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226話 テイラのパーフェクト魔法教室?

「新しい魔法の、『開発』…、ですか。」


「うん──じゃなくて、はい。」

「周囲に悪影響がなく、ご自身の適性に合致する新魔法…。ふ~む…。」


「テイラちゃんが真剣に悩むことないからね? トニアル本人の問題なんだから、話半分くらいで。」

「僕は真剣に悩んでるんだけど?」

「だからって、お疲れのテイラちゃんに頼む必要もないじゃない。」

「いえいえ、ミハさん。もう回復しましたし、良い頭の運動になりますからお気になさらず。」



 ローリカーナとの模擬戦闘の翌日。


 疲れで昼前まで爆睡していた私は、そのまま寝室の鉄テントの中で、ぐでーっと過ごしていた。流石に全力で動きまくったから、今日はゆっくりだらだらしようと思っていた。



 そろそろ胃に何か入れようと屋敷の食堂に行ったら、なにやら話し込んでるミハさんとトニアルさんに出会った。


 今日は闇曜日(やみようび)(「あんようび」とも言う)、この世界で言うところの週の始めの「日曜日」だ。

 ギルドの職員として働いているトニアルさんもお休みだったらしく、朝から屋敷に来ていたそうだ。



 ミハさん特製の、野菜と鳥肉とひとくち練り小麦(すいとん)もどきが入った温かスープを頂きながら話を聞いたのだが、トニアルさんは自身の魔法のことで悩んでいるらしい。



 トニアルさんは種族がなかなかに特殊だ。


 土・風エルフの混血たる祖母ダリアさんと、土エルフである祖父イーサン(顧問)さんの一人娘、ミハさんを母に持っている。


 土と風の4分の1(クオーター)エルフな母親に、闇の種族たる「夢魔族」の父親から生まれた彼は、少々(いびつ)な魔法素養を持つ為にその扱いに困っていた。


 属性魔法の扱いはエルフ程に習熟している訳でもなく、父親に習った闇魔法くらいしかまともに使えないそうだ。

 その闇魔法も、精神干渉系統──幻覚を見せたり、相手の意識を読みとったり──で、それなりに強力ではあるが町の中などでは使用が制限されるもの。日常生活で使うには不適当なのだ。


 祖父の顧問さんの指導で多少の「土属性魔法」は使えるらしいが、「岩弾(ロックボール)」の様な小石を生成して飛ばす下級魔法が精々(せいぜい)なんだとか。

「風属性魔法」に至っては欠片も発動できないらしい。


 それでも魔力量そのものは人並み以上にあり、普通に事務作業などをこなすには十分ではあっだが、暴漢(ナンパ男ども)とトラブルなった辺りから、もっと強くなりたい──超級冒険者である祖母の様にはなれずとも──敵対者を撃退するくらいにはなりたいと思い、色々と試行錯誤していたそうだ。


 そして休みを利用して家族や親しい人に相談に来たと言う訳。


 しかし、祖母であるダリアさんは、物理戦闘を好む戦闘狂。

 土属性・風属性の魔法は高レベルで使いこなすが、我流で習得したものらしく他人に教えることができないそうだ。そもそも今ここには居ないしね。本日も「有事に備える。」とか言って、冒険者達をしごく為にギルドの地下訓練場へ向かったらしい。


 シリュウさんは屋敷の自室に居るが、異常魔力の超人相手に習えることは少ない。魔法の扱いなど根本から別物だろう。

 それに、ベフタス様から貰った熟成肉をずっともしゃもしゃしているらしいから、そっとしておくのが無難だ。


 顧問さんからは既に指導を受けているし、母親たるミハさんは魔法がからきし。


 闇魔法や夢魔族のことを、親しくない人に軽々には相談できない。

 知り合いの夢魔族には魔猫族(ウルリ)花美人族(女主人さん)が居るが、ウルリは風魔法主体で闇魔法を直接使うことはできず、女主人さんは使えるそうだが体調不良(呪い)()せっている。


 そんな八方塞がりの状況でトニアルさんは、私に相談してみようと閃いたそうだ。

 魔法が使えない非魔種な私だが知識は有るし、アーティファクトを利用して擬似的に魔法を放つこともできるらしい。そして、互いの事情も知っているからトラブルになりにくい、と。


 半分男夢魔(インキュバス)とは言えトニアルさんがおかしなことはしてきたこともないし、ギルドとの付き合いなんかで様々な迷惑をかけている。お詫びと言う訳でもないが、何かしら感謝の印代わりに本腰入れて考えてみるか。




 ──────────




「それでは。

非魔種テイラの『何故なに魔法』のコーナー。始めていきたいと思います。」鉄眼鏡を装着…!


「お願いします…!」やる気十分…!

「…、よろしくね~。」空気を読んでツッコミはしない…


 食堂から所変わって、ミハさんの部屋にお邪魔している。本格的に色々話をするからね。


 レンズの無い、鉄のフレームだけの伊達眼鏡を掛けて集中モードに入り、気合いを入れる。

 わざわざこんな出来損ないの私を頼ってくれたのだ。何かしらの形で貢献はしたいところ。



「まず、魔法を扱う上で最大級に重要なことがあります。それは──『知ること』です。」


「知ること…? です、か?」

「はい。知らない魔法を発動することはできません。見たこともない技を真似することは不可能です。

この世にそんな『技術』が有るのだと、自分にも『模倣』ができるのだと、『知る』こと・『信じる』ことで魔法は発動することが可能になります。

なので、始めに。魔法についての基礎知識を説明していこうと思います。よろしいですか?」


「(思ってたのと違うなぁ…? いや、でも非常識(テイラ)さんだし。様子見から、かな。)…はい!」


 何か、間が大きくなかったかな…? 返事に力は入ってるから大丈夫だと思うけど。

 男性だし、魔法の実演で体を動かす方が好みだったかもな。



「…、(トニアル…。今、失礼なこと考えてたわね…? 次、態度に出したらお説教ね…。)」母からの無言圧力…!

「…、」なんとなくの冷や汗たらり…


 ミハさんがおっとりうふふスマイルでトニアルさんを見つめると、背筋が更にしゃっきりした。

 何か知らんが、やる気になってるなら良しとしよう。



「魔法には『属性』があります。(つち)(みず)(かぜ)()の『基本4属性』に加えて、(やみ)(ひかり)の2属性です。そしてそれらに該当しない『無属性』あるいは『生活魔法』と呼ばれるものもあります。」

「ふんふん。」こくこくうなずく…


 この辺りは基本的な事柄だ。特に問題はないはず。

 もし一般常識的におかしなことを言った場合は、ミハさんが注意してくれることになっている。



「基本4属性は、主にエルフ達によって発展されたもので、それぞれ歴史ある文化と結びついています。

土の『刻印(こくいん)』、水の『紋様(もんよう)』、風の『詠唱(えいしょう)』、火の…『活性(かっせい)』…。

魔法を扱う上でこれらを学び・応用することにこそ、真髄(しんずい)と言えるでしょう。」


 鉄板に穴を空けて中抜きで文字を書いた物を、板に白い布を被せたホワイトボードもどきを背景にして立てかける。「刻印」や「活性」といった白い漢字(骨文字)が黒い鉄に浮かび、視覚情報としても学びを深めてもらう。


 トニアルさんもミハさんも、しげしげと眺めている。



「テイラさん、器用だね…。」

「? そうですか?」

「うん。形成速度も速いし、ちゃんと読める文字になってるわ。」


「これが魔法じゃないんだもんね…。」

「まあ、〈呪怨(のろい)〉の意味不明な副産物ですからねぇ…。

ただ、これも土魔法の『固体生成』・『固体操作』と同じと捉えれば、『こんなことが可能なんだ!』と理解する──『()()』ことで、近い動作を真似できるかもとも思います。単なる見た目だけの話で、魔力の流れが無いですから参考にはなりづらいかもですが。」


「確かに真似できる気がしないや…。」

「ん~…、イーサン(父さん)は土魔法に関しては器用な方だと思うけど、石の板を生成しつつ文字の形に穴を空けるのは難しいんじゃないかしら…? まして喋りながらとなると…。」


「まあ、鉄の生成能力が、私唯一の取り柄ですので。大量に生成したりできない分、形態変形の精度・速度を高める為に相当量の反復練習はこなしましたね。

多分、皆さんとは力を入れた分野が違うだけですよ。」


 お2人ともしっくりきていない様子だが、原理不明の謎現象相手にあれこれ言っても仕方ない。

 気にせず解説を続けるとしよう。


次回は21日予定です。

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