24話 特級冒険者
今私はアクアにペチペチされながら、スティちゃんにバシバシされている。怪我人相手にひどくない?
スティちゃんが叩いてるところ、さっき鉄出した傷口で無駄に痛いんだけど…。それを言ったらバシバシがバンバンくらいにパワーアップした。だから、痛いんすけど…。
あの角野郎、面倒事はまとめるとか言って、スティちゃんを部屋に入れたのだ。
私の姿を見たスティちゃんは泣きながら「バカバカバカバカ!」とアクアのように叩いてきた。
それを壁際まで下がって様子見の角野郎。
ぜってぇぶん殴ってやる…。腕このままなら蹴ってやる…。
「随分と好かれてるな?」
「ぜってぇぶん殴ってやる…。」
「その腕で、か。それは痛そうだな。」
私は右肩辺りから細い糸くらいの鉄を出して鉄収納の腕輪に触れる。中の鉄でゴーレムの腕を形成してぶん殴ってやる。
あ、中身無いっぽい。…あの戦いで使いきったっけ。失敗失敗。
角野郎は身構えて距離を取り、
良く分かっていないスティちゃんとアクアからの攻撃が何故か強くなって、
私はどうすればこいつをギャフンと言わせられるのかを考え続けたのだった。
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「先日は真に失礼しました。旅の冒険者様のご厚意を知らず、数々の暴言・無礼な態度を取りました事、このような姿のままですが平に謝罪します…。」
「…。誰だ、あんた…。」
「貴方様に助けられた愚かな、名無しの非魔種でございます…。」
「…気っ持ち悪ぃ…。敬語止めろ…。」
「私のような下賤の者が、対等に話すことなど──」
「本気で嫌いなんだ。丁寧な言葉止めろ。普通に話せ。」
あ、本気で嫌いなんだ? 良いこと聞いた。今度何かされたら──
じゃない。
「分かりました! ありがとうございます! お礼申しあげます!」
「…。呪いが頭にまで回ったか…?」
いやぁ、スティちゃんからここ数日で色々聞いたのだ。村の皆の様子とか、お父さんとまた一緒に寝る様になって嬉しいとか、どれだけ心配したとか私への愚痴とか文句とか…。
その中に、角兜の少年が私に使ったポーションの話があった。
瀕死の私を運んできた少年は、ポーションの容器を取り出してアクアの水と混ぜて、私の体にかけたり口の中にアクアの魔法操作で流しこんだりしてくれたらしい。スティちゃんはその手伝いをした時にポーション容器を回収していた。それを見せてくれたのだ。
いやぁ、魂消たね。それは特級ポーションの容器だった。
あれだ。冒険者ギルドの各支部のマスターとか、取り引きのある貴族様とか、特別なクラスの冒険者とかが、致命傷を負った時に飲む、とんでもない効果の回復薬である。
容器に刻印されたギルド紋章、『超級』のさらに上の『特級』であることを示す記号、容器そのものに付与された対衝撃・対劣化の魔法刻印だけでも凄まじい。知識だけでしか知らなかったけれど、魔力が見えない私でも理解できる特別なもの。
道理で生きてる訳だよ…私。
アクアの良く分からない精霊魔法のおかげと言うよりは、普通にこの強力なポーションで命が繋がっていたのだ。
そしてそんなものを持っている冒険者、と言うことは…、
「いえ…ううんっ! いや、あなたが私に特級ポーションを使ったってことが、分かったので…、感謝と言うか恐怖と言うか…。ほとんど無一文の私じゃ、どうしても対価が支払えないし…。あとは、特級冒険者相手に喧嘩吹っ掛けたら指先ひとつで爆破されるんじゃないかと、態度を改めてみたんです…。」
「…。今更過ぎるだろ…。どんだけおかしなことをしたと…。いや、いい。」
「本当にすみません…。」
「…。それよりも。なんで俺みたいなのが特級だと思ったんだよ。」
心底理解できないって表情のまま、私に質問してくる。
「特級ポーションを所持してて見ず知らずの私に使うなんて真似する人、他に思い付かないし…。」
「…そもそも。なんで特級ポーションなんて言葉が出てくる。誰にも何も言ってないが。」
「いや、容器を見せてもらったので──」
「…あのガキか。」
「いや! あの子は私に書いてる文字を聞こうとしただけで! 何も知りません!」
「…。別にどうこうしようとなんざ思ってない。それよりなんで容器見ただけで分かったんだ? 特級なんて文字、書いてないだろ。」
「記号ですよ。あとは魔法刻印。」
「…はあ?」
「…えっと、説明した方が?」
「しろ。」
「えーっと…。まず記号。冒険者ギルドでは様々なものにランクを付けてます。下級、中級、上級、超級、なんかが一般的ですよね? それに対応させて、土・水・風・火の魔法刻印を記号化して添付してます。下級の冒険者証にはギルド紋章と、土の記号が印字されてるみたいに。ここまでは、まあ知られてる話ですよね?」
「…。まあ、そうかもな。」
「あっ、敬語ごめんなさい…。説明口調ってことで許していただ──許して欲しいです…。」
「…。続きを。」
「はい。えっと、超級の上に特別なクラス、特級ランクがあります。それを表す記号が『星の光』。6つの光芒を持つ星。国を失い旅商人として生きることにした千年前のギルド前身組織において、方角を指し示す希望の星、その象徴。ギルドに籍を置く最上位の存在を示すもの。…その記号がポーションのギルド紋章のところに一緒に刻印されてましたので…。」
「…。」
「あとの魔法刻印ってのは、あの容器を保護する対衝撃・対劣化の魔法陣のことです。あんな複雑な紋様で効果が高そうなやつ、普通のポーションを入れる訳無いだろう、と思いました。…思ったの。
それを持ち歩いてるってことはその魔法刻印に常に魔力を供給できるくらい高い素養があるんだろうな、外見が子どもの姿を保つくらいに凄い魔力持ちなんだろうな、って思った…ので。なら特級クラスの方だとしっくりくるな、と…。」
「…。」
初めに戻ったようなキツい顔で私を睨む角兜さん。
うう、敬語使い過ぎたかな。
でも、私、こっちが本来の素だからなぁ…。




