239話 思考の渦とルビーの煌めき
いつのまにやら、ブックマーク数が200を超えたらしい。
こんなぐだぐだストーリーを気にかけてくださり、ありがとうございます。適度にゆるゆる書いていきます。
〈呪怨〉の話を聞いた後、屋敷に戻った私は、熱を出した。
溜まった気疲れとかが、ひとまず落ち着いたことで表面に出てきた形だろう。頭痛は大したことはないし咳もなかったから、単なる知恵熱的な何かだ。頭の回転は遅い感じだが意識自体ははっきりしていた。
まあ、ミハさんやシリュウさんに心配されまくって、自室待機状態で静養中なんだけどね。
思考はクリアだから、暇で暇で死にそうだ。勝手に動きまわったら察知されて、部屋に戻らされるし…。
仕方ないのでふかふかベッドに寝転がりながら、鉄テントの天井を眺めつつ、思考実験をして暇を潰していた。
まず、考えるべきは、「深紅の魔鉄」の性能だ。
私が触れても起動できるのか──
加熱能力の上限はどのくらいか──
加熱の反対に「温度操作」で冷却はできるのか──
可能性は低いがゼロじゃない。できたら、冷媒に使えて、夢の冷蔵庫が爆誕する──
鉄の形態変形をどれだけ受け付けるか──
風氏族エルフの時の経験からして、相当に難儀するはず──
加工はどのくらい── 分離・結合・液状化──
そう言や、シリュウさん、私の鉄を変形操作してたよね──
夢魔の女王に「求婚」された…──
見た目が小中学生のシリュウさんを夫にするとか、犯罪臭がひどいっす…── あれ? 頭痛が増した…? うっ…頭が…──!?
アホなこと言ってないで、水、飲も…──
シリュウさんの秘密を勝手に喋ったダリアさん、ミハさんに叱られてたっぽいけど。大丈夫かな──
まあ、自業自得、か──
自分の業を、自分が得る──
私の〈呪怨〉は、〈激情〉と〈自滅〉の複合──
他人への攻撃と、自分への攻撃──
攻撃衝動が内外両方に、とか、ただの危険人物──
エ○ァンゲリオン── シンクロ率400%── 生存衝動、どこいった──
望まぬ力── 「暗○吸魂輪掌波」── あれはテレビゲームの中の、話── 「バルバル~。」── いや、パロディモード。懐かしいな…──
──────────
「シリュウさん。魔鉄の実験、させてください。」
「…。その顔、寝てないだろう。却下だ。」
どうにも寝れないから部屋を出てシリュウさんに会いに来たのだが、すげなく断られた。だが、引かぬ。
「横になってゴロゴロはしましたから、大丈夫ですよ。魔鉄のこと(とシリュウさんの求婚)が気になって、寝るに寝れません。こう言う時は、何か没頭できる…、無心でできることが欲しいです。」
「…。」
シリュウさんは悩ましい顔で考えはじめた。理由を理解してくれたのか、拒否はしない様だ。
小さく溜め息を吐き、私の顔色を窺いながら意見を述べてくれる。
「正直な話。あの魔鉄に手を加えたくないんだ。テイラの為の暖房器具を作ると言っておいて、情けないんだが、な。」
「…気に入ったから、あの形のままにしておきたい、と?」
「ああ。悪い…。」
シリュウさんが気に入る物になったのは喜ばしいことだ。IHヒーターもどき程度で満足するのは、ちょっと共感できないけども。真の便利アイテムにはほど遠いし。
ん~、でも魔鉄の加工実験はしたい…。折角の新素材だしなぁ。
「…ふむぅ…。でしたら、
──もう1個、創ってみます…??」
「…。そうか…。増やせるのか……。」
──誓約 締結
〈鉄血〉 発動
パチパチパチ…!
線香花火の様な弱いスパークが、紅い花を咲かせる。
「出来ましたね。」
「だな。」
所変わって、私の部屋。
追加の魔鉄創造は、すんなりと成功した。シリュウさんが意識を失う様子もなく、普通にしている。
実は現在は夜中である。静かに、かつ、安全に実験しようと、鉄テントの側に鉄の小部屋を作成してその中で作業したのだ。立会人が居ないから不安ではあったが、シリュウさんが大丈夫だと言うので信用した。
注射針の様な細く痛みの少ない鉄針を使い、付着した少量の血液でやってみたのだが、問題なく「深紅の魔鉄」らしき物が完成。特に危機感・違和感の類いも無い。
針を刺した箇所に上級ポーションを数滴垂らして回復しつつ、胡座をかいてるシリュウさんに声をかける。
「随分とスパーク──紅いバチバチ、が少なかったですけど、大丈夫ですかね?」
「大丈夫じゃないか? これが完全同種の物だと、感覚で分かるしな。形は四角い、が。」
シリュウさんの不思議魔導具の淡い光に照らされた魔鉄2号は、確かに四角い板状だった。
「同種ですか。シリュウさんが言うなら確実ですかね。私には欠片も感じるものがなく、判断に迷いますが。」
「ちゃんとこれでも肉が焼ける。問題ない。」
シリュウさんが確信を持って言う。期待に満ち溢れたウキウキ顔だ。
「大きさは同じくらいですね。やっぱり私の血を減らしても、魔力を提供してくれる側の血が同量だから、かなぁ…。
シリュウさん? 今出来た2号の方が四角くてお肉が乗せやすいと思いますけど、交換しま──」
「しない。あれは俺の物だ。」
「さいですか…。お好きにどうぞ…。」
同じ性質の物なら、使いやすい形状にするのがベターだと思うんだけど…。
あ、そうか。もっと増やせば悩むことないじゃん。
「お体に問題無いなら、もうちょっと攻めてみます?」
締結! 締結! 締結!
もう1つオマケに、締結ォ!!
「ふぃー…。完璧ですね~。」
「ああ。素晴らしいな。」
今、目の前に「深紅の魔鉄」が合計5つ、並んでいる。
どうやら創る時に互いに意識するとその形状を反映させられる様で、後半に創った魔鉄は六角形や四角形ではない初期形状をしている。
壮観な眺めである。質の良い赤い宝石の様な輝きを放つ様々な形の金属が、目を楽しませてくれる。
そう言えば、紅玉って、マグマが冷えて出来る「火山岩」の中に生じるって聞いたことあった気がする…。「溶岩」と関係があるシリュウさんから生まれるのも、納得できる…。
まあ、魔鉄には光が透過する感じはないし、肉を焼く様な熱を発する訳だから完全に別物だけども。
「では、シリュウさん。私はこの丸いやつを普段使い用に、この四角いやつ2つを実験用に、貰い受けますね。」
「ああ。好きに使え。」
「ありがとうございます。」
「礼を言うのはこっちだ。この横長のやつは、とても使いやすそうだ…!」
シリュウさんが、ホットプレートみたいな楕円形の魔鉄を、キラキラした目で見つめていた。1号の時みたいに鉄をくっつけたのとできることは同じはずだから、喜ぶことではないと思うのだが。まあ、気にすることないか。
無心で〈鉄血〉しまくったおかげか、ぐるぐるモヤモヤの思考を頭の中から追い出せた。
まあ、色々とショッキングなことを知った後でも、シリュウさんと魔鉄が創造できることも分かったし。これだけでも、心穏やかに眠れると言うもの。
「…良し。眠くなって、きたから、そろそろ寝ますね。
実験は今度しよう…。寝ぼけて起動させない用に、私の分は、この小部屋に安置、かな…。」ふあぁ…
起動できるか、まだ確かめてないけど…。まあ、良いや。
「呪いも血も使ったが、そっちは大丈夫か?」
「ええ。上級ポーションを、使ってますから。支給してくれて感謝です…。」
「用意しているのはイーサンだ。まあ、受けとっておく。じゃ、ゆっくり休め。」
「はぁい…。お休みなさい~…。」
次回は1月6日予定とさせてください。
お正月らしい(作中時間は秋の終わり)らしい話にしたいと思ってます。
では、皆様、良いお年を。




