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230話 「子を想う」ということ

遅くなりました。


ポンコツ作者には、経験を積んだ主婦の気持ちに思いを()せることが難し過ぎました。

何故に、この話をねじ込もうと考えたのだ、昨日の作者…。


いつも以上に支離滅裂な会話になっているので、お目こぼしをしていただけると、有り難く…。




「──うん。こんな感じね。焼きあがるまで休憩しましょうか。」

「はい。」


 ミハさん特製、異世界リンゴのパイを魔導オーブンに入れ、焼き上がりを待つ。


 トニアルさんをダリアさんがぶっ飛ばした騒動は、一応の落ち着きを見せているものの、どうにも(しこ)りが残った様な感じがしていた。


 そんな時はひたすらに別のことをして気分を変えよう! と、同じように考えていたミハさんと料理をしている訳だ。



「ありがとうね、テイラちゃん。付き合ってくれて。」

「いえいえ。私の方こそ、すみま──。いや、ありがとうございます。」


 会う度に謝罪の応酬になっていた私達だが、ようやく普通に会話できる様になりはじめている。


 だと言うのにナチュラルに謝罪を口にしかけた私…。

 ミハさんも苦笑いである。



「テイラちゃんには本当に感謝してるんから、もう気にしないでね?」

「いやぁ、まあ、うん…。細かいことを気にする性質(たち)なもので…、なかなか難しく…。これも、堂々巡りになっちゃいますけど…。」

「本当、ダリア(母さん)があんな──。

 ううん。言っても仕方な──。いえ、これも単なる八つ当たりね…。」はぁ…

「すみません…。」どよ~ん…

「私も…、まだまだだわ~…。」再びの溜め息…



 2人して、やるせない雰囲気を出してしまう。

 パイを焼いてる間に新作料理にでもチャレンジするつもりだったが、一旦手を止める方が良いだろう。


 ミハさんが()れてくれたお茶を飲んで、お互いに心を落ち着ける。


 すっきりとした苦味の中にほんのり甘さを感じる緑茶っぽいお茶が、ゆっくりと気分を(ほぐ)してくれた…。



「美味しいですね~…。」ほふぅ…

「ふふ。ありがとう。」ほふぅ…



 無言で温かい飲み物を飲み、ほっこりしていたが、(おもむろ)にミハさんが口を開いた。



「ねえ、テイラちゃん。アリガパイの作り方を教える以外に、何か無い? 欲しいもの。」


「ん…? そうですね、鴨の焼き物とか、紫大根の煮物とか…。ミハさんの作る物ならまだまだ学びたいですね~。」

「もちろん、それも教えるけれど、そうじゃなくてね? 料理以外で感謝の気持ちを伝える方法は無いかな? って話。」苦笑い…


「必要ない…、って言うと語弊(ごへい)が有りますけど…。本当に、その気持ちだけで十分ですよ…?」

「テイラちゃんがやってくれたものは、本当に凄いものだから、恩返しはきちんとしたいのだけど…。」

「う~ん、私からすると…。非魔種の呪い女が、混乱をもたらしただけ…、って認識なもんで…。感謝される様なことでは…。」ははは…

「んん~…。根深い、わね…。」悩まし気…



 ミハさんは、トニアルさんの新魔法の開発に多大な感謝を抱いている様だが。

 私には、その後の混乱も含めて、大したことをしたとは思えない。


 眉をへにょりと下げて、悲しげな顔をしていたミハさんだが、やがて何かを決意する様な真面目な顔になって私の方を向いた。



「テイラちゃん。私の、『昔話』を聞いてくれないかしら。」

「むかしばなし、ですか?」

「うん。」


 ミハさんは、昔を懐かしむ雰囲気で目線を上に向け、話を始めた。



「私、ね。母さんに──ダリアに、泣きながら謝罪された、ことが有るの。」


「え。あのアマゾネスお婆ちゃん(ダリア)さんが…? 泣いて…?」


「うん。『アタシの身勝手であんたを苦しめた…! 本当に、本当に…! すまん…!!』って。」

「この前の比じゃないですね…。いったい何をやらかしたんです…?」

「んー、何も?」

「え?」


「母さんが謝ったのは、()()()()()()()に対して、だから。

 そんなの、謝ることじゃない、でしょう?」微笑み…


 ミハさんの顔には、優しい笑みが表れている…。

「母親が、娘を産んだことを後悔してる」とも取れる壮絶な内容だが、その表情からは深刻な感じは受けない。



「昔の母さんは、家族に──もっと言えば『同類』かしら? 側に居てくれる『誰か』に、凄く()えていたの。

 だから、共に在る存在を求めて、子ども(わたし)を産んだ。

 ──そうして産まれる子には、子孫(子ども)を産む能力が全く無いと、知っていた上で。」

「…。」


 かなり深い話をしている。思わず身が縮こまった。



「属性違いのエルフの間に子どもができることは、(まれ)ではあるけど起こりうること。そうした混血のエルフは、強い力を持って産まれてくるそうよ。

 母さんの場合は、土エルフらしからぬ恵まれた『体格』、氏族でない風エルフらしからぬ『高魔力』、ね。2種族の平均を大きく上回る能力を授かるの。けれど、その代わり。『子どもを産む力』だけは必ず弱くなるそうでね。

 それでも母さんは、家族を求めて努力して、土エルフの父さんと出会って──『私』が産まれた。」


 ミハさんは、透明な笑顔で淡々と語る。

 その両目──橙色の中に緑色の花が咲いた様な瞳──には、悲しみも憎しみも浮かんではいない様に思う。



「『産む力』が弱くなった混血のエルフからは、ね。絶対に子どもを授かることができない子どもしか、産まれないのですって。

 そう言う風に、世界は構成されて(なって)いるそうなの。

 母さんは、『女の子(わたし)』を産んで、家族が出来たと喜ぶと同時に。その子が『母親』になることはないと、理解して──絶望、したそうよ。自分が成したことに、手の震えが止まらなかった、って。」


「それは──」

「母になった今だからこそ、その時の母さんの気持ちが、私にも分かるの。だから、悲観することでも、絶望することでもないわ? これは単に、どうしようもない(そういう)話、ってだけ。」


 ミハさんは、なんでもないこと、もう乗り越えたことだと、優しく笑っている。



「それでもね。当時の幼い私は、泣きながら謝る母さんに、酷く傷ついた。

 それは、子どもが産めない私を産んだって事実に、ではなくて。

 母さんがそのことを──『子ども(わたし)』を、後悔してるってことに、言い様もない悲しみを感じたの。

 それからの私はとても荒れてね~。『反抗期』と言うのかしら? 人間とエルフでは色々異なるだろうけど。まあ、とにかく母さんにも父さんにも反発しててね。色んな声が──頭の中の妄想が、酷い幻を見せてきて、暴れたこともあったわね。」


 理由を改めて聞くと壮絶過ぎて、()もありなん、って感じなんですけど…。



「2人がああしろ、こうしろって言うこと全てに、真逆の行動をしたりしてね。

 挙げ句の果てに、どうせ子どもが出来ることはないのだし、と歓楽(かんらく)区画に行って『男漁(おとこあさ)り』をしたの。」


 「あれは若かったわ~。」なんて朗らかに笑うミハさん。それ、昔見た「壮絶ファミリードラマ」レベルのヤバいやつ…。



「そんな時だったわ。後に(おっと)になる、『リキガク(リッキー)』、『夢魔』の男性に出会ったのは。」


「よ、夜の町で…、男夢魔、と出会って…。結婚…。」

「ふふ。テイラちゃん、私のこと、軽蔑(けいべつ)したでしょう?」からかい笑い…

「いや!そんなこと──」


「リッキーには、とても軽蔑されたわ。」

「──え。」


「テイラちゃん。夫のこと、夜遊びした私が見つけた、軽薄な遊び人、って思ったでしょう。」

「…。…。違うんですか…?」


「ええ。リッキーは、ね。夜遊びしてた私を見つけて、『自分を傷つける様な真似は止めなさい。』って、止めにきたの。とても、真剣な顔で。」幸せスマイル…


 夢魔が…、軟派(ナンパ)を…、止める??



「夢魔族ってね、他人から出る感情の力を食べて生きているんだけど。夫は特に敏感な感覚を持っていてね。

 その辺の男と歩いてた私が、『大泣きしている小さな迷子』に感じたそうなの。それで、とても見てられなくて、声をかけてきたって訳。

 そんな彼にも、私は、まあ、反発してね~。とても酷い言葉も浴びせたわ。『夢魔のくせに、何様のつもり!?』ってね。それなのに彼ったら、私が周辺に行く度行く度、必ず私を見つけてきてお説教をしてくるの。どう考えても夢魔っぽくないわよね。」からからと笑う…


 そこからミハさんが語る、2人の馴れ初めは完璧にドラマだった。


 「リキガク」さん…。力学(りきがく)なんて固い学問の名前に(たが)わぬ、真っ当な人間性を持ってらっしゃる…。夢魔なのに、真人間って言葉以外で表せられないよ…。



「──そうして。トニアルが産まれた。

 種族の形質を超えて子どもを成す、夢魔の力。子どもが出来るはずのない私に、『母親になる未来』をくれたもの。夫を介して、夢魔の女王様の『呪怨(ちから)』が、私を、母親にしてくれたの。」


 とてもすっきりした表情で私を見る、ミハさん。

 その瞳に、今は、とても優しい色が浮かんでいる。



「だから、ね。私は、『呪怨(のろい)』のことを、ただ恐いもの・周りを不幸にするだけのもの、とは思えないの。

 テイラちゃんは、私よりも、ちゃんと良い子だし、貴女が息子(トニアル)にくれた魔法は、本当に、凄い『贈り物』なの。

 父親の様に他人の心に敏感で、優しく誠実で。母親とは違って魔法の才能が有って、でも、それを活かせなくて…。そんなあの子に、テイラちゃんは、一生(いっしょう)ものの『武器』を授けてくれた。私は、本当に、心の底から。感謝、してるの。」

「…。」


 ミハさんが、真っ直ぐに私を見つめる。

 その気持ちを、きちんと受け止めれたのかはどうにも分からなかった。



「ごめんなさいね。途中から、話が凄く脱線したわ。」苦笑い…

「いえ。お話、聞けて良かったです。

ちょっと言葉にしづらいですけど、なんか、嬉しい…、です。」


お互いに苦笑いをしながら、顔を見合わせる。



「ただ、まあ、ちゃんと厚意(こうい)を受けとりたい、と思います。──お役に立てて良かったです。」

「うん。本当にありがとう。

 私にできることがあったら何でも言ってね。」

「はい。お言葉に甘えます。

 まあ、何も思いつかないのですけどね…。」

「あらあら…。」



 こうして普通に・対等に、接してくれてるだけで。出来損ない(わたし)は満たされている、から、ね…。


優秀な魔導オーブンが、会話の最中に自動で消火してると、嬉しいな…。


続きは頼んだ。3日後の作者。



次回は12月3日予定です。

とても寒くなってまいりました。皆様、お体に気をつけて、お過ごしください。

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