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233話 魔物使いと編み物

 

 あみあみあみ… あみあみあみ…



「…。なあ。それ、楽しいか?」


「…はい? なんですか、シリュウさん? 突然。」グラグラ…ぽよん…

「キャ~…。」ぽかぽか眠たげ…



 毛糸を()む手を止めてシリュウさんの方を見やると、凄まじく呆れた顔がこちらを向いていた。

 心の底から「理解できない。」とでも言いたげな感じだ。


 突然の質問に首を傾げようとして、バランスを崩しかける。

 危ない危ない。頭の上のアクアを落とすところだった。



「その状況で、そんな(もん)作って、大丈夫なのかと聞いている。」

「できてるんですから、大丈夫でしょう?」

「…。俺が気にしてるのは、テイラの精神(神経)が、だ。」


「………。このくらいのこと、気にしたら負けですよ…。」ぽよん… キャー…?…


「…。勝ち負けなのか…?」



 まあ、ね? 自分でもどうかとは思わなくも無いですけどね?


 頭に巻き貝スライム(アクア)を乗っけて…、右腕に子どもドラゴン(カミュさん)がしがみついてる状況で…、鉤針(かぎばり)使って毛糸を編んでるんだからねぇ…。


 スライムとドラゴンを仲間にした「魔物使い(モンスターテイマー)」的な何かだと思えば…。うん…。

 王道の異世界転生物だよ。うん…!(自己暗示的な強迫観念…!)




 ──────────




 (ドラゴン)との触れ合いコーナーの後、まさかと言うか案の定と言うか、カミュさんが付いてきたのだ。


 緑光の放出が止まった髪留め(アーティファクト)からはあっさり手を離してくれたのだが、分身体達が私の周りをくるくると旋回して離れてくれなかった。ナーヤ様の腕の中の本体も一緒に「「「キャイキャイ!」」」と実に楽しげに鳴いていた。


 気分はお供をゲットした桃太郎である。ドラゴン3匹とかバランスが悪いと嘆くべきか、心強いと誇るべきか、悩むところだなぁ…。


 と現実逃避しつつもナーヤ様を交えて色々相談した結果、分身カミュさんを1体、気が済むまで預かることになったのだ。


 やったね、レイヤ! 仲間が増えたよ! しかもドラゴン! なんでだろうね!? あんたのせいだよね!?(半ギレ!)



「私も極力、意識を繋げない様にしますし…。お邪魔でしたら、強引に引き()がしてください…。召喚体ですので最悪、強制的に『送還(そうかん)』されるだけですので…。」と疲れきったナーヤ様は、いっそ哀れだったね…。


 これが私への直接監視を強める策だったら、アカデミー賞受賞レベルの演技力だと(たた)えよう…。




 そして、カミュさんを伴って顧問さんの屋敷に戻ってきた後、2つ目のトラブルが発生。


 トラブルと言うか何と言うか、アクアとカミュさんによる王座決定戦が勃発しただけなんだけど。

 王座って言っても、私の頭の上に陣取る権利だし。


 髪留めを定位置である頭に戻したら、子竜(カミュさん)が私の頭の上に乗ってきたのだが、アクアが突然顔を出して抗議する様に暴れたのだ。


 結果、アクアが勝利。

 プルプル触腕にペイッと打ち捨てられた子竜は、代わりにでもなるのか私の右腕の火の腕輪(アーティファクト)に泣く泣く(目が心無しウルウルしてた)しがみついた。


 もしかして、アクアが普段頭に乗ってくるのも、風の髪留め(アーティファクト)が原因かなぁ…? ふふ…(泣)



 そして、竜とスライムに良いように遊ばれている私を見かねたシリュウさんが「何か…できることは…あるか…?」と質問してきたから、「…魔法(ヘヤモヤ)の毛糸、貰っても良いですか? 色々作ろうと思ってたし…、アクアはしばらく退()かないと思うので…。」と編み物をはじめて今に至る訳である。


 カミュさんは自身の魔法で体を軽くしているらしく、腕を動かすことに大した支障はない。



「…。イーサンかミハに言えば、新しい服くらい手に入るだろう? なんでわざわざ自作してるのか、謎なんだよ。」

「ほら、服って自分に合ったサイズ──大きさ、が分からないじゃないですか。だから、手袋とか靴下もどきとか、マフラーとかだったら、自分で作った方が安心かな? って。」


「…。服屋に行けば1発じゃないのか? ミハが誘っても断ってる様だが。」

「あ~…、それは、まあ、ほら…。

 シリュウさんはご存知ですけど、私のお腹に『呪印(じゅいん)』が有るでしょう? 服の試着とかすると第3者の目に触れたりとかして、余計な混乱を招いちゃいそうで…。」

「…。(そこは常識的なんだな…。)」


 渋い顔をしている。

 やはり余計な言い回しだったかもしれない。



「まあ、だから自作すれば、諸々の気苦労無しに欲しい物が手に入るって寸法ですよ。シリュウさんが持ってる毛糸は強いし暖かいし。編み方もミハさんに指導してもらってバッチリですしね。」


 鉤針(かぎばり)はいくらでも用意できるけど、編み方は忘れちゃってどうしようもなかったからね…。小学生時分に母に作ったっきりで、誰かに手編みマフラーを贈るとかって機会は無かったし…。


 そんな状況も、百戦錬磨のスーパー主婦ミハさんのお力でバッチリ解決である。持つべきものは先人の知恵。もう機織りをする必要は無いのである…!



 理由を話してもシリュウさんは微妙な表情のままだ。

 何か不安にさせることでもしただろうか? シリュウさんなら、小さなドラゴンが増えた程度で()らぐはずないんだが…。



「やっぱり、貴族の手先みたいなカミュさんが居るから、気に食わないですかね?」

「…。何の話だ…? そんな幼竜(ガキ)はどうでもいいぞ。」

「キャ~…?」不安気に首を上げて、すぐ伏せる…



「俺は…、テイラがそこまでして服を作る理由が分からんだけだ。」

「いや、だって、町の外、めちゃくちゃ寒いでしょう? 今有る装備だけじゃ冬を越せないなと感じたんで、追加してるだけですよ?」


「町の外に出る予定でも有るのか?」

「予定はないですけど、念のため? 一季節丸々屋敷に閉じ籠るのは現実的じゃないですし…。

 それにほら、シリュウさんって、冬になったら『北の大地』の拠点に行くかもって話でしたから、それに向けて備えておくべきかなとも思ってましたね。」


「(そんなことも言ったな…。) …。それなんだがな。恐らくだが今回は帰還しない。」


「そうなんですか?」

「ああ。竜騎士(フーガノン)の奴に聞いたんだが、ラットンの町で大捕物が有ったらしい。ギルドの戦力が投入されたとかで、大規模な戦闘になったんだと。まあ、ウカイの奴に頼んでおいた件だろうな。」


「え。大丈夫なんですか? それ…。」

「今は終息してるらしいし大丈夫だろう。デカい〈呪怨(のろい)〉の反応があれば気づいたはずだがそんなもんは無かったしな。

 まあ、事後処理なんかでごたついているだろうから様子を見ながら、今回は『北の大地』に近づくのは避けるつもりなんだ。」


 そっか。なら、冬になってもシリュウさん、この町に居る予定なんだ。



「だから、そこまで不安に思うこともないぞ。大体のことはなんとかしてやる。」

「ん~…、あまりにもおんぶに抱っこし過ぎるのもなぁ、とも思うんですよ。

 この町、大陸の北側に有るだけあって冬の冷え込みはかなりのものと聞きますし。私の場合、金属(てつ)の伝導熱の高さで簡単に冷えちゃいますからね。靴と腕輪と髪留め周りは、命の危険を回避する為にも、特に念入りな装備を用意しないと…。だから、できることは自分でやっとかないと、って…。」


 漫画の知識(ハ○レン)で、冬の寒さと鉄の相性が最悪なのは頭に染み付いている…。



「…。俺が原因か…。」ボソ…

「はい? 何か言いました?」グラグラ…


「俺がここに連れてきたから、余計な苦労をかけたんだな。って納得しただけだ。」ふぅ…

「いやいやいや、シリュウさん。マボア(ここ)は基本的に良い所ですって。トラブル起こしてるのも私由来ですし、むしろ私が要らん手間をかけさせて申し訳ないくらいですよ?」

「そうは言うが、な…。」


 今の繋がりをもたらしてくれたのシリュウさんだから、邪険にする訳無いのにねぇ。

 なんだか帰ってきてからのシリュウさんは、物腰が弱いと言うか柔らかい感じがするな…。



「なあ、テイラ。毛糸なんかじゃなくて、もっとちゃんと必要な物はないか?」


「シリュウさんが気にする必要ないと思うんですけどね…?

 ん~…、防寒具は毛糸でどうにかなるし…。シリュウさんがずっとこの町に留まるなら、必要になった時に思いつく感じだろうし──

 あ~、()いて挙げるなら、暖房器具、ですかねぇ?」

「暖房器具?」

「ええ。町の中でも真冬は多少冷えるって聞いたので…。まあ、顧問さん達が屋敷の中に魔導具を準備するそうなんで問題ないんですけどね。もし万が一、真冬に屋敷の外とか町の外とかで、生活しなきゃいけないって事態に備えて…、個人所有の暖房の道具が欲しいかな、って…。妄想したりなんかしちゃったり?」


 シリュウさんが私のバカ意見を聞いて、頭をガシガシと()きながら何かを悩んでいる。

 根拠も何もない不安衝動の戯れ言だから、スルー推奨なんだけどね。



 チラリと私の腕に居るカミュさんを見てから、私に視線を合わせてきた。


「(ガキ竜は寝てるな。聞かれる(・・・・)ことは無いか。) 

 ──俺から創った『アーティファクト』だったら、暖房の道具、作れるか?」


次回は1度お休みして、更新は15日予定です。

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