238話 衝撃の真実と自滅の呪い
「じめつ…、自、滅…? 自分を、消滅させる、ですか??」
「そうだ。その『自滅』だ。」
私の〈鉄血〉が2つの〈呪怨〉の複合だと言うシリュウさん。
その片方が、「自滅」と言う系統の呪いらしい。推論だと言っていたが、その目に宿る真剣さは何やら確信がある様な印象を受ける。
それにしても、「自滅」…。
妙にしっくりくる…、感じが、しないでもない…。
「…、なんだいそりゃ…? アタシは聞いたことないよ。」
「…、〈呪怨〉に6つ目の系統が有るじゃと…?」
ダリアさんと顧問さんが、揃って困惑している。お2人とも知らない事柄らしい。私はそもそも5つの系統を知らないが、この「6つ目」は存在そのものが認識されていない様だ。
「イーサン達が知らんのも無理はない。俺も見たことはないからな。」
「はぁ? なら、なんだって知ってんだい。」
シリュウさんが、悩まし気にガシガシと頭を掻きながら言葉を吐く。
「…。存在することを示唆したのが、『夢魔の女王』。あいつが、教えてくれたんだよ。」
「マジかよ…。」
「ふむ…。それは確定事項じゃな…。」
沈痛な雰囲気で納得しているお2人。シリュウさんの話をすんなり受け入れている感じだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください!?
『夢魔の女王』って、1000年生きてる、〈呪怨〉の大元『魔王』なんですよね!? なんで呪い嫌いのシリュウさんが、言葉を交わしたみたいになってんですか!?」
思わぬ内容に声を荒げた私を、煩わしそうに見やるシリュウさん。
「…。今はそんなこと気にするな。『魔王』の言質が取れてるってだけで──」
「シリュウ、その『女王様』に求婚されてんだよ。昔にね。」
あり得ない、発言が、飛び出した。
「…はい? きゅうこん…? 土に埋めたら芽が出る、丸い根っこ…??」大・混・乱・中…!
「おい、ダリア今は──」
「んで、シリュウはそれを一蹴。当然だね。
だけど、『女王陛下』は自分に楯突くシリュウを益々気に入って、夢魔の国への出入りを自由にする許可を出したんだよ。で、こいつは夢魔の飯を食いに入り浸ってる様になったんだ。そりゃ顔ぐらい、よーく知ってるだろうさ。」ケッ…
「えぇぇ…。」げんなり…
私のボケすら無視して、若干やさぐれた感じのダリアさんから衝撃の真実2が伝えられる。
「だからこいつは、夢魔族にとっちゃ英雄──それこそ『勇者』だね。
何せ、魔王を殺しに国に押し入って、町をぶっ壊す様な全力戦闘を何日もやって、結局引き分けて、『夫になれ』って要請を断って、生存を許されてんだからね。そんな蛮勇、他にできる奴は居ないよ。」ハッ!
「………。」キャパオーバーで煙ぷすぷす…
「何余計なこと言ってんだ…。完全に話が逸れただろうが…。」
「〈呪怨〉の話をするなら避けて通れねぇだろ。ギルドの持ってる知識だって、その『女王』周辺から下りてきてるものなんだ。あんたが隠してたことを吐くなら、ついでだろ。」
「…。協力感謝するよ、〈不変〉の呪具の適合者様。」
「ア?(怒)」
「オ?(怒)」
「これお主ら、止さんか!?」
自然な流れでメンチを切りはじめたシリュウさんとダリアさん。静観していた顧問さんが慌てて止めに入る。
やっぱり〈呪怨〉ってデリケートな話だったね。軽々しく聞いたらダメだったな…。
「いや、もういいです…。余計なこと聞いて、ごめんなさい…。夢魔の女王の話は大丈夫なんで…。
シリュウさんの話は信憑性増し増しって理解しましたんで、無視して、話を戻してください…。」
「…。」
「…、」
「…、(やれやれじゃの…。)」
もう情報量でお腹いっぱいだ…。
シリュウさんがやべぇ人(ヒト、かなぁ?)だってことを再認識したよ…。今度余裕の有る時にでも、改めてちゃんと…、いや聞く必要もないかな…。うん…。
──────────
それから、話の流れを元に戻す為に、〈呪怨〉についての基本知識をシリュウさんの口から聞いた。
有名な3つの系統の〈呪怨〉が、〈激情〉、〈汚染〉、〈深淵〉。
そこに、〈略奪〉、〈変貌〉と言う2つが加わるそうだ。
〈激情〉は、呪いを宿した理解不能物体『呪具』に触れることで、発現する。
負の感情が暴走し、周囲に多大な被害をもたらすことで有名。呪具は数も効果の種類も多く、個別に名前が付くこともある。色々と微妙な扱いだったらしいが、ダリアさんが持ってた呪具もその類いだそう。
〈汚染〉は、『夢魔族』に時折使い手が現れるもの。精神を汚して心を覗き見たり、生物の形質を改変したりする能力。
種族の特性の延長線上で扱える為、それなりの数の適合者が、魔王たる『女王』の下で管理されているとか何とか。
〈深淵〉は、大陸中央に在る巨大な『地下迷宮』に出現する化け物が保有しているそう。無秩序に際限なく周りのものを喰らい、己の魔力に変換する能力。
相当厄介だそうだが迷宮外には出てこれない為、関わる頻度は極端に低いとのこと。
冒険者時代に聞いた「古い怪物を封印した迷宮」と「その周りで発展した都市」って王道ファンタジーな話にテンション上がったことがあったんだけど…。呪いの巣窟だったとは…。近寄らんとこ…。
〈略奪〉と〈変貌〉は、突発的に適合者が現れるものらしく、事前予防がかなり困難だそう。他人の持ち物・能力・魔法を、奪って自分の物にしたり、改変して破壊したりするのだとか。
〈激情〉と違って静かに欲望のまま狂っていく、らしい…。
正直、情報量の多さに付いていけず半分近く聞き流していた。後半2つの話をしてる時、シリュウさん、妙に言葉に詰まるし…。ダリアさん達も、なんか固くギクシャクしてる感じだし…。
もう十分だから6つ目の話をお願いしますと、先を促した。
アクアから温いお水を貰って、気持ちを落ち着け頭の中をリセットする。
今から聞く部分は、私に直接関わるところだ。真剣に集中せねばなるまい。
「…。〈自滅〉の〈呪怨〉が知られていないのは、その特性上、基本的に周りに被害が出ないからだ。
この〈呪怨〉は、呪いに適合した本人が本人を呪うものらしい。」
「ああぁ~…。確かに、私は『私自身』を呪いの対象にしてますね…。」
言われてみたら、普通(?)の呪いとベクトルが違ったな。
「それはそう…、なんだがな…。
テイラ、この〈呪怨〉は、な。産まれる前に発現するんだ。」
「え──?」
「実際の、具体的な数字は不明だが。あいつ…、女王が言うには、この世の、死産・流産だった、赤子の死因のいくらかが、〈自滅〉の呪い、らしいんだ…。」
「──」
「おい、待てよ。それじゃ、テイラは…、」
「母親の腹の中に居る時から、〈自滅〉の呪いを宿していて、
──それで偶然、奇跡的に、生きのびた、んだろう、な…。」
シリュウさんはとても歯切れが悪い説明をしているが、ダリアさん達が居なければ、きっとこう言いたかったはずだ。
──〈自滅〉で死んだ赤子の、魂無き体に、
異世界の人格が入り込んだ──
いやぁ、まさかこの世に存在しないはずの「死人」に宿った、転生パターンだったとは…。なんで言われるまで気付かなかったんだろ…。
「マルテロジー=エルドエル」は、最初から、終わってたんだ…。
「テイラが、非魔種として産まれたのも恐らく〈自滅〉のせいだろうな。」
「ああ──。自身の魔力回路を、滅ぼした、訳ですか。」
「そうなる、な…。話を聞く限り本来なら、髪色が示す通りに水属性の適性は有っただろうからな。
そして、テイラが生まれた時点で、その〈自滅〉は終わったはずだった。それが、呪具に触れたことで再活性したのかして、テイラの鉄に宿り『魔力霧散』効果として現れてる…、と思う。」
「…なるほど…。他人の魔力を、ついでに滅ぼしてる、と…。」
魔法が使える他人が羨ましくて、妬みとか怒りで呪っていたけれど、まさか魔法が使えない原因が別の呪いに有ったとは…。
自分を「呪い女」だと散々蔑んではいたが、想像以上に、気持ち悪い存在だったんだな…。
「テイラ。これだけは言っておく。」
私が自分のおぞましさに震えていると、シリュウさんが目に強い光を宿して、顔を覗き込んできた。
「テイラは、凄い。俺はお前を尊敬してる。
自死に至る呪いを乗り越え、他人を害する呪いを制御し、『人』として生きてることは、とてつもなく偉大なことだ。
この『魔鉄』だってそうだ。俺の破滅的な魔力を、便利なアイテムに変換できるなんて、この世の誰にもできん。」
いつの間にか再び握りしめていた「深紅の魔鉄」を見せながら、シリュウさんが熱く、語っている。
「今日色々言ったのは、テイラを追い込む為じゃない。その凄さを伝えたかったからだ。
少しは、自分自身を認めてやれ。」
懇願する様な、祈る様な、そんな顔で私を見てくるシリュウさん。
その熱量を表現するかの如く、魔鉄が赤く煌めく。
「………はい…。」
私には、首を縦に小さく振ることが、精一杯だった。
次回は30日予定です。
今年も終わりが見えてきましたね…。




