232話 ドラゴンは光り物がお好き?
「失礼しました、テイラ殿。さあ、存分に触れてください。」召喚竜を差し出す!
「キャー…。」力なくうなだれ…
「いえ…。とても触れづらい、のですが…。」
なんか小さな子どもを、私利私欲で虐めてる悪役じゃない…? 端から見た今の私…。
とりあえず触れ合いコーナーは一旦中止にして、ナーヤ様に話を聞く。
嫌がる竜に無理やり触っても、何も楽しくないからね。
目の前に居る、琥珀色の鱗に覆われた子どもドラゴン、「カミュ」さん。
円らな瞳を私に向けたままナーヤ様の腕に収まっているこの子竜は、「本体」であるらしい。
通常の竜騎士の契約では分身体の召喚できる様になっても、本体のドラゴンは魔境地帯に在る自身の寝床に居るのが通常である。
しかし、魔力の器が小さい幼少竜である彼(男性体らしい)は、召喚体の契約に使う「宝珠」の中に「入り込める」そうだ。
普段ナーヤ様が使役している召喚竜は姿形が同じ「分身体」であり、本体はナーヤ様の体内に同化している宝珠内に精霊の如く存在しているそうだ。
「この子も、テイラ殿に感謝していて今日の集いの意義も理解していたのです。『触れても良い。』と意思も確認しました。
ですが、なにぶん精神が幼く…。自身の興味を優先してしまい…。」
本体が外に出れる特別な機会で興奮している、と。
「でしたら、私は放っておいてくれて構いませんので、存分に外で遊ばしてあげても──」
「キャァーイ!」フライアウェーイ!
「お待ちなさい! そう言う意味ではありません!」ギュッ!
私の言葉に即座に反応し飛び立とうとする子竜さん。それをナーヤ様が改めてがっしり抱える。
「ナーヤ様、お心遣いはありがたいのですが、本当に無理をさせる気はないので──」
「いえ! この子は遊びに行こうとしているのではなく!
むしろ…、テイラ殿に触れようと、しているのです…。」
「?? 私に、ですか…?」
「より正確に申し上げるなら…、テイラ殿の『装飾品』に強い興味が有る様で…。今も、貴女様の『髪留め』に触れようと…。」
「キャァウ!」肯定する様な鳴き声!
なんでも、危険人物かどうかの監視の時から大変ご執心だったらしい。
私の、アーティファクトに、触れたいとな…??
「ほう…。」謎の威圧感…!
「キャ!?」謎の悪寒!?
「ですので!? 他人様の大切な品に触れてならないと! 言い聞かせるところなのです!」
私に対して怯えた様な雰囲気の子竜を、ジッと見つめる。
ナーヤ様の腕の中で不安そうにしつつも、私から──もっと言えば頭にある髪留めから、視線を外してはいない。
どうやら触りたい気持ちは本物らしい。
可能性は元から低いが、ナーヤ様達が私の謎装備の確認をしたい、とか貴族的な思惑では無さそうかな。
「…。ん~…、条件付きで良かったら、触れても良いですよ?」
「いえ!? そんな! とても大切な物だと仰っていましたし!」
「ええ。命よりも大切です。
条件と言うのも、何処かに持ち去ったり破壊しようとした場合に本気で呪うことを了承していただくことですし。」にっこり!
「…!! カミュ! 理解しましたね!? とても危険で失礼なことなので諦めなさい!!」
「キャーア!」拒否の雰囲気!
「何故ですか!? 何をここまで頑なになっているのです!?」
「キャーア!キャーア!」駄々っ子の気配!
騒ぐ1匹と飼い主を眺めて、落ち着くのを待つ。
目の前に居るのは、変わった幼竜とは言えドラゴンはドラゴンだ。しかも、基本4属性を全て持っており、風景に溶け込む魔法だの意識を分割させる術だのを持っているとかって超変わり種。親友の奴なら間違いなく、大喜びで触るだろう相手である。
なんなら、キラキラ緑色のツインテール(風魔法で動かせる、お気に入りの髪型)を荒ぶらせて、もみくちゃにしている光景が頭を過るほどだ。
私のアーティファクトは、奴の分け身。とてつもなく間接的とは言え、夢の一端に触れることにはなる。レイヤの心情を考えたら拒否する訳がない。
ナーヤ様はカミュさんを説得できないらしく、焦った表情から悲壮感漂う雰囲気に変わっていた。
これはこれで仕方ないんだろう。
髪を適当な鉄で固定して、風の髪留めを外し、手に持ったまま前に差し出す。
「この状態で良かったら、どうぞ触れてください。」
私が触れてさえいれば、頭に無くとも危機予測は有効だ。
万が一、この子竜が奪取しようとしても事前に察知して回避できるはず。
「テイラ殿…。
良いですか!? カミュ! 触れるだけです! 絶対におかしなことをしてはいけませんからね!」
「キャイ!!」肯定の意思!
ナーヤ様がカミュさんの両脇をがっしりと握って、もしもの時にすぐさま引き離せる様にしながら、少しずつ腕を伸ばす。
やがて子竜の手が、髪留めに触れれる距離になった。
「キャァー…。」ぺたり…
「…、」ドキドキ…!
私の指先くらいの小さな琥珀色の手が、緑色の金属の塊にそっと添えられる。
…。
警告音は無し。
カミュさんは大人しく触れたまま動かない。
この子が満足するまで待ってあげよう。
海の向こうのレイヤ。
あんたのおかげで、面白いドラゴンに会えたよ…。感じれる…?
思えばおかしなことになったもんだ。
レイヤに救われて、ムカデ女と死闘して、シリュウさんに出会って。
風変わりな土風エルフと出会って、そのお孫さんに魔法を教えて、母親さんに感謝されて。
夢魔の猫耳女と何故か仲良くなって、これまた夢魔の花美人の女主人さんを治療して。
貴族をぶん殴ったら、竜騎士から感謝されて、竜に触れさせてもらって…。
ここ半年くらいの間の変化は、想像もしていなかったことばっかりだ。
アニメの最終回の如く思い出に浸っていると、ナーヤ様が困惑の声をあげた。
「…? カミュ? 『何』と会話しているです…??」
え? 会話?
やっぱりレイヤの意思が髪留めの中に──
ホワァアアア…!
「おや…。髪留めが起動した…。」
「テ、テイラ殿!?」
「あ、呪いじゃありません。安心してください。」
「いえ、しかし、相当量の魔力放出が──」
「キャーウ!キャァーウ!!」ポンッ!ポンッ!
「キャウ!」分身体!
「キャー!」参上!
カミュさんの叫び声と同時、髪留めに触れたままの彼の頭上に、同じ姿の子竜が2体現れた。
そして、淡い緑光を纏った髪留めから、緑色の光の玉が2つ放たれ空へと昇る。分身2体がそれを追いかけて飛んだ。
「キャウキャウ!!」くるんくるん!
ほわほわキラキラ!ふわふわキラキラ!
「キャー!キャー!」パタパタパタ!
まわーるキラキラ!くるくるキラキラ!
光の玉と子竜が空を舞う。くるくる宙返りをしたり、手を繋いでダンスを踊る様に回転したり…、実に楽しげ(?)に。
「…、テイラ殿…。 これはいったい??」呆然…
「…何でしょうね~…? 親友に貰った謎アイテムなので、ちょっと分からないです…。ま、まあ、危険なものでは無い…かな…? …多分………。」
「キャイ!」謎の返事!
ホワァアア!謎の発光!
十中八九、レイヤの喜びの具現化なんだろうけど…。何の魔法だ、これ…。
私の意思で発動してないから対処方法が分からん…。
まあ、そのうち消えるだろうから、気(?)が済むまで放置するしかないかなぁ~…?
──────────
「…、危険は無いと思って宜しいですね…?」困惑…
「…。知らん…。」頭をガシガシ掻く…
「…、(この反応は大事無さそうです。) 流石はテイラ殿。実に摩訶不思議な方だ。」ふふ…
「…。(不思議の域を超えてるだろう…。)」
「あの方をしっかりと繋ぎ留めてくださいね? 竜喰い殿?」
「…。どう言う意味だ?」
「彼女は稀有な存在です。同時に厄介でもある。彼女からもたらされる『利益』は計り知れませんが、同じくらい、絶大な『損害』を与えることもできる。
それを制御することは、国の貴族では、難しいでしょう。」
「…。」
「しかし、貴方には心を開いてらっしゃる。寄り添えるのは、貴方様を於いて他には居ますまい。」
「…。貴族の物言いは好かん。」
「おっと、これは失礼。
ですが、偽ることの無い私の本心です。
どうか、彼女に愛想を尽かされることの無い様に。女性の心を掴むことは至難ですよ?」
「…。愛だの恋だの、そんなものは無いよ。」
「分かっておりますとも。ええ。」
「…。(面倒な…。いや、今さらか…。)」はぁ…
「(挑発すれば、竜喰い殿と手合わせできないかと思っておりましたが。存外、忍耐強いですね。これもテイラ殿が側に居るからでしょうか。本当に面白い方々だ。)」ふふ…
次回は9日予定です。




