228話 土と闇の複合戦法
遅くなりました。
あぁ~、美味しい…。
疲れた体と、回した頭に、甘さが染み込むぅ~…。
「本当、美味しそうに食べるね。」
「実際に美味しいもん…。ありがとう、ウルリ…、届けてくれて…。」ほわほわ…
「(『もん。』て…。口調変わってるし…。)」
「ふふ。本当、美味しわね~…。」ふわふわ…
「ですよね~…。」お茶をくぴくぴ…
私は今お屋敷の庭で、異世界モンブランを楽しんでいる。
鉄ガーデンテーブルに、鉄チェア、極美味甘味に、ミハさんが入れてくれた温いお茶。完璧過ぎるアフタヌーン・ティータイムである。
模擬戦で疲れたから、今日は「蜜の竹林」へ行くのを休む連絡をしてあったのだが。ウルリが「代金は貰ってるし、護衛の代わりに配達しただけ。」と、岡持ちみたいな入れ物に入れて持って来てくれたのだ。
「感謝してくれるのは良いけどさ…。またあの貴族様とやりあったんだって…? ほどほどにしときなよ…??」
「ん~…? 別にローリカーナ、私でも余裕で捉えれるくらいに弱いから、全然問題ないよ~。」
「いや、そうじゃなくて…。火の竜騎士の、凄い貴族なんだから…。危険でしょ、って意味なんだけど…。」
「そこはベフタス様達に、丸投げっすよ。」
「いや、あの人達も貴族でしょ…。しかもゴリゴリの、武闘派の…。」
「大丈夫大丈夫。その人達が見てる前で、ちゃんとルールに則ってやってるし。
それに、もし裏切られたとしても、シリュウさんにちょろっと手伝って貰えば抑え込めるはずだし?」
「…、大惨事じゃん、それ…。」嫌そうな顔…
「そうね~。マボアの町が地図から消えるかもね~。」
「恐いこと言わないで…!?」
「安心して。その時は、お店の皆が外に逃げる時間くらいは稼ぐから。」キリリ!
「だから…! 止めてってば…。」げんなり…
「…、(仲が良いわね~…。)」苦笑い…
「まあ、冗談はさておき。」
「(冗談でも、止めてくんないかな…。)」遠い目…
「ウルリから見て、どう? トニアルさんの魔法。」
私達3人から離れた所で岩盾の取り扱い練習をしているトニアルさんに、視線を向けた。
トニアルさんはもう1つの盾も作って、2枚の岩の板を空中に浮かべ操作している。一心不乱に頑張っている様だ。端から見てると、蝶の羽ばたきくらいの緩やかさだが。
「どうも何も。普通の土魔法でしょ。」
「実戦──はちょっと違うか。喧嘩とかに巻き込まれた時とかの、もしもの対応に、役立つかな?」
「よく分かんないんだけど??」
「テイラちゃん、ウルリちゃんは何も事情は知らないと思うわ。」
「それもそうですね。ウルリ、実はね──」
かくかくしかじか… もぐもぐ…
まるまるうまうま… もぐもぐ…
「──ってことがあった訳。」
「ふ~ん。トニアルがねぇ。」
「まあ、年下でしかも女の子であるウルリに助けられたって事実が、男のプライドを奮いたたせたんだろうね。実に青春してますよ。」お茶ずずーっ…
「…、(トニアルが聞いたら顔を真っ赤にしそうね~…。)」
「テイラ、その私よりも年下でしょうが。何、おばさんみたいなこと言ってんの。」
「実は精神年齢が40代なんすよ、これが。」
「…、(微妙に、冗談に聞こえないんだよな…。変に言葉に重みが有ったり…、場慣れしてるって言うか、何て言うか…。)」
「…、(少しだけ、50歳と同年代だと感じる雰囲気があるのよね…。)」
ウルリとミハさんが揃って、私に微妙な目線を向けている。
どうやら場の空気を読み違えたらしい。ははっ、面目ねぇ…。つまらない事実、かましました…。
「(まあ、放っておこう…。) トニアルのことだけど、そこそこ良いんじゃない?」
「ものにできるかな?」
ウルリが話を戻してくれたので全力で乗っかろう。
「冒険者として魔物と戦うんじゃないんだし。時間稼ぎとか、致命傷を避けるとかなら、十分だと思うよ?」
「まあ、町中で生活してる分には事足りるかぁ~。」
「うん。もう十分だと思うわよ? テイラちゃん。」
ミハさんが諭してくれるが、恐らくトニアルさん本人は今の「へろへろ岩盾」に納得していない。
練習すればもうちょい鋭い操作ができる様になるだろうけども…。
「ねぇ。ウルリって、闇属性の魔力を感知できる?」
「できる、けど…? (今度は、何…?)」
「トニアルさんが闇魔法を使えてるか、視てくれない? 私じゃ全然分からないし。」
「視るも何も…。普通に使えるでしょ? トニアル。」
「んー、普通じゃない方法…、かもだから、発動してるか不安でね~…。」
「また何かしたの…?」
「『また』って何…?」
──────────
ティータイムが終わったところで、トニアルさんを呼び寄せる。気力を籠めて魔法を使っていたからか、そこそこ汗をかいていた。
操作していた2枚の盾をウルリに見せながら、軽く目的を説明する。
まず1枚目。最初に作った「固」の字を刻んだ盾である。
現在では、その裏に「爆」の字も刻んであった。
土属性と相性の良い「刻印文化」ではあるが、それを使って水を生成したり、風を起こしたりも可能ではある。だからもちろん火を生じる「爆発魔法」も使用できるはずなのだ。まあ、文字1つきりだと、威力は相当弱いだろうが。
攻撃が当たった瞬間に、装甲内部の炸薬を爆破させ衝撃を生み出すことで、本体へのダメージを減らす特殊装甲──「爆裂反応装甲」。
扱いづらい上に維持費が嵩む、半分妄想の軍用兵器ではあるが、「魔法を使えば運用可能なのでは?」と大雑把な知識を披露したところ。トニアルさんが乗り気になって、刻印したのである。
まあ、爆発どころか火炎すら出ず、「『爆』の字画が、多い…(泣)」と使用者の徒労に終わったけれど…。
まあ、そちらはいい。問題はもう1つの方だ。
こちらの板には表と裏に、『止』・『闇』の字を彫り込んでいるのだ。
「ナニコレ…?」
「こちら、岩の盾に『停止』と『暗闇』の2つの、闇属性魔法の『刻印』を施した物になります。」
「ナニ、ソレ…。」宇宙猫顔…
「ウルリさんが、おかしな感じになってる…。」
「…、(やっぱりちょっと普通じゃない使い方なのね…。)」
「トニアルさんに、精神魔法以外の闇魔法を使える様にと考えた結果…。なんかこうなったの。
最初は『影』を操ったりできないか──相手の影を踏んでその形を固定して、体も動かせなくさせるとか。『影』で作った『手』で、相手の体を物理的(?)に縛りつけたりとか──そんな方法を提案したんだけど。『無理です…。』って言われてね~。」
「うずまき忍者」の「怠惰な彼」の忍術が頭に過った私だから思いついただけで、一般的闇魔法ではなかった模様だ。
「『影魔法』…。いや、なんか上級の方の夢魔には使い手居るらしいけどさ…。トニアルになんてものをやらせてんの…。」
「あ、居るには居るんだ。」ちょっと驚き…
「…、なんで、知りもしない魔法を知ってんの…。」
「…、(非常識さんだから、ね…。)」無言の遠い目…
「…、(シリュウの隣に立つ子だから、ね…。)」無言の苦笑い…
「まあ、ともかく。
とりあえず、トニアルさんに使えそうな新しい闇魔法として、考えだしたのがこの『停止の盾』って訳。」
空気が変になっていたので強引に話題を戻そう。
「闇属性に、物体の動きを『止める』性質があったのを思い出してね。盾に向かって突っ込んでくる物を、盾の前で勢いを殺せないかな? って考えたの。
んで、実際に作ってもらったのはいいんだけど。効果があるのか分からなくてね~。裏に『闇』の刻印入れてあるから、少しは効果を高められたはずなんだけど…。私の手を押し当てても、変化が分からなくて…。それで、夢魔族に視てもらえないかな、って。」
思案顔になったウルリが、岩の盾をジッと見つめる。
「…、…、トニアル。ちょっと離れた所に浮かべてくれる?」
「あ、うん。」
私達から1メートルちょっとの位置に、岩の盾がふよふよ移動した。『止』の字がこちらを向いている。
「じゃ、魔力を流して。」
「はい。」
盾に変化はない。闇色に光ったり、紫色の靄が出たりもしていない。
ウルリがスッと地面に手を向けると、転がってた小石がふわりと浮いた。
「ちょっと、ぶつけるよ。」
恐らく風魔法で浮かせたであろう小石が、盾に向かってヒューっと飛ぶ。
そのまま、コンッ!と音がして、弾かれ落ちてしまった。
「…、発動してる…。」
「え?」
「盾に当たる直前。盾の闇魔法が、発動してる…。」驚きの真顔…
「全然、勢いを殺せてなくない…?」
「うん、僕にもそう見えたけど…。」
「私もだわ。」
「ちょ、ちょっと、もう1回やっていい?」
コンッ!
コンッ!
コンッ!
「ウルリ…、少し辛い…。」ぷるぷる震える…
「あ、ごめん! もういいよ。」
トニアルさんが魔力尽きたのか、盾が地面に落ちた。
「何回やっても、速度変わってる様には見えないけど…?」
「うん。小石の速さは変わってないよ…。」
「それじゃ意味なくない…??」
「私も意味不明だけど…。とにかく、その盾の直前で。
私の『風運び』が打ち消されてるのは、確実。」
「へ?」
「え…?」
「ん…?」
「弱い魔力しか籠めてないけど…。トニアルの闇魔法が、私の風魔法を散らしてる…?っぽい…。ちょうど…、テイラが使う鉄みたいな…、感じで…。」
「ええぇ…? 何、それ…?」
「私が聞いてんだけど…。」げんなり…
魔力霧散…? いや、この場合は『魔法』を『停止』させてるのか?? え? 物体の動きを停止させるんじゃなくて…?? あれぇ…??
「テイラ…。いったい、何を教えたの…?」マジドン引き…
「…。世間一般的な、魔法知識…、を少々…?
そのはず…。多分…。きっと…、メイビー…。」しどろもどろ…
「…、テイラさんの非常識が、僕に移った…?」疲れから、理性低下中…
「トニアル…、気持ちは凄く分かるけど、失礼よ…。」困惑しつつも、たしなめる…
次回は27日予定です。




