けしてるのって哀れだな…。違う。今後のことだ。
まあ、同じ戦法の奴と何度も戦うのは確かに苦痛だ。
こんなのもう放っておいても良いと思うんだけど、ナーヤ様の主だから、少しでもまともになってほしいと言う気持ちはある。
真っ当な戦闘方法を確立して、人の役に立つ様に成れれば、自尊心の暴走も収まるかなぁ??
「ん~…、私が、助言を提示するとしたら…。侍女と同じ立場で話せばワンチャンスあるか…?」
「何か思いついたのかい?」
「実演してみますか。んんっ!(咳払い)
──ローリカーナ様。申しあげたき、義がございます。」きっちり真顔で頭を垂れる…
「」絶句…
「」目が点…
「…、テイラ殿…?」
「…、(怖いね、こいつ…。)」
「…、(何か始まったのぅ…。)」
「…。(何する気だ…。)」
「御身の素晴らしき力を、人々に、そしてこの土風エルフに、知らしめる為に。どうか、話を聞いてはいただけませんでしょうか。」
「キサマ…、気でも狂ったか?」
狂ってるのは、お前の脳ミソだよ。
まあ、とりあえず返事したってことは会話のチャンスだな。そう考えよう。
「お言葉を返していただき、感涙の極みです…。どうかそのまま、矮小なる私めの話を聞き届けていただきたく、存じます…。」
「そ、そこまで言うなら、聞き届けてやろう…。」
「ロ、ローリカーナ様…?止めておきましょう? こいつ、とてつもなく気持ち悪いですよ…?」
気持ち悪いのはバンザーネの全てだよ。役立たずのグズ侍女が。
「して──何用だ…?」
「はい。御身が、この土風エルフに、打ち勝つ必勝法を編み出したく──」
「必勝法があるのか!? 申してみよ!」
「ローリカーナ様。必勝法は生み出すものでございます。御身の能力の全てを使い、エルフ打倒の方策を捻り出すのです!」
「おお…!!」
「乗ってはいけません!?ローリカーナ様!! ローリカーナ様っ!??」
良し良し、乗り気だね。
さあて、ローリちゃんへの楽しい楽しい人格矯正の時間といこう。
次回は27日予定です。




