240話 回転遊具と閃き
あけおめ、ことよろ、です~。
2023年も、だらだら出力していきます。
形態変形… 変形…! 変形~~~っ!!
「ダメだぁ…。全然、形が変わらん…。」脱力…
現在、「深紅の魔鉄」の性能実験中。
程よく寝れて熱も下がった私は、自室内に作った鉄の小部屋の中で紅い金属板に触れながら、うんうんと唸っていた。
他人の魔力を金属化させて創る「魔鉄」は、とても強度が強い。
物理的な硬度もそうだが、外からの刺激に対する耐性が高く、滅多なことでは変化しない。例えば、風の髪留めや土の腕輪は、2年以上風雨や汗に曝されても欠片も錆びていない。魔力が無い私の血から創った物とは、一線を画す物性を示す。
だが、これはデメリットでもある。
私の、イメージした形に鉄を変化させる力をも、弾くのだ。
レイヤの風属性の緑色魔鉄も大概硬く粘っこい抵抗を持っていて、形態変化を受けつけづらかった。
しかし、シリュウさんの深紅魔鉄は、それ以上だ。
目の前にある四角い金属板の端、そこにバリの様な金属片が、数ミリだけ飛び出ていた。
5分近く、形態変化のイメージを流しこみながら金属操作をしてみた結果がこれである。私の鉄だったら、髪の毛くらいの細さになって10~20メートルは伸びている感覚だ。
「まあ、私でも起動はできたし。弱火・中火・強火の火力調整も思いのままだし。『火炎』が出たりはしない、けど、『発熱』する金属ってだけで十分有用。
これは、下手に加工せず活用するのが1番かなぁ…? 火傷しない様に、周りを鉄で覆って、更に取っ手を付けてやれば…。」
鍋やフライパンの金属取っ手部分には、熱が伝わらない工夫を普段からしている。鉄を立体的に湾曲させて中空にしたり、細い鉄柱で物理的に距離を取ったりして熱伝導を抑えているのだ。
シリュウさんの火炎耐性・熱耐性なら素手で持てても、私が使うには色々と準備が要る。まあ、アーティファクトもどきにするとしても、物性検証を完全に済ましてからだが。
丸い魔鉄の上で緩く温めたお水を、こくこくと飲んで喉を潤す。
「えーと、次に確かめるのは…、『分離』と『結合』、と。『形態変化』がこの有り様だったから難儀──」
カラン!
「あれ!? 一撃ですんなり!?
わあー…、油揚げを包丁で切ったみたいに、綺麗な棒状になってら…。
もうちょっと、確かめるか。」
スパッ カラン! スパッ コロン!
スパッ カラン! カラン! コロン!
分離部分をぴったり合わせて、「結合」のイメージ…。
ピタッ キラーン!
ウルトラ綺麗にくっつきましたー!! 元の切断面が欠片も分からんよー!
「ん~…。どこをどう切っても簡単に分離できる…。これまたさらに、結合も簡単…。もう1個の方も同様だから、魔鉄共通の性質と見ていい…。
粘度は凄まじいけど、金属結合・分離の操作は容易い、のか…??」
色々弄ってみよう…。
カラン コロン ピタッ ピタッ キラーン!
「切った断面だけじゃなく、全く別の面同士でも接着融合できたな…。」
上下逆さまの机の天板と足みたいな塊と、底面と枠だけのピラミッドもどきを見ながら呟く。
完全に積み木かブロック遊びだ。
いや、これで何をどうしろと…。
細く、それでいて自ら発熱する、棒…。う~ん…。
魔鉄で網を作れば、網目に焼ける…。
けど、やってることは凹凸付けた鉄板と変わらんし…。
細く繋げて…、…、電熱ノコ?
いや、プラスチックを溶断する道具を作っても意味無いって…。
むしろ、それなら熱断剣にでもした方が──待て、私! 武器を作ってどうする!? 必要なのは調理器具! 次点で暖房器具!
やっぱ、単純に電熱線代わりが妥当かな…??
棒状魔鉄を曲面鏡で覆って熱を反射──
ぐうぅ~~~…
ご飯、まだだったな…。
加工はできると分かっただけ良し、として。
とりあえず、ご飯でも貰いに行って食事休憩としよう…。
──────────
「あ、ミハさんとシリュウさん、お疲れ様で──」
「キャーイ!」
「──わぶっ!?」べちん!
え?あ? カミュさん…?
食事部屋に入った途端、子どもドラゴンが顔面ダイブしてきた。そう言えば、熱出してる間はミハさんに預けてたっけ。完全に存在を忘れてたね。
とりあえず、顔から引き剥がそう。
「カミュさん、おはようです。」両手で抱える…
「キャー!」元気に返事!
「体、大丈夫? テイラちゃん。」
「ええ、熱も下がってもう平気で──」
「キャーイ!キャーイ!」
「『元気になったなら遊べ』、『もっとクルクルしたい』。だと、さ。」
シリュウさんが若干だけ煩わしそうに通訳してくれる。
「『もっとくるくる』?」
「うん。私じゃ力が足りなくてね。」
ミハさんがテーブルに置いてある物に目を向けながら言う。
私が作って一緒に渡してあった「おもちゃ」だ。その名も「ミニミニ回転遊具」。日本の公園とかで見かける球体ジャングルジムみたいな遊具の、小型版である。大きさはボールぐらい。
即席で適当に作ったやつだけど、延々と掴まって遊んでいたらしい。
空を飛べるカミュさん本人が魔法の浮力で遊ぶことを想定してたが、ミハさんが手動で何度も回して相手をしていてくれたそうだ。
「もっと速いのが良いみたいなんだけど、これ以上はね…。」
「ごめんなさい、ミハさん。ご迷惑を…。」
「ううん、いいのよ。私も楽しかったから。」
「…。もう邪魔だし、送還させれば良いと思うが。」
「キャ!?」
「う~ん…、流石にそれは可哀想…。」
「そうよ、シリュウ。ドラゴンでもこんな小さな子なんだから、優しくしてあげましょう?」
「十分、相手してやっただろう。召喚竜なんざ、肉も取れねぇし。」
「ギャ!?!」
あんまりな言い種に、カミュさんが私の背中に隠れる様に移動した。
「シリュウ! 怯えてるじゃない。酷いわよ。」
「むしろ、なんでエルフのミハが、ドラゴンに優しくしてんだ。」
「そんなの関係ないでしょう。この国の竜騎士の相棒さんなんだし、ギルド外部顧問の娘として、できることをするのは当然よ。」
「テイラは病み上がりだ。それに、新しい道具を作るのに忙しい。こいつに構ってる暇はない。」
「それは、そうだけど──」
シリュウさんは私を心配してくれているみたい。
まあ、確かに、カミュさんの相手をしながらだと作業はやりづらい。ナーヤ様がなるべく意識を繋げない様にしてるとは言え、魔鉄創造の場面もアーティファクトの作製現場も見られると問題が生じる可能性が否めない。
とは言え、邪険にするのもなぁ。
それに、シリュウさんの感じから、カミュさんに対する嫉妬みたいなのも有る気がする。
回転椅子の上で延々と回っていられる人だからね、シリュウさん。回転遊具が羨ましかったのかも知れない。
「あ、じゃあ、提案なんですが。
シリュウさんも楽しめそうな物、作ってみません?」
「…。何の話だ??」
「シリュウさんが、カミュさんと一緒になって遊べる物を作ろうかと。そうすればその間、私は自室で作業できますし?」
「??」ハテナがいっぱい…
「キャー?」
「…、(テイラちゃん、今度は何する気かしら…。)」
──────────
顧問さんに庭の使用許可を貰い、シリュウさんには魔獣鉄のストックを大量に出してもらう。
そして、準備を整え、庭へゴー!
ぶっとい鉄杭を、地面にパイルバンカー!!
側面にスパイクを形成して地面に固定!! シリュウさんが周囲の地面を「固体硬化」!!
その上に、作成しておいた2メートルサイズの魔獣鉄製「回転遊具」をドッキング!! 回転軸と鉄杭を金属結合操作でがっちり接着!!
固定確認、良し!! 動作確認、良し!!
完成!! ガチ遊具!!
「シリュウさん、お願いします。」
「…。おう。」
完成した回転遊具をシリュウさんが片手で掴み、その周囲をゆっくりと回りはじめる。
鉄球回転軸にグリス代わりの魔猪の脂身をしっかりと注入してある為、回転は静かでとても滑らかだ。
「キャイキャーイ!」
「…。速くするぞ。」
球体ジャングルジムの側面にがっちり掴まっているカミュさんが、催促の声をあげたらしい。シリュウさんがスピードを上げはじめた。私達は離れて見守る。
グン… グン…
グングングン…!
グルグルグルグルグル!!
「キャー!!♪」
「ははっ!」
シリュウさんもカミュも楽しそうな声を出している。
こちらとしては恐くなるほどの回転速度になっているが…。
シリュウさんは足を地面から離してるが、魔法で加速操作しているのか、はたまたベアリングが十全に機能し過ぎているのか、全く速度が落ちない。
子竜の姿は捉えられず、シリュウさんも赤く滲む残像にしか見えない。
大丈夫かなぁ…。
まあ、もう後は任せるか…。どうせ、凄く長く遊ぶだろうし…。似た者同士だからね。
私はその間に魔鉄を弄る作業に戻るとしよう。
ん?待てよ?
回転…。赤い、回転──
回って…、転がる──
火魔法で、勢い付けて、回す──
深紅の魔鉄を、「回して」──
はあ!! そうか!!
あれを! こうして!? こうすれば!
もしかしたら、できるかも知れない…!
夢の暖房器具! 「炬燵」が!!
正月らしく炬燵を登場させたかった。完成は次話になりそうですが。
次回は9日予定です。




